東京駅丸の内駅舎の中にある東京ステーションギャラリーで、2025年11月9日(日)まで、「カルン・タカール・コレクション インド更紗 世界をめぐる物語」が開催されています。

インドで生まれ、数千年の歴史を持つ更紗(さらさ)は、英語で「チンツ」と呼ばれ、世界をめぐる貿易品となりました。
本展は、インド更紗が世界的な商品となり、数百年の時の流れのなかで変化していく姿を、世界屈指のコレクターとして知られるカルン・タカール氏のコレクションをもとにたどります。
本展は、インド更紗が世界的な商品となり、数百年の時の流れのなかで変化していく姿を、世界屈指のコレクターとして知られるカルン・タカール氏のコレクションをもとにたどります。
タカール氏の充実した個人コレクションが日本で公開されるのは初めてです。
インド国内向けに作られた最長約8メートルの優品から、アジアやヨーロッパとの交易で生まれたデザインの掛布や服飾品、そして日本での展開を伝える作品まで、今もなお人々を惹きつけてやまないインド更紗の奥深い魅力を紹介します。
コレクター、カルン・タカール氏の歩み
コレクターのカルン・タカール氏は、幼少期をインドのデリーで過ごし、仕立屋を営む母親のもとで、布が精緻な衣装へと生まれ変わる光景を日常的に見て育ちました。
1982年からアジアとアフリカの染織品や民芸品の収集を始め、そのコレクションは世界有数のものとなります。
30年前に日本の染織品も集め始めたタカール氏は、日本の美的観念に夢中になったと語っており、その日本文化への深い理解と厚意により、この展覧会が実現しました。
1982年からアジアとアフリカの染織品や民芸品の収集を始め、そのコレクションは世界有数のものとなります。
30年前に日本の染織品も集め始めたタカール氏は、日本の美的観念に夢中になったと語っており、その日本文化への深い理解と厚意により、この展覧会が実現しました。

会場風景
第1章 インド地域の更紗
展覧会は、インド地域内で使われることを目的に制作された更紗から始まります。
ここでは、神々への信仰や人々の暮らしを彩った、世界的にも貴重な作例が揃っています。
コレクターのタカール氏のコレクションを象徴する名品が、シヴァ神への供花のために花のつぼみを摘む人を描いた《白地人物草花文様更紗儀礼用布》です。神々ではなく、その信者に焦点を当てた珍しい作例です。

《白地人物草花文様更紗儀礼用布》 カルン・タカール・コレクション、ロンドン

《白地人物草花文様更紗儀礼用布》 カルン・タカール・コレクション、ロンドン
9世紀の聖人マニッカヴァカカルの物語を描いた長大な《白地マニッカヴァカカル物語図更紗掛布》は、40以上の場面からなる長大な物語絵。この主題を扱った現存唯一の作例とされ、世界的にも貴重な作品です。

《白地マニッカヴァカカル物語図更紗掛布》 カルン・タカール・コレクション、ロンドン
第2章 初期アジア貿易の更紗
インド更紗は、主要な交易品として、おそくとも1世紀には東南アジアやアフリカへと渡っていました。この章では、東南アジア向けの染織品の代表的なものが並びます。
13世紀後半から14世紀前半に制作されたこの儀礼布は、インドネシア市場向けに作られたものです。これと同様の図案をもつ裂が、エジプトでも見つかっており、当時すでにこの文様が広い範囲で知られていたことがわかります。
インドネシアで人気があったのは、「太陽」を意味する「マタハリ」の文様です。
《白地太陽文様更紗儀礼用布(マタハリ)》のように、中央に太陽が描かれた布は、ジャワ島やスマトラ島南部で人気を博しましたが、本作はスラウェシ島で発見されたものです。
第3章 ヨーロッパ向けの更紗
17世紀、ヨーロッパ各国が東インド会社を設立すると、インド更紗は世界中へと輸出されるようになります。
ヨーロッパにもたらされたインド更紗は、鮮やかな色彩と肌触りがよく水洗い可能な機能性があいまって、爆発的に流行しました。
ヨーロッパ人の好みに合わせて、インドの職人たちは洗練されたデザインを生み出します。中でも人気を博したのが、室内を飾るための掛布「パランポア」です。
《赤地花烏龍文様掛布(パランポア)》は、中国とインドの花文様とヨーロッパの龍のモチーフを融合させた、独特のシノワズリー風のデザインです。

《赤地花鳥龍文様掛布(パランポア)》 カルン・タカール・コレクション、ロンドン

《赤地花鳥龍文様掛布(パランポア)》 カルン・タカール・コレクション、ロンドン
ごつごつした岩山から花を咲かせたエキゾチックな立木が伸びる文様は、ヨーロッパ市場向けのパランポアの中でも最も人気のあるデザインでした。
右のパランポアには、中心の円の中に鹿を襲う虎が描かれています。

(左から)《白地立木形花樹文様更紗掛布(パランポア)》 《白地立木獣文様更紗掛布(パランポア)》いずれもカルン・タカール・コレクション、ロンドン
右のパランポアには、中心の円の中に鹿を襲う虎が描かれています。

(左から)《白地立木形花樹文様更紗掛布(パランポア)》 《白地立木獣文様更紗掛布(パランポア)》いずれもカルン・タカール・コレクション、ロンドン
インド更紗は衣服にも好んで用いられました。会場では、美しいデザインのドレス用布地や子ども服に加え、端切れを活用して仕立てられた子ども用帽子なども展示されています。

《草花文様更紗女児用帽子》 (9点)、 《草花文様更紗男児用帽子》 (2点)他 カルン・タカール・コレクション、ロンドン

《草花文様更紗女児用帽子》 (9点)、 《草花文様更紗男児用帽子》 (2点)他 カルン・タカール・コレクション、ロンドン
第4章 デザインのグローバル化とローカル化
第4章では、更紗がグローバルに展開し、各地域でそれぞれの物語を生み出していく様子をたどります。
インドの染織職人たちは、輸出先の需要に合わせてデザインを巧みに変化させていきました。
オランダ向けに作られたとされる本作は、その好例です。
描かれた2色のチューリップは、17世紀前半にヨーロッパで人気だった品種で、現地の流行を的確に捉えていたことがうかがえます。

《白地チューリップ虫文様更紗裂》1700-30年頃 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
インドの染織職人たちは、輸出先の需要に合わせてデザインを巧みに変化させていきました。
オランダ向けに作られたとされる本作は、その好例です。
描かれた2色のチューリップは、17世紀前半にヨーロッパで人気だった品種で、現地の流行を的確に捉えていたことがうかがえます。

《白地チューリップ虫文様更紗裂》1700-30年頃 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
スリランカ市場向けとみられる《赤地立木形花樹文様更紗掛布(パランポア)》は、ヨーロッパで人気の立木デザインですが、ヨーロッパ向けとは異なり、地色が赤く、周囲の枠に描かれた大きな花の文様が特徴です。
宮殿や砦、寺院などが混在する中に制服を着た兵士が描かれた《白地植民地軍人物群像文様更紗掛布》 は、南インドかスリランカの植民地時代の生活を想像して描いた独特な更紗です。
ほかにも、聖書を題材にした《白地聖母子文様儀礼用布》など、さまざまな地域や文化の需要に応えて作られた作品が紹介されています。

(左)《白地植民地軍人物群像文様更紗掛布》 、(右)《白地聖母子文様儀礼用布》いずれもカルン・タカール・コレクション、ロンドン
デザインのローカル化と日本における展開
世界に広がったインド更紗は、各地で独自の展開を遂げます。ヨーロッパでは、やがて産業革命によって自国での生産に切り替わっていきました。
このベッドセットは、インド更紗の生地が足りず、ヨーロッパ製の更紗を足して制作したものと考えられます。3種類の更紗が使用され、18世紀の木綿染色の歴史を物語る重要な証人です。

《草花文様更紗ベッドセット》 カルン・タカール・コレクション、ロンドン
ウィリアム・モリスの代表作《いちご泥棒》は、インディゴ抜染という技法で制作されました。これは複雑な工程と高度な技術を要するため、完成までには長い時間がかかりました。
日本ではインド更紗は何世代にもわたって愛され、珍重されてきました。
茶道具を入れる袋「仕覆」をはじめ、風呂敷や煙草入れ、さらには掛け軸の表装や畳の縁にも用いられ、ごく小さな端切れでさえ「名物裂」として見本帖に貼られ、大切に保存されてきました。
18世紀には、インド更紗を真似て描くための指南書まで出版され、当時の日本における人気の高さがうかがえます。

第4章展示風景より、(右)日本初のインド更紗に関する書籍『佐羅紗便覧』福岡市美術館
【開催概要】
展覧会名:カルン・タカール・コレクション インド更紗 世界をめぐる物語
会期:2025年9月13日(土)〜2025年11月9日(日)
会場:東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
開館時間:10:00~18:00 (金曜日は20:00まで開館) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(10/13、11/3は開館)、10/14(火)
入館料:一般1,500円、高大生1,300円、中学生以下無料
公式ホームページ:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/




