そごう美術館(横浜駅東口 そごう横浜店6階)にて、2025年9月2日まで開催の「Ukiyo-e 猫百科 ごろごろまるまるネコづくし」が開催されています。
E536-7008
チラシ・表

この展覧会では、猫好きで知られる浮世絵師・歌川国芳をはじめ、総勢31名の絵師による浮世絵版画147点を通して、猫の生き方や歴史、人との関わりを「猫あるある」を交えて紹介します。
体を丸めたり、毛づくろいをしたりする猫らしいしぐさから、人間味あふれる表情、擬人化されたユーモラスな姿まで、私たちを惹きつけてやまない猫の魅力がたっぷり楽しめます。
IMG20250721111331
展示風景

絵師が捉えた猫らしい姿
第1章「猫の姿」では、絵師たちが捉えた、猫らしい姿の作品が並びます。

歌川国芳の《其まゝ地口猫飼好五十三疋》は、東海道五十三次の宿場名を、猫の行動や様子を示す言葉に置き換えた洒落の効いた作品です。猫の仕草が見事に描き分けられており、常に身の回りに猫がいた国芳ならではの観察眼が光ります。
1
歌川国芳《其まゝ地口猫飼好五十三疋》嘉永 (1848-1854)初期

風景画で名高い歌川広重は、《名所江戸百景 浅草田圃酉の町詣》で、遊郭の窓辺から外の祭りを見つめる猫の姿を描きました。人間同士のやり取りには関心を示さない、いかにも猫らしい一瞬が切り取られています。
E536-6998
歌川広重《名所江戸百景 浅草田圃の町詣》渡邊木版美術画舗

小林清親の《猫と提灯》は、1877年(明治10年)の第1回内国勧業博覧会にも出品された力作。一般的な浮世絵の数倍もの摺りを重ねることで、猫の柔らかな毛並みや提灯の陰影が見事に表現されています。
8
小林清親《猫と提灯》明治10年 (1877) 

猫は276種類もの表情を持つといわれますが、高橋弘明の《[白猫]》は、にんまりと笑っているかのような表情の猫が描かれています。
E536-7000
高橋弘明《[ 白猫 ] 》個人蔵

 河鍋暁斎の《暁斎楽画[猫と鼠]》は、鼠を狙う猫の姿を描いており、愛らしいだけではない、野性的なハンターとしての一面を捉えています
E536-6999
河鍋暁斎《暁斎楽画[猫と鼠]》個人蔵

ほかにも日向ぼっこや毛づくろいなど、猫ならではの姿が楽しい作品が並んでいます。

「猫あるある」が満載!人と猫の心温まる日常
第2章「猫と暮らせば」では、美しい女性と猫という人気の組み合わせや、着物のすそに猫がじゃれつく情景、子どもと戯れる姿、冬に着物にもぐりこんでぬくもりを求める様子など、”猫あるある”を生き生きと描いた作品が並びます。
IMG20250721110704
第2章「猫と暮らせば」展示風景

江戸時代末期から明治時代中期に活躍した浮世絵師、月岡芳年による《風俗三十二相 うるささう 寛政年間処女之風俗》は、自分とお揃いの首輪をつけた猫をかわいがる娘と、どこか迷惑そうな猫の表情が楽しい作品です。絵の具をつけずに紙に凹凸をつける「空摺」という技法で、猫の毛並みが立体的に表現されている点にも注目です。
E536-7001
月岡芳年《風俗三十二相 うるささう 寛政年間処女之風俗》 個人蔵

同じく芳年の《新柳二十四時 午前九時》では、猫が柱で爪を研いでいます。飼い主にとっては少し困った行動かもしれませんが、これは自分の縄張りを主張するためのマーキングであり、猫にとっては大切な行動なのです。

歌川国芳の《婦女鏡 豊》では、女性が障子を張り替えているそばから、真新しい障子を破って顔を出す猫の姿が描かれています。その表情はどこか得意げで、思わず笑ってしまいます。障子を破るのは、今も昔も変わらない猫の習性だったようです。
IMG20250721110751
歌川国芳《婦女鏡 豊》天保14-弘化2年 (1843-47)

ほかにも、猫じゃらしで遊ぶ猫、かごの中でくつろいだ様子の猫や、自分の姿に驚いて耳を立てる”イカ耳”猫なども登場。
猫が日本人の暮らしのなかでいかに身近な存在だったかを、改めて実感できる作品が楽しめます。
30
歌川国安《閨中道具八景 鏡台の秋月》文政12年 (1829) 頃 

化け猫、猫又、擬人化──変化に富んだ猫のイメージに迫る
暗闇で目が光ったり、瞳孔の形が変わったりする猫の姿に、人々は人知を超えた神秘的なイメージを抱きました。そこから「化け猫」や「猫又」といった妖怪が生まれ、物語や浮世絵の題材となっていきました。
106 104左
第3章「猫七変化」展示風景

第3章「猫七変化」では、こうした神秘的で変化に富んだ猫のイメージに迫ります。

歌川国芳の《五拾三次之内 岡崎の場》では、年老いて尾が二つに分かれた妖怪「猫又」が、踊る姿が描かれています。
江戸時代、行灯(あんどん)の燃料には安価な鰯(いわし)の油がよく使われていました。踊るという発想は、肉食動物である猫が、この魚の匂いに惹かれて行灯に近づき、油を舐めようと後ろ足で立ち上がる姿から生まれたといわれています。
7876 左
(左から)三代目歌川豊国《古猫の怪》文久元年 (1861)、歌川国芳《五拾三次之内 岡崎の場》弘化2-嘉永5年 (1845-46) 頃 

猫を擬人化した作品も描かれました。特に歌川国芳は、このジャンルでも数多くの傑作を生み出しています。
江戸時代の厳しい出版統制に対し、国芳は役者の似顔絵を猫に置き換えて描くことで対抗しました。《流行猫の狂言づくし[団七九郎兵衛ほか]》など、役者のような猫のような「役者絵猫」は評判を呼び、多く描かれました。
E536-7002
歌川国芳《流行猫の狂言づくし[団七九郎兵衛ほか]》個人蔵

《猫の百面相 またたび 荒獅子男之助ほか》では、中央の猫が人気役者・五代目市川海老蔵の似顔絵になっています。着物の柄も海老をかたどった魚の骨という洒落の効いた一枚です。
E536-7004
歌川国芳《猫の百面相[またたび 荒獅子男之助ほか]》渡邊木版美術画舗蔵

《流行猫の曲手まり》では、猫たちが曲芸を披露するユーモラスな姿が楽しめます。作品ごとの猫の模様やしぐさの描き分け方にも注目したいところです。
71 右
第3章「猫七変化」展示風景より、(右)歌川国芳《流行猫の曲手まり》天保12年 (1841)

さらに。《猫の当字 かつを》のように、猫のしなやかな体を使って文字を表現する「当て字絵」という作品も見られます。
国芳の作品からは、猫への深い愛情と共に、江戸の庶民文化の活気や遊び心が伝わってきます。
101 102 体柔らかい
(左から)歌川国芳《猫の当字 なまづ》天保13年(1842)頃、歌川国芳《猫の当字 かつを》天保13年(1842)頃

遊び心いっぱい!の”おもちゃ絵”の中の猫
第4章「おもちゃ絵猫」では、江戸末期から明治前半にかけて流行した「おもちゃ絵」の世界が広がります。
IMG20250721112109
第4章「おもちゃ絵猫」展示風景

「おもちゃ絵」とは、子どもが遊ぶために作られた実用的な浮世絵で、双六や着せ替え人形、組み立てて遊ぶものなど多種多様でした。
実際に遊んで捨てられてしまうため現存するものは少ないですが、当時の暮らしや社会の変化を知る貴重な資料です。 
この章では、現代語訳付きの作品解説パネルが添えられた作品もあり、内容をより深く楽しめます。
117118 左
(左から)未詳《新版猫のよめいり》明治29年(1896)、歌川藤よし《志ん板猫の恋じ》明治6年-明治19年(1873-86)

国芳の門人であった芳藤は、この分野で特に才能を発揮し、「おもちゃ絵芳藤」と呼ばれるほど多数の作品を残しています。
おもちゃ絵の中には、《志ん板猫尽両めん合》のように、一枚の紙に表と裏になる絵が描かれ、切り抜いて貼り合わせることで立体的な人形になるように工夫されたものがありました。
108 109 左
(左から)歌川国芳 《風流けしだこ》天保12年(1841)頃、歌川芳藤《志ん板猫尽両めん合》安政6-明治8年(1859–75)

四代歌川国政の《志ん板猫のそばや》は、猫たちが営む蕎麦屋のにぎわいを描いた作品。店員が客の頭にせいろを落とすなど、ユーモラスな場面が楽しめ、「猫舌」の言葉の由来についても紹介されています。

同じく国政の《志ん板猫の手ならい師匠》では、擬人化された猫たちが習字教室で手習いに励む、ほほえましい光景が描かれています。先生に注意されたのか、机の上に座らされている猫がいたりと、細かい部分にもユーモアが散りばめられています。
IMG20250721112305
四代歌川国政《志ん板猫の手ならい師匠》 明治(1868-1912)前期頃

明治5年(1872年)、日本初の鉄道が新橋-横浜間に開通すると、蒸気機関車を題材とした作品が多く制作されました。
《志ん板ぜうき車つくし》では、猫たちが蒸気機関車に乗ったり、駅で働いたりする様子がユーモラスに描かれ、新しい時代の変化をうかがい知ることができます。
E536-7006
無款(四代歌川国政)《志ん板ぜうき車つくし》個人蔵

夏休み子供向け企画
会場内には、小・中学生優先の自習室「ジュニアルーム」が設けられ、展覧会を見た見学レポートや思い出をここでまとめることもできます。また作品鑑賞に役立つ「ジュニアガイド」も用意されています。
IMG20250721112048
ジュニアルーム

絵師たちは、猫の愛らしい姿だけでなく、その野性的な本能や、時に見せるミステリアスな表情、そして人間社会に溶け込むユーモラスな様子まで、実に多彩な姿を描き出しています。
猫好きの方も、浮世絵好きの方も楽しめる展覧会です。ごろごろ、まるまるな猫たちがあふれる会場で、ぜひ”お気に入りの猫”を見つけてみてください。
IMG20250721113038
会場入口

※文中、所蔵先表記のない作品は、すべて個人蔵 

【開催概要】
展覧会名:Ukiyo-e 猫百科 ごろごろまるまるネコづくし
会期:2025年7月19日(土)~9月2日(火) ※会期中無休
会場:そごう美術館(横浜駅東口・そごう横浜店6階)
開館時間:午前10時~午後8時(入館は閉館30分前まで)
休館日:会期中無休
入館料:一般1,400円、大学・高校生1,200円、中学生以下無料
公式ホームページ:https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/