2025年夏、奈良国立博物館にて「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」が開催されます(会期:2025年7月26日~9月23日)。
この展覧会は、天理大学附属天理参考館が所蔵する世界中から集められた約30万点もの膨大なコレクションから厳選した作品群と、奈良国立博物館の仏教美術の名品とを併せて展示し、人類約6000年の歴史を探求します。出品される約220件の中には、天理参考館のみが所蔵する稀少な品や、初公開となる作品も含まれています。
さらに、本展のすべての展示品は写真撮影OK。「摩訶不思議アワー」と題した、通常とは異なる照明やデジタル演出の時間も予定されています。
第1章「文明の交差する世界」
第1章では、オリエントおよび中国に焦点をあて、数千年前の古代文明の誕生から、シルクロードを介した東西交流に至るまでを中心に概観します。
まず第1節「東西文明のおこり」では、イラン、イラク、ギリシア、そして中国といった地域で発展した文明の様子を、教科書でもおなじみの楔形文字が刻まれた粘土文書や美しいギリシア陶器、中国の精巧な青銅器などを通して紹介します。
約4000年前のシュメール王の彫像である《グデア頭像》は、「誰にも破壊できないように」硬い閃緑岩で作られています。

グデア頭像 イラク 紀元前2100年頃 天理大学附属天理参考館蔵
中国の龍山文化期(紀元前3000~前2000年頃)に作られた《黒陶高脚杯》は、まるで鶏の卵の殻のように薄く軽い造形が特徴で、当時の驚くべき陶芸技術の高さを今に伝えています。

グデア頭像 イラク 紀元前2100年頃 天理大学附属天理参考館蔵
中国の龍山文化期(紀元前3000~前2000年頃)に作られた《黒陶高脚杯》は、まるで鶏の卵の殻のように薄く軽い造形が特徴で、当時の驚くべき陶芸技術の高さを今に伝えています。
殷代の技術の粋を集めた《緑松石象嵌青銅内玉戈(りょくしょうせきぞうがんせいどうないぎょくか)》は、玉の刃にトルコ石で見事な龍の文様が施され、殷代の技術を結集した至高の宝器といえるでしょう。

緑松石象嵌青銅内玉戈 中国 殷(紀元前13~前11世紀) 天理大学附属天理参考館蔵
加彩鎮墓獣 中国 唐(8世紀) 天理大学附属天理参考館蔵
豪華な装飾が施された《鍍金銀八曲長杯(ときんぎんはっきょくちょうはい)》のような多曲杯は、正倉院にも多く伝わっており、東西文化の交流を物語る貴重な作品です。また、正倉院の宝物には「白瑠璃碗」の名で知られている《カットガラス碗》(サーサーン朝(5~6世紀)、伝イラン、天理大学附属天理参考館蔵)も展示されます。

鍍金銀八曲長杯 伝イラン サーサーン朝(6~7世紀) 天理大学附属天理参考館蔵

鍍金銀八曲長杯 伝イラン サーサーン朝(6~7世紀) 天理大学附属天理参考館蔵
ペルシアの王が描かれたとも考えられる《鍍金銀帝王狩猟文皿》(7世紀、伝イラン、天理大学附属天理参考館蔵)は、法隆寺にも伝わる「獅子狩文」と同じモチーフの銀皿。これもシルクロードを介した東西交流の証ともいえるでしょう。
第3節「ひろがる祈りの世界」では、インドでおこった仏教が、中国を経て日本へ伝わった道のりを、天理参考館と奈良国立博物館双方の収蔵品を通して辿ります。
シルクロードの東の終着点である日本で造られたのが、《釈迦如来立像(清凉寺式)》(鎌倉時代 文永10年(1273)、奈良国立博物館蔵)です。これは、釈迦の真の姿を写したという伝承のある京都・清凉寺の像を模したもので、当時の人々の「釈迦に会いたい」という切なる祈りがつくりあげた像です。

釈迦如来立像(清凉寺式) 日本 鎌倉時代 文永10年(1273) 奈良国立博物館蔵

釈迦如来立像(清凉寺式) 日本 鎌倉時代 文永10年(1273) 奈良国立博物館蔵
「迦楼羅王(かるらおう)」は、インドの霊鳥・ガルダが起源で、仏教では八部衆や二十八部衆の一尊です。毒蛇を食べる強大な力を持ち、仏教のみならずヒンドゥー教でもあつい信仰を集めています。

二十八部衆立像のうち迦楼羅王 日本 鎌倉時代(13世紀) 奈良国立博物館蔵
「文明遺跡の発掘」では、学術的な探求の歴史にも光を当てます。日本の調査隊が発掘調査を行ったイスラエルのテル・ゼロール遺跡から出土した資料群や、トロイア遺跡の発見者として名高いハインリヒ・シュリーマンが1884年から1885年にかけて行った、ギリシアのティリンス遺跡の発掘調査に関する報告書の原画など貴重な作品が展示されます。

ティリンス遺跡調査報告書原画 シュリーマン直筆入り 19世紀 天理大学附属天理参考館蔵
第2章「神々と摩訶不思議な世界」
第2章では、世界各地の信仰と死後の世界に関わる、驚きと魅力に満ちた品々を紹介します。ニューギニア、インドネシア、台湾、インド、古代エジプト、そしてアンデスと、まるで世界を巡るように展示が構成され、それぞれの地域で育まれた多様な信仰の形や死生観に触れることができます。
特に目を引くのは、パプアニューギニアの仮面群です。山に棲む精霊を表したとされる《精霊仮面「コヴァヴェ」》や、正体不明の《儀礼用仮面「マイ」》は、その独特な造形美で見る者を圧倒します。
同じくパプアニューギニアの《葬儀用飾り貫「マランガン」》(いずれも20世紀前半、天理大学附属天理参考館)は、現在では現地でも見ることが難しくなった長大な追悼供養のための彫刻群の一部であり、日本国内では天理参考館のみが所蔵するとても貴重なものです。
同じくパプアニューギニアの《葬儀用飾り貫「マランガン」》(いずれも20世紀前半、天理大学附属天理参考館)は、現在では現地でも見ることが難しくなった長大な追悼供養のための彫刻群の一部であり、日本国内では天理参考館のみが所蔵するとても貴重なものです。

精霊仮面「コヴァヴェ」 パプアニューギニア、ニューギニア島 20世紀前半 天理大学附属天理参考館蔵

儀礼用仮面「マイ」 パプアニューギニア、ニューギニア島 20世紀中頃 天理大学附属天理参考館蔵
インドネシア、バリ島からは、儀礼劇で使われた仮面が登場します。
恐ろしい形相の《儀礼劇チャロナランの仮面 魔女ランダ》は、髪に人毛を使い、人の腸を表す紐を垂らした魔女の姿。
《儀礼劇チャロナランの仮面 聖獣バロン・ケケット》(いずれも20世紀前半、天理大学附属天理参考館蔵)は、バリの善なるものの象徴であり、その舌にはバリ文字で聖なる言葉が記されています。
恐ろしい形相の《儀礼劇チャロナランの仮面 魔女ランダ》は、髪に人毛を使い、人の腸を表す紐を垂らした魔女の姿。
《儀礼劇チャロナランの仮面 聖獣バロン・ケケット》(いずれも20世紀前半、天理大学附属天理参考館蔵)は、バリの善なるものの象徴であり、その舌にはバリ文字で聖なる言葉が記されています。

儀礼劇チャロナランの仮面 魔女ランダ インドネシア、バリ島 20世紀前半 天理大学附属天理参考館蔵
インドネシアのジャワ島の影絵芝居ワヤン・クリットの人形も展示されます。その中には、道化役の《道化ドヨッ》(20世紀前半、天理大学附属天理参考館蔵)や、ジャワの王宮で実際に使われていたという《影絵芝居ワヤン・クリットの人形》も含まれています。

影絵芝居ワヤン・クリットの人形 インドネシア、ジャワ島 1840年 天理大学附属天理参考館蔵
そして、初公開となる《金製頭飾 人面形》は、インカ帝国の支配下にあったボリビアで作られた人面形金製頭飾です。ボリビアでも確認されているのはわずか4点、天理大学附属天理参考館の2点をあわせても6点しか確認されていないという、とても貴重なものです。

金製頭飾 人面形 ボリビア インカ帝国(15~16世紀) 天理大学附属天理参考館蔵
この他にも、台湾の首狩り勇者の上衣、インドの巨大な寺院掛布、古代アンデスのミイラ包み、ペルー先住民の彩文大型壺など、世界各地の興味深い資料が展示されます。
第3章「追憶の20世紀」
第3章では、21世紀に入り、急速なグローバル化や効率化の波の中で、少しずつ姿を消しつつある20世紀の生活文化や、そこに息づいていた地域色豊かな造形美に焦点を当てます。
第3章では、21世紀に入り、急速なグローバル化や効率化の波の中で、少しずつ姿を消しつつある20世紀の生活文化や、そこに息づいていた地域色豊かな造形美に焦点を当てます。
カナダ先住民のリーダーの証である《戦士の栄誉礼冠》や、砂塵を清めるためのエジプトの《水挿し》(いずれも20世紀中頃、天理大学附属天理参考館蔵)など、北米、エジプト、中国で20世紀に作られた地域色豊かな作品を通して、そこに込められた先人たちの知恵と手技を紹介します。

戦士の栄誉礼冠 カナダ 20世紀中頃 天理大学附属天理参考館蔵
そして、ユニークなのが、中国の北京周辺でかつて使われていた看板「幌子(ホァンツ)」のコレクションです。これらは文字をほとんど使わず、店の種類を形で示しているのが特徴です。こうした幌子のまとまったコレクションは、日本国内はもちろん中国でも未だ知られておらず、大変貴重なものです。
本展では、キセル・喫煙具屋の《北京の看板(模型看板)》や、帽子屋の《北京の看板(実物看板)》など、選りすぐりの優品が展示されます。
本展では、キセル・喫煙具屋の《北京の看板(模型看板)》や、帽子屋の《北京の看板(実物看板)》など、選りすぐりの優品が展示されます。

北京の看板(効果看板) 眼薬屋 中国 20世紀前半 天理大学附属天理参考館蔵

北京の看板(実物看板)帽子屋 中国 20世紀前半 天理大学附属天理参考館蔵
奈良で体験する6000年の時空旅行
本展では、古代文明が遺した壮麗な遺物から、世界各地の民族が生み出した神秘的な仮面や道具、そしてどこか懐かしさを感じさせる20世紀の生活文化まで、多彩な「美と驚異の遺産」に出会うことができます。
この夏は奈良で、時空を超えた世界探検の旅を楽しんでみませんか。
【開催概要】
奈良国立博物館開館130年・天理大学創立100周年記念特別展「世界探検の旅―美と驚異の遺産―」
会期:2025年7月26日(土)~9月23日(火・祝)
会場:奈良国立博物館 東・西新館 (奈良県奈良市登大路町50番地)
開館時間:午前9時30分~午後5時(毎週土曜日および8月5日(火)~8月15日(金)は午後7時まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:7月28日(月)、8月4日(月)、8月18日(月)、8月25日(月)、9月1日(月)、9月8日(月)、9月16日(火)
観覧料:一般 1,800円(前売・団体 1,600円)、高大生 1,300円(前売・団体 1,100円)、中学生以下無料
※前売券は、7月25日23:59まで(詳細は展覧会公式サイトで確認)
展覧会公式サイト:https://art.nikkei.com/tanken/