東京・広尾の山種美術館では、2025年9月28日まで特別展「江戸の人気絵師 夢の競演 宗達から写楽、広重まで 特集展示:太田記念美術館の楽しい浮世絵」が開催されています。江戸時代に活躍した人気絵師たちが勢ぞろいし、浮世絵や江戸絵画の名作が一堂に会する、まさに“夢の競演”といえる展覧会です。
この記事では、特に注目したい作品と鑑賞ポイントをご紹介します。
チラシ

山種美術館の浮世絵コレクション一挙公開
第1章「山種美術館の浮世絵」では、同館の選りすぐりの浮世絵コレクションを、前期・後期に分けて全点公開。浮世絵の誕生から発展までを名作とともにたどることができる、またとない機会です。

初期の浮世絵はモノクロームの墨摺に手で彩色していましたが、やがて植物性の紅を主とした「紅絵」が登場します。
前期展示の奥村政信の《踊り一人立》は、植物性の透明感ある紅を主とした「紅絵」の代表作です。

やがて多色摺の「錦絵」が誕生し、浮世絵の表現は飛躍的に豊かになります。
鈴木春信の《梅の枝折り》は、保存状態が非常に良く、「錦絵」が誕生した当初の華やかで気品ある色使いが見どころです。
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鈴木春信《梅の枝折り》1767-68(明和4-5)年頃 前期展示

美人画の競演―清長と歌麿
美人画の分野では、鳥居清長が均整の取れた八頭身の女性像を確立し、華やかな江戸の女性風俗を描き出しました。
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第1章「山種美術館の浮世絵」展示風景より、(右)鳥居清長《風俗東之錦 武家の若殿と乳母、侍女二人》1784(天明 4)年頃 前期展示

そして、人物の上半身を大きく描く「大首絵」を美人画に取り入れ、色香あふれる作風で一世を風靡したのが喜多川歌麿です。「美人五面相」シリーズの1枚《犬を抱く女》は、女性の艶やかな表情と、彫師の技量が光る髪の生え際の細やかな表現が見どころです。
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喜多川歌麿《美人五面相 犬を抱く女》1803(享和 3)年頃 前期展示

役者絵の真髄―写楽と春章
役者絵も浮世絵の主要なジャンルです。
わずか10ヶ月で姿を消した謎の絵師、東洲斎写楽は、役者の容貌の欠点までも誇張するような写実性で、役者絵の歴史に異彩を放ちました。《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》では、金貸しの強欲さを見事に捉えています。
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東洲斎写楽《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》1794(寛政 6)年 前期展示

前期は、人気役者の容貌の特徴を描き分ける「似顔絵」を創始した一人、勝川春章の作品も展示されています。

風景画の巨匠たち―北斎と広重
19世紀に入ると、葛飾北斎や歌川広重によって風景画が新たなジャンルとして確立します。
後期には、北斎の代表作《冨嶽三十六景 凱風快晴》が登場します。

広重は、叙情性豊かな表現で風景画に新たな局面を切り開きました
今回、代表作である保永堂版《東海道五拾三次》が、前期・後期に分けて全点公開されます。
宿場ごとの名所や名物を織り込みながら、旅の情景を生き生きと描いた連作を、まとめて鑑賞できる貴重な機会です。
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第1章「山種美術館の浮世絵」展示風景より、歌川広重「東海道五拾三次」 1833-36(天保 4-7)年頃 前期展示

琵琶湖南岸の8つの名勝地「近江八景」は、早くから浮世絵の画題として取り入れられ、歌川広重もいくつかのシリーズを手がけています。
山種美術館が所蔵する「近江八景」シリーズは、落ち着いた色調と平明な構図が特徴で、浮世絵の近江八景の中でも特に優れた作品と評価されています。
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第1章「山種美術館の浮世絵」展示風景より、歌川広重「近江八景」1834(天保 5)年頃 前期展示

百花繚乱!山種美術館の江戸絵画の名品
第2章「山種コレクションの江戸絵画」では、江戸絵画の歴史と多彩な展開を、山種美術館の優品でたどります。
重要文化財に指定されている岩佐又兵衛の《官女観菊図》は、もともと屏風絵の一部だったとされ、その独特の人物表現には又兵衛の強い個性が表れています。
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 【重要文化財】岩佐又兵衛《官女観菊図》 17 世紀(江戸時代)

同じく重要文化財の椿椿山《久能山真景図》は、徳川家康ゆかりの地を、実際の写生をもとに描いた作品です。

伊藤若冲の最晩年の作品《伏見人形図》は、京都・伏見稲荷周辺で作られる素朴で愛らしい土人形を題材にしたもの。
リズミカルに配された布袋たちの穏やかで親しみのある表情からは、若冲の画域の幅広さがうかがえます。
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伊藤若冲《伏見人形図》1799(寛政 11)年

文人画の世界
18世紀以降、中国絵画の影響を受けた文人画(南画)が流行しました。
日本の文人画を大成させたとされる池大雅は、筆を使わず指先で描く「指頭画」を試みており、《指頭山水図》は、その最初期の作例です。
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第2章「山種コレクションの江戸絵画」展示風景より、(左)池大雅《指頭山水図》1745(延享 2)年 

さらに、関東画壇の重鎮・谷文晁や、繊細で清澄な画風を確立した田能村竹田など、各地で活躍した個性豊かな文人画家たちの作品が一堂に紹介されています。
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(左から)田能村竹田《二橋亭図》1827(文政 10)年、谷文晁《辛夷詩屋図》 1792(寛政 4)年 

京都で花開いた、円山・四条派と琳派の競演
18世紀後半の京都画壇を席巻したのは、写生を重んじる円山応挙の「円山派」と、そこから生まれた「四条派」でした。
会場では、動物画を得意とした森徹山の愛らしい《兎図》や、琴や書、囲碁など“大人の遊び”に夢中になる子どもたちの姿を生き生きと描いた、長沢芦雪の作と伝わる重要美術品《唐子遊び図》が紹介されています。
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【重要美術品】伝長沢芦雪《唐子遊び図》 18 世紀(江戸時代) 

17世紀、京都を中心に古典復興の気運が高まる中で、俵屋宗達は、やまと絵を基調としながらも、意匠性に富んだ独自の様式を確立し、後に「琳派」と呼ばれる流派の祖となりました。
宗達作と伝わる《槙楓図》は、尾形光琳が模写したことで知られています。
琳派の様式は時代を超えて受け継がれ、江戸琳派を築いた酒井抱一、さらにその弟子・鈴木其一へと展開しました。
抱一の《秋草鶉図》では、繊細な秋草とふっくらした鶉が美しい対比を見せ、洗練された美意識がうかがえます。
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(左から)【 重要美術品 】 酒井抱一 《秋草鶉図》19 世紀(江戸時代) 、伝 俵屋宗達《槙楓図》17 世紀(江戸時代)

近年評価が高まる其一の《四季花鳥図》は、抱一の画風を基礎にしつつ、濃厚で華麗な彩色や緻密な鳥の描写に、其一ならではの個性が表れています。

見ていてワクワクする楽しい浮世絵
「特集展示:太田記念美術館の楽しい浮世絵」では、浮世絵専門の美術館として名高い太田記念美術館の協力のもと、「楽しい浮世絵」をテーマに選りすぐりの作品が紹介されます。

花火など、四季折々の行楽は浮世絵でも人気の画題です。歌川広重、歌川国芳、光線画の名手として知られる小林清親など、絵師ごとの花火の表現を見比べられるのも、本展ならではの楽しみです。
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「特集展示:太田記念美術館の楽しい浮世絵」展示風景より、(左)歌川広重《名所江戸百景 両国花火》1858(安政 5)年 太田記念美術館所蔵 前期展示

後期には、歌川広重の《信州更科田毎の月》や《東都名所 道潅山虫聞之図》など、秋の情緒あふれる作品が登場します。

ほおずきや猫を擬人化して描いた、ユニークな浮世絵も楽しめます。
なかでも、人気歌舞伎役者を金魚に見立てた落合芳幾の《見たて似たかきん魚》は、人気歌舞伎役者を金魚や鯉などの魚に見立て、その体に役者の紋をあしらった、粋で遊び心あふれる作品です。
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落合芳幾《見たて似たかきん魚》1863(文久 3)年 太田記念美術館所蔵 前期展示

グッズや和菓子も見逃せない
展覧会の楽しみは作品鑑賞だけではありません。
ミュージアムショップでは、「東海道五拾三次」全図柄のクリアファイルや浮世絵柄のふきんなど、展示作品にちなんだ多彩なグッズがそろっています。
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また、館内のカフェ「Cafe 椿」では、展覧会出品作をイメージしたオリジナルの和菓子が味わえます。
鈴木其一の《四季花鳥図》をモティーフにした「夏の日」、森徹山の《兎図》にちなんだ「白うさぎ」、伝俵屋宗達《槙楓図》から着想を得た「秋げしき」など、作品の余韻に浸りながら味わう美しい和菓子は格別です。
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江戸時代には、浮世絵から琳派、文人画まで、多彩なジャンルが花開き、それぞれの絵師が個性を競い合いました。
本展で絵師たちの華麗な競演を楽しみながら、江戸絵画の奥深い魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

※所蔵先表記のない作品は山種美術館所蔵
※展示期間注記のない作品は通期展示

【開催概要】
展覧会名:【特別展】江戸の人気絵師 夢の競演 宗達から写楽、広重まで 特集展示:太田記念美術館の楽しい浮世絵
会期:2025年8月9日(土)~9月28日(日)
※浮世絵は前・後期で展示替え(前期:8/9~8/31、後期:9/2~9/28)
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(ただし9月15日は開館)、9月16日(火)
入館料:一般1400円、大学生・高校生500円(夏の学割)、中学生以下無料
公式ホームページ:https://www.yamatane-museum.jp