静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)にて、2025年6月22日(日)まで、「黒の奇跡・曜変天目の秘密」展が開催されています。

本展では、国宝《曜変天目(稲葉天目)》を中心に、「黒」という色に焦点を当て、黒い陶磁器や漆工芸品、刀剣など、さまざまなジャンルの美術品を通して、「黒」の魅力を多角的に探ります。
1章 天目のいろいろ
展覧会の第1展示室では、中国から日本へ伝来し、茶の湯の世界で重視されてきた天目茶碗が紹介されています。
10世紀の中国‧宋時代に⽣まれた天目茶碗は、その独特な形状と黒い釉薬が特徴で、喫茶の習慣とともに⽇本へ伝わり、茶の湯の世界で重視されてきました 。

10世紀の中国‧宋時代に⽣まれた天目茶碗は、その独特な形状と黒い釉薬が特徴で、喫茶の習慣とともに⽇本へ伝わり、茶の湯の世界で重視されてきました 。

「1章 天目のいろいろ」展示風景
重要文化財の《油滴天目》は、銀色や虹色に輝く斑紋が特徴です。「油滴」という名前は、この斑紋が水面に浮かぶ油のしずくのように見えることに由来します 。唐物茶碗の中でも《曜変天目》に次ぐ価値があるとされ、今回は《堆朱花卉天目台》とセットで展示されています。
また、《灰被天目 銘 埋火》は、黒釉の上に灰が被ったような独特の釉調が特徴です。わび茶の流行とともに⽇本で⾼く評価されるようになりました 。
第2章 黒い工芸―漆黒と黒鉄の輝き
第2展示室では、漆工芸品や刀剣など、さまざまな黒い工芸品が展示されています。漆黒の艶やかな光沢や、刀剣の力強い輝きなど、素材や技法によって異なる「黒」の表情の違いを⾒ることができます。
柴田是真の《宝露台唐墨形印籠》は、古い墨のように見える精巧な漆器です。黒漆に炭の粉を蒔き、古墨の質感をリアルに表現しています。そこには、是真の緻密な技と遊び心が感じられます。
(左)《浪⽉蒔絵硯箱》清⽔九兵衛 江⼾時代(17世紀)
「黒鉄(くろがね)」と呼ばれた鉄そのものを素材とする刀剣、刀装具なども展示されています。これは、江戸幕末期の名工による刀剣で、鉄そのものの深い輝きと刃文の美しさが見どころです。附属する拵(こしらえ)は、旧蔵者である黒田清隆(1840-1900)の好みといわれています。
【重要美術品】《⼑ 銘 源清麿∕弘化丁未年⼋⽉⽇ 附 ⼩倉巻柄半太⼑拵》源清麿 江⼾時代‧弘化4年(1847) 拵:明治〜昭和時代(19 〜 20世紀)
第3章 天目と黒いやきもの
第3展示室では、中国と日本における黒いやきものの歴史を紹介します。ここでは中国古代の黒陶から、河井寛次郎が「曜変」と箱書した作品まで、多彩な表現を見せる黒いやきものが一堂に会しています。

中国のやきものでは、紀元前4~前3世紀頃の副葬⽤の黒陶から、清時代の宮廷で⽤いられた官窯磁のものまで幅広い時代の作品が紹介されています。

「3章 天⽬と黒いやきもの」展⽰⾵景
磁州窯の陶器は、白化粧の上に黒泥を施し、文様を削り出す「白地黒掻落」という技法が特徴です 。会場ではこの技法によって生み出された、白黒のコントラストが美しい陶器が展示されています。
「3章 天⽬と黒いやきもの」展⽰⾵景より、磁州窯と磁州窯系のやきものの展⽰
黒い釉薬を用いた《黒織部茶碗》や富士山を描いた独特なデザインが目を引く《黒楽不二図茶碗》など、桃⼭から江⼾初期の装飾性豊かな茶碗も見どころです。

「3章 天⽬と黒いやきもの」展⽰⾵景より、黒樂茶碗、黒織部など日本の茶碗の展⽰

「3章 天⽬と黒いやきもの」展⽰⾵景より、黒樂茶碗、黒織部など日本の茶碗の展⽰
《色絵吉野山図茶壺》野々村仁清 江戸時代(17世紀)
第4章 曜変天目の小宇宙
本展の最後を飾るのは、国宝《曜変天⽬(稲葉天⽬)》です 。
曜変天⽬は、黒い釉薬の中に現れる瑠璃⾊の斑紋が特徴的な茶碗です。中国の南宋時代に作られたと考えられており、現存するものは世界にわずか3点しかありません。そのうちの⼀つが、静嘉堂⽂庫美術館の《曜変天⽬(稲葉天⽬)》です。この茶碗は、江⼾時代以降、淀藩主の稲葉家に伝わったため、「稲葉天⽬」とも呼ばれています。
「曜変」とは何か、どのようにしてあの不思議な色が生み出されるのか、どこで作られたのか、どのようにして現在まで伝わってきたのかなど、曜変天目には多くの謎があります。本展では、最新の研究成果をもとに、これらの謎と秘密に迫ります。
そして今回は、曜変天目の高台(底部)が初めて公開され、その全容を鑑賞できる貴重な機会となっています。黒い空間に浮かび上がる小宇宙のような美しさは、まさに必見といえるでしょう。
ホワイエでは、これまでの研究成果がパネルで詳しく紹介されています。顔出しフォトスポットもあるので、記念撮影もお楽しみください。
ミュージアムショップでは、「ほぼ実⼨の曜変天⽬ぬいぐるみ」など、曜変天⽬をモチーフにしたユニークなグッズが多数そろっています。鑑賞の記念に、⽴ち寄ってみてはいかがでしょうか。
本展では、「黒」とひとくちに言っても、さまざまな色味やバリエーションがあり、それぞれに美しさがあることを、東洋美術の名品を通して知ることができます。黒という色彩が持つ多様性と奥深い魅力を、ぜひ会場で味わってみてください。
※展示作品は、すべて静嘉堂文庫美術館蔵
※展示作品は、すべて静嘉堂文庫美術館蔵
【開催情報】
展覧会名:「黒の奇跡・曜変天目の秘密」
会期:2025年4月5日(土)~6月22日(日)
会場:静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
開館時間:午前10時~午後5時 ※ 第4水曜日は20時まで、6月20日(金)、21日(土)は19時まで
休館日:月曜日、5月7日(水)
入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※曜変ファッション割引あり(一般入館料が200円引き。詳細は公式ホームページをご確認ください)
公式ホームページ:https://www.seikado.or.jp