東京・日本橋の重要文化財、三井本館にある三井記念美術館にて、2026年2月1日(日)まで、特別展「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書 ―茶道具・かるた・歌仙絵とともに―」が開催されています。

本展のテーマは、鎌倉時代の歌人であり公家でもある藤原定家(1162〜1241)の「書」です。三井記念美術館が所蔵する国宝《熊野御幸記》が、開館20周年を記念して久しぶりに全巻公開されます。これにあわせて、館蔵品から後鳥羽上皇と藤原定家の名品も展示されています。
定家の書は、その独特の筆跡が「定家様(ていかよう)」として江戸時代の小堀遠州ら茶人に愛好されたことで知られます。
本展では、そうした茶人ゆかりの茶道具や消息(手紙)に加え、定家が選んだ「百人一首」のかるたや歌仙絵など、年末年始にふさわしい華やかな作品も並びます。さらに《大嘗会巻》や定家の消息、藤原定家画像3幅など、当館で初めて公開される貴重な作品が多い点も大きな見どころです。
本展では、そうした茶人ゆかりの茶道具や消息(手紙)に加え、定家が選んだ「百人一首」のかるたや歌仙絵など、年末年始にふさわしい華やかな作品も並びます。さらに《大嘗会巻》や定家の消息、藤原定家画像3幅など、当館で初めて公開される貴重な作品が多い点も大きな見どころです。
茶人が愛した「定家様」の魅力
展示室1のテーマは「茶人好みの定家様」です。
千利休のわび茶の師である武野紹鴎が、晩年の茶席で定家の《小倉色紙》を床に掛けて以来、定家の書は茶人の間で珍重されるようになりました。
なかでも江戸時代初期の大名茶人・小堀遠州は定家の書を深く愛し、茶道具の箱書などに定家風の書、すなわち「定家様」で和歌をしたため、銘を付け、名物茶道具としての「次第」を整えました。
なかでも江戸時代初期の大名茶人・小堀遠州は定家の書を深く愛し、茶道具の箱書などに定家風の書、すなわち「定家様」で和歌をしたため、銘を付け、名物茶道具としての「次第」を整えました。
この展示室では、遠州や、彼に私淑した松平不昧ゆかりの茶道具が並びます。


小堀遠州《小堀遠州筆和歌色紙「白雪の…」》 江戸時代・17世紀
注目したいのは、数々の「中興名物」の茶入です。
《瀬戸二見手茶入 銘二見》は、遠州の箱書と挽家が添えられた名品です。これには「二見」の銘の由来が記された、松平不昧の書状も付属します。
《瀬戸二見手茶入 銘二見》は、遠州の箱書と挽家が添えられた名品です。これには「二見」の銘の由来が記された、松平不昧の書状も付属します。
このほか、遠州筆の《和歌色紙「白雪の...」》や《和歌小色紙「池水の...」》、遠州が自ら和歌を記した竹茶杓や竹二重切花入、三猿のつまみが付く茶器の蓋裏に定家様の和歌が記された《菊蒔絵面取茶箱》など、茶人たちの美意識と定家様の融合を360度からじっくり鑑賞できます。

《菊蒔絵面取茶箱 伝遠州所持 茶器蓋裏和歌直書》 江戸時代・17〜18世紀
名家に伝来した「小倉色紙」と後鳥羽院ゆかりの道具
展示室2では、《小倉色紙「うかりける...」》が静かに来館者を迎えます。これは定家が古来の有名な歌人の和歌を1人1首ずつ選び、色紙に書いたもので、百人一首の原点とされてきました。
続く展示室3では、国宝の茶室「如庵」を再現した空間で、後鳥羽院にちなんだ道具組が展示されています。床には後鳥羽上皇の《後鳥羽院和歌懐紙「古郷草花」》が掛けられ、朝鮮時代の《御所丸茶碗》や華やかな《菊桐蒔絵大棗》などが取り合わされています。

展示室3展示風景
国宝《熊野御幸記》の全巻展示
本展のメインともいえる展示室4は、特別に写真撮影が可能となっています(動画は不可)。
そして、いよいよ国宝《熊野御幸記》の登場です。
これは建仁元年(1201)、後鳥羽上皇の熊野参詣に随行した定家自身による旅日記です。現地で書いているため、かなり直したり書き入れをしたりしています。また当時40歳の定家は旅の途中で体調を崩し、「心身無きが如し」と記すほど疲労困憊していました。
持参した紙が足りなくなり、紙の裏側にまで書き込んでいる様子からは、苦しい旅の中でも懸命に記録を残そうとした定家の思いが伝わってきます。
持参した紙が足りなくなり、紙の裏側にまで書き込んでいる様子からは、苦しい旅の中でも懸命に記録を残そうとした定家の思いが伝わってきます。

【国宝】藤原定家《熊野御幸記》 鎌倉時代・建仁元年(1201)
三井記念美術館の学芸員が、11年以上かけて撮影した熊野古道の写真約500枚によるスライドショーも上映されています(約30分)。現代の風景を通じて、定家が歩いた道を追体験できます。
初公開の《大嘗会巻》は、定家が平安時代の藤原実資の日記『小右記』から大嘗会の記録を筆写したもので、独特のくずし字や略字で記されています。
また若い松を描いた、円山応挙の《若松図屏風》は、正月の飾りにふさわしい一品です。
ほかにも伝青蓮院尊朝法親王筆の《百人一首》冊子、山口素絢が絵を描き鈴木内匠が文字を書いた《百人一首かるた》など、新春を寿ぐ作品群も彩りを添えています。

円山応挙《若松図屏風》 江戸時代・18世紀
定家と小堀遠州の書
展示室5では、古筆手鑑『たかまつ』(重要文化財)や『筆林』に貼られた定家の古筆切などが紹介されています。
定家自身の歌を記した《藤原定家筆自詠和歌二首》などからは、定家が自ら「悪筆」と称しながらも、独特の魅力を持つその書風を堪能できます。定家の消息も2点初公開されています。

展示室5展示風景より、藤原定家の書の展示
章の後半には小堀遠州の書が並びます。
興味深いのが小堀遠州筆の金森宗和宛の消息です。これは展示室1にある《竹二重切花入 銘白菊》に添えられた手紙で、制作にまつわるエピソードが記されています。
遠州は宗和から送られた竹筒を使って花入を作ろうとしましたがうまくいかず、大工に頼んで一重切にさせたもののそれもうまくいかなかった・・・といった苦労話が流麗な文字で綴られています。
遠州は宗和から送られた竹筒を使って花入を作ろうとしましたがうまくいかず、大工に頼んで一重切にさせたもののそれもうまくいかなかった・・・といった苦労話が流麗な文字で綴られています。
ほかにも《瀬戸落穂手茶入 銘田面》とそれに添えられた和歌小色紙、、遠州が賛をしたためた《松花堂昭乗筆蔦図》など、遠州の筆跡と美意識を存分に楽しめる空間となっています。

(左)中興名物《瀬戸落穂手茶入 銘田面(後窯 萬右衛門) 小堀遠州挽家字形》 江戸時代・17世紀
(中)小堀遠州《小堀遠州筆和歌小色紙「うちわびて…」田面茶入添幅》 江戸時代・17世紀 室町三井家
(右)松花堂昭乗・小堀遠州《松花堂昭乗筆蔦図(小堀遠州賛)》 江戸時代・17世紀
華やかな歌仙絵の競演
展示室6には、初公開の《三十六歌仙団扇形かるた》が展示されています。これは珍しい団扇(うちわ)の形をした札に絵と和歌が記されたもので、梅鉢紋の蒔絵箱に収められています。江戸時代の雅な遊び心が凝縮された、愛らしい作品です。


《三十六歌仙団扇形かるた 梅鉢紋蒔絵箱入》 江戸時代・19世紀
最後の展示室7では、歌仙絵の世界が広がります。
土佐光起筆の《女房三十六歌仙帖》に加え、今回初公開の2つの歌仙帖が登場します。
住吉広純(具慶)筆の《六歌仙帖》は、古今集時代の六歌仙ではなく、定家自身も含まれる「新古今和歌集」時代の「新六歌仙」が描かれています。
もう一つは、伝鷹司兼熈筆の書による《三十六歌仙帖》です。
これらはいずれも、絵と色紙がセットになった帖仕立てで、歌人たちの優美な姿と和歌の美しさを同時に味わうことができます。
もう一つは、伝鷹司兼熈筆の書による《三十六歌仙帖》です。
これらはいずれも、絵と色紙がセットになった帖仕立てで、歌人たちの優美な姿と和歌の美しさを同時に味わうことができます。

伝鷹司兼凞《三十六歌仙帖》 江戸時代・17〜18世紀
展覧会の最後を飾るのは、徳川秀忠の娘・和子が、後水尾天皇のもとへ入内する際の絢爛豪華な行列を描いた、重要文化財《東福門院入内図屏風》です。右隻右下には二条城、 左隻左上の禁裏御所も描かれています。

【重要文化財】《東福門院入内図屏風》 江戸時代・17世紀
《熊野御幸記》は、書の美しさと歴史的資料としての重みが一体となった至宝です。そして定家の個性的な筆跡は、「定家様」として愛され、後世の茶人たちの美意識を刺激し、新たな文化を生み出しました。
国宝の日記から茶道具、かるたまで、定家の書が紡ぐ多様な世界を、この冬、日本橋で楽しんでみてはいかがでしょうか 。
【開催概要】
展覧会名:特別展「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書 ―茶道具・かるた・歌仙絵とともに―」
会期:2025年12月6日(土)〜2026年2月1日(日)
会場:三井記念美術館
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(但し1月5日・12日・26日は開館)、年末年始(12月27日〜1月3日)、1月13日(火)、1月25日(日)
入館料:一般1,200(1,000)円/大学・高校生700(600)円/中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金およびリピーター割引料金
※70歳以上は1,000円(要証明)
公式ホームページ:https://www.mitsui-museum.jp




