奈良国立博物館(以下、奈良博)にて、奈良博開館130年と天理大学創立100周年を記念した特別展「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」が、2025年9月23日まで、開催されています。
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展示室入口

本展では、世界各地から収集された天理大学附属天理参考館の30万点にのぼるコレクションの中から厳選した作品と、奈良国立博物館所蔵の仏教美術を組み合わせ、人類の約6000年に及ぶ歴史をたどります。

「文明の交差する世界」「神々と摩訶不思議な世界」「追憶の20世紀」の3章構成で、考古・民族資料を中心に約220件を展示。その中には、天理参考館でのみ所蔵される稀少品や、今回が初公開となる作品も含まれています。

開幕前日に開催された内覧会に参加しましたので、その内容と見どころをレポートします。
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第1章「文明の交差する世界」展示風景

ユーラシア大陸で誕生した文明の交流とダイナミズム
第1章「文明の交差する世界」では、 メソポタミアや中国などで文明が誕生し、シルクロードを通じて東西の文化や文物がどのように交流したかをたどります。

会場では、まず古代メソポタミアの王の威厳を伝える《グデア頭像》が迎えてくれます。
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《グデア頭像》イラク、テロー 紀元前2100年頃

展示の冒頭では、文明の黎明期の世界を「文字」と「器」を中心に見ていきます。
メソポタミアでは、交易の記録を残すために楔形文字が粘土板に刻まれました。一方、古代中国の殷王朝では、未来を占うために亀の甲羅や牛の骨に甲骨文字が刻まれました。
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(左)《甲骨文字》中国 殷時代(紀元前13世紀~前11世紀)

祭祀や儀式で用いられた中国の青銅器や、卵の殻のような薄さを誇る卵殻黒陶などは、古代の人々の美意識と高い技術力を示しています。
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《黒陶高脚杯》中国 龍山文化(紀元前2500~前2000年頃)

紀元前2世紀頃から活発化した東西交易路「シルクロード」は、人やモノだけでなく、技術や思想もこの道を行き交い、新たな文化を生み出していきました。

西から東へ旅した文物の代表例がガラス器です。サーサーン朝ペルシアで多く作られたカットガラス碗は、正倉院では「白瑠璃碗」の名で知られています。
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《カットガラス碗》伝イラン サーサーン朝時代(5~6世紀)

また、東からは中国の陶器技術がイスラーム世界に伝わり、唐三彩の影響を受けた独自の美しい陶器が誕生しました。

会場では、ギリシア考古学の父シュリーマンの直筆コメントが入った発掘調査報告書の原画など、貴重な品にも出会えます。
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《ティリンス遺跡調査報告書原画》19世紀


シルクロードが育んだ仏教美術の世界
思想や宗教もまた、シルクロードを通って伝わっていきました。

インドで生まれた仏教は、シルクロードを経て中央アジア、そして中国へと伝わりました。
古代中国の墓を守るために副葬された「鎮墓獣」は、シルクロードを通じて伝わった仏教の影響を受け、日本の四天王像のような仏教の護法神の姿へと変化していきます。
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第1章「文明の交差する世界」展示風景より、(左)《加彩鎮墓獣》中国 唐時代(8世紀)

さらに東へと伝播し、日本に伝わった仏教は、独自の文化として花開きます。
京都・清凉寺の本尊は、奈良・東大寺の僧が、釈迦在世中にインドで造られた像を中国で模刻させ、日本に持ち帰ったと伝えられています。
やがてこの像が釈迦の真の姿と信じられるようになり、重要文化財《釈迦如来立像(清凉寺式)》のような模像が数多く作られ、人々の信仰を集めました。
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第1章「文明の交差する世界」展示風景より、(左ガラスケース内)【重要文化財】 《釈迦如来立像(清凉寺式)》 日本 鎌倉時代・文永10年(1273) 奈良国立博物館

ニューギニアの摩訶不思議な世界
旅はユーラシア大陸を離れ、太平洋の島々へと舞台を移します。

第2章「神々と摩訶不思議な世界」では、ニューギニアの精霊文化、インドネシアの芸能、古代エジプトやアンデスの死生観など、世界各地の多様な信仰に関わる品々が紹介されています。

ニューギニアの人々は、厳しい自然環境の中で、精霊や祖先の霊と共に生きてきました。彼らの作る儀礼用の仮面や装飾品には、目に見えない存在への畏れや信仰が色濃く反映されています。
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「ニューギニアの祖霊・精霊」展示風景

仮面の用途はさまざまですが、本展のメインビジュアルにもなっている《儀礼用仮面「マイ」》は、男性秘密結社への入社式で用いられたとされています。
異様なまでの迫力と謎めいた表情が強烈な造形物の数々は、本展の大きな見どころの一つです。
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「ニューギニアの祖霊・精霊」展示風景

死者の追悼儀礼に用いられる彫刻《マランガン》は、現地にも今はなく、国内では天理参考館のみが所蔵する大変貴重なものです。
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「ニューギニアの祖霊・精霊」展示風景より、(上)《葬儀用飾り貫「マランガン」》 パプアニューギニア、ニューアイルランド島 20世紀前半

芸能に宿る神々、インドネシアの仮面と人形
インドネシアでは、古くから東西交易の中継地として多様な文化が混淆し、芸能は宗教儀礼と表裏一体で発展しました。

髪には人毛を使い、人の腸を表す紐を垂らした《魔女ランダ》と、バリの善の象徴である《聖獣バロン・ケケット》の仮面は、バリ島の儀礼劇チャロナランで用いられました。
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(左から)《儀礼劇チャロナランの仮面 魔女ランダ》、《儀礼劇チャロナランの仮面 聖獣バロン・ケケット》いずれもインドネシア、バリ島 20世紀前半

「影絵芝居ワヤン・クリットの人形」では、水牛の皮で作られた極彩色の人形を操り、古代インドの叙事詩などが演じられます。
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《影絵芝居ワヤン・クリット(ワヤン・ゲドク)の人形》インドネシア、ジャワ島  19~20世紀前半

かつてジャワの宮廷で生まれ発展した絢爛豪華な芝居、ワヤン・オランで使われたとされる仮面も展示されています。現在ではジャワで目にする機会はほとんどない貴重なもので、その精緻な装飾からは、かつての宮廷文化の華やかさがうかがえます。
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「インドネシアの芸能が紡ぐ神と人の物語」展示風景

台湾では、古くから島に暮らす人々が祖霊を畏れ敬い、自然の中に神霊を見出してきました。
首長家に代々受け継がれる《トンボ玉首飾り》などの神器は、その神聖な力を象徴するものです。また、かつて存在した「首狩り」の慣習も紹介されています。
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「台湾原住民族の祖先神とシャーマン」展示風景

人口の約8割がヒンドゥー教を信仰するインドでは、大衆向けの宗教画が家の祭壇に飾られたり、寺院の壁を飾る巨大な染色布「カラムカリ」にヒンドゥー教の叙事詩の場面が描かれるなど、神々が今も多様な形で暮らしの中に息づいています。
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「現代インドに息づく神々」展示風景より、(上)《寺院掛布「カラムカリ」》インド南部 20世紀中頃

死と再生への祈り、古代エジプトとアンデスの死生観
旅は、古代エジプトとアンデス文明へと続きます。この2つの地域では、死者をミイラにするという共通の習慣がありました。

古代エジプトの人々は、死後の世界での復活と再生を強く信じていました。そのため、遺体をミイラにして保存し、墓には来世で必要となるであろう様々な副葬品を納めました。
展示されている《人形彩画木棺》の鮮やかな色彩や、さまざまな副葬品は、死者を敬い、来世での幸福を願う人々の願いがこめられています。
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「古代エジプトの神々と死生観」展示風景

最近の調査によって、インカ帝国時代のボリビア製と判明した《金製頭飾 人面形》は、世界でも6点しか確認されていない貴重なもの。金の純度が非常に高いことも明らかになっており、その輝きは古代アンデスの高い冶金技術を物語っています。
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「異世界を行き来するアンデスの信仰と儀礼」展示風景より、さまざまな金製品の展示

懐かしくも温かい、20世紀の記憶をたどる旅
旅の最終章となる第3章「追憶の20世紀」では、グローバル化の波の中で失われつつある、地域色豊かな生活文化が紹介されています。

北米大陸の先住民たちは、厳しい自然環境の中で、独自の文化を育みました。
展示されている人形や多彩な役割をもつ道具類は、彼らの美意識や信仰を今に伝えています。
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「北米先住民の伝統文化」展示風景

一方、イスラーム化が進んだエジプト・カイロの大衆文化は、古代文明とはまた異なる、どこか懐かしいエキゾチックな魅力を放っています。
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「エジプト・カイロの大衆文化」展示風景より、(左から)《バックギャモン「ターウィラ」》、《コーヒー用具》、《水煙管「シーシャ」 》 いずれもエジプト、カイロ  20世紀中頃

そして、ユニークなのが「北京の看板」です。
20世紀前半まで北京の街角で使われていた《幌子(ホァンツ)》と呼ばれるこれらの看板には、文字がほとんど描かれていません。識字率が低かったためとも、遠くからでも認識しやすいためともいわれますが、形だけで商品を伝えるそのユニークな発想と豊かな造形は、現代アートのオブジェのようにも見え、理屈抜きに楽しめます。
天理参考館が所蔵するこのコレクションは、日本国内はもちろん、中国でも残されていない大変貴重なものです。
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「北京の看板」展示風景

摩訶不思議な魅力あふれるオリジナルグッズ
ミュージアムショップでは、展示作品をモチーフにした魅力的なオリジナルグッズが多数用意されています。古代エジプトの神々をデザインしたクリアファイルや、ニューギニアの仮面をあしらったTシャツなど、ここでしか手に入らない摩訶不思議なアイテムを、旅の記念にいかがでしょうか。
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展示作品すべて写真撮影OK!時空を超える探検の旅へ
本展はなんと、展示作品はすべて写真撮影OK!
約6000年にわたる壮大な時間の中で、人類が世界とどう向き合い、祈り、生きてきたのかを体感できる展覧会です。
この夏、選び抜かれた至宝とともに、時空を超えるダイナミックな世界探検の旅へ出かけてみませんか?
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奈良国立博物館外観

※所蔵先表記のない作品は天理大学附属天理参考館の所蔵

【開催概要】
展覧会名: 奈良国立博物館開館130年・天理大学創立100周年記念特別展「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」
会期: 2025年7月26日(土)~9月23日(火・祝)
※会期中、一部作品の展示替えあり
会場: 奈良国立博物館 東西新館
開館時間: 午前9時30分~午後5時
※毎週土曜日、8月5日(火)~8月15日(金)は午後7時まで
※入館はいずれも閉館の30分前まで
休館日: 8月4日(月)、8月18日(月)、8月25日(月)、9月1日(月)、9月8日(月)、9月16日(火)
観覧料: 一般 1,800円、高大生 1,300円、中学生以下無料
展覧会公式ホームページ: https://art.nikkei.com/tanken/