東京・六本木の泉屋博古館東京にて、特別展「巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語(メルヘン)―現代マイセンの磁器芸術―」が2025年11月3日まで開催されています。
本展は、巨匠ハインツ・ヴェルナーが創造した名作を中心に、現代マイセンの美しき磁器芸術を紹介する注目の展覧会です。
0001

現代マイセンの巨匠、ハインツ・ヴェルナーとは?
ハインツ・ヴェルナー(1928–2019)は、ドイツの名窯マイセンを代表するアーティストです。
15歳でマイセンの養成学校に入学した彼は、1950年代には絵付師として頭角を現します。
1960年にはマイセン創立250年を機に結成された「芸術の発展を目指すグループ」の一員となり、物語性あふれる夢のようなデザインで数々の名品を生み出しました。

プロローグ:名窯の誕生
本展は、マイセン誕生の原点を探る「プロローグ:名窯の誕生」から始まります。
18世紀初頭、ザクセン選帝侯アウグスト強王の命により、ヨーロッパで初めて硬質磁器の焼成に成功したのがマイセンです。
東洋磁器を熱心に収集した王がとりわけ愛したのは、17世紀に佐賀・有田で作られた「柿右衛門様式」でした。その憧れが、マイセン誕生の原点となったのです。
会場では、有田焼と、それに学んだマイセン作品が展示され、両者の関わりをたどることができます。
手前の皿と碗の高台(こうだい、器の底)には、王のコレクションであったことを示す番号が記されています。
IMG20250829132304
「プロローグ:名窯の誕生」展示風景より、(右)色絵松竹梅図碗 肥前有田 1670-1700年代 個人蔵

このティーセットは、松、梅、 柴垣に二羽の鳥が描かれた「柿右衛門様式」の写しです。
IMG20250829132327
色絵柴垣松梅鳥図ティーセット マイセン 1980年代 愛知県陶磁美術館

第1章:磁器芸術の芽吹き
第1章では、若きヴェルナーの初期の活躍が紹介されています。
記念すべき初作品である《エンゼルフィッシュ》の花瓶には、伸びやかで緻密な線描という、後年まで続く作風の原点が見られます。
IMG20250829142908
「第1章:磁器芸術の芽吹き」展示風景より、(右)《エンゼルフィッシュ》花瓶 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ハンス・メルツ 1958年 個人蔵

新婚夫婦の睦まじい様子を描いた《ハネムーン・サービス》は、数量限定で生産された貴重な作品です。夫婦で用いることを想定し、2客1組のセットとして制作されました。
IMG20250829143031
《ハネムーン・サービス》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1964年  個人蔵

第2章:名シリーズの時代
第2章では、ヴェルナーが生み出した数々の名シリーズとともに、直筆の陶板画などが紹介されています。
IMG20250829141440
「第2章:名シリーズの時代」展示風景より、ヴェルナー直筆の陶板画

ヴェルナーは物語からインスピレーションを得て、数々の代表作を生み出しました。
その一つが、ドイツで古くから親しまれてきた文学作品をモチーフとした《ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵)》です。
ポットには空を飛ぶ男爵、クリーマーには砲弾に乗る男爵が描かれるなど、物語の愉快な場面が生き生きと表現されています。
IMG20250829132623
《ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵)》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:エアハルト・グローサー、アレクサンダー・シュトルク、ルートヴィッヒ・ツェプナーの共作 1964年 個人蔵

《アラビアンナイト》は、『千夜一夜物語』を題材にしたシリーズです。
カップやソーサー、花瓶に、空飛ぶ絨毯や宝物、美女や踊り子、盗賊や王族といったおなじみのモチーフがあしらわれ、白磁の上にエキゾチックで幻想的な世界が広がっています。
IMG20250829141611
《アラビアンナイト》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1966年(1974年以降製作) 個人蔵

ホールにはヴェルナーが装飾を施した《アラビアンナイト》の宝石箱が展示されています。こちらは写真撮影も可能です。
IMG20250829131927
《アラビアンナイト》宝石箱(独立ケース) 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ケンドラー 1966年頃 個人蔵

《サマーナイト》シリーズは、シェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢』に着想を得た、現代マイセンを代表する名作の一つです。
妖精王オーベロンや后ティターニア、いたずら好きのパックなど、個性豊かなキャラクターたちが織りなす夢の世界を、磁器の上に広がる舞台のように楽しむことができます。
IMG20250829141810
《サマーナイト》ティーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 人形造形:ペーター・シュトラング 1969年 (1974年以降製作) 個人蔵

特に、后ティターニアが恋の媚薬のせいでロバ頭のボトムに恋をしてしまう場面は、この物語を象徴するユーモラスな名シーンとして描かれています。
IMG20250829144506
《サマーナイト》ティーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 人形造形:ペーター・シュトラング 1969年 (1974年以降製作) 個人蔵

1968年、「芸術の発展を目指すグループ」は、かつてアウグスト強王の狩猟の城だったモーリッツブルク城にアトリエを構えました。深い森と湖に囲まれた環境の中で、彼らは独創的な作品を次々と生み出していきます。
その象徴となる《狩り》シリーズの大燭台には、アトリエの拠点となった城が描かれています。
この大燭台と《森の木の葉》ディナーサービスは、晩餐会のような華やかなテーブルコーディネートで展示され、撮影も可能です。
IMG20250829142243
(中央奥)《狩り》大燭台 装飾:ハインツ・ヴェルナー、ルディ・シュトレ 器形:ペーター・シュトラング 1973年 個人蔵、(手前)《森の木の葉》ディナーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1973年 個人蔵

1973年の日本と東ドイツの国交成立を機に、1975年に初来日を果たしたヴェルナーは、「日本は第二の故郷」と語るほどの親日家でした。
日本の風景や文化に深く魅了され、《梅の花》など、水墨画のような表現を取り入れた作品も制作しています。
日本の結婚式から着想を得たという油彩画《富士》も展示されており、日本への特別な想いが伝わってきます。
IMG20250829141928
《梅の花》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1977年 個人蔵

第3章:光と色彩の時代
1980年代に入ると、彼のデザインは具象を超え、生命力あふれる色と線が共演する抽象的な表現へと進化しました。《ヴィジョン》や《アフロディーテ》といった作品には、円熟期を迎えつつも、常に新しい挑戦を続けたヴェルナーの感性が光ります。
IMG20250829145115
「第3章:光と色彩の時代」展示風景より、(右)《ヴィジョン》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1990年 個人蔵

エピローグ:受け継がれる意志
1993年に定年退職した後も彼の創作意欲は衰えることなく、翌年には《ドラゴンメロディ》を発表するなど、生涯現役で活躍し続けました。
また、晩年のヴェルナーは、後進の育成にも力を注ぎました。会場では彼の志を受け継ぐ現代のアーティストたちとの共作も展示されています。
IMG20250829142320
《ドラゴンメロディ》コーヒーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1994年 個人蔵

IMG20250829145624
《祝祭舞踏会》コーヒーサービス ハインツ・ヴェルナー 器形:ザビーネ・ヴァックス 1998年 個人蔵

コレクターが語る、マイセン鑑賞のポイント
本展は、長年にわたりハインツ・ヴェルナーの作品を収集してきたコレクター、勝川達哉氏のコレクションが中心となっています。
勝川氏は、マイセンの魅力をより深く味わうための注目ポイントを2つ挙げています。
一つ目は、絵付師による手描きであるため、厳密には2つと同じものはない「一点もの」としての魅力。
IMG20250829143338
《プラチナ・コバルトの動物》ティーサービス 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー 1970年 個人蔵

もう一つは「高台」です。そこには、マイセンである証の双剣マークのほか、制作年や手がけた職人を 示す番号が記され、来歴を物語る重要な「履歴書」のような役割を果たしています。

展覧会の公式図録も販売されています。展示では見られない作品の背面や、拡大図版が豊富に掲載されており、細部に込められたデザインの工夫までじっくり楽しめます。
図録

物語を紡ぐストーリーテラーとしての才能と、色彩と構図で魅せるデザイナーとしての才能。その両方を兼ね備えた巨匠、ハインツ・ヴェルナーの幅広く奥深い芸術性を実感できる展覧会です。
この機会に、魅力的なキャラクターたちが繰り広げる夢あふれる物語をぜひ楽しんでみてください。
IMG20250829150852
泉屋博古館東京外観

【開催概要】
展覧会名:特別展 巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語(メルヘン)―現代マイセンの磁器芸術―
会期:2025年8月30日(土)〜2025年11月3日(月・祝)
会場:泉屋博古館東京(東京都港区六本木1-5-1)
開館時間:11:00〜18:00 ※金曜日は19:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、9月16日(火)、10月14日(火) ※9月15日、10月13日、11月3日の月曜祝日は開館
入館料:一般1,500円、学生800円、18歳以下無料
泉屋博古館東京公式ホームページ:https://sen-oku.or.jp/tokyo/