本写真祭は、ヨーロッパの今を捉える写真家たちの作品を、美術館やギャラリーだけでなく、建設現場の仮囲いやカフェといった街中の公共空間で展示する、新しい試みです。テーマは「Reframing Realities: 現実の新たな輪郭」。武力衝突、移民の流入、気候危機などに直面するヨーロッパの現実を、約11組の写真家が「記録」と「創造」のあいだを行き来しながら表現します。
アイデンティティと記憶をめぐる旅
アイデンティティや記憶、帰属感をテーマにした作品は、本写真祭の大きな見どころです。
ウクライナ出身のヴァルヴァラ・ウリクの《Sunshine, How Are You?》は、かけがえのない子ども時代を「実際の記憶」と「想像の記憶」を織り混ぜて再現したシリーズです。
ウクライナ出身のヴァルヴァラ・ウリクの《Sunshine, How Are You?》は、かけがえのない子ども時代を「実際の記憶」と「想像の記憶」を織り混ぜて再現したシリーズです。

ヴァルヴァラ・ウリク《Sunshine, How Are You?》2023-2024
イーゴル・シラー《Familiar Characters, Bunnies》2020-2023
ハンガリーのアンナ・ティハニは、子ども向け百科事典を題材にしたコラージュ作品《Budapest A-Z》で、個人の記憶と時代の変化を重ね合わせ、過ぎ去った時代のブダペストを描き出します。これらの作品は、遠い国の物語でありながら、観る者自身の記憶やアイデンティティにも静かに問いを投げかけます。

アンナ・ティハニ《Budapest A-Z, Bubble》2022
タダオ・チェルンの《Comfort Zone》は、ヨーロッパのビーチでくつろぐ人々を上空から撮影し、公共空間におけるプライバシーの曖昧な境界を探ります。

タダオ・チェルン 《Comfort Zone》2013
タダオ・チェルンの《Comfort Zone》は、ヨーロッパのビーチでくつろぐ人々を上空から撮影し、公共空間におけるプライバシーの曖昧な境界を探ります。

タダオ・チェルン 《Comfort Zone》2013
自然との対話
気候危機や環境問題といった現代的なテーマも、本展の重要な柱の一つです。
イタリア出身のクラウディア・フジェッティは、風景写真に大胆な色彩を重ね合わせた《Metamorphosis》で、自然が持つしなやかな生命力を表現しています。

クラウディア・フジェッティ《Metamorphosis》2024
スイスを拠点とするタイヨ・オノラト&ニコ・クレブスの《Water Column》は、海洋科学者との協働で生まれた作品で、最新の水中撮影技術を用いて深海の未知なる世界を捉え、その美しさと脆さを示唆します。
タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス《Water Column, U13》2022
一方で、スペイン出身のフランシスコ・ゴンサレス・カマチの《Reverting》は、美しい自然の裏にある、観光による環境悪化などの課題に鋭く向き合います。

フランシスコ・ゴンサレス・カマチョ《Reverting, Vik》2024
イメージの力を問い直す
写真は現実を写すだけではありません。時には権力の象徴となり、時にはその意味を問い直すメディアにもなります。
スイス出身のクリスティーナ・ヴェルナーは、《The Horses Are Coming》で、かつて国家権力の象徴として利用されたワシや馬といった動物のイメージをフォトモンタージュの手法で再解釈し、その意味が現代にどう響いているのかを問いかけます。
スイス出身のクリスティーナ・ヴェルナーは、《The Horses Are Coming》で、かつて国家権力の象徴として利用されたワシや馬といった動物のイメージをフォトモンタージュの手法で再解釈し、その意味が現代にどう響いているのかを問いかけます。

クリスティーナ・ヴェルナー《The Horses are Coming》2024
同じくスイスのタマラ・ヤネスによる《Copyright Swap》は、図書館の資料をデジタル改変することで、アートにおける著作権の曖昧な境界線を探る意欲作です。これらの作品は、私たちが日々目にするイメージが、いかにして作られ、どのような意味を帯びているのかを考えさせてくれます。


タマラ・ヤネス《Copyright Swap #2》2023 NYPL Picture Collection Folder HAIR Original by Joel Meyerowitz
ギリシャ出身のマリア・マヴロポールは、AI技術を用いて《Imagined Images》という家族写真のアルバムを生成しました。失われた記憶や、ありえたかもしれない瞬間を視覚化することで、テクノロジーが感情的な空白を埋め、記憶を再構築する力を示します。

マリア・マヴロポール《Imagined Images》2021

マリア・マヴロポール《Imagined Images》2021
「フォト・エッセイ・アワード」も開催
本写真祭では、「フォト・エッセイ・アワード」のファイナリスト3組の作品も紹介されます。
イタリアのマクシミリアーノ・ティネオは「帰属への希求」を、フランスのマリリーズ・ヴィニョーは戦禍にあるウクライナの人々の生活を、そしてベラルーシのサーシャ・ヴェリチコはプロパガンダによって作られたデジタルの現実をテーマにした作品を発表します。
彼らの作品は、「SEEEU ZINE」に掲載され、最優秀賞受賞者は開幕日に発表されます。

マリリーズ・ヴィニョー 《FRONTLINES OF DIGNITY, SHREDDED SKIES AND OTHER LOVE STORIES》2025
彼らの作品は、「SEEEU ZINE」に掲載され、最優秀賞受賞者は開幕日に発表されます。

マリリーズ・ヴィニョー 《FRONTLINES OF DIGNITY, SHREDDED SKIES AND OTHER LOVE STORIES》2025
東京の街に溶け込む250点以上の写真作品を通して、現代ヨーロッパの多様な現実に出会える展覧会です。アーティストたちが投げかける多様な視点を通じて、自分自身の「現実の新たな輪郭」を見つけてみてはどうでしょうか。
【開催概要】
展覧会名:「SEEEU(シー・イー・ユー)ヨーロッパ写真月間 2025」
会期:2025年10月23日(木)〜11月23日(日)
会場:東京都内の屋内・屋外会場(港区、渋谷区、世田谷区、目黒区、新宿区など)
入場料:無料
SEEEU公式ウェブサイト:https://www.seeeu.jp/ja



