東京・広尾の山種美術館では、2025年12月6日から2026年2月15日まで、特別展「 LOVE いとおしい…っ!―鏑木清方の恋もよう、奥村土牛のどうぶつ愛―」が開催されています。
本展は、恋愛や家族愛、故郷への愛、そして動物への慈愛など、さまざまな形の「LOVE」をテーマに、近代・現代の絵画の名品を一堂に集めた展覧会です。
誰かを大切に想う心や、いとおしいと感じる感情が込められた作品の数々が、冬の美術館を温かく彩ります。
G7ZHPsOb0AQTu26

第1章 人々への愛
家族への愛
展示は、画家たちが自身の家族、特に子どもに向けた温かなまなざしが感じられる作品から始まります。
速水御舟の《桃花》は、一見すると花の絵ですが、長女の初節句を祝って描かれたものです。
中国・宋代の院体花鳥画の「折枝画」の様式に倣い、金地の背景に枝先だけをクローズアップして描いています。小出楢重や小茂田青樹が自身の子供をモデルにした作品も並びます。
IMG20251208174814
(左から)速水御舟《桃花》 1923(大正12)年、小茂田青樹《愛児座像》 1931(昭和6)年、小出楢重《子供立像》 1923(大正12)年

恋愛
恋愛をテーマにしたコーナーでは、福富太郎コレクション資料室の名品の数々が登場します。
大阪画壇の重鎮・北野恒富《道行》は、近松門左衛門の『心中天網島』を題材に、心中を決意した男女の切ない情景を描いています。
IMG20251208182601
(左)北野恒富《道行》 1913(大正2)年頃 福富太郎コレクション資料室

本展のメインビジュアルでもある鏑木清方《薄雪》も、近松門左衛門『冥土の飛脚』を題材とした一作。心中を決意した男女が最後に抱き合う場面を、清方は品格ある筆致で描き出しました。
池田輝方《お夏狂乱》では、身分違いの恋の末、男の死を知ったお夏が狂乱した場面が、情感豊かに表現されています。
IMG20251208174850
池田輝方《お夏狂乱》 1914(大正3)年 福富太郎コレクション資料室

本展の見どころのひとつが、小林古径《清姫》連作8点の一挙公開です。安珍清姫伝説を題材とし、愛ゆえに蛇身へと変わる清姫の悲恋を、物語をたどるように鑑賞できます。
古径は結末に、能や歌舞伎で登場する「入相桜」の場面を取り入れることで、物語のイメージをいっそう格調高く仕上げました。
IMG20251208182510
小林古径《清姫》 1930(昭和5)年

師匠・尊敬する人への愛
師匠や尊敬する人物への愛もまた、画家たちの創作の原動力となりました。
奥村土牛の《蓮》は、再興日本美術院の重鎮であった斎藤隆三の死を悼んで描かれました。小倉遊亀は《憶昔》で、師である小林古径が愛蔵していた徳利を描き、亡き師を追慕しています。
山口晃が敬愛する小川芋銭と、芋銭が好んで描いた河童のイメージを重ね合わせたユーモラスな作品も並んでいます。
IMG20251208175644
小倉遊亀《憶昔》 1968(昭和43)年

第2章 神仏、動物、そして故郷への愛
神仏への愛
神仏への愛もまた、画家の創作の源泉となってきました。
日本の風景を詩情豊かに描いた川合玉堂の《観世大士》は、亡き母の面影を観音像に重ねて描いたといわれる作品です。
IMG20251208175745
川合玉堂《観世大士》 1946(昭和 21)年頃

奥村土牛《浄心》は、師・小林古径の死に直面し、中尊寺の一字金輪坐像に向き合って描かれた作品です。
25
(右)奥村土牛《浄心》 1957(昭和32)年

動物への愛
本展の大きなテーマのひとつが、「どうぶつ愛」です。
動物画の名手として知られた竹内栖鳳の《みゝづく》や《鴨雛》は、栖鳳らしい柔らかな線描と卓越した筆さばきで、生きものの愛らしさを捉えています。
IMG20251208175539
(左から)竹内栖鳳《みゝづく》 1933(昭和8)年頃、《鴨雛》 1937(昭和12)年頃

奥村土牛は、数多く動物を描いた作品を残しました。会場入口で来館者を迎える《鹿》では、子鹿が親鹿の乳を飲もうとする微笑ましい姿が、やさしい色面と柔らかな輪郭で表されています。
ほかにも、《兎》、《山羊》、《犢(こうし)》など、土牛の動物愛が感じられる作品が並びます。
IMG20251208180223
奥村土牛の動物画の展示

犬好きの方は、円山・四条派の伝統を受け継いだ西村五雲の《犬》や、五雲と同じく竹内栖鳳に学んだ、西山翠嶂の《狗子》に注目。さまざまなポーズで描かれた子犬たちの愛らしい姿から、画家の温かいまなざしが伝わってきます。 
IMG20251208180033
(左から)西山翠嶂《狗子》 1957(昭和32)年、西村五雲《犬》 20世紀(昭和時代)

猫の作品も多く、小林古径の気品ある《猫》や、自身の愛猫を描いたとされる川合玉堂の《猫》、山本丘人の幻想的な《壁夢》など、多彩な猫たちの競演が楽しめます。
IMG20251208180154
(左から)奥村土牛《シャム猫》 1974(昭和49)年、小林古径《猫》 1946(昭和21)年

現在活躍中の日本画家・小針あすかの《珊瑚の風》も紹介されています。
沖縄の海辺で遠くを見つめる女性と猫を描いた本作は、猫の肉球まで丁寧に描かれています。
IMG20251208180321
小針あすか《珊瑚の風》 2023(令和5)年

江戸時代の禅僧・白隠慧鶴による《猿猴捉月図》は、水面の月を捕ろうとする手長猿をユーモラスに描いた作品。禅の教えとともに、生きものへの温かな視線が感じられます。
IMG20251208180343
白隠慧鶴《猿猴捉月図》 18世紀(江戸時代) 個人蔵

故郷への愛
故郷への愛もまた、画家たちにとって大きなテーマでした。
川﨑小虎の《ふるさとの夢》は、故郷を夢見る子供の姿を温かく描いた作品です。
川合玉堂の初期作《鵜飼》は、玉堂が幼少期を過ごした岐阜・長良川の情景を描いたもの。岩や樹木の表現には狩野派の影響がうかがえ、画家の原点と故郷への想いが重なる一作といえます。
IMG20251208174103
川合玉堂《鵜飼》 1895(明治28)年

展示の後は、美術館併設の「Cafe椿」で展覧会にちなんだ特製和菓子はいかがでしょうか。出展作品をイメージした和菓子とお茶を味わいながら、展覧会の余韻に浸る贅沢な時間が過ごせます。
小林古径の《清姫》のうち「寝所」にちなんだ「小夜」は、杏入りの白あんを包んだ上品な一品。奥村土牛の《兎》をイメージした「福うさぎ」は、シナモン風味の練切りとハート型の錦玉羹が愛らしい菓子です。
IMG20251208180755
cafe251205jp

ミュージアムショップでは、本展の出品作品をデザインした多彩なオリジナルグッズが用意されています。《清姫》全8場面や上村松篁《白孔雀》をあしらったクリアファイル、2026年のオリジナルカレンダーは、日常に彩りを添えてくれます。
小林古径《猫》のトートバッグや、や、奥村土牛の《兎》をラベルにあしらったお茶缶(しょうが和紅茶)は、お土産や贈り物にも喜ばれそうです。
IMG20251208180725
出品作品をモティーフにしたオリジナルグッズ

冬はクリスマスやバレンタインなど、大切な人を想う機会が増える季節です。一年で最も愛が身近になるこの時期に、画家たちが描いた多彩な「LOVE」に出会ってみませんか。

※所蔵表記のない作品は、すべて山種美術館蔵

【開催概要】
展覧会名:【特別展】LOVE いとおしい…っ!―鏑木清方の恋もよう、奥村土牛のどうぶつ愛―
会期:2025年12月6日(土)~2026年2月15日(日)
会場:山種美術館 (東京都渋谷区広尾3-12-36)
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日 [1/12(月・祝)は開館、1/13(火)は休館、12/29(月)~1/2(金)は年末年始休館]
入館料:一般1400円、【冬の学割】大学生・高校生500円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
公式ホームページ:https://www.yamatane-museum.jp/