平安時代に遣唐使が廃止されて以降、日中の交流は限定的になりましたが、中世になると再び活発になり、様々な文物が日本にもたらされました。
その中には中国の宮廷で描かれた院体画や、画僧による水墨画の名品も含まれていました。
これらは「唐絵(からえ)」と呼ばれ、特に足利将軍家をはじめとする武家の間で尊ばれ、やがて日本の水墨画制作の規範となります。
本展では、根津美術館が誇る国宝、重要文化財を含むコレクションの中から、中国からもたらされた唐絵と、それらに倣って日本で制作された和製の唐絵の名品を紹介し、その魅力に迫ります。
唐絵の源流 宋元画
「唐絵」には、大きく分けて二つの流れがあります。
一つは、中国の宮廷画家たちが描いた「院体画」です。
その代表例が、国宝《鶉図》です。
秋の野を歩む鶉(うずら)を極めて写実的に描き出した南宋花鳥画の名品で、室町幕府6代将軍・足利義教の愛蔵品でした。羽の硬そうな質感と、お腹のふわふわとした柔らかさの対比が見事で、彩色と細かい描線だけで立体感を巧みに表現しています。
その代表例が、国宝《鶉図》です。
秋の野を歩む鶉(うずら)を極めて写実的に描き出した南宋花鳥画の名品で、室町幕府6代将軍・足利義教の愛蔵品でした。羽の硬そうな質感と、お腹のふわふわとした柔らかさの対比が見事で、彩色と細かい描線だけで立体感を巧みに表現しています。
もう一つの流れは、禅宗の僧侶たちが描いた水墨画です。
その最高傑作として名高いのが、国宝《漁村夕照図》です。
南宋の画僧・牧谿(もっけい)が描いたこの作品は、水墨の濃淡だけで夕闇に沈む漁村風景を劇的に表現しています。山から差し込む光が水面に揺らめき、時間の経過までも感じさせるドラマティックな表現は、見る者を圧倒します。
その最高傑作として名高いのが、国宝《漁村夕照図》です。
南宋の画僧・牧谿(もっけい)が描いたこの作品は、水墨の濃淡だけで夕闇に沈む漁村風景を劇的に表現しています。山から差し込む光が水面に揺らめき、時間の経過までも感じさせるドラマティックな表現は、見る者を圧倒します。
この作品は、3年にも及ぶ修理を経て、今回が5年ぶりの公開となります。

【国宝】 《漁村夕照図》牧谿筆 中国・南宋時代 13世紀
このほかにも、足利義満の鑑蔵印が捺された伝牧谿筆《龍図》や、「濡れ雀」の通称で知られる《竹雀図》など、足利将軍家で長く愛蔵された名品の数々が並びます。

【重要文化財】《竹雀図》伝 牧谿筆 中国・元時代 13世紀
明時代の「唐絵」
室町時代になると、明時代の中国絵画も「唐絵」として日本にもたらされました。
これらも日本の絵師たちの手本となり、後の絵画制作に大きな影響を与えていきます。
その代表が、重要文化財《瓜虫図》です。瓜の周りに蝶や蟷螂などが描かれた「草虫図」の最優品で、描かれている蝶は日本には生息しない種類であることから、中国で制作されたことがわかります。

【重要文化財】《瓜虫図》呂敬甫筆 中国・明時代 15世紀
また、明時代の「浙派(せっぱ)」と呼ばれる画家たちが、南宋の院体画風にもとづいて描いた作品も日本の中世絵画に大きな影響を与えました。
この作品は、画面の対角線上に主要なモチーフを配置する構図や、力強く荒々しい筆致が特徴です。
《松下人物図》は、画面左下には南宋の画家・馬遠(ばえん)の印が捺されていますが、大胆で荒々しい筆遣いやその構図には、浙派の特徴がよく表れています。

《松下人物図》馬遠印 中国・明時代 15 ~ 16世紀
周文とその弟子たち
中国から渡ってきた唐絵を手本に、日本でも多くの水墨画が制作されました。その礎を築いたのが、京都・相国寺の画僧で、足利将軍家の御用絵師を務めた周文です。
古くから周文作とされる《江天遠意図》は、中国絵画に学んだ対角線構図で理想の情景を描いた、詩画軸の代表作です。
古くから周文作とされる《江天遠意図》は、中国絵画に学んだ対角線構図で理想の情景を描いた、詩画軸の代表作です。

【重要文化財】《江天遠意図》伝 周文筆 大岳周崇ほか十一僧賛 日本・室町時代 15世紀
周文の様式は、雪舟をはじめとする弟子たちに引き継がれました。雪舟がまだ「拙宗」と名乗っていた頃の作品も展示されています。
《撥墨山水図》では、南宋の画僧・玉澗に倣った荒々しい画風を試みる一方、《山水図》は、岩や樹木の描線が比較的柔らかく、モチーフや構図には南宋絵画だけでなく、明時代の浙派の影響もみられます。
《撥墨山水図》では、南宋の画僧・玉澗に倣った荒々しい画風を試みる一方、《山水図》は、岩や樹木の描線が比較的柔らかく、モチーフや構図には南宋絵画だけでなく、明時代の浙派の影響もみられます。
2つの作品を見比べると、さまざまな中国絵画を学びながら、自らの表現を模索する若き日の雪舟の姿がうかがえます。
花鳥画と草虫図
室町時代には、草花や鳥獣を華やかに描いた花鳥画も大きく花開きました。
その中心となったのが、室町幕府の御用絵師としての地位を築いた狩野派です。
初代・狩野正信に近い絵師の作とされる《観瀑図》は、中国・南宋の画家、夏珪の様式を継承しています。
初代・狩野正信に近い絵師の作とされる《観瀑図》は、中国・南宋の画家、夏珪の様式を継承しています。
2代目の元信筆と伝わる《四季花鳥図屏風》では、70羽以上もの鳥たちが、奥行きと横への広がりを感じさせる雄大な空間の中に、巧みに配置されています。
中国絵画に由来するモチーフを散りばめながら、それらを日本的な構成でまとめ上げた、元信様行体花鳥画の優品です。
中国絵画に由来するモチーフを散りばめながら、それらを日本的な構成でまとめ上げた、元信様行体花鳥画の優品です。
愛らしい猫の姿が印象的な《牡丹猫図》は、墨の暈(ぼか)しと細かい描線で、猫の柔らかい毛並みが見事に表現されています。
一方で、奥行きをあまり表現しない平面的な描写には、明代の花鳥画の影響がうかがえ、本作も「和製の唐絵」として、中国絵画を手本に制作されたことがわかります。
《牡丹猫図》蔵三筆 日本・室町時代 16世紀 一方で、奥行きをあまり表現しない平面的な描写には、明代の花鳥画の影響がうかがえ、本作も「和製の唐絵」として、中国絵画を手本に制作されたことがわかります。
小田原の狩野派と雪村
京都で確立された唐絵の様式は、やがて地方へと広がっていきます。
関東では、小田原を拠点とした「小田原狩野派」が活躍しました。彼らは、京都の狩野派の絵を手本としながら、独自の作品を生み出していきます
関東では、小田原を拠点とした「小田原狩野派」が活躍しました。彼らは、京都の狩野派の絵を手本としながら、独自の作品を生み出していきます

《花鳥図》式部輝忠筆 日本・室町時代 16世紀 小林中氏寄贈
関東で活躍した画家の中で、最も強烈な個性を放ったのが、常陸国(現在の茨城県)出身の画僧・雪村周継です。
雪村は小田原や鎌倉などを遍歴し、独学で自らの画風を確立しました。
その代表作《龍虎図屏風》は、右隻に雲を呼び嵐を起こす龍、左隻に風を巻き起こし龍と対峙する虎を描いた大作です。
虎の独特なポーズや、まるで日本刀で断ち切られたかのようにスパッと折れた竹の表現など、雪村特有の誇張と奇抜な表現が随所に見られ、見る者を圧倒します。
雪村は小田原や鎌倉などを遍歴し、独学で自らの画風を確立しました。
その代表作《龍虎図屏風》は、右隻に雲を呼び嵐を起こす龍、左隻に風を巻き起こし龍と対峙する虎を描いた大作です。
虎の独特なポーズや、まるで日本刀で断ち切られたかのようにスパッと折れた竹の表現など、雪村特有の誇張と奇抜な表現が随所に見られ、見る者を圧倒します。

《龍虎図屏風》雪村周継筆 日本・室町時代 16世紀
祥啓と関東の水墨画
室町時代の関東では、鎌倉五山を中心とする禅宗寺院で水墨画が描かれていましたが、それを飛躍的に発展させたのが、鎌倉・建長寺の画僧であった祥啓(しょうけい)です。
祥啓は京にのぼり、足利将軍家の同朋衆(どうぼうしゅう)で、書画の鑑定や管理を担っていた芸阿弥(げいあみ)に師事することを許されます。これにより、祥啓は将軍家が所蔵する当代一流の中国絵画を、直接学ぶ機会を得たのです。
本展では、祥啓が修行を終えて鎌倉へ戻る際に、芸阿弥から与えられた《観瀑図》と、その影響を色濃く受けた祥啓自身の代表作《山水図》を並べて展示されています。
師から弟子へと画風がどのように受け継がれていったのか、直接見比べることができるまたとない機会となっています。

(左から)【重要文化財】《山水図》賢江祥啓筆 日本・室町時代 15世紀、 【重要文化財】《観瀑図》芸阿弥筆 月翁周鏡ほか二僧賛 日本・室町時代 文明12年(1480)
祥啓は京にのぼり、足利将軍家の同朋衆(どうぼうしゅう)で、書画の鑑定や管理を担っていた芸阿弥(げいあみ)に師事することを許されます。これにより、祥啓は将軍家が所蔵する当代一流の中国絵画を、直接学ぶ機会を得たのです。
本展では、祥啓が修行を終えて鎌倉へ戻る際に、芸阿弥から与えられた《観瀑図》と、その影響を色濃く受けた祥啓自身の代表作《山水図》を並べて展示されています。
師から弟子へと画風がどのように受け継がれていったのか、直接見比べることができるまたとない機会となっています。

(左から)【重要文化財】《山水図》賢江祥啓筆 日本・室町時代 15世紀、 【重要文化財】《観瀑図》芸阿弥筆 月翁周鏡ほか二僧賛 日本・室町時代 文明12年(1480)
今回が重要文化財指定後初公開となる《披錦斎図》は、鎌倉における詩画軸の古例にして代表作とされる作品です。
ある人物が夢で見た美しい書斎の光景を描かせたと伝えられ、水墨が主流だった室町時代の詩画軸では珍しく、桃林に咲く花々が、白、緑、赤といった色とりどりの細やかな彩色で描かれています。

【重要文化財】《披錦斎図》宗甫紹鏡ほか六僧賛 日本・室町時代 寛正5年(1464)
さらに同時開催展として、展示室4では鳳凰文様の中国鏡の特集展示、展示室6では「涼みの一服」をテーマに、暑い夏に涼を呼ぶ茶道具約20件が、季節感あふれる取り合わせで紹介されています。

展示室6《砂張釣舟花入 銘 艜》東南アジア 15世紀

展示室6《砂張釣舟花入 銘 艜》東南アジア 15世紀
また、今回の展覧会に合わせて、『根津美術館 新蔵品選「中国絵画・中世絵画」編』が刊行されました。
李安忠筆《鶉図》、牧谿筆《漁村夕照図》、因陀羅筆《布袋蒋摩訶図》という3件の国宝をはじめ、重要文化財を多数含む質の高い作品群から、精選された133件を収録。豊富な図版と専門家による解説により、作品の魅力をじっくりと味わえる一冊です。

李安忠筆《鶉図》、牧谿筆《漁村夕照図》、因陀羅筆《布袋蒋摩訶図》という3件の国宝をはじめ、重要文化財を多数含む質の高い作品群から、精選された133件を収録。豊富な図版と専門家による解説により、作品の魅力をじっくりと味わえる一冊です。

中国絵画への憧れから始まり、独自の美意識を加えて日本で花開いた「唐絵」の世界。
作品一つ一つの魅力とともに、それらが織りなす美の系譜を、ぜひ会場で感じてみてください。
作品一つ一つの魅力とともに、それらが織りなす美の系譜を、ぜひ会場で感じてみてください。
【開催概要】
展覧会名: 企画展「唐絵―中国絵画と日本中世の水墨画―」
会期: 2025年7月19日(土)~8月24日(日)
会場: 根津美術館
開館時間: 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日: 毎週月曜日(ただし7月21日、8月11日の祝日は開館し、翌火曜休館)
入館料: オンライン日時指定予約 一般 1300円、学生 1000円 (中学生以下は無料)
公式ホームページ: https://www.nezu-muse.or.jp




