国立西洋美術館にて、2026年7月7日から「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」が開催されます。
本展は、世界で唯一のレンブラント専門美術館であるアムステルダムのレンブラント・ハウス美術館と、国立西洋美術館による共同企画です。
両館が誇るコレクションを中心に、国内の美術館、大学図書館および海外の個人コレ クターから拝借した作品も加えた約130点を一挙に展示し、レンブラントのエッチングと、それが同時代から後世へと与えた影響をひもときます。
レンブラントを熱心に研究したゴヤをはじめ、ホイッスラー、マティスといった名だたる巨匠たちの作品も登場。
版画史におけるレンブラントのインパクトに注目した大規模な展覧会は、日本国内では初めての試みです。
軽量化_レンブラント・ハウス美術館外観
レンブラント・ハウス美術館外観

第1章 版画家レンブラント
第1章では、レンブラント自身のエッチングがテーマです。
17世紀初頭、規則正しい線描が重視されていたエッチングにおいて、彼は同技法ならではの表現の可能性を追求し始めます。肖像から市井の人々、キリスト教主題、風景まで、幅広い主題に対し多彩なアプローチを試みました。

エッチング制作の初期に取り組んだ《自画像、口を開けた顔》では、唇をすぼめ目を見開くことで、恐怖ないし感嘆を含む複雑な心理状態が雄弁に捉えられています。
《自画像、口を開けた顔》
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《自画像、口を開けた顔》1630年 エッチング レンブラント・ハウス美術館 

《百グルデン版画》は、厳かに光を放つキリストの周囲で複数のエピソードが同時進行する大作 。画面右側の緻密な線の集積がもたらす柔らかな闇と、白描のような明るい画面左側が見事に共存しており、エッチング史屈指の傑作となっています。
軽量化_《百グルデン版画》
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 《百グルデン版画》1648年頃 エッチング、ドライポイント、ビュラン/和紙 国立西洋美術館

同じ「聖家族のエジプト逃避」を主題とした2点の作品を比べると、明暗のコントラストや線の重なりによって、全く異なる世界観が構築されていることがわかります。
《夜間のエジプトへの逃避》
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《夜間のエジプトへの逃避》1651年 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館 

《エジプト逃避途上の休息》
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《エジプト逃避途上の休息》1645年 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館

第2章 レンブラント版画の影響:17ー18世紀
第2章は、17世紀から18世紀にかけてのレンブラント版画の影響を見ていきます。
当時の弟子たちの中で、エッチングの制作に取り組んだ者はごく少数でした 。しかし、イタリアのジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネやステファーノ・デッラ・ベッラの例のように、国境を越えてレンブラントのエッチングに感化を受けた作品も生み出されました。
《箱舟に入るノアと動物たち》
ジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネ、通称イル・グレケット 《箱舟に入るノアと動物たち》1650-55年 エッチング 国立西洋美術館

18世紀に入ると、ドイツの芸術家たちを中心にレンブラントのエッチングへの関心が高まります。
ドイツのシュミットは、レンブラントの《窓辺でエッチングを制作する自画像》を土台にしつつ、窓ガラスの蜘蛛の巣を描き加えるなど独自の趣向を取り入れた作品を制作しています。
この時期には多くの模倣作が作られ、レンブラントの未完の作品を「完成」させる試みも行われました。また、美術愛好家による収集が進み、カタログ・レゾネ(全作品目録)の編纂も始まります。
《窓辺でエッチングを制作する自画像》
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 《窓辺でエッチングを制作する自画像》 1648年 エッチング、ドライポイント、ビュラン/中国紙 レンブラント・ハウス美術館

《窓の蜘蛛を伴う自画像》
ゲオルク・フリードリヒ・シュミット 《窓の蜘蛛を伴う自画像》 1758年 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館

第3章 レンブラント版画の影響:19-20世紀
第3章では、19世紀から20世紀におけるレンブラントのエッチングの影響を見ていきます。
スペインのゴヤの作品には、しばしばレンブラントの版画からの着想が投影されています。
〈戦争の惨禍〉79番:《真理は死んだ》の構図や光線の表現には、レンブラントの《使徒たちに現れるキリスト》とのつながりが見て取れます。
《使徒たちに現れるキリスト》
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 《使徒たちに現れるキリスト》1656年 エッチング レンブラント・ハウス美術館

戦争の惨禍79番《真理は死んだ》
フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス 〈戦争の惨禍〉79番:《真理は死んだ》1810-20年頃 エッチング、バーニッシャー/ウォーヴ紙 国立西洋美術館

19世紀のフランスでは、芸術家の感性やオリジナリティーを重視する流れの中で、手の動きのまま作者の内面をダイレクトに表現できるエッチングの再評価が進みます。この動きにおいて、理想の体現者とみなされたのがレンブラントでした。
謎めいた名作《書斎の学者(ファウスト)》は、レンブラントのエッチングの代表例として、同技法の再評価を目指す作家たちによって称えられました。
エッチングの普及と地位向上を目指す『エッチングのパリ』誌の宣伝のために制作されたレガメのポスターは、そうした動きの中で制作された作品です。
《書斎の学者(ファウスト)》
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 《書斎の学者(ファウスト)》1652年頃 エッチング、ドライポイント、ビュラン 国立西洋美術館

《『エッチングのパリ』誌ポスター》
フレデリック・レガメ 《『エッチングのパリ』誌ポスター》 1875年 リトグラフ/青色紙 レンブラント・ハウス美術館

章の後半では、ホイッスラーやマティスら著名な芸術家たちによる、レンブラントのエッチングに影響を受けた作品も並びます。
アンリ・マティスの《版画を彫るアンリ・マティス》は、レンブラントの自画像を引用し、その芸術への敬意を表した作品です。
《版画を彫るアンリ・マティス》
 アンリ・マティス 《版画を彫るアンリ・マティス》1900-3年 ドライポイント 国立西洋美術館

版画表現の可能性を切り拓いたレンブラントの挑戦は、その後の多くの芸術家たちに影響を与えました。時代を彩る巨匠たちの作品とともに、レンブラント版画の革新性とその魅力を、ぜひ会場で確かめてみてください。

【開催概要】
展覧会名:版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト
会期:2026年7月7日[火]— 9月23日[水・祝]
会場:国立西洋美術館 企画展示室
開館時間:9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、7月21日[火](ただし、7月20日[月・祝]、8月10日[月]、9月21日[月・祝]は開館)
入館料:一般2,200円、大学生1,300円、高校生1,000円