横浜美術館にて、展覧会「没後110年 日本画の革命児 今村紫紅」が2026年6月28日まで開催されています。
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日本画の革命児・今村紫紅とは
明治の末から大正初期にかけて彗星のごとく現れ、日本画の世界を根底から揺さぶった天才画家・今村紫紅(1880-1916)。本展は昭和59年(1984)以来42年ぶり、公立美術館では初となる大規模な回顧展となります。
1880年に横浜の提灯問屋に生まれた彼は、伝統的なやまと絵の技法を徹底的に習得しつつ、琳派や南画、さらには西洋の印象派といった多様な表現を融合させました。その強烈な個性と革新性は、没後110年を経た現代でも鮮烈な輝きを放っています。

会場には、重要文化財を含む代表作から初公開の個人コレクションまで、約200点が集結。35年という短い生涯の中で新しい日本画を模索し続けた彼の足跡を、本人の言葉とともに4つの章でたどります。
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《鞠聖図》今村紫紅 明治44年 横浜美術館 通期展示

古典を学び、新たな歴史画へ
第1章「古画のよい処を分解して、その後を追え!」では、歴史画の分野で頭角を現した青年期の作品に焦点を当てます。
17歳で上京し、歴史画の大家である松本楓湖に入門した紫紅は、古典的な画題や筆法の手本である粉本の模写と郊外での写生に努めました。19歳で手がけた《絵巻物模写 後三年絵巻(其三)》からは、後の飛躍の礎となった修行の跡がうかがえます。
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《絵巻物模写 後三年絵巻(其三)》今村紫紅 明治32年 東京国立近代美術館 通期展示

《笛》は、源平合戦で敗れた若き武将を描いた最初期の傑作です。
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(左から)《琴を弾く宮人》今村紫紅 明治30年代 通期展示、《笛》今村紫紅 明治33年頃 東京国立近代美術館 通期展示

ほかにも天皇の逆賊を描くことはタブーであった時代にあえて挑戦した《平親王》や、鎌倉幕府第8代執権・北条時宗が元寇という国家の危機を前に、中国の禅僧に教えを乞う《時宗》、豊臣秀吉が小田原の北条氏を攻めた際のエピソードを描いた《秀吉詣白旗宮図》など、見ごたえのある歴史画が並びます。
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(右)《時宗》今村紫紅   明治41年   東京国立近代美術館   通期展示  

さらに、中国の古典を題材にした《秋風五丈原》、《黄石公・張良》など、単なる模倣にとどまらず、新しい歴史画を切り開こうとした時期の代表作が数多く紹介されています。

パトロンとの出会い
第2章「絵画は矢張(ヤハリ)多方面に描け!」の前半は、横浜の実業家で桃山文化に傾倒していた原三溪との出会いがテーマです。
文展に出品した《護花鈴》が三溪の目にとまり、三溪の支援が始まりました。生活が安定した紫紅は、さまざまな主題に挑戦します。
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《護花鈴》今村紫紅   明治44年   霊友会妙一コレクション   展示期間:4/25~5/8  

《枇杷ニ鷽》は、余白を生かした簡潔な構図と、福を招く鳥であるウソの愛らしい姿が印象的です。この章では、自ら鳥を飼うほど鳥を愛した、紫紅ならではの情緒豊かな花鳥画の世界も楽しめます。
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(右)《枇杷ニ鷽》今村紫紅   大正2年   横浜美術館   通期展示 

また《西行》や《文覚》では、人物だけでなく周囲の風景や空気感の描写に強い関心を向けており、独自の風景表現が育っていく過程をかいま見ることができます。
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(左)《文覚》今村紫紅   明治45年/大正元年頃   石洞美術館   通期展示

琳派の表現を再構築する
第2章の後半では、日本画の革新を目指す中で彼が学んだ表現手法に迫ります。
紫紅は俵屋宗達や尾形光琳らの琳派を積極的に吸収し、自らの美意識で再構築しました。
本展では特別出品として、光琳の《伊勢物語図 武蔵野・河内越》や《小督図》が展示され、紫紅が古典から何を学び、自らの表現へと昇華させたかを対比しながら確認できます。
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(左から)《小督図》尾形光琳   江戸時代前期   通期展示、 《伊勢物語図 武蔵野・河内越》尾形光琳   江戸時代前期   MOA美術館 展示期間:4/25~5/27

《伊勢物語図》は、琳派の絵師たちが繰り返し描いてきた『伊勢物語』を、独自の解釈で捉え直した作品です。装飾的な描写や大胆な構成には、宗達への強い憧れがうかがえます。
ほかにも、《芥川》や《宇津の山路》といった同主題の作品、さらに風神・雷神を題材にした作品からは、巨匠たちに刺激を受けながら表現の幅を広げていった歩みをたどることができます。
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《伊勢物語図》今村紫紅   明治44年頃   大阪市立美術館   通期展示 

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(左) 《芥川》今村紫紅   大正5年   横浜美術館   通期展示 

風景画の革命《近江八景》の衝撃
第3章「自由も、新も我にあり!」では、画業の転機となった作品で構成されています。
なかでも注目は、日本画における「風景画の革命」とも称される重要文化財《近江八景》。
琵琶湖周辺という古典的な題材を扱いながら、実地写生にもとづき、従来の型を大きく打破しました。明快な色彩と点描を思わせる筆致は、当時、西洋の後期印象派を想起させる新しい表現として大きな反響を呼びます。
自然のエネルギーを自由な感性で捉えた本作は、芸術的飛躍を象徴する連作といえるでしょう。
会場では《近江八景(小下絵)》が通期で展示され、重要文化財《近江八景》は6月5日から期間限定で公開されます。
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《近江八景(小下絵)》今村紫紅   大正元年   横浜美術館(原範行氏・原曾津子氏寄贈)   通期展示 

熱帯の光を捉えた《熱国之巻》
新境地を求めた紫紅は、病後にもかかわらずインドへと旅立ちます。
道中の光景を描いた重要文化財《熱国之巻》は、強烈な太陽や人々の暮らしをこれまでにない鮮烈な色彩で表現しました。
日本画の枠に収まらないこの作品は、発表当時に賛否を巻き起こしました。しかし、その革新的な表現は近代日本画の新たな可能性を切り開いたと評価され、今日では重要文化財に指定されています 。
《熱国之巻》は会期中に展示替えが行われ、5月20日までは「朝之巻」、5月22日から6月3日までは「暮之巻」が公開されます。
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今村紫紅《熱国之巻(朝之巻)》紙本着色・一巻(図は部分) 大正3年(1914) 45.7×954.5cm 東京国立博物館 ※国指定重要文化財 (展示期間:4月25日~5月20日) ※《熱国之巻(暮之巻)》は5月22日~6月3日の展示 
Image: TNM Image Archives

現地の人々の日常や道中での情景を捉えた《水汲む女・牛飼う男》や《インド旅行スケッチ帳》からは、未知の世界に出会った画家の大きな感動が伝わってきます。
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《水汲む女・牛飼う男》今村紫紅   大正3年   平塚市美術館

暢気(ノンキ)に描け!晩年に挑んだ新たな表現
第4章「暢気(ノンキ)に描け!」では、晩年の画境の深まりを探ります。
紫紅が理想と考えたのは、若い画家が生活に困ることなく自由快活に描きたい絵を追求できる「暢気に描け」る環境でした。
《東海道五十三次絵巻 巻二》は、日本美術院の資金調達を目的に、画家たちが東海道の旅に出て制作したプロジェクトの一部です。
紫紅は全15図を担当し、展示では「大磯」や「箱根湖水」を見ることができます。本作では個性を主張するのではなく、仲間と協力して統一感のある画面づくりを目指した様子がうかがえます。
東海道五十三次絵巻(巻二)部分図
 今村紫紅・下村観山・小杉未醒・横山大観《東海道五十三次絵巻 巻二》紙本着色・一巻(図は部分) 大正4年 (1915) 東京国立博物館(展示期間:4月25日~6月3日) Image: TNM Image Archives

紫紅は、当時時代遅れとされていた江戸時代の「南画」に生気あふれる自由な精神を見出し、「新南画」とも呼ぶべきスタイルを展開しました。会場では、彼が学んだ池大雅の作品も特別出品されています。
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《梅花艸堂図》池大雅   宝暦9年   通期展示

輪郭線を用いない没骨法で描かれた《牡丹》や、西洋絵画の影響を感じさせる《入る日出る月(小下絵)》などの作品からは、最後まで尽きることのなかった探求心がうかがえます。
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(左から)《富嶽》今村紫紅   大正4年頃   展示期間:4/25~5/27、《牡丹》今村紫紅   大正4年頃   横浜美術館   通期展示、《百日紅》今村紫紅   大正4年   個通期展示  

5月20日まで展示の《紫紅の像》は、親友でありともに日本画の革新を目指した安田靫彦が、35歳で亡くなった紫紅を悼んで描いた肖像画です。箱書きに三溪が記した「嗚呼」の一語に、失われた才能への深い哀悼が込められています。

本展は会期中一部作品の展示替えがあります。お目当ての作品の展示期間は、事前に展示替えリストでご確認ください。▶展示替えリスト

そして、本展の音声ガイドは、横浜市出身の俳優・向井理さんがナビゲーターを務めます。古くから国内外の文化が交差する港町・横浜の空気感とともに、作品の奥深い世界をわかりやすく案内してくれます。

伝統を重んじながらも、常に新しい表現を追い求めた今村紫紅。日本画の革命児が駆け抜けた熱い軌跡を、この機会にぜひ会場で触れてみてください。

【開催概要】
展覧会名:没後110年 日本画の革命児 今村紫紅
会期:2026年4月25日(土) ~ 6月28日(日) ※会期中一部作品の展示替えあり
会場:横浜美術館(神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:木曜日(ただし4月30日、5月7日は開館)
観覧料:一般2,200円、大学生1,600円、中学・高校生1,000円、小学生以下無料