京都国立近代美術館では、2025年12月20日から2026年3月8日まで「セカイノコトワリ―私たちの時代の美術」が開催されます。
本展は、グローバル化が進んだ1990年代から現在にいたる美術表現を通して、生成AIや人工知能では導き出せない世界の根源的な真理、すなわち「コトワリ」を探る試みです。
およそ70点におよぶ出品作のうち約40点は京都国立近代美術館の所蔵品で、同館が2020年代以降積極的に進めてきた現代美術の収集成果を見ることができます。
15_ビジュアル

「失われた30年」に生み出された豊かな表現
出品作家が同時代として共有する1990年頃から2020年代は、日本社会が失われた30年と称される時期と重なります。
不景気や震災、国際紛争、インターネットの普及など、社会や生活上の変化を目の当たりにした時代です。
藤本由紀夫《SUGAR I》 は、1995年の阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件という日本社会を揺るがす出来事を契機に着想され、ガラス管の中で少しずつ崩れてゆく角砂糖が、日常の脆さや壊れやすさ、そして日常の異変はシームレスに起こりうることを伝えています。
また青山悟や西條茜は、2020年からのコロナ禍で強く意識された他者との距離感や呼吸、マスクを作品のモチーフとしています。
11_藤本由紀夫《SUGAR I》ダミー
藤本由紀夫 《SUGAR I》 1995年 西宮市大谷記念美術館蔵 ©Yukio Fujimoto

6_西條茜
西條茜 《惑星》 2024年 作家蔵 ©Akane Saijo 撮影:来田猛

グローバル化する日本現代美術の現在地
グローバル化が進み、日本の現代美術が海外で紹介される機会も増えました。笠原恵実子、青山悟、田中功起、手塚愛子、竹村京といった、拠点を海外へ移す作家も登場しています。
作家たちは国際的な美術動向に直接ふれながら、それぞれのキャリアを重ねていきました。
本展では、ヴェニス・ビエンナーレをはじめ、国際舞台で活躍してきた実力派の作品も紹介されます。
4_笠原恵実子_Offering_Marina
笠原恵実子 《Offering - Marina》 2005年 作家蔵 ©Emiko Kasahara Courtesy of the artist and Yoshiko Isshiki Office, Tokyo

9_竹村京_修復された地球儀の貯金箱_7R37688
竹村京 《修復された地球儀の貯金箱》 2002–2021年 京都国立近代美術館蔵 ©Kei Takemura 撮影:守屋友樹

10_手塚愛子《閉じたり開いたり そして勇気について(拗れ)》部分 京都国立近代美術館蔵 
手塚愛子 《閉じたり開いたり そして勇気について(拗れ)》(部分) 2024年 京都国立近代美術館蔵 
©Aiko Tezuka 撮影:守屋友樹

インスタレーションや映像メディアによる表現
1990年代以降、現代美術の主流となったのが、多様な素材で空間を構成するインスタレーションや、写真・映像メディアを用いた表現でした。
本展では、これまで展示機会が限られてきた重要なインスタレーション作品が紹介されます。

寓意的なインスタレーションの先駆者として知られる松井智惠による《LABOUR-4》は、オリジナルが完全な形で現存する稀少な作例の一つです。言葉や鏡、辞書、衣装、オブジェを組み合わせて空間を構成し、アーティストの労働や苦痛といった身体的経験を可視化しています。
12_松井智惠《LABOUR 4 -7》1993年 国立国際美術館蔵
松井智惠 《LABOUR-4》 1993年 国立国際美術館蔵 ©Chie Matsui 撮影:石原友明

ほかにもLEDの数字で永遠の時間を表現する宮島達男、土地の記憶を映像インスタレーションで表現する志村信裕、映像等で社会の矛盾を探求する高嶺格の作品も登場します。
13_宮島達男《Monism_Dualism》1989年 京都国立近代美術館蔵
宮島達男《Monism/Dualism》1989年 京都国立近代美術館蔵 ©Tatsuo Miyajima

7_志村信裕《Nostalgia, Amnesia》2019年 作家蔵
志村信裕 《Nostalgia, Amnesia》 2019年 作家蔵 ©Nobuhiro Shimura

ポンピドゥー・センターにも収蔵された毛利悠子の《Parade》(2011‒17年)は、テーブルクロスの図案を電気信号に変換し、アコーディオンやドラムなどのオブジェがユーモラスに動き出し、アンサンブルを奏でます。

久々の公開&新作も登場
本展では、長らく公開されていなかった記念碑的作品が展示されます。石原友明《世界。》は、点字が刻まれた金属板の床を、人工的な太陽としてのシャンデリアが照らし出すインスタレーションで、2004年の個展以来、21年ぶりの再展示となります。
2_石原友明《世界。》1996年 作家蔵
石原友明 《世界。》 1996年 作家蔵 ©Tomoaki Ishihara

「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015」で発表された田中功起《一時的なスタディ:ワークショップ#1「1946-52年占領期と1970年人間と物質」》が、京都では10年ぶりに公開されます。
あわせて、当時参加した高校生5名を再び集めて撮影した新作も紹介されます。
このほか、田中功起《taggame》をはじめ 、毛利悠子、藤本由紀夫による、美術館の空間にあわせた新作展示も予定されています。
8_田中功起《taggame》2024年 作家蔵
田中功起 《taggame》 2024年 Commissioned by “The Air We Share” at the Deutsches Hygiene-Museum Dresden (2024–2025)  ©Koki Tanaka

多様な視点から世界を読み解く
名画や著名人に扮するセルフポートレートで知られる森村泰昌や、彫刻や映像で身体の変容を表現する小谷元彦、社会風刺を込めた版画を手がける風間サチコなどの作品も展示されます。
14_森村泰昌《星男(平安神宮にて)》1990_2004年 京都国立近代美術館蔵
森村泰昌 《星男(平安神宮にて)》 1990/2004年 京都国立近代美術館蔵 ©Yasumasa Morimura Courtesy of the artist and Yoshiko Isshiki Office, Tokyo


3_小谷元彦_1997_phantom_limb
小谷元彦《Phantom-Limb》(部分) 1997年 作家蔵 ©Motohiko Odani 撮影:木奥惠三

5_風間サチコ_2003_Speculators_KeiMiyajima
風間サチコ《McColoniald:世界の山師》2003年 京都国立近代美術館蔵 ©Sachiko Kazama 撮影:宮島径

さらに、伝説的グループ「ダムタイプ」の中心人物として身体とテクノロジーの関係を探求した古橋悌二、生き物との協働で関係性を問うAKI INOMATA、、視覚文化を通し社会や個人を表現する原田裕規、女性を主題とした物語性の高い写真を発表するやなぎみわなど、個性豊かな作家たちがそれぞれの視点から世界を捉えた表現が展開されます。
1_AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる -
AKI INOMATA 《やどかりに「やど」をわたしてみる –Border–(ラ・リューシュ、パリ)》 2024年 
京都国立近代美術館蔵 ©AKI INOMATA 撮影:若林勇人

会場では、アーティストたちの思考や実践を、航海上の潮流や未知の島との遭遇を記録した「海図」に見立て、アイデンティティ、身体、歴史、グローバル化社会といったキーワードを手がかりに、私たちの現在地(Where Do We Stand?)を読み解いていきます。
ベテランから若手まで20名の多様なアーティストたちが提示する「セカイノコトワリ」に触れながら、自分なりの航路を見つけてみてはいかがでしょうか。

【開催概要】
展覧会名:セカイノコトワリ―私たちの時代の美術
会期:2025年12月20日(土)~2026年3月8日(日)
会場:京都国立近代美術館(岡崎公園内)
開館時間:10:00–18:00(金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(1月12日、2月23日は開館)、12月30日–1月3日、1月13日、2月24日
観覧料:一般 1,500円、大学生 700円
*高校生以下・18歳未満、心身に障がいのある方と付添者1名、ひとり親家庭の世帯員の方は無料(要証明)
公式ホームページ:https://www.momak.go.jp/