東京藝術大学大学美術館(東京・上野公園)では、2025年11月3日(月・祝)まで、「藝大コレクション展2025 名品リミックス!」が開催されています。

本展では、東京藝術大学が前身の東京美術学校開校以前から135年以上にわたって収集してきた、3万件を超える豊かなコレクションの中から、選りすぐりの名品が紹介されます。
あわせて、これまであまり注目されてこなかった模写やスケッチにも光をあてています。

本展では、東京藝術大学が前身の東京美術学校開校以前から135年以上にわたって収集してきた、3万件を超える豊かなコレクションの中から、選りすぐりの名品が紹介されます。
あわせて、これまであまり注目されてこなかった模写やスケッチにも光をあてています。

会場風景
テーマは、先人の作品に向き合い、描き写すことで深まる「学び」のかたち。
作家たちがどのように名作に学び、自らの表現を模索してきたか、その歩みに迫る、知的好奇心を刺激する展覧会です。
最初のセクション「名品と対話する秋」では、コレクションを代表する優品がずらりと並びます。東京美術学校の最初期の収集品である国宝《絵因果経》(天平時代・8世紀後半)は、下段に経文、上段に絵解きを配した形式で、素朴な描線と明快な彩色による愛らしい人物表現には、天平絵画の高度な技術がうかがえます。
ほかにも、重要文化財《小野雪見御幸絵巻》、《菩薩立像》など、日本の古美術の名品が並びます。
江戸時代の作品では、尾形光琳の重要文化財《槙楓図屏風》が目を引きます。
平面的な金地の上に槇と楓の樹々を大胆に配し、緑葉と紅葉の補色が鮮やかに際立つこの作品は、光琳ならではの洗練された美意識が随所に表れています 。
平面的な金地の上に槇と楓の樹々を大胆に配し、緑葉と紅葉の補色が鮮やかに際立つこの作品は、光琳ならではの洗練された美意識が随所に表れています 。

【重要文化財】《槇楓図屏風》 尾形光琳 江戸時代・18世紀
重要文化財《白雲紅樹》は、狩野派の伝統に西洋の遠近法や写実を融合させた、近代日本画黎明期を象徴する名作です。
紅葉が白雲にかすむ秋の山間を、繊細な色彩と巧みな遠近法で幻想的に描き出しています。

「名品と対話する秋」展示風景より、(左)【重要文化財】《白雲紅樹》 橋本雅邦 明治23年(1890)
また、近年修復を終えた高橋由一の重要文化財《花魁》も見逃せない作品のひとつです。
鮮やかな発色と対象の質感に迫る表現力で、化粧や衣装の細部に至るまで丹念に描き写されていますが、そのリアルさゆえにモデルが「こんな顔じゃありません」と泣いて怒ったというエピソードも残っています。
鮮やかな発色と対象の質感に迫る表現力で、化粧や衣装の細部に至るまで丹念に描き写されていますが、そのリアルさゆえにモデルが「こんな顔じゃありません」と泣いて怒ったというエピソードも残っています。

【重要文化財】《花魁》 高橋由一 明治5年(1872)
令和の新収蔵品
続いて、近年コレクションに加わり、今回が初公開となる作品が並びます。
東京藝術大学には、教員が退任時に自作を大学へ寄贈する伝統があります。これは第一線で活躍する作家たちが、後進の教育に資するために残した貴重な作品です。
今回は、2019〜2023年度に寄贈された作品の中から、手塚雄二らの作品が紹介されています。
東京藝術大学には、教員が退任時に自作を大学へ寄贈する伝統があります。これは第一線で活躍する作家たちが、後進の教育に資するために残した貴重な作品です。
今回は、2019〜2023年度に寄贈された作品の中から、手塚雄二らの作品が紹介されています。
坂田哲也の《わたしの肖像》は、針金といった異質な素材で人体を構成し、胸部の布を「わたし」の文字の形に破ることで自画像であることを暗示した、強い存在感を放つ一作です。

(左)《わたしの肖像》 坂田哲也 平成17年(2005)
平櫛田中コレクション
近代彫刻の巨匠、平櫛田中(1872-1979)に焦点を当てたセクションも見どころの一つです。107歳まで創作活動を続けた田中は、生涯を通じて自身の作品や蒐集した作品を大学に寄贈しました。
本展では、その代表作である《鏡獅子》と、その制作過程で生まれた《鏡獅子試作》が展示されています。
歌舞伎舞踊「春興鏡獅子」を題材にしたこの作品では、まず裸体像である《鏡獅子試作》で筋肉や骨格などの肉体構造を正確に捉え、その上で豪華絢爛な衣装を纏った《鏡獅子》を制作しました。
試作を通じて得られた身体への深い理解が、舞踊の動きや表情を生き生きと表現する本作へと繋がっていることがわかります。
歌舞伎舞踊「春興鏡獅子」を題材にしたこの作品では、まず裸体像である《鏡獅子試作》で筋肉や骨格などの肉体構造を正確に捉え、その上で豪華絢爛な衣装を纏った《鏡獅子》を制作しました。
試作を通じて得られた身体への深い理解が、舞踊の動きや表情を生き生きと表現する本作へと繋がっていることがわかります。

(手前)《鏡獅子》 平櫛田中 昭和15年(1940)
(右奥)《鏡獅子試作》 平櫛田中 昭和13年(1938)
平櫛田中コレクションには、同時代の彫刻家の作品も含まれています。 本展では田中が高く評価していたゆかりの深い作家の作品も紹介されています。

「平櫛田中コレクション」展示風景
特集1 小場恒吉『日本文様史』図版資料
特集1では、日本における文様史研究の礎を築いた小場恒吉(1878–1958)の仕事に光をあてます 。
小場は国内外の膨大な実地調査と緻密な模写を行い、文様史学を確立しました。令和5年度に新たに収蔵された《小場恒吉「日本文様史」図版資料》(昭和15年⁻25年(1940-1950)、東京藝術大学蔵)は、彼が東京美術学校で行った講義内容に即して編集されたもので、日本の古美術にみられる多様な文様が、簡潔な線描で的確に描かれています。
特に彼が関心を寄せた忍冬文様や宝相華文様は、時代順に並べられ比較考察できるように構成されており、小場の思索の跡がうかがえます。
特に彼が関心を寄せた忍冬文様や宝相華文様は、時代順に並べられ比較考察できるように構成されており、小場の思索の跡がうかがえます。

《小場恒吉「日本文様史」図版資料》小場恒吉 昭和15-25年(1940-1950)
この特集では、重要文化財の《広東錦》や《金錯狩猟文銅筒》(中国・後漢時代・1-2世紀)なども展示され、時代や地域を越えて豊かに展開する文様の世界が楽しめます。

《広東裂》飛鳥時代・7世紀
特集2 うつしてまなぶ
特集2「うつしてまなぶ」では、先人の作品を「うつす」という行為が、いかにして芸術家たちの学びとなり、新たな創造の源泉となってきたかを探ります。
この特集では、狩野派、住吉派、そして西洋画という三つの異なる潮流における「うつし」のかたちを紹介されています。
最初の「狩野派における図像の継承」では、約400年にわたり日本の中央画壇に君臨した狩野派の強さの秘密に迫ります。
最初の「狩野派における図像の継承」では、約400年にわたり日本の中央画壇に君臨した狩野派の強さの秘密に迫ります。
狩野常信の《鳳凰図屏風》をはじめ、《麻布一本松狩野家資料》や伝狩野常信《狩野家縮図》など、狩野派の粉本・模本類もあわせて展示され、狩野派がいかにして図像を継承し、質の高い作品を生み出し続けたのか、その秘密が見えてきます。

《鳳凰図屏風》 狩野常信 江戸時代・17-18世紀

(右から)《麻布一本松狩野家資料》より「縮図帖」のうち「十二支一躰」狩野寛信原画、狩野玉信(模本制作) 江戸時代・19世紀《麻布一本松狩野家資料》より「原図唐画/花鳥人物山水図卅二種集」 狩野玉信(模本制作) 江戸時代・19世紀
やまと絵の系譜を受け継いだ住吉派に伝来した《住吉家粉本》は、『源氏物語』などの物語絵から名所絵、合戦絵まで、多彩な画題を含んでおり、近世やまと絵における画題継承と図像学習の実態を今日に伝える貴重な資料群です。

(右から)《住吉家粉本》より「源氏物語画帖集」「薄雲」 江戸時代・17-18世紀、《住吉家粉本》より「源氏物語扇面」「末摘花」 江戸時代・17-19世紀
「うつしてまなぶ」の実践は、西洋画の世界でも同様でした。
草創期の東京美術学校では、西洋絵画の模写作品を教育の参考資料として積極的に収集し、模写を通してその技法の習得に努めました。
西洋画科の初代卒業生でもある和田英作がヨーロッパ滞在中に制作した、フラ・アンジェリコ原作の《受胎告知》の模写は、当時まだ日本で知られていなかった、初期ルネサンスの巨匠を広く紹介する上で重要な役割を果たしました。

《受胎告知》 和田英作(模本制作)フラ・アンジェリコ(原作) 大正11年(1922)
フィラデルフィア万博から持ち帰られた作品の模写《占い》からは、明治初期の日本国内における西洋画学習の様子を知ることができます。

《占い》 本多錦吉郎(模本制作) 明治11年(1878)
描き継がれる美と祈り
展示の最後では、天平絵画の傑作として名高い国宝《吉祥天像》(奈良・薬師寺蔵)が、時代を超えて画家たちを魅了し、描き写されてきた軌跡をたどります。
東京藝術大学には明治時代に制作された複数の模写が伝わっています。平成には大河原典子が現状模写と想定復元模写の両方に挑みました。

(左から)《吉祥天図》明治30年以前、《薬師寺吉祥天像》森山香浦(模本制作) 明治44年以前、《薬師寺蔵国宝「吉祥天画像」現状模写(麻布)》 大河原典子(模本制作) 平成16年(2004)
また、近代日本画の出発点と評される狩野芳崖の重要文化財《悲母観音》に着想を得て、現代作家の福田美蘭が制作した《秋-悲母観音》(平成24年(2012))も並びます。
瓦礫の海から赤子を救い上げる観音の姿が描かれたこの作品は、東日本大震災の被災地に対する救済の願いと祈りが込められています。
瓦礫の海から赤子を救い上げる観音の姿が描かれたこの作品は、東日本大震災の被災地に対する救済の願いと祈りが込められています。
奈良時代の国宝から現代作家の作品まで、時代やジャンルを超えた名品が一堂に会し、「学び」という視点から、その魅力を再発見できる展覧会です。
芸術の秋、過去と現在、オリジナルと模写が響き合う刺激的な空間で、アートとの対話を楽しんでみませんか。
【開催概要】
【開催概要】
展覧会名: 藝大コレクション展2025 名品リミックス!
会期: 2025年10月7日(火)〜2025年11月3日(月・祝)
会場: 東京藝術大学大学美術館本館 展示室1
開館時間: 午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日: 月曜日、10月14日(火) ※ただし、10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)は開館
入館(観覧)料: 一般 500円、大学生 250円 ※高校生以下及び18歳未満は無料、障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
公式ホームページ: http://museum.geidai.ac.jp




