東京・日本橋にある三井記念美術館にて、「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示 三井家の五月人形」が開催されています。会期は2025年6月15日(日)まで。三井家に伝わる貴重な武具や美術品を一堂に公開する、見逃せない展覧会です。

 名刀の夢の競演 ―展示室1「短刀と刀装具」
展示室の最初で迎えてくれるのは、刀剣ファン必見の空間です。国宝《名物日向正宗》と重要美術品の短刀《名物豊後正宗》という正宗作の名刀2点が並び立ち、まさに夢の競演が実現しています。《名物日向正宗》は石田三成から福原直高、水野日向守勝成へと伝わった、正宗短刀の最高峰とされる国宝です。
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国宝 《短刀 無銘正宗 名物日向正宗》鎌倉時代・14世紀

それに合わせて鷹司家寄贈の《八重姫貞宗》が拵(こしらえ)とともに展示され、正宗と貞宗の作風の違いをじっくりと見比べることができます。
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《葵紋蒔絵合口(短刀 八重姫貞宗の拵》江戸時代・18世紀

さらに、「宇治川先陣争い」の場面を描いた象彦の《宇治川先陣蒔絵硯箱》など、金銀蒔絵の美しい工芸品も見応えがあります。
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《宇治川先陣蒔絵硯箱》象彦(六代西村彦兵衛)製 明治時代・19 ~ 20世紀

国宝「短刀 無銘正宗 名物日向正宗」の展示を記念し、刀剣男士「日向正宗」の等身大パネルも展示されています。(写真撮影可)
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 国宝の輝き ―展示室2「徳善院貞宗」
展示室2では、国宝《徳善院貞宗》が単独で展示されています。この短刀は、豊臣秀吉から五奉行の一人・前田徳善院玄以へ、そして徳川家康、紀州徳川家、西条松平家と伝来し、最終的に三井家のもとに渡った名品です。作刀者・貞宗は、正宗の実子あるいは養子ともいわれ、作風は正宗に似ながらも柔らかさがあり、その対比が楽しめます。静謐な展示空間で、刀身に宿る歴史の深さを感じてみてください。
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国宝 《短刀 無銘貞宗 名物徳善院貞宗》鎌倉~南北朝時代・14世紀

茶の湯に見る端午の節句 ―展示室3「如庵 茶道具の取り合わせ」
茶室「如庵」を模した展示室3では、端午の節句にちなんだ茶道具の取り合わせが並び、落ち着いた空間で季節感と格式が融合した茶の湯の世界を味わえます。
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展示室3展示風景

豪華な武具と絵巻の世界 ―展示室4「名刀と甲冑・武者絵」
展示室4では、重要文化財7点を含む名刀9点が一堂に展示されています。《太刀 銘則宗》といった名刀には、それぞれ蒔絵拵が付属してます。《太刀 銘則宗》の拵《葵紋蒔絵糸巻太刀》は、徳川家の象徴である葵紋が施され、格式の高さを示しています。
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(右から)重要文化財 《太刀 銘則宗》平安~鎌倉時代・12 ~ 13世紀、《葵紋蒔絵糸巻太刀》(重文 太刀 銘則宗の拵) 江戸時代・18世紀

この展示室で唯一、刃を上に向けて展示されているのが、重要文化財《刀 銘 国広 号 加藤国広》です。刃を下に向ける「太刀」は主に馬上で使うために発展し、刃を上に向ける「刀」は地上戦で抜きやすくするために生まれたと言われています。この刀は、桃山時代の武将・加藤清正が持っていたことから「加藤国広」と呼ばれています。
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重要文化財《刀 銘国広 号加藤国広》桃山時代・17世紀

甲冑では、三井高安が所持していたと伝わる《縹糸素懸威胴丸具足》《白糸中紅糸威胴丸具足》が登場。これらは顕名霊社のご神宝とされてきた特別な品々です。火災で焼損した鎌倉時代の春日大社伝来の大鎧を復元した《模造 紫糸妻取威鎧》も、当時の姿を想像させる貴重な品です。
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(右から)《縹糸素懸威胴丸具足》桃山~江戸時代・16 ~ 17世紀、《白糸中紅糸威胴丸具足》桃山~江戸時代・16 ~ 17世紀、《模造 紫糸妻取威鎧(歌絵金物)春日大社伝来甲冑写》三浦助市 昭和 9 年(1934)※寄託品

壁面には、勇壮な武者絵が飾られています。狩野美信が描いた《八幡太郎義家図》は、平安時代の武将・源義家が、雁(がん)の群れの飛び方が乱れたことから、伏兵がいることを見抜いたという有名な場面を描いています。また、象彦製の《巻狩蒔絵額》や《宇治川先陣蒔絵額》は、漆と金粉で見事に武者の世界を表現しています。

そして、この展示室で目玉のひとつが、絵巻物《酒呑童子絵巻》です。平安時代、京の都を荒らしまわった鬼・酒呑童子(しゅてんどうじ)を、源頼光とその家来たちが退治する物語が、3巻の絵巻に描かれています。作者は円山応挙の弟子である亀岡規礼。鬼の酒宴に紛れ込み、毒酒を飲ませて鬼を酔わせ、最後は見事に首を討ち取るというクライマックスまで、物語の展開が生き生きと描かれています。
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《酒呑童子絵巻》亀岡規礼 江戸時代・19世紀

擬人化された動物たちの戦い ―展示室5「十二類合戦絵巻と武者人形・能人形」
展示室5では、《十二類合戦絵巻》というユニークな絵巻が目を引きます。十二支の動物たちが甲冑をまとい、狸一味と戦うという、どこかコミカルな合戦絵巻です。擬人化された動物たちの動きや表情が、まるで漫画のようにいきいきと描かれており、大人も子どもも楽しめる作品です。
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《十二類合戦絵巻》江戸時代・19世紀

独立ケースには、五月飾りの中から、可愛らしい武者人形や能人形が展示されています。勇ましいだけでなく、どこか愛嬌のある人形たちの姿が見どころです。
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《五月人形 小形武者人形》四世大木平藏製 明治時代・ 19 ~ 20世紀

小さなかたちに表された美 ―展示室6「ミニチュア五月飾り」
展示室6では、ミニチュアサイズの五月飾りが紹介されています。さまざまな大名行列の小道具などが、小さなサイズの中に精巧に再現されており、細密工芸の技術の高さに目を見張ります。
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《五月飾 大名行列旅道具各種》江戸時代・19世紀

豪華絢爛の節句人形 ―展示室7「三井家の五月人形」
最後の展示室7では、これまでまとまって公開される機会がほとんどなかった、三井家伝来の五月人形が特集展示されています。
主に近代、三井家が財閥として大きく発展した時代に作られたものが中心で、三井家独特の習わしである、個人を示す漢字一文字の「御印(おしるし)」ごとに分けて展示されています。
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展示室7展示風景

三越製の《神功皇后・武内宿祢》の人形は、昭和初期に作られたもの。まるで動き出しそうなほど写実的です。平安時代の正式な馬具をつけた《平安朝飾馬》などの美しい飾り馬も見ることができます。
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(左から)《五月飾 平安朝飾馬》昭和時代初期・ 20世紀、《五月人形 神功皇后・武内宿祢》三越製 昭和時代初期・ 20世紀、《五月人形 楠公騎馬人形》明治~昭和時代 初期・20世紀

明治時代の軍楽隊の格好をした人形など、その時代の世相を映した人形も見られ、当時の人々の暮らしにも思いを馳せることができます。
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《五月人形 軍楽隊 5 人揃》四世大木平藏製 明治29年(1896)

この展覧会は、国宝の名刀が放つ深い輝き、武家の誇りを示す力強い甲冑、物語性豊かな武者絵や動物絵巻、そして華やかな五月人形まで、多彩な内容で鑑賞者を楽しませてくれます。時代を超えて受け継がれてきた日本の美と技、そして人々の想いに会場で触れてみてはどうでしょうか。

【開催概要】
展覧会名:「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示 三井家の五月人形」 
会期:2025年4月12日(土)~6月15日(日) 
会場:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階) 
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで) 
休館日:月曜日(ただし4月28日、5月5日は開館) 
入館料:一般1,200円(1,000円)/大学・高校生700円(600円)/中学生以下無料 
※70歳以上は1,000円(要証明)/障がい者手帳提示者と介助者1名無料/リピーター割引あり 
音声ガイド:梶裕貴氏(貸出料700円、日本語のみ)