年末、台北の国立故宮博物院に行ってきました。開催中の100周年記念特別展は、館の歴史と世界的なコレクションの魅力を存分に味わえる展覧会です。
第1章「開門見山」では、かつて紫禁城の奥深くに秘められていた王室のコレクションが、一般に公開されるまでの歩みを紹介しています。もともとは皇帝だけの持ち物だった宝物が、100年前の開館をきっかけに、皆で共有する文化財へと姿を変えていきました。


かつての王朝の威厳を今に伝える名品の数々は、100年という長い年月の中で、宝物がいかに守られ、整理され、受け継がれてきたのかを教えてくれます。
皇帝が愛した「偽物」の絵画
第2章「相遇寰宇」の見どころは、故宮のコレクションが世界で紹介され、各地で大きな感動を呼んだ国際交流の歴史です。
ここで見逃せないのが、黄公望《富春山居図》にまつわるエピソードです。
中国絵画史上最高傑作の一つとされるこの作品には、《無用師巻》と、その模本である《子明巻》の2つが伝わっています。
中国絵画史上最高傑作の一つとされるこの作品には、《無用師巻》と、その模本である《子明巻》の2つが伝わっています。
清の乾隆帝は、この《子明巻》を本物と信じ込み、並々ならぬ愛着から50回以上も詩を書き入れ、印章を押しました。その結果、画面は文字で埋め尽くされています。
そのおかげで、《無用師巻》は、美しい余白を残したまま今日に伝えられました。
年末に展示されていたのは《子明巻》のみ。びっしりと書き込まれた文字からは、乾隆帝のこの絵に注いだ深い愛情が感じられます。次はどこに書こうかと思案する皇帝の姿を想像しながら鑑賞するのも、また一興でした。


また、宋の李安忠《竹鳩図》や崔愨《杞実鵪鶉図》といった花鳥画も、かつて国際的な文化交流の「顔」として活躍した作品です。

70万点のコレクションから見えてくる多様な世界
第3章「萬象交織」では、70万件にも及ぶ膨大なコレクションが、どのように整理・研究されてきたのかに焦点を当てています。
かつては「国の威信」を示す象徴だった作品は、研究の進展とともに、より多様で豊かな意味を持つものとして捉え直されています。
かつては「国の威信」を示す象徴だった作品は、研究の進展とともに、より多様で豊かな意味を持つものとして捉え直されています。

元代の倪瓚による《容膝斎図》や、金代の武元直による《赤壁図》などは、単なる風景画ではなく、当時の文人たちの精神性や、時代ごとの美意識の変化を映し出す鏡のような存在です。
ここでは、一つひとつの作品に正式な名称や年代が与えられ、世界に知られるようになった努力の跡を、展示を通して感じることができます。

最新技術が拓く新しい鑑賞体験
第4章「迎向未來」では、最新技術を活用した故宮の取り組みを紹介しています。科学分析によって作品の制作技法や歴史的背景が解き明かされ、8K映像やVR技術により、作品世界への没入体験が可能になりました。
ここではこうした新技術を取り入れた、これからの100年を見据えた博物館の新しい姿を体感することができます。

北宋文化人たちの華やかな集い、伝説のイベント「西園雅集」
「西園雅集」とは、北宋時代に首都・汴京(現在の開封)にあった、貴族であり画家の王詵(おうしん)の私邸「西園」で開かれた歴史上有名な文人たちの集いです。
この集まりが伝説となっている最大の理由は、メンバーの豪華さにあります。
蘇軾(蘇東坡)、米芾、黄庭堅、李公麟といった当時一流の文人・芸術家が一堂に会し、詩を詠み、絵を描き、音楽を楽しんだこの会は、後世の人々にとって永遠の憧れとなりました。

第1章「西園雅集」では、この伝説的な集いの様子を描いた絵画が紹介されています。
宋代の劉松年をはじめ、元代の趙孟頫、明代の仇英、清代の丁観鵬など、時代を超えて多くの画家がこのテーマを描き続けました。
同じ「憧れの場面」が、時代や画家によってどのように表現されているのかを見比べることができるのが、この章の醍醐味です。


個性豊かな書と絵の競演
第2章「舒心暢意」では、実際に「西園雅集」に参加していた人々の作品そのものが展示されています。
メンバーたちがその才能を存分に発揮した名作が並びます。
絵画では、期間限定で李公麟による《五馬図》が展示されました(~11/23まで)。長く行方不明となっていた後、現在は東京国立博物館蔵となったこの作品は、卓越した描写力を誇り、北宋絵画の最高傑作の一つといえるでしょう。

ほかにも絵画では米芾《雲山並自書跋》、書では、蘇軾、黄庭堅、米芾といった書家たちの、個性あふれる名品を目にすることができます。


後世に与えた巨匠たちの影響
第3章「百代典範」では、西園雅集の参加者たちが、後の時代の芸術家にどのように学ばれ、模倣されてきたのかを紹介します。彼らのスタイルは「美のお手本」として、何百年にもわたり模写され、受け継がれてきました。
会場には、そうした画風や書風を自分なりに解釈し、発展させた後世の作品が並びます。蘇軾・黄庭堅・米芾の書を学んだ書跡や、フランスのセルヌスキ美術館から里帰りした李公麟《山荘図》をはじめ、李公麟の影響を受けた絵画も見どころです。
会場には、そうした画風や書風を自分なりに解釈し、発展させた後世の作品が並びます。蘇軾・黄庭堅・米芾の書を学んだ書跡や、フランスのセルヌスキ美術館から里帰りした李公麟《山荘図》をはじめ、李公麟の影響を受けた絵画も見どころです。

有名な古典小説『紅楼夢』に関連する展示も見逃せません。小説の中に登場するような華やかな生活をイメージさせる、精巧な工芸品や装飾品の数々が並んでいます。

清代皇室のコレクションを受け継いだ、質の高い陶磁コレクションも、時間が許す限りじっくり見たい展示です。

開館100周年を迎えた国立故宮博物院の記念特別展は、歴史の重みと未来への期待が交差する場となっています。
王室コレクションから世界的な博物館へと成長してきた軌跡、皇帝が愛した宝物、北宋の文化人たちが育んだ雅な世界、さらには最新技術を活用した新しい鑑賞体験まで、多角的に故宮の魅力を体感できます。
王室コレクションから世界的な博物館へと成長してきた軌跡、皇帝が愛した宝物、北宋の文化人たちが育んだ雅な世界、さらには最新技術を活用した新しい鑑賞体験まで、多角的に故宮の魅力を体感できます。
台北を訪れた際には、ぜひ国立故宮博物院で、故宮100年の歴史と、千年前の文人たちの息吹に触れてみてください。



