東京・広尾の山種美術館では、2025年11月30日(日)まで、特別展「日本画聖地巡礼2025-速水御舟、東山魁夷から山口晃まで-」が開催されています。

チラシ
本展では、近・現代の日本画家たちが創作の源泉とした「聖地」をテーマに、彼らが実際に訪れ、心揺さぶられた風景を描いた作品が紹介されています。
画家たちの足跡をたどりながら、まるで日本、そして世界を旅するかのような感動を味わえるのが、この展覧会の大きな魅力です。
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会場風景

日本画の聖地を訪ねて ―北海道から沖縄まで―
この章では、北から順に日本各地の名所を描いた作品を紹介。
北海道からは、岩橋英遠《カムイヌプリ》が登場します。実際の写真と見比べると、山の形をかなり忠実に反映していることがわかります。 
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岩橋 英遠《カムイヌプリ》1977(昭和52)年

東北地方へ足を延ばすと、青森県の奥入瀬渓流を描いた奥田元宋《奥入瀬(秋)》が、展示室の奥で迎えてくれます。すがすがしい渓流の美しさが印象的な大作で、壁いっぱいに広がる鮮やかな色彩は、まさに元宋ならではの表現です。
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奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983(昭和58)年

福島県からは、日本三大桜の一つ、三春の滝桜を題材にした橋本明治《朝陽桜》が登場。デザイン的に処理された本画の隣には素描も展示されています。
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(左から)橋本明治《朝陽桜》1970(昭和45)年、《滝桜 (素描)》1967(昭和42)年頃

関東から中部へ、多彩な自然と歴史の舞台
関東地方の「聖地」も見逃せません。栃木県日光からは、横山大観が描いた《飛瀑華嚴》と、川端龍子が徳川家光を祀る大猷院を題材にした《月光》が登場します。
大観は墨画淡彩で華厳の滝の迫力を、龍子は仰ぎ見るユニークな構図で建物の荘厳さを表現しています。
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(左から)川端龍子《月光》1933(昭和8)年、横山大観《飛瀑華厳》1932(昭和7)年

茨城県潮来の水郷を描いた竹内栖鳳《潮来小暑》では、淡い色彩によって湿潤な空気と陽光のまぶしさが巧みに表現されています。
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竹内 栖鳳《潮来小暑》1930(昭和 5) 

神奈川県からは、芦ノ湖畔の箱根離宮を秋の情景で描いた野口小蘋《箱根真景図(左隻)》が登場。
中部地方では、奥村土牛《山中湖富士》や、新潟県妙高市の冬を描いた《井守池(冬)》が並びます。

山口晃が描く壮大な東京パノラマ
本展覧会の大きなみどころの一つが、山口晃の《東京圖 1・0・4輪之段》です。
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山口晃《東京圖 1・0・4 輪之段》2018-25(平成30-令和7)年

山種美術館の所蔵品となってから初めて公開される本作は、皇居を中心に、東京の街並みを空から見下ろすような独特の視点で描かれています。
現代の景観と過去の風景がひとつの画面の中で交錯しているのが特徴で、たとえば浅草周辺には、関東大震災で倒壊した凌雲閣(通称・浅草十二階)の姿も見られます。

もともと線画として海外で発表されたのちに彩色が施され、完成版としては今回が初公開となります。

東京駅の改装案をかなり精密に描いた作品も展示されています。現在の東京駅の様子と見比べながら鑑賞するのも楽しいかもしれません。
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《新東都百景 東京駅改装案 [其の一]》2010(平成22)年 個人蔵 

画家たちが愛した京都
多くの芸術家に愛された京都も、本展の重要な「聖地」の一つです。
速水御舟の重要文化財《名樹散椿》は、京都の椿寺地蔵院に咲く「五色八重散椿」という名木を描いた作品です。
金地の背景に花や幹の質感が際立ち、光沢を抑えた金砂子が撒きつぶされた画面は、静かな時の流れを感じさせます。
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 【重要文化財】速水御舟《名樹散椿》1929(昭和4)年

東山魁夷は、川端康成にすすめられたことをきっかけに、京都の四季を描きました。
会場では、定宿から見える京都の光景を描いた《年暮る》をはじめ、《春静》、《緑潤う》、《秋彩》が一堂に会し、魁夷が捉えた古都の四季折々の美を堪能できます。
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(左から)東山魁夷《春静》1968(昭和43)年、《緑潤う》1976(昭和51)年、《秋彩》1986(昭和61)年、《年暮る》1968(昭和43)年

正井和行は、京都・銀閣寺の庭にある銀沙灘と向月台に着目し、盛り上げられた砂の造形を抽象的に表現しました。
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正井和行《庭》1971(昭和46)年

西日本の魅力的な聖地
京都のほかにも西日本の魅力的な「聖地」が紹介されています。

「白鷺城」とも呼ばれる姫路城を描いたのは、奥村土牛です。
1956年から始まった大修理の前にその姿を写生するため、土牛は2度も現地を訪れました。
当初は鳥瞰図を想定していましたが、最終的には天守閣を下から仰ぎ見る構図に変更し、城の雄大さを表現しています。
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奥村土牛《城》1955(昭和30)年

四国からは、同じく土牛の《鳴門》が出品されています。
徳島県の鳴門海峡の渦潮を描いたこの作品は、群青や白緑、胡粉を丁寧に塗り重ねつつも、透明感のある色彩で波の動きを見事に捉えています。
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奥村土牛《鳴門》1959(昭和34)年

海を渡って出会った聖地
第2章では、画家たちが海を渡り、異国の風景や文化から受けた刺激を映し出す作品が並びます。

竹内栖鳳は中国・蘇州の水の豊かな景観に感銘を受け、数多くの作品を残しました。
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竹内栖鳳《城外風薫》1930(昭和5)年

中国からは、龍門石窟を幻想的に描いた吉岡堅二《龍門幻想》や、古都・西安の薦福寺小雁塔を描いた岩澤重夫《古都追想(西安)》も出品されています。
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吉岡堅二《龍門幻想》1981(昭和56)年

シルクロードをテーマに、壮大な歴史絵巻を描き続けた平山郁夫は、《シルクロードの遺跡ブハラ》やインドの《阿育王石柱》で、悠久の時の流れを表現しました。

ヨーロッパ、そしてアフリカへ、時空を超えた芸術の旅
アジアからヨーロッパへと旅は続きます。
1930年にローマ日本美術展覧会の使節として渡欧した速水御舟は、ヨーロッパ旅行で多くの写生を残しました。イタリアの街角やギリシャの遺跡を描いた作品からは、西洋建築に向けられた画家の新たな関心が感じられます。
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速水御舟《オデオンの遺址》1931(昭和6)年

そして、現代を代表する画家のひとり、千住博による《ピラミッド「遺跡」》が、壮大な旅の締めくくりを飾ります。
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千住博《ピラミッド「遺跡」》1988(昭和63)年

鑑賞後にも楽しみは続きます。
館内のカフェ「Cafe 椿」では、速水御舟《名樹散椿》【重要文化財】の椿の花をかたどった「八重散椿」、奥村土牛《鳴門》の渦潮を表現した「うず潮」、東山魁夷《年暮る》の除夜の鐘が聞こえてきそうな静かな夜を表した「除夜」など、展覧会出品作品をモチーフにしたオリジナルの和菓子を味わうことができます。
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和菓子

ミュージアムショップでは、展覧会出品作品をモティーフにしたオリジナルグッズが並んでいます。
特に、山口晃《東京圖 1・0・4輪之段》をデザインしたA4Wクリアファイルやブックカバー、A1ポスターは注目のアイテムです。
ほかにも、速水御舟《名樹散椿》のミニ屛風や、奥田元宋《奥入瀬(秋)》の大判はがき、2026年のオリジナルカレンダーなど、名画を日常でも楽しめるグッズが並びます。
また、全出品作51点をカラーで収録した展覧会図録『日本画聖地巡礼2025』は、展覧会の余韻を自宅でも味わえる一冊です。
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ミュージアムグッズ

まるで絵画で世界旅行をしているかのような、贅沢な時間を過ごせる展覧会です。画家たちが作品に込めた思いや、その土地の空気感まで感じられるような名作の数々に出会えます。
この秋、美術館で「聖地巡礼」の旅を楽しんでみませんか。

※所蔵先表記のない作品は、すべて山種美術館蔵 

【開催概要】
展覧会名:【特別展】日本画聖地巡礼2025-速水御舟、東山魁夷から山口晃まで-
会期:2025年10月4日(土)~11月30日(日)
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日[11/3(月・祝)、11/24(月・振休)は開館、11/4(火)、11/25(火)は休館]
入館料:一般1,400円、大学生・高校生1,100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
公式ホームページ:https://www.yamatane-museum.jp/