江⼾時代、庶⺠の娯楽として花開いた浮世絵。
その⻩⾦期を彩った巨匠たちの作品が⼀堂に会する「五⼤浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」が、2025年7⽉6⽇まで、東京‧上野の上野の森美術館で開催中です。
その⻩⾦期を彩った巨匠たちの作品が⼀堂に会する「五⼤浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」が、2025年7⽉6⽇まで、東京‧上野の上野の森美術館で開催中です。
本展では、美人画、役者絵、風景画など、各分野で頂点を極めた、浮世絵界のビッグ5ともいえる絵師たちの代表作を中心に約140点が集結。それぞれの絵師がどのように時代を捉え、独自の作風を確立していったのか、その変遷をたどります。

会場入口
「喜多川歌麿 ― 物想う女性たち」
展示は、美人画の第一人者・喜多川歌麿(1753?~1806)から始まります。
彼の描く女性たちは、単に美しいだけでなく、しぐさや表情を通じて内面の感情まで繊細に描き出されています。
彼の描く女性たちは、単に美しいだけでなく、しぐさや表情を通じて内面の感情まで繊細に描き出されています。
左上の小さな絵には、名前を絵で示す「判じ絵」が描かれており、この女性が吉原の最上位の遊女・花妻であることがわかります。手にしている文には、歌麿の絵を見て恋しい人を思う気持ちが綴られており、美人画の頂点を極めた絵師としての自負もうかがえます。
また、《教訓親の目鑑 俗二云 ばくれん》は、「ばくれん(おてんばで男勝りな女性)」と呼ばれる女性が、胸元をはだけて、グラスで酒を勢いよく飲む姿を描いた教訓絵のシリーズの一枚。悪女的な女性を描きながらも、その個性の中に美点を見出し、高いレベルの美人画に仕上げる歌麿の手腕が光ります。

「喜多川歌麿 ― 物想う女性たち」展示風景より、(左)《教訓親の目鑑 俗二云 ばくれん》 享和2年 (1802) 頃
ほかにも、子どもたちが主役の《風流子寶合 大からくり》や、寛政期を代表する美人二人が腕相撲で競う《西ノ方関 浅草 難波屋きた 東ノ方関 両国 高しまひさ》、隅田川で涼を楽しむ女性たちを描いた《両国橋上橋下納涼之図(橋下の図)》など、歌麿の多彩な世界が楽しめます。
「東洲斎写楽 ― 役者絵の衝撃」
次に登場するのは、「役者大首絵」で知られる東洲斎写楽(生没年不詳)です。
わずか10ヶ月という短い活動期間に、蔦屋重三郎のプロデュースのもと、約145点の作品を残しました。
本展では、写楽の活動を4期に分け、それぞれの時期の特色ある作品を紹介しています。
中でも、最も完成度が高いとされる第1期の作品が半数以上を占めており、これほどの点数が一堂に揃うのはとても貴重な機会です。
わずか10ヶ月という短い活動期間に、蔦屋重三郎のプロデュースのもと、約145点の作品を残しました。
本展では、写楽の活動を4期に分け、それぞれの時期の特色ある作品を紹介しています。
中でも、最も完成度が高いとされる第1期の作品が半数以上を占めており、これほどの点数が一堂に揃うのはとても貴重な機会です。
《⼆代⽬嵐⿓蔵の⾦貸⽯部⾦吉》は、悪役を得意とした2代目嵐龍蔵が演じる金貸しの表情を巧みに捉えた作品。⽬や⼝、指の⼀本⼀本まで⼒が込められた描写は圧巻です。右上の賛は後世のもので、写楽の絵を称賛する⾔葉が記されています。

「東洲斎写楽 ― 役者絵の衝撃」展⽰⾵景より、(右)《⼆代⽬嵐⿓蔵の⾦貸⽯部⾦吉》寛政6年(1794)
⼀⽅、《尾上松助の松下造酒之進》では、やつれた浪⼈の悲壮感が漂う姿が描かれています。写楽は役者を単に美化するのではなく、その役柄の本質や、時には⽋点までも描き出す写実的な表現を追求しました。
《尾上松助の松下造酒之進》寛政6年(1794)
ほかにも個性的な顔⽴ちの⼥形を描いた《中⼭富三郎の宮城野》や、ふくよかな名女形、4代目岩井半四郎が子を思う母の情を演じる姿を描いた《四代目岩井半四郎の乳人重の井》、そして稀品とされる相撲絵の三枚続《大童山土俵入り》など、浮世絵⻩⾦時代に異彩を放った、写楽の真⾻頂ともいえる作品群に出会うことができます。

《中山富三郎の宮城野》寛政 6 年 (1794)

「葛飾北斎 ― 怒涛のブルー」
続いて、90歳で没するまで精力的に描き続け、常に新しい表現を追求した葛飾北斎(1760~1849)の画業をたどります。
北斎は、役者絵からスタートしますが、風景、花鳥、人物とあらゆるものを描き、様々な分野でその才能を発揮しました 。
北斎は、役者絵からスタートしますが、風景、花鳥、人物とあらゆるものを描き、様々な分野でその才能を発揮しました 。
「冨嶽三⼗六景」シリーズを発表したのは70歳代に⼊ってから。
その中の《冨嶽三⼗六景 神奈川沖浪裏》は、「グレート・ウェーブ」として世界的に知られています。
同じシリーズの《冨嶽三⼗六景 ⼭下⽩⾬》では、赤く染まる山頂と、雷雨に包まれた麓という対照的な現象を一図に収め、天候の変化が激しい富士の気候を見事に描き出しています。
その中の《冨嶽三⼗六景 神奈川沖浪裏》は、「グレート・ウェーブ」として世界的に知られています。
同じシリーズの《冨嶽三⼗六景 ⼭下⽩⾬》では、赤く染まる山頂と、雷雨に包まれた麓という対照的な現象を一図に収め、天候の変化が激しい富士の気候を見事に描き出しています。
(左から)《冨嶽三⼗六景 ⼭下⽩⾬》 天保2年(1831)頃、《冨嶽三⼗六景 神奈川沖浪裏》天保2年(1831) 頃
このシリーズでは、ほかにも《江⼾⽇本橋》、《相州七⾥浜》などが展⽰され、北斎による多様な富⼠の姿を楽しむことができます。
北斎は東海道をテーマにした作品も⼿がけています。広重よりも約20年早く制作された、北斎の「東海道五十三次 絵本駅路鈴」シリーズと広重の作品を⽐較してみるのもおもしろいでしょう。

「東海道五⼗三次 絵本駅路鈴」シリーズの展⽰
北斎の画業は⾵景画に留まりません。
「⽂字絵六歌仙」シリーズは、着物の輪郭線がその歌仙の名前を表す⽂字となっているという、遊び⼼のある作品です。

「文字絵六歌仙」シリーズの展示
このほか役者絵や、花鳥画、そしてあらゆるものを描いた絵手本『北斎漫画』など、北斎の尽きることのない探求心と卓越した画力を示す作品が並んでいます。

《『北斎漫画』 初〜15 編》 ⽂政11-明治11年(1828-78)
「歌川広重 ― 雨・月・雪の江戸」
歌川広重(1797~1858)は、火消同心という武士の家に生まれながら、絵の道に進み、当初は美人画や役者絵なども描いていました。
本展では、若き日の広重が手がけた美人画なども展示され、彼の画業の幅広さを知ることができます。

(左から)《外と内姿⼋景 ろうかの暮雪 座敷の⼣せう 》 、《極彩⾊今様うつしゑ 美⼈仙⼥⾹》いずれも⽂政4-5年 (1821-22)頃
広重の名を不動のものにしたのが「東海道五拾三次之内」シリーズです。当時の旅ブームと相まって大ベストセラーとなりました。
雪がしんしんと降る静寂の世界を描いた《蒲原 夜之雪》は、シリーズの中でも詩情あふれる傑作として名⾼く、本展では貴重な初摺りが展⽰されています。

「歌川広重 ― ⾬‧⽉‧雪の江⼾」展⽰⾵景より、(左)《東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪》天保4-5年(1833-34)頃
さらに、出発点である《⽇本橋 朝之景》、突然の⾬にあわてる旅⼈たちの様⼦を描いた《庄野 ⽩⾬》など、当時の旅の雰囲気を伝える作品が並んでいます。
広重は、各地の名所を描いた名所絵も得意としていました。
「名所江⼾百景」シリーズは、晩年の代表作として名⾼い作品です。縦⻑の画⾯を⼤胆に使い、近景にモチーフを⼤きく配すことで遠近感を強調したり、⿃瞰図のような斬新な視点を取り⼊れたりと、広重の新たな挑戦が⾒られます。

(左から)《名所江⼾百景 ⽔道橋駿河台》、《名所江⼾百景 ⻲⼾梅屋舗》、《名所江⼾百景 ⼤はしあたけの⼣⽴》 いずれも安政4年(1857)
ほかにも切⼿の図案として有名な《⽉に雁》、縦⻑の判型で崖の⾼さを強調した《甲陽猿橋之図》、そして三枚続の⼤画⾯で江⼾の⽉⾒の名所を描いた《江⼾名所 四季の眺 ⾼輪⽉の景》など、広重の多彩な表現に触れることができます。

(左から)富士川上流の雪景甲陽猿橋之図、 天保 13 年 (1842) 頃
「歌川国芳 ― ヒーローとスペクタクル」
最後を飾るのは、広重と同い年の歌川国芳(1797〜1861)です。
長い下積みを経て、中国の小説「水滸伝」の豪傑たちを描いた「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」シリーズで”武者絵の国芳"として大ブレイクしました。
水門を破る張順の姿をダイナミックに描いた《浪裡白跳張順》は、シリーズ随一の傑作とされています。
水門を破る張順の姿をダイナミックに描いた《浪裡白跳張順》は、シリーズ随一の傑作とされています。

「歌川国芳 ― ヒーローとスペクタクル」展⽰⾵景より、(右)《通俗⽔滸伝豪傑百⼋⼈之壱⼈ 浪裡⽩跳張順》 ⽂政末年(1827-29) 頃
《相⾺の古内裏》は、原作の⼩さな骸⾻の群れを巨⼤な骸⾻へと⼤胆にアレンジした作品です。
同じく3枚続きの《讃岐院眷属をして為朝をすくふ図》は、源為朝が嵐の中で烏天狗に助けられる劇的な場⾯を迫⼒満点に描いています。
同じく3枚続きの《讃岐院眷属をして為朝をすくふ図》は、源為朝が嵐の中で烏天狗に助けられる劇的な場⾯を迫⼒満点に描いています。

(左から)《讃岐院眷属をして為朝をすくふ図》嘉永3-5年(1850-52)頃、《相⾺の古内裏》弘化年間(1844-48)頃
国芳は庶民のニーズに応え、新しい表現に挑み続けました。
本展では、西洋画を意識した風景画のほか、人の体を組み合わせて別の形を描くユニークな戯画や、壁の落書きを思わせる役者の似顔絵など、斬新でユーモラスな作品も紹介されています。
本展では、西洋画を意識した風景画のほか、人の体を組み合わせて別の形を描くユニークな戯画や、壁の落書きを思わせる役者の似顔絵など、斬新でユーモラスな作品も紹介されています。

(左から)《⽩⾯笑壁のむだ書》嘉永年間(1848-53)、《⼈かたまつて⼈になる》、《としよりのよふな若い⼈だ》いずれも弘化4-5年(1847-48)頃
興味深いのは、名彫刻師・左甚五郎のアトリエを描いたとされる《名誉 右に無敵左り甚五郎》です。
中央に座る甚五郎は顔こそ見えませんが、地獄変相図のどてらや傍らの猫などから、国芳本人を描いたと考えられます。
中央に座る甚五郎は顔こそ見えませんが、地獄変相図のどてらや傍らの猫などから、国芳本人を描いたと考えられます。

《名誉 右に無敵左り甚五郎》嘉永元年(1848)頃
展覧会をさらに楽しむ!
本展では、一部の作品に限り写真撮影が可能です。お気に入りの絵師の作品を撮影して、SNSなどでシェアするのもおすすめです。
また、歌舞伎俳優の尾上松也さんがナビゲーターを務める無料の音声ガイドは、絵師にまつわるエピソードを交えながら、作品の魅力をわかりやすく紹介してくれます。スマートフォンとイヤホン等を持参のうえ、ぜひ利用してみましょう。
特別展⽰として、現代の絵師‧⽯川真澄⽒が松也さんの歌舞伎⾃主公演「挑む」に際して描いた作品も展⽰されています。

⽯川真澄 《挑む 尾上松也「挑む 第⼋回 外伝」より》 平成 28 年 (2016) ※上野の森美術館のみ展⽰
©UKIYO-E PROJECT / KONJAKU Labo.
また、会場内の特設ショップでは、展覧会公式図録や、展示作品にちなんだ様々なオリジナルグッズが販売されています。
定番のクリアファイルやトートバッグ、ポストカードはもちろん、北斎の《神奈川沖浪裏》や歌麿の美人画がデザインされたがま口クラッチ、国芳の《相馬の古内裏》に登場する巨大な骸骨をあしらった長財布や靴下など、浮世絵の世界観を大胆に取り入れたユニークなアイテムも注目です。さらに、一口羊羹、歌麿かすてら焼、ミニ鏡付きのポッピン缶など、お土産にもぴったりの品々が用意されています。

「五大浮世絵師展」は、浮世絵の黄金期を築いた五人の巨匠たち個性と才能を一度に堪能できるまたとない機会です。
歌麿の描く女性の艶やかな色香、写楽の役者絵が放つ強烈な個性、北斎の森羅万象を捉える大胆な構図、広重の叙情性あふれる風景、そして国芳の奇想天外な世界観。それぞれの絵師の個性と才能がぶつかり合う空間は圧巻の一言です。
この機会にぜひ、上野の森美術館で、浮世絵スターたちの夢の競演を楽しんでみましょう。

歌麿の描く女性の艶やかな色香、写楽の役者絵が放つ強烈な個性、北斎の森羅万象を捉える大胆な構図、広重の叙情性あふれる風景、そして国芳の奇想天外な世界観。それぞれの絵師の個性と才能がぶつかり合う空間は圧巻の一言です。
この機会にぜひ、上野の森美術館で、浮世絵スターたちの夢の競演を楽しんでみましょう。

【開催概要】
展覧会名:五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳
会期:2025年5月27日(火)~7月6日(日)
会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
開館時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:会期中無休
入館(観覧)料:一般 2,000円、高校・専門・大学生 1,500円、小・中学生 800円
公式ホームページ:https://www.5ukiyoeshi.jp/