日本画家・上村松園の生誕150年を記念し、東京・広尾の山種美術館では特別展「生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち」が2025年7月27日(日)まで開催されています。
山種美術館の創立者である山﨑種二は、松園と親しく交流し、その作品を熱心に蒐集しました。
この展覧会では、館蔵品18点を含む22点が展示されるほか、2025年に生誕130年を迎える小倉遊亀、生誕120年の片岡球子といった、同じく記念の年を迎える女性画家たちの個性豊かな作品も展示されます。京都、大阪、東京画壇の名だたる画家たちによる美人画の競演も見どころの一つです。
この展覧会では、館蔵品18点を含む22点が展示されるほか、2025年に生誕130年を迎える小倉遊亀、生誕120年の片岡球子といった、同じく記念の年を迎える女性画家たちの個性豊かな作品も展示されます。京都、大阪、東京画壇の名だたる画家たちによる美人画の競演も見どころの一つです。
第1章「上村松園の世界」
1875年(明治8年)、京都に生まれた上村松園は、生涯を通じて内面の気高さと品格を伴った理想の女性像を追求し続けました。美人画の名手として高く評価され、73歳で女性初の文化勲章を受章しています。
この章では、画業初期の瑞々しい感性が光る作品から、晩年の円熟期にいたるまでの作品を通して、松園の芸術世界に迫ります。

上村松園《姉妹》1903(明治36)年頃 個人蔵
江戸や明治の風俗、和漢の古画、伝統芸能などを幅広く研究した松園の作品には、浮世絵の影響が見られるものもあります。《蛍》(大正2年)は、喜多川歌麿の浮世絵などを参考にした可能性が指摘されています。また、《春のよそをひ》(昭和11年頃)で扇子を手に髪飾りに手をやる女性のポーズは、歌麿の作品を思わせます。

(左)上村松園《蛍》1913(大正2)年 山種美術館
松園は作品の表装(絵の周りの布地)に強いこだわりを持っており、なかには松園が現存時に表装したとみられる作品も残っています。
《夏美人》(昭和17年頃)では、高価な竹屋町裂を面積の大きな中廻しに使用しています。紫色の染めと刺繍の裂を使った《春芳》(昭和15年)や、片輪車文様の裂を用いた《春のよそをひ》(昭和11年頃)など、大胆な取り合わせも見られます。このように、作品ごとの表装に着目することも、松園作品の鑑賞の楽しみの一つです。

上村松園《春芳》1940(昭和15)年 山種美術館
また、松園は読書をする女性の姿を好んで描きました。その一つ、《つれづれ》(昭和15年頃、個人蔵)では、書物からふと顔を上げた女性の一瞬の表情が捉えた作品です。冊子に記された文字から、『源氏物語』を読む場面であることがわかります。
《美人観書図》(昭和15年頃、個人蔵)や、山種美術館所蔵の《つれづれ》(昭和16年)なども、書物と向き合う女性を描いた作品です。
《美人観書図》(昭和15年頃、個人蔵)や、山種美術館所蔵の《つれづれ》(昭和16年)なども、書物と向き合う女性を描いた作品です。
ローマで開催された日本美術展に出品された《新蛍》は、松園の代表作の一つです。松園は、簾越しにたたずむ女性の姿を繰り返し描いており、本作のように、夏の風物詩である団扇や蛍とともに表現した作品も多く見られます。
《牡丹雪》(昭和19年)は、雪の中を歩む二人の娘の姿を、余白を生かした構図で描き、冬の日の静寂と寂寥感までも表現しています。
そして、松園芸術の粋を極めたと評される《庭の雪》(昭和23年)や、同じく晩年の《杜鵑を聴く》(昭和23年)には、清澄で気品に満ちた松園の美人画の世界の到達点を見ることができます。
会場では松園の言葉や、松園から山﨑種二に宛てた直筆の手紙なども展示され、画家の人間性や美術館との深いつながりも、かいま見ることができます。
第2章「美人画の時代」
この章では、上村松園と同時代およびそれ以降に活躍した京都、大阪、東京画壇の画家たちによる美人画を紹介します。美人画の黄金時代ともいえるこの時期、それぞれの地域で個性豊かな女性像が花開きました。
京都画壇では、円山・四条派の流れをくむ菊池契月が活躍しました。大阪画壇で活躍した島成園は、松園、池田蕉園(東京)と共に「三都三園」と称されました。大正時代の流行を取り入れた装いの女性を描いた《花占い》は、外見だけでなく、内面の表現にも迫ろうとする成園の意欲がうかがえます。

(左から)菱田春草《桜下美人図》1894(明治27)年 山種美術館、島成園《花占い》 20世紀(大正-昭和時代) 個人蔵
そして、「西の松園、東の清方」と並び称されたのが鏑木清方です。浮世絵師の流れをくみ、江戸の情趣漂う粋な美人画で一世を風靡しました。本展では、代表作の一つ《伽羅》(昭和11年)など5点が展示されています。
清方は松園について、「京都の美人画は…松園の手の内にはいってからあらゆる夾雑物がすっかり整理されて渾然大成した」「作品はどんな時でも美を第一義とする至上観を雄弁に語っている」と高く評価しています。
清方は松園について、「京都の美人画は…松園の手の内にはいってからあらゆる夾雑物がすっかり整理されて渾然大成した」「作品はどんな時でも美を第一義とする至上観を雄弁に語っている」と高く評価しています。
清方の弟子である伊東深水も、美人画で高い評価を得ました。展示では、人気女優の木暮実千代をモデルにした作品や、江戸初期の京都の名妓を優美に描いた《吉野太夫》などが紹介されています。
官展を中心に活躍した松園に対し、在野の院展では小倉遊亀と片岡球子が女性画家として頭角を現しました。
小倉遊亀は、大胆なデフォルメと清澄な色調による女性像を得意としました。《舞う(舞妓)》と《舞う(芸者)》は、荻江節「鐘の岬」を舞う二人の姿を描いた作品で、金箔と金泥を重ねた背景が華やかさを添えています。

(左から)小倉遊亀《舞う(舞妓) 》1971(昭和46)年 山種美術館、小倉遊亀《 舞う(芸者) 》1972(昭和47)年 紙本金地・彩色 山種美術館

(左から)小倉遊亀《舞う(舞妓) 》1971(昭和46)年 山種美術館、小倉遊亀《 舞う(芸者) 》1972(昭和47)年 紙本金地・彩色 山種美術館
片岡球子は、型破りな構成と大胆な色使いで力強い作品を生み出しました。ライフワークである「面構(つらがまえ)」シリーズの《鳥文斎栄之》には、画中画として肉筆の美人画が添えられています。また、葛飾北斎の娘を描いた作品も展示されています。

(左から)片岡球子《むすめ》1982(昭和57)年 山種美術館、片岡球子《北斎の娘おゑい》1982(昭和57)年 山種美術館
明治20年代半ばから大正初期にかけて、新聞や文芸雑誌の木版口絵が流行し、そこに描かれた美しい女性像が人気を博しました。多色摺りで精巧に作られた、鏑木清方、寺崎広業、梶田半古、尾竹竹坡らの作品からは、当時の出版文化における美人画の様相を見ることができます。

木版口絵の展示より、(左)富岡永洗《五月雨 (『文藝倶楽部』第 8 巻 8 号 木版口絵)》1902(明治 35)年 山種美術館
ほかにも、菱田春草が東京美術学校時代に制作した《桜下美人図》や、池田輝方が夕立の情景を描いた《タ立》など、明治から大正にかけての美人画の競演が楽しめます。第3章「女性表現の多彩な広がり」
女性を主題とした絵画は、時代とともにその表現も多様化し、現代に至るまで数多くの画家によって個性豊かに描かれ続けています。最後の章では、近代から現代にかけての、より多彩な女性表現の広がりを紹介しています。
近代・現代を通じて、美人画の定番モチーフの一つとして描かれ続けてきたのが舞妓です。
青山亘幹の《舞妓四題》は、身支度を整える姿やコンパクトを覗き込むしぐさなど、舞妓のふとした素顔の一瞬を捉えた作品です。

青山亘幹 《舞妓四題》より(左から)「11月」、「正月」1985(昭和60)年 個人蔵
北田克己や京都絵美など、現在第一線で活躍する画家たちも、現代的な感性で女性像に新たな息吹を吹き込んでいます。
特製和菓子とミュージアムグッズで余韻を楽しむ
《新蛍》(右下)や《牡丹雪》(右上)など、それぞれの作品の雰囲気や色彩を、和菓子で味わえるのも本展ならではの魅力です。鑑賞後は、温かい抹茶やコーヒーと共に、展覧会の感動をゆっくりと振り返るひとときを過ごしてみてはどうでしょうか。
また、ミュージアムショップでは、出品作品をデザインにあしらったクリアファイル、ポストカード、マスキングテープ、一筆箋など、多彩なオリジナルグッズが取り揃えられています。

本展は、松園が追求した清澄で気品あふれる美人画の世界を心ゆくまで堪能できる、またとない機会です。さらに同時代から現代に至るまでの画家たちによる多様な女性表現に触れることで、日本画における美人画の奥深さと新たな魅力を発見することができます。
画家たちがそれぞれの感性で描き出した「麗しき女性たち」との出会いを楽しんでみませんか。
画家たちがそれぞれの感性で描き出した「麗しき女性たち」との出会いを楽しんでみませんか。
【開催概要】
展覧会名: 【特別展】生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち
会期: 2025年5月17日(土)~7月27日(日)
会場: 山種美術館 (〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36)
開館時間: 午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日: 月曜日 [7月21日(月・祝)は開館、7月22日(火)は休館]
入館料: 一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)。
公式ホームページ: https://www.yamatane-museum.jp/