東京国立博物館にて、2025年11月30日(日)まで、特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」が開催されています。
運慶が構想した空間を体感する
興福寺北円堂は、平城遷都の立役者であった藤原不比等の一周忌(721年)に、その追善供養のために建立された八角形の美しいお堂です。しかし、平安時代に2度の火災に遭い、特に1180年の平家による南都焼き討ちでほぼ全焼してしまいます。
再建は遅れましたが、1210年頃に建物が完成し、その中に安置される9軀の仏像群が完成したのは1212年のことでした。
再建は遅れましたが、1210年頃に建物が完成し、その中に安置される9軀の仏像群が完成したのは1212年のことでした。
この鎌倉復興期における重要な造像事業の総指揮を執ったのが鎌倉時代の天才仏師・運慶(生年未詳~1223) です。彼の指揮のもと、歴史に残る傑作群が誕生することになります。

国宝 興福寺北円堂 外観 撮影:佐々木香輔
この展覧会は、運慶が、その円熟期に一門の粋を集めて造り上げた興福寺北円堂の仏像群を、かつて存在したであろう空間として再現する、きわめて画期的な試みです。
今も北円堂の本尊として安置される《弥勒如来坐像》、そしてその後ろに控える《無著菩薩立像》と《世親菩薩立像》。さらに、同じ堂内にあったとされる《四天王立像》が、鎌倉時代の空間構成で展示され、運慶が作り上げた「祈りの空間」を体感することができます。
この光景は、興福寺でさえも、決して見ることができません。

会場入口
約60年ぶりの寺外公開!本尊《弥勒如来坐像》
会場の中央には、北円堂の内陣にある八角形の須弥壇(仏像を安置する壇)とほぼ同じ寸法のステージが設けられています。決して広くはないその空間に、かつて9軀の仏像が凝縮されていました。
運慶が創り上げた「濃密な祈りの空間」を思い描きながら鑑賞できるのは、本展ならではの醍醐味です。
運慶が創り上げた「濃密な祈りの空間」を思い描きながら鑑賞できるのは、本展ならではの醍醐味です。
国宝《弥勒如来坐像》は、運慶が60歳前後の円熟期に手がけた傑作です。寺外での公開は約60年ぶりで、昨年度に本格的な修理が行われ、本展が修理後初公開となります。
修理の過程で明らかになった新たな知見も紹介されています。
ゆったりとした手の構えや衣の表現には、薬師寺金堂の薬師如来など、奈良時代の仏像を意識した趣が感じられます。
一方、側面から見ると、奥行きのある力強い造形や、胸を張りながらわずかに前傾する姿勢、鍛え上げられた背筋の盛り上がりなど、鎌倉彫刻特有の写実性が運慶の真骨頂を示しています。
通常は光背に隠れて見えない背面も、本展ではじっくり鑑賞することができます。
一方、側面から見ると、奥行きのある力強い造形や、胸を張りながらわずかに前傾する姿勢、鍛え上げられた背筋の盛り上がりなど、鎌倉彫刻特有の写実性が運慶の真骨頂を示しています。
通常は光背に隠れて見えない背面も、本展ではじっくり鑑賞することができます。
日本彫刻史上の最高傑作《無著・世親菩薩立像》
弥勒如来の後ろに控えるのが、日本彫刻史上の最高傑作と名高い国宝《無著菩薩立像》と国宝《世親菩薩立像》です。
古代インドに実在した兄弟の学者である二人の姿は、超人的な存在としてではなく、深い知性と人間的な温かみ、そして人生の年輪を感じさせる一人の人間として捉えられています。
年老いた兄・無著が見せる思慮深い表情、壮年の弟・世親が遠くを見つめる知的な眼差し。その確かな存在感は、運慶が木という素材の中から、人間の内面性そのものまでも彫り出したかのようです。
古代インドに実在した兄弟の学者である二人の姿は、超人的な存在としてではなく、深い知性と人間的な温かみ、そして人生の年輪を感じさせる一人の人間として捉えられています。
年老いた兄・無著が見せる思慮深い表情、壮年の弟・世親が遠くを見つめる知的な眼差し。その確かな存在感は、運慶が木という素材の中から、人間の内面性そのものまでも彫り出したかのようです。

(左から)【国宝】《世親菩薩立像》運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置、 【国宝】《無著菩薩立像》運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置
運慶は、目に水晶をはめ込む「玉眼(ぎょくがん)」という技法を、この2像に用いました。これによって、目にキラリと光が入り、まるで生きているかのようなリアリティが生まれています。
一方、天上の存在である他の像は、水晶を使わない「彫眼」で表されています。運慶は、対象に応じて技法を巧みに使い分けていたのです。
躍動感あふれる《四天王立像》
現在、北円堂を守護する四天王像は、近隣の大安寺から移されたものです。
かつて北円堂に安置されていた四天王像の行方は長らく謎とされてきましたが、近年、現在中金堂に安置されている像がそれにあたるという説が有力になっています。
本展ではこの説に基づき、現在も北円堂に残る3軀と、中金堂にある四天王像4軀を、800年の時を超えて同じ空間に集め、運慶が意図したであろう本来の配置を再現しています。
本展ではこの説に基づき、現在も北円堂に残る3軀と、中金堂にある四天王像4軀を、800年の時を超えて同じ空間に集め、運慶が意図したであろう本来の配置を再現しています。
この再会はまさに「歴史的な邂逅」といえるでしょう。

【国宝】《四天王立像(広目天)》鎌倉時代・1 3世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置
四天王像は、北円堂中央の八角須弥壇に、弥勒像などと共に並んでいたと考えられています。
御堂の寸法や仏像の3D計測データをもとにシミュレーションを重ねた結果、本展では、全ての四天王像が中心から外側を向くように放射状に置かれました。
この配置では、例えば持国天は体を外側へ向けつつも、視線は正面をとらえ、中央の弥勒如来と同じ方向を見つめることになります。

【国宝】《四天王立像(持国天)》鎌倉時代・1 3世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置
静かなたたずまいの弥勒像や無著・世親像に対し、四天王像は変化に富んだダイナミックな動きと怒りの表情が特徴です。
甲冑をまとい、武器を構えた力強い姿は、仏法を守る守護神としての気迫に満ちています。
こうした静と動の鮮やかな対比は、本展の大きな見どころの一つです。

【国宝】《四天王立像(増長天)》鎌倉時代・1 3世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置
声と映像で深まる祈りの世界
本展の音声ガイドを務めるのは俳優・高橋一生さん。深く温かな声が、時を超えて再現された運慶の祈りの空間へと私たちを導いてくれます。
展示とあわせて楽しみたいのが、東洋館地下のTNM & TOPPAN ミュージアムシアターで上映されているVR作品『興福寺 国宝 阿修羅像』です。
12月21日まで、天平彫刻の傑作を最新技術による迫力ある映像で体感できます。
12月21日まで、天平彫刻の傑作を最新技術による迫力ある映像で体感できます。

阿修羅像をVRで再現 VR作品『興福寺 国宝 阿修羅像』総監修:法相宗大本山興福寺 監修:金子啓明・鈴木嘉吉製作・著作:株式会社朝日新聞社・TOPPAN株式会社
オリジナルグッズも見逃せない
展覧会特設ショップでは、多彩なオリジナルグッズが販売されています。
公式図録「本編」は、国宝7軀の魅力を余すところなく伝える、まるで写真集のような豪華な一冊です。10月下旬には、展示空間を記録した別冊「展示風景編」も発売予定です。
このほか、興福寺の全面監修のもとで精巧に作られた多聞天のフィギュアや、四天王のアクリルスタンド、奈良の特産品を使った本展オリジナルクッキーなど、ここでしか手に入らない魅力的なアイテムが揃っています。
公式図録「本編」は、国宝7軀の魅力を余すところなく伝える、まるで写真集のような豪華な一冊です。10月下旬には、展示空間を記録した別冊「展示風景編」も発売予定です。
このほか、興福寺の全面監修のもとで精巧に作られた多聞天のフィギュアや、四天王のアクリルスタンド、奈良の特産品を使った本展オリジナルクッキーなど、ここでしか手に入らない魅力的なアイテムが揃っています。

展覧会特設ショップ

展覧会特設ショップ
約800年前、運慶が構想した「至高の空間」を、現代の東京で体感できるまたとない機会です。
それぞれの像が放つ、力強さと美しさが響きあう荘厳な空間で、運慶が仏像に、そして空間そのものに込めた深い祈りの心に触れてみてはいかがでしょうか。




