東京都江戸東京博物館が約4年ぶりにリニューアルオープンしたことを記念し、江戸東京博物館リニューアル記念特別展「大江戸礼賛」が2026年5月24日まで開催されています。本展では、同館の膨大なコレクションから選りすぐりの約160件の資料から、都市「大江戸」の魅力に迫ります。
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ススキの原野から巨大な武士の都へ
展示は、江戸誕生以前に関東の平野が「武蔵野」と呼ばれた荒野だった頃のイメージから始まります。
1603年に徳川家康が幕府を開くと、江戸は政治の中心地へと変貌を遂げました。
第1章「将軍のお膝元──武士の都の形成」では、江戸が武士の都として発展していく様を華麗な武具や奥道具からたどります。
《江戸城年始登城風景図屏風》には、諸大名が列をなして江戸城へ向かう、江戸ならではの光景が描かれています。
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江戸城年始登城風景図屏風(右隻) 佐竹永湖/画 明治31年(1898)

《武州州学十二景図巻》は、狩野派の絵師たちによる合作。陽光に照り輝く天守閣を描いたこの場面は、明暦の大火で焼失する以前の、在りし日の美しい景観を伝えてくれます。
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武州州学十二景図巻 狩野探幽・尚信・安信・益信/画 林羅山/詩・跋 慶安元年(1648)

武家文化を彩る精巧な美と権威
武士の都ならではの華麗な武具や奥道具の数々も見逃せません。
会場には、甲冑師の名門・明珍派の師弟による《紺糸素懸威五枚胴具足》と《萌黄匂威腹巻具足》が並びます。
装飾美や洗練された色彩の競演からは、実戦用から権威の象徴へと変わった泰平の世の武具のありようが鮮やかに浮かび上がってきます。
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(左から)紺糸素懸威五枚胴具足 明珍宗保/作 天保15年(1844)、萌黄匂威腹巻具足 明珍宗周/作 安政3年(1856)4月 

青空のもとに奥行を強調した風景を安価な絵の具で描いた「泥絵(どろえ)」は、江戸末期に流行し、好んで大名屋敷が 描かれました。江戸を訪れた人々に、江戸の威容を伝えるのに絶好の土産物だったと考えられています。
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(左下)泥絵 松平因幡守様江戸御屋敷 江戸後期

婚礼道具は、家の格式と権威を示すものとして重視されました。
武家女性の嫁入りの際にあつらえられ、生活の場で用いられた華麗な婚礼道具も紹介されています。
《綾杉地獅子牡丹蒔絵十種香箱》は、精緻な金蒔絵と三つ葉葵紋が施された奥道具の逸品です。当時の贅を尽くした美しさをかいま見ることができます。
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 綾杉地獅子牡丹蒔絵十種香箱 幸阿弥長重/作 慶安2年(1649)

町人文化の開花と三大娯楽の熱気
18世紀、江戸は人口100万人を超える世界最大級の都市へと成長しました。第2章「江戸繁華──町人文化の開花」では、経済力を蓄えた町人たちが主導した娯楽の熱気と流行を紹介します。
当時の様子を記した『江戸繁昌記』には、江戸の繁華の代表が、相撲・歌舞伎・吉原である と記されています。
《相撲取組図》には、1万人を収容したといわれる両国回向院の相撲小屋の熱狂が描かれています。土俵上の力士に着物を投げ入れる観客の姿まで克明に描写されており、当時の熱気が伝わってきます。
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(左から)江都勧進大相撲横様正面図 勝川春英/画 寛政元年(1789)頃、相撲取組図 渓斎英泉/画 文政7年(1824)頃

《浮絵江戸堺町芝居之図》は遠近法を用いて芝居小屋の奥行きと密集する観客をダイナミックに表現し、まるで劇場に紛れ込んだかのような没入感を味わえます。同じく芝居小屋の活気を鮮やかに描いた、葛飾北斎の《東都二丁町芝居》と見比べてみるのも面白いでしょう。
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(左から)東都二丁町芝居 葛飾北斎/画 享和3年(1803)頃、浮絵江戸堺町芝居之図 礫川亭永理/画 寛政10年(1798)11月

菱川派の《吉原風俗図屏風》など、吉原を題材にした作品からは、華やかな吉原の内部や遊女たちの美しい姿を通して当時の風俗を詳しく知ることができます。
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吉原風俗図屏風 菱川派/画 元禄年間(1688-1704)頃

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青楼二階之図 歌川国貞/画 文化10年(1813)

現代の雑誌やSNSに相当する最新メディアだったのが「浮世絵」などの出版物です。
東洲斎写楽による《市川鰕蔵の竹村定之進》の鬼気迫る表情、喜多川歌麿が捉えた江戸三美人《高島おひさ》のたおやかさ。これらの作品は、流行を形作る強力な情報源となっていました。
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(左から)四世松本幸四郎の肴屋五郎兵衛 東洲斎写楽/画 寛政6年(1794)、市川鰕蔵の竹村定之進 東洲斎写楽/画 寛政6年(1794)

日常の脅威に立ち向かう火消の活躍
第3章「火事と喧嘩は江戸の華──武家火消と町火消」では、日常的な脅威であった火災に命がけで立ち向かった人々のエネルギーにスポットを当てます。
《火事図巻》には現場へ駆けつける火消や避難する人々が描かれ、火災現場の切迫した様子がリアルに伝わります。
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 火事図巻 伝長谷川雪堤/模 文政9年(1826)頃

江戸の防火は、江戸城や武家屋敷を担当する武家火消と、町屋敷を管轄する町火消に分担されていました。武家火消の装束は家の格を示す華麗な装飾が特徴で、武家の男性が火事場の警備や指揮をする際に着用した《白羅紗地桐紋入火事装束》や、女性用の《立烏帽子形火事頭巾》は、防災用でありながら気品あるデザインが目を引きます。
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立烏帽子形火事頭巾 緋羅紗地波涛に竜文様繍鷹取瓜紋付 江戸後期

一方、町火消の装束は、実用性と心意気を重視したものでした。
《刺子長半纏 龍虎図》は、地味な表地とは対照的に、裏地には豪華な龍虎の描絵(地に直接模様を描く染色技法)が施されています。江戸っ子ならではの粋な精神が感じられます。
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 刺子長半纏 龍虎図 江戸末期

歌舞伎の花形役者を火消に見立てた《江戸の花夜の賑》からは、江戸っ子が憧れた火消のかっこよさが伝わってきます。
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江戸の花夜の賑 歌川芳艶/画 万延元年(1860)

知のネットワークと文化人の交遊
第4章「類を以て集まる──交遊と創作」では、趣味や学問を通じて立場を超えて交流し、豊かな文化を育んだ4人の文化人に焦点を当てます。
大田南畝(おおた なんぽ)は、幕臣(下級武士)でありながら、天明期(1781-89)に大流行した滑稽に機知に富む言葉を盛り込んだ短歌「狂歌」を牽引した知識人です。展示されている『絵本綴纈(くくり)染』は、国内で2館のみが完本を所蔵する大変稀少な資料です。
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『絵本綴纈染』歌川豊国/画 寛政6年(1794)刊

西洋の文物に強い好奇心を持ち多分野で活躍した平賀源内。彼の多様な活動の根底には、蘭学に代表される海外の知識を取り入れる姿勢がありました。展示されている直筆の書状には、西洋の解毒剤を勧める記述などもあり、彼の幅広い関心がうかがえます。
同じコーナーには、オランダ商館長が幕府に西洋の事情を報告するために提出した「阿蘭陀風説書」の現存する唯一の原本も展示。源内が大金を投じて入手し、西洋の知識を広める役割を果たしたヨーロッパの動物図鑑なども紹介されています。
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(右から) 『古今画薮後八種奇品・異品 宋紫石/著・画 明和8年(1771)刊、ヨンストン動物図説(オランダ語訳) ヨハネス・ヨンストン/著 1660年刊

京都の雅と江戸の洒脱さを融合させた「江戸琳派」の祖・酒井抱一のコーナーでは、彼の居所であり画塾でもあった「雨華庵」の木額を公開。抱一が下絵を描き著名な蒔絵師が制作した《蔓梅擬目白蒔絵軸盆》など、絵師や職人たちの交流から生まれた名品も鑑賞できます。
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酒井抱一のコーナー

そして、超人気作家の曲亭馬琴は、葛飾北斎とタッグを組んだ『椿説弓張月』や28年かけて完結させた『南総里見八犬伝』も紹介されています。新収蔵された全長9mを超える自筆書簡には、執筆の悩みや友人への思いなども記され、馬琴の人となりが伝わってきます。
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『南総里見八犬伝』曲亭馬琴/著 柳川重信ほか/画 文化11-天保13年(1814-42) 

江戸っ子の誇り「花のお江戸」
終章「花のお江戸に及ばんや」では、世界に誇る大都市へと成熟した江戸と、自らを「江戸っ子」と称した人々の誇りを紹介します。
新興都市だった江戸が発展するにつれ、上方をはじめとする地方に対抗する強いプライドが生まれました。食べ物や衣類などすべてにおいて江戸が一番だと豪語する『大通禅師法語』からは熱い郷土愛が感じられます。
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『大通禅師法語』可客/著 安永8年(1779)刊 

展覧会の最後を飾るのは、本展のメインビジュアルにも採用されている《東都両国ばし夏景色》です。両国橋の上に米粒のように密集した無数の人々が、夜空を彩る花火を見上げている様子は、まさに江戸の繁栄が頂点に達した瞬間を切り取ったかのようです。
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東都両国ばし夏景色 橋本貞秀/画 安政6年(1859)  

多種多様なコレクションを通じて浮かび上がるのは、困難に立ち向かい、遊びを忘れず、独自の美意識を磨き上げた人々の姿です。新しく生まれ変わった東京都江戸東京博物館で、先人たちが育んだ豊かな文化と、百万都市の熱い息遣いをぜひ感じ取ってみてください。

※展示資料及び作品はすべて東京都江戸東京博物館所蔵

【開催概要】
展覧会名:江戸東京博物館リニューアル記念特別展「大江戸礼賛」
会期:2026年4月25日(土)―5月24日(日)
会場:東京都江戸東京博物館 1階特別展示室
開館時間:午前9時30分―午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(5月4日は開館)、5月7日(木)