京都国立博物館で特別展「宋元仏画―蒼海(うみ)を越えたほとけたち」が、2025年11月16日まで開催中です(会期中一部作品の展示替えあり)。

「宋元仏画」とは、中国の宋(960~1279)と元(1271~1368)の時代に制作された仏教絵画のことです。
これらは日本に請来されて以降、各宗派で儀礼の本尊として重んじられ、仏画制作の規範ともなりました。
本展は、その東アジア美術の最高峰ともいえる宋元仏画を、過去最大規模で紹介する京都会場限定の展覧会です。
国宝13件、重要文化財75件を含む圧巻のラインナップで、日本文化の源流ともいえる「宋元仏画」の魅力に迫ります。
本展の概要、主な見どころはこちらをご覧ください。
国宝13件、重要文化財75件を含む圧巻のラインナップで、日本文化の源流ともいえる「宋元仏画」の魅力に迫ります。
本展の概要、主な見どころはこちらをご覧ください。
第1章「宋元文化と日本」―室町将軍家が愛した中国文化
最初の章では、宋元仏画が日本でどのように受け入れられてきたかを探ります。
日本では古くから中国からの舶載品を「唐物」として珍重してきました。
特に宋元時代の品々は、室町時代に足利将軍家が収集した「東山御物」によってその価値が確立され、日本の美意識の基準となったといわれています。
《君台観左右帳記》は、当時の唐物の価値観を知る上で欠かせない資料です。

《君台観左右帳記》室町時代 永禄 3 年(1560) 千葉・国立歴史民俗博物館 巻替
東山御物の名品として知られる《秋景冬景山水図》は、かつては北宋の皇帝の作と信じられていました。余白を生かした詩的な情景が美しい南宋絵画の傑作です。

国宝《秋景冬景山水図》 伝徽宗筆 中国・南宋時代 12世紀 京都・金地院 前期展示
ほかにも子犬や子猫の愛らしい姿に吉祥の意味を込めた重要文化財《蜀葵遊猫図・萱草遊狗図》(12世紀、奈良・大和文華館、前期展示)や、元時代の豪華絢爛な重要文化財《牡丹図》(14世紀、京都・知恩院、前期展示)など、多彩な中国絵画の名品が紹介されています。
また、この時代に花開いた喫茶文化で用いられた陶磁器も見逃せません。重要美術品《曜変天目(油滴天目)》(12~13世紀、東京・根津美術館、通期展示)の深い輝きや、青磁の澄んだ青色は、当時の人々が憧れた美意識を伝えています。

第1章「宋元文化と日本」展示風景
第2章「大陸への求法― 教えをつなぐ 祖師の姿」
第2章は、仏教文化の交流を担った僧侶たちに光を当てます。
遣唐使が廃止された後も、日本の僧侶たちは仏教の教えを求め海を渡りました。彼らは中国で師と出会い、その教えを受け継いだ証として、師の肖像画を持ち帰りました。これが「頂相(ちんそう)」です。第2章では、そうした僧侶たちの求法の旅路を、貴重な頂相とともにたどります。

第2章「大陸への求法― 教えをつなぐ祖師の姿」展示風景
本章の注目作のひとつが、北宋時代に僧・奝然(ちょうねん)が持ち帰った国宝《弥勒菩薩像》(984年、京都・清凉寺、前期展示)です。
清凉寺の国宝《釈迦如来立像》の胎内から発見されたもので、北宋初期の宮廷画壇を代表する画家・高文進の画業を伝える、唯一の現存作例として極めて貴重です。
清凉寺の国宝《釈迦如来立像》の胎内から発見されたもので、北宋初期の宮廷画壇を代表する画家・高文進の画業を伝える、唯一の現存作例として極めて貴重です。
第3章「宋代仏画の諸相」― 宮廷と地域社会の祈り
第3章では、宋代仏画が生まれた背景に迫ります。
宋代には宮廷に画院が置かれ、皇帝の庇護のもと、全国から優れた画家が集められました。
その中で生まれた傑作が、国宝《孔雀明王像》です。孔雀を神格化した孔雀明王は、災いを取り除き、雨をもたらす力を持つとされます。 三つの顔と六本の腕を持つ異形の姿ですが、その表情は慈悲と威厳に満ちています。

(左から)重要文化財《千手観音像》中国・南宋時代 12~13世紀 岐阜・永保寺、国宝《孔雀明王像》中国・北宋時代 11~12世紀 京都・仁和寺 いずれも前期展示
宮廷画家の名品としては、南宋の巨匠・馬遠(ばえん)の真筆とされる重要文化財《清凉法眼禅師・雲門大師像》も見逃せません。

(左から)重要文化財《洞山渡水図》 伝馬遠筆 中国・南宋時代 13 世紀 東京国立博物館、重要文化財《清凉法眼禅師・雲門大師像》馬遠筆 中国・南宋時代 13世紀 京都・天龍寺 いずれも前期展示
一方、港湾都市・寧波(にんぽー)では民間の仏画工房が活動し、日本からの留学僧や商人によって多くの作品が日本にもたらされました。そのひとつが、各幅に5人の羅漢を描き、全100幅で構成された重要文化財《五百羅漢図》です。
羅漢の奇跡の物語だけでなく、僧院での儀礼や生活の様子も描き込まれており、宋代の社会を知る上でも貴重な資料となっています。

重要文化財《五百羅漢図》 林庭珪・周季常筆 中国・南宋時代 淳煕 5~15年(1178~88) 京都・大徳寺 展示替
(右)重要文化財《十王図》 陸信忠筆 中国・南宋時代 13世紀 奈良国立博物館 展示替えあり
ほかにも、極楽浄土の様子を壮麗に描いた重要文化財《阿弥陀浄土図》(1183年、京都・知恩院、前期展示)や、南宋期の浄土教絵画の白眉とされる国宝《阿弥陀三尊像》(12~13世紀、京都・清浄華院、後期展示)など、多様な信仰のかたちを見ることができます。
第4章「牧谿と禅林絵画」― 日本で愛された水墨画の世界
日本の水墨画の歴史を語るうえで欠かせないのが、南宋末から元初にかけて活躍した禅僧画家・牧谿(もっけい)です。水墨を巧みに操り、簡潔でありながら深い精神性を湛えた画風は、日本の画家たちに大きな影響を与えました。
牧谿の代表作として名高い国宝《観音猿鶴図》(13世紀、京都・大徳寺)は後期に登場しますが、前期には、《羅漢図》《布袋図》など牧谿筆と伝わる作品が並び、禅宗絵画の豊かな世界に触れることができます。

(左から)重要文化財《達磨豊干布袋像》(中幅)滅翁文礼賛(左右幅)李確筆 偃谿広聞賛 中国・南宋時代 13世紀 京都・妙心寺、《羅漢図》伝牧谿筆 癡絶道冲賛 中国・南宋時代 13世紀 兵庫県立美術館(頴川コレクション) いずれも前期展示
牧谿のほかにも、宋元時代の禅林(禅宗寺院)では多様な水墨表現が生まれました。
本章では、羅漢図、布袋図、白衣観音像など、禅林で好んで描かれた画題の作品が紹介されています。
本章では、羅漢図、布袋図、白衣観音像など、禅林で好んで描かれた画題の作品が紹介されています。
南宋の宮廷画家・梁楷が描いた《寒山拾得図》の画面右上に押された「雑華室印」は、この作品が室町幕府の足利将軍家に所蔵されていたことを示しています。

(左から)《布袋図》伝牧谿筆 中国・南宋時代 13 世紀 京都国立博物館、《寒山拾得図》梁楷筆 中国・南宋時代 13 世紀 静岡・MOA美術館 前期展示、重要文化財《二祖調心図》伝石恪筆 中国・南宋時代 13 世紀 東京国立博物館 いずれも前期展示
第5章「高麗仏画と宋元時代」― 洗練された祈りの美
宋や元と同じ時代、朝鮮半島では高麗が栄え、仏教を篤く信仰しました。
高麗で制作された仏画は、宋や元の影響を受けつつも、金泥を多用したきらびやかで繊細な表現が特徴です。
高麗で制作された仏画は、宋や元の影響を受けつつも、金泥を多用したきらびやかで繊細な表現が特徴です。
修理後初公開となる重要文化財《弥勒下生変相図》は、釈迦の死から56億7千万年後に人々を救うとされる弥勒菩薩が、この世に現れる劇的な場面を描いた作品です。近年の修理で、画面の裏から高麗時代の曼荼羅が発見され、当時の仏教儀礼を解明する手がかりとしても注目されています。
重要文化財《弥勒下生変相図》 李晟筆 朝鮮半島・高麗時代 忠烈王20年/至元31年(1294)京都・妙満寺 前期展示
現存する高麗仏画の最古例とされる《五百羅漢図》は、モンゴル軍の侵攻を受けていた時期に、退散を祈って制作されたと考えられます。
第6章「仏画の周縁―道教・マニ教とのあわい」
仏画には、中国古来の宗教である道教や、遠くペルシアから伝わったマニ教など、他の宗教と影響を与え合う中で生まれた作品もあります。
伝牧谿筆の重要文化財《老子図》は、道教の始祖である老子を、人間味あふれる姿で描いています。

重要文化財《老子図》 牧谿筆 中国・南宋時代 13世紀 岡山県立美術館 前期展示
特に異彩を放つのが、仙人を描いた作品群です。
元時代の画家・顔輝(がんき)による重要文化財《蝦蟇鉄拐図》には、道教の一派で祖師と仰がれた2人の仙人が描かれています。伝顔輝筆の重要文化財《寒山拾得図》(13~14世紀、東京国立博物館、前期展示)も並び、その奇怪でありながら力強い表現に圧倒されます。

重要文化財《蝦蟇鉄拐図》 顔輝筆 中国・元時代 13~14世紀 京都・百萬遍知恩寺 前期展示
第7章「日本美術と宋元仏画」― 模倣から創造へ
最後の章では、宋元仏画が日本美術に与えた影響の大きさを、具体的な作品を通して解き明かします。
宋元仏画は礼拝の対象であると同時に、日本の画家にとって貴重な手本となり、多くの模作が作られました。
ここでは、まず宋元仏画を極めて精巧に模写した作例が紹介されています。
南宋画に忠実に描かれた、重要文化財《六祖慧能図》は、室町時代には将軍家に唐物として所蔵された、和製水墨画の名品です。

(左)重要文化財《六祖慧能図》 無学祖元賛 鎌倉時代 13世紀 大阪・正木美術館 前期展示
高麗時代の作である《阿弥陀如来像(伝釈迦如来像)》が、日本では釈迦像として伝来するなど、異国の仏画が日本で新たな意味をもって受け入れられていった様子も紹介されています。

(右)重要文化財《阿弥陀如来像(伝釈迦如来像)》朝鮮半島 高麗時代 14世紀 京都・永観堂禅林寺 前期展示
そして時代が下ると、宋元仏画は日本の巨匠たちを刺激し、新たな創作の糧となります。
江戸時代の奇才・曽我蕭白は、顔輝らの画風を独自の解釈で再構築した、重要文化財《群仙図屏風》を描きました。顔輝らの画風を独自の解釈で再構築したその画面は、異様な熱気とエネルギーに満ちています。
後期には、梁楷の筆致を学んだ雪舟、牧谿の画風を取り入れて自身の表現を確立した長谷川等伯や俵屋宗達の作品が登場します。
仏像と経典にみる中国の影響
本展では、仏像や経典に焦点を当てた2つのトピック展示も用意されています。
トピックⅠ「中国受容と仏像」では、中国の仏像や、宋の仏画を参考にして日本で造られた仏像などが紹介されています。
トピックⅡ「経絵の世界」では、お経の巻頭や表紙裏を飾った美しい絵「経絵」に注目。きらびやかな見返し絵が美しい《紺紙金銀字華厳経》(元時代・13~14世紀、京都国立博物館、巻替)など、文字文化と共に花開いた美の世界が紹介されています。

(手前ガラスケース内)トピックⅡ「経絵の世界」展示風景
魅力あふれるオリジナルグッズ
ミュージアムショップでは、本展に出品されている貴重な作品をモチーフにした多彩なオリジナルグッズが用意されています。
全出品作品のカラー図版や詳細な解説を収録した公式図録はもちろん、イラストレーターの山田章博氏が描き下ろしたオリジナルキャラクター「ソン」と「ユエン」のグッズも登場。
アクリルキーホルダーやトートバックなど、ここでしか手に入らないアイテムが揃います。
京都の老舗帆布かばん店「一澤信三郎帆布」とコラボしたサイクルバッグは、日常でも使える逸品です。

海を越え、時代を超えて日本文化に深く根づいた「宋元仏画」。国宝級の名品とともに、その壮大な物語を体感できる見応えのある展覧会です。
一枚一枚に込められた人々の祈りを感じながら、秋の京都で日本文化の源流をたどる旅を楽しんでみませんか。
一枚一枚に込められた人々の祈りを感じながら、秋の京都で日本文化の源流をたどる旅を楽しんでみませんか。

会場入口
【開催概要】
展覧会名:特別展「宋元仏画-蒼海(うみ)を越えたほとけたち」
会期:2025年9月20日(土)~11月16日(日)
前期:9月20日(土)~10月19日(日)
後期:10月21日(火)~11月16日(日)
会場:京都国立博物館 平成知新館
開館時間:9:00~17:30(金曜日は20:00まで、入館は各閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
入館料:観覧料:一般 2,000円、大学生・高校生 1,200円、中学生・小学生 700円
公式ホームページ:https://sougenbutsuga.com/




