龍谷大学 龍谷ミュージアムにて、2025年11月24日(月・振)まで、秋季特別展「仏教と夢」が開催されています。
古くから人々は「夢」を吉祥や危機の予兆を知るツールとして重要視してきました。
本展では、ガンダーラ地域や東アジアで制作された、仏教における夢の多様な意味を、仏伝図や中国そして日本の高僧の伝記、経典などに伝えられる夢の物語を通して、仏教の多様な世界観をたどっていきます。
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龍谷大学 龍谷ミュージアム外観

第1章 夢と霊験譚
展示は、壮大な神話の世界から始まります。
「この世はヴィシュヌが夢をみている間の一瞬の出来事」というインドの世界観を示す細密画《ナーガ上のヴィシュヌ》は、ヴィシュヌ神が大蛇ナーガの上で眠りについている情景を描いたものです。
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《ナーガ上のヴィシュヌ》 インド 19世紀 東京国立博物館  通期展示

古代中国で育まれた夢の思想は、日本にも伝わり、独自の文学や説話の世界で花開きました。平安時代後期の説話集『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』、さらには日本最古の仏教説話集である『日本国現報善悪霊異記』(通称『日本霊異記』)などには、夢にまつわる不思議な話が多く収められています。
興味深いのは、『今昔物語集』の天竺(インド)部の第一話が、仏陀の誕生にまつわる「托胎霊夢(たくたいれいむ)」の物語から始まっているという事実です。
このことは、仏教の伝来とともに、夢、特に吉兆を示す夢の物語が、いかに重要視されていたかを物語っています。
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(左から)『宇治拾遺物語』 日本 江戸・万治2年(1659)刊 龍谷大学図書館、 『今昔物語集』 日本 江戸時代(18世紀) 龍谷大学図書館 、『日本国現報善悪霊異記』 日本 江戸・文化13年(1816)刊 龍谷大学図書館 いずれも通期展示

こうした霊験譚は絵画作品にもなりました。
重要文化財《石山寺縁起絵》には、『蜻蛉日記』の作者・藤原道綱母が石山寺に参籠し、夢のお告げを受ける場面が登場します。ここでは夢と現実が区別なく描かれ、当時の人々がいかに夢を重要視していたかがうかがえます。
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【重要文化財】《石山寺縁起絵 巻第二》 絵:日本 鎌倉・正中年間(1324~26)詞:杲守(1355~?)筆 滋賀・石山寺 巻替えあり

ほかにも、日蔵という僧侶が夢で蔵王権現に導かれて地獄を巡るという体験を描いた《北野天神縁起絵》など、夢がもたらした不思議な物語を描いた作品が紹介されています。
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《北野天神縁起絵 巻第四》  絵:芝観深筆 詞:金宝筆 日本 室町・文安3年(1446) 大阪・佐太天神宮 前期展示

第2章 仏教経典に説かれる夢
初期の仏教経典では、仏陀の生涯は誕生や入滅など、場面ごとに語られることが多くありました。やがて後代になると、その一生をまとめた「仏伝」が登場します。
本章では、仏伝の中から仏陀にまつわる夢の物語を描いた作品を通して、夢が誕生、出家、涅槃といった仏陀の大きな転機を予兆する重要な役割を担っていたことを見ていきます。
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(左から)《仏伝浮彫「誕生」》ガンダーラ 2~3世紀 東京国立博物館、《仏伝浮彫「托胎霊夢」》スワートまたはディール 1~2世紀  いずれも通期展示

仏伝図は、地域ごとに独自の表現が見られます。ガンダーラ、チベット、日本、それぞれの違いを比較しながら鑑賞できるのも、本展の見どころです。
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チベットの仏伝図

仏教の開祖である仏陀は「目覚めたもの」であるため、悟りを開いた後には夢を見ないとされています。そのため、経典に説かれる夢は、主に仏陀の周りの人々が見たものがほとんどでした。
その代表例が、母・摩耶夫人が白い象の夢を見て仏陀の誕生を予知した「托胎霊夢(たくたいれいむ)」です。

この場面は仏伝の中でも重要な場面として、ガンダーラで作られた《仏伝浮彫「托胎霊夢」》(2-3世紀、通期展示)のように、多くの作品に描かれてきました。
ここでは、仏陀の誕生にまつわるさまざまな仏伝浮彫が紹介されています。
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第2章「仏教経典に説かれる夢」展示風景

また、仏陀が出家を決意する前夜には、妃などが世界の異変を夢にみて不安を掻き立てられます。同時に太子自身も悟りを開くことを暗示する5つの夢をみます。こうした出家の場面を描いた浮彫も展示されています。
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第2章「仏教経典に説かれる夢」展示風景

涅槃図は本来、仏陀の入滅を描くものですがその周囲にその一生を場面ごとに描き込む形式もあります。今回の展示では、托胎霊夢から涅槃までを描く《涅槃図》も紹介されています。
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《仏伝涅槃図》  日本 鎌倉~南北朝時代(14世紀)奈良国立博物館 前期展示

弟子の阿難が見た末法の世を暗示する夢や、アショーカ王の悪夢を伝える経典もあり、夢が時に吉祥の、時に危機の予兆として機能していたことがわかります。

第3章 高僧がみた夢
仏教の歴史において、夢は高僧たちが教えを受け取り、次代へとつなぐための重要な役割を果たしました。
夢との関わりが特に有名なのが、インドへ経典を求めて旅した唐代の僧、玄奘三蔵です。西遊記の三蔵法師のモデルとしても知られています。
彼は、夢で須弥山に登ったことをきっかけにインドへの求法の旅を決意し、旅の途中でも夢での叱咤激励によって沙漠で命を救われました。
本展では、『大唐西域記』の現存最古とされる書写本をはじめ、彼の旅を物語るさまざまな作品が紹介されています。
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(右)【重要文化財】《大唐大慈恩寺三蔵法師伝 巻第一、巻第十》 中国 南宋時代(13世紀) 愛知・岩屋寺 前期展示

また、唐代に浄土教を大成した善導大師は、夢に現れた阿弥陀仏に教えを授かり、『観無量寿経疏』を記したとされます。その内容は《当麻曼荼羅》のような美しい浄土図の源泉となりました。
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(左)《当麻曼荼羅》 日本 南北朝時代(14世紀) 前期展示

また聖徳太子は、母が夢にみた聖僧が胎内に入ることで誕生したと伝わるほか、浄土宗の開祖・法然は夢で善導大師と対面し、専修念仏の教えを広めることを後押しされます。
さらに、その弟子の親鸞もまた、六角堂での参籠中に見た夢のお告げが、法然の門を叩く大きな転機となりました。
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【重要文化財】《本願寺聖人親鸞伝絵 巻上》 詞:存覚(1290~1373)筆 日本 南北朝時代(14世紀) 文化庁 巻替えあり

ほかにも生涯に見た夢を『夢記』として詳細に綴った明恵上人など、高僧たちと夢との深い関わりが紹介されています。
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(左から)《夢記断簡》 明恵(1173~1232)筆 日本 鎌倉時代(13世紀) 、【重要文化財】《夢記断簡》 明恵(1173~1232)筆 日本 鎌倉・建永2年(1207)、承元3年 (1209) 、建暦元年(1211) ほか 京都国立博物館 いずれも前期展示

会場に並ぶ、高僧たちの夢体験にまつわる彫刻も見どころです。
特に、鎌倉時代の仏師・快慶作の重要文化財《木造 深沙大将立像》は、玄奘を沙漠の苦難から救ったとされる神の姿を現したもので、夢と信仰の深い結びつきを物語る迫力ある仏像です。
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【重要文化財】《深沙大将立像》快慶作 日本 鎌倉時代(12~13世紀) 京都・金剛院 展示期間:9月20日~10月26日

第4章 夢と儀礼 ―夢が切っ掛けとなった儀礼
夢が仏教儀礼のきっかけとなった例もあります。
『金光明経』には、信相菩薩が「光り輝く大金鼓が照らす宝樹のもとで諸仏が懺悔の法を明かし、それを実践するものは一切の苦厄を滅することができる」という夢をみる場面が説かれています。この夢の実践する儀礼が「金光明懺法」で、仏前で自らの罪を告白することで悪業を払拭すると考えられました。
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第4章「夢と儀礼」展示風景

『梵網経』には、仏や菩薩像の前で懺悔し、夢に仏の姿(好相)を拝むことができれば、正しく戒を受けたとみなされると説かれています。
奈良・西大寺の叡尊は、この教えに従い、仏前で好夢を得て自ら誓いを立て、戒を授かったと記録されています(自誓受戒)。
その際に夢に現れた仏の姿が、京都・清凉寺の本尊釈迦如来立像の姿であったと叡尊の記録に伝わります。
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【重要文化財】 《釈迦如来立像(清凉寺式)》良円等 作 日本 鎌倉・建保元年(1213) 京都・因幡堂平等寺 通期展示

第5章 夢と聖地
高僧たちにとって夢は、現実世界と悟りの世界をつなぐ装置でもありました。その悟りの世界の象徴が「聖地」です。玄奘三蔵がインドを目指すきっかけが須弥山の夢であったように、多くの高僧たちが夢で聖地を見、そこへ導かれました。
中国の五臺山や天台山は、それぞれ文殊菩薩や羅漢の住処とされ、信仰の対象となりました。
最後の章では、高僧たちが夢に見た聖地の景観を通して、仏教の多様な世界観に触れることができます。
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第5章「夢と聖地」展示風景

最後に見逃せないのが、中国・新疆ウイグル自治区トルファン郊外、火焔山のふもとにあるベゼクリク石窟15号窟の復元壁画です。龍谷大学の研究成果をもとに制作されたもので、石窟寺院の荘厳な雰囲気を体感できます。
誓願とは、自分が将来仏陀なって、一切衆生を救済しようという誓いを立てること。 壁画の主題となる「誓願図」は、 その誓いの場面を表したものです。
仏陀の前世の姿も描かれているので、その姿を探しながら鑑賞してみましょう。ここは写真撮影もOKです。
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ベゼクリク石窟15号窟の復元壁画

釈尊の誕生から現代まで、仏教の歴史は常に夢とともにありました。夢は単なる夜の幻ではなく、時に教えを伝え、儀礼を生み、人々を聖地へと導く重要な媒体だったのです。
この機会に、仏教が紡いできた壮大な夢の物語に触れてみてはいかがでしょうか。
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【開催概要】
展覧会名:秋季特別展「仏教と夢」
会期:2025年9月20日(土)〜2025年11月24日(月・振休) ※会期中、一部作品の展示替えあり
前期展示:2025年9月20日(土)~10月19日(日)
後期展示:2025年10月21日(火)~11月24日(月・振休)
会場:龍谷大学 龍谷ミュージアム(京都府京都市下京区堀川通正面下る[西本願寺前])
開館時間:10:00〜17:00(最終入館時間 16:30)
休館日:月曜日(ただし、10月13日、11月3日、11月24日は開館)、10月14日(火)、11月4日(火)
観覧料:一般 1,600円、大学生・高校生 900円、中学生・小学生 500円
公式ホームページ:https://museum.ryukoku.ac.jp/