東京‧⽂京区の永⻘⽂庫で、2025年7⽉5⽇(⼟)から8⽉31⽇(⽇)まで、夏季展「書斎を彩る名品たち―⽂房四宝の美―」が開催されます。この展覧会では、永⻘⽂庫の設⽴者、細川護⽴(もりたつ)の収集品から、「硯で墨をすって筆で紙に書く」という行為を彩った文具の数々が紹介されます。
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「百寿文軸筆」永青文庫蔵

「⽂房四宝」とは?
「⽂房四宝」とは、書や絵を描く際に⽋かせない筆、墨、硯、紙のことです。中国で⻑い歴史を経て進化し、知識⼈に愛玩されてきました。 「⽂房」は、もともと詩作や読書にふけるための書斎を意味し、「筆墨硯紙」が特に「四宝」として尊ばれたのです。単なる道具としてだけでなく、⽂化的な価値が評価され、材質や装飾が鑑賞の対象となりました。
細川護⽴は晩年に中国の⽂物に深い関⼼を寄せ、⽂房四宝を熱⼼に収集しました。 その情熱は息⼦の護貞にも受け継がれ、父と共に文房四宝への関心を深めました。
今回の展示では、⽂房四宝90点以上を再調査した中から、選りすぐりの約60点が20年ぶりに公開されます。
来館者全員には、鑑賞の手引きとして役立つ解説リーフレットが配布されます。これを手に展示を巡れば、文房四宝の魅力をより深く味わえるでしょう。
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書斎の細川護立

「筆」
⻑い歴史を持つ筆は、紀元前16世紀の殷時代に始まります。 戦国時代には兔⽑と⽵軸でできた筆が出⼟しており、時代とともに素材や構造を変えながら進化してきました。 筆の穂先には兔や⾺、鼬(いたち)など様々な動物の⽑が使われ、軸には象⽛や⽟といった高級な素材が⽤いられたものもあります。
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「馬上人物堆朱軸筆」永青文庫蔵

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「玉軸筆」永青文庫蔵

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「象牙軸山馬筆」永青文庫蔵

「墨」
紀元前316年の竹簡に「墨」の字が見られ、古くは松を燃やした煤(すす)を原料とする「松煙墨(しょうえんぼく)」でしたが、その後、植物油や鉱物油の煤から作られる墨なども登場しました。墨は硯との相互性が重要であるため、硯とともに変化し改良されてきました。 明清時代の優れた墨匠たちは、後世に残る素晴らしい名墨を⽣み出しています。
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「乾隆年製 御製詠墨詩墨」永青文庫蔵

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「御墨乾隆辛卯年製朱墨」永青文庫蔵

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「如意墨」永青文庫蔵

「硯」
硯は、秦時代の初期の墓から、⽯製で板状のものが出土しています。 後漢時代まで墨を磨りつぶすための研⽯とセットでしたが、次第に⼿で墨を持って磨る形式へと変化し、素材も陶磁製へ変化していきます。その後安徽省や広東省などで良質な硯材の開発もあり、宋時代から素材は石製が主流となっていきました。石質、石紋、発墨(はつぼく、硯で磨った墨の濃淡や光沢)などが見どころです。
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「岫雲硯」永青文庫蔵

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「宋洮河緑石硯」永青文庫蔵

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「古歙龍尾鱗硯」永青文庫蔵

「紙」
紙の歴史も古く、紀元前2世紀頃の墓から出土した「放⾺灘紙(ほうばたんし)」が最古のものとされています。 後漢時代中期には蔡倫(さいりん)が製紙法を改良し、簡牘(かんどく)に代わって晋時代の末頃には紙が公文書となりました。素材は、漢時代に麻を原料とした紙が発見されているほか、楮(こうぞ)や⽵、藁(わら)などが⽤いられ、⽇本では雁⽪(がんぴ)や三椏(みつまた)なども使われました。また加工技術の向上とともに、装飾的な高級紙も多く作られました。
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「乾隆年仿澄心堂紙」永青文庫蔵

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「乾隆年仿澄心堂紙」永青文庫蔵

特集展示「喫煙具」
2階展⽰室では、特集展⽰として「喫煙具」が紹介されます。煙草入れは、きざみ煙草を持ち歩くための入れ物で、江戸時代に喫煙が一般化すると、携帯に適した様式が確立しました。本展では、相良繍(さがらぬい)や絽刺(ろざし)といった繊細な刺繍が施されたものや、象⽛を編み込んだ象⽛網代(ぞうげあじろ)など、多様な技法が盛り込まれた「たばこ入れ」や、豪華な蒔絵の「たばこ盆」を見ることができます。
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「絽刺腰差したばこ入れ」永青文庫蔵

細川家に伝わる貴重な⽂房四宝のコレクションは、単なる道具としての美しさだけでなく、それらが⽣み出してきた歴史や、コレクターの情熱をも感じさせてくれます。この夏は、選りすぐりの名品とともに、書斎という⼩宇宙の豊かな美意識と悠久の歴史への旅を楽しんでみてはどうでしょうか。
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永青文庫外観

【開催概要】
展覧会名:書斎を彩る名品たち―⽂房四宝の美―
会期:2025年7⽉5⽇(⼟)〜2025年8⽉31⽇(⽇)
会場:永⻘⽂庫
住所:東京都⽂京区⽬⽩台1-1-1
開館時間:10:00〜16:30(最終⼊館時間 16:00)
休館⽇:毎週⽉曜⽇(ただし、7⽉21⽇‧8⽉11⽇は開館し、7⽉22⽇‧8⽉12⽇は休館)
⼊館料:⼀般 1000円、シニア(70歳以上) 800円、⼤学‧⾼校⽣ 500円 ※中学⽣以下、障害者⼿帳をご提⽰の⽅及びその介助者(1名)は無料
永⻘⽂庫 公式サイト:https://www.eiseibunko.com/