2025年4月22日から6月15日まで、東京国立博物館の平成館で特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」が開催されます。この展覧会は、江戸時代の出版業界を牽引した蔦屋重三郎(蔦重)の功績を紹介する展覧会です。蔦重は、喜多川歌麿や東洲斎写楽といった浮世絵師を世に送り出しただけでなく、文芸作品の出版や文化人との交流を通じて、時代そのものをつくり上げました。本展では約250点の作品を通して、その多彩な活動の全貌に迫ります。

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」 メインビジュアル

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」 メインビジュアル
展覧会は4つの章で構成されています。以下で、各章の概要や見どころを詳しくご紹介します。
吉原から始まった出版革命
第1章「吉原細見・洒落本・黄表紙の革新」は、蔦重の出版活動のスタート地点である吉原が舞台です。
蔦重は幕府公認の遊郭・吉原に生まれ、その吉原の情報誌『吉原細見』の出版に携わることからキャリアをスタートしました。その後、洒落本や黄表紙といった読み物の出版へと進出し、大衆の心をつかむ作品を次々に世に送り出しました。
『青楼美人合姿鏡』は、蔦重が企画、出版し、当代きっての人気浮世絵師・北尾重政と勝川春章が競作した絵本です。青楼とは遊郭のこと。華やかな遊女たちの姿を描いた、当時の吉原の暮らしをリアルに伝える貴重な作品です。


北尾重政・勝川春章画『青楼美人合姿鏡』彩色摺大本 安永5年(1776) 東京国立博物館蔵 通期展示 ※会期中、頁替えあり
「箱入娘面屋人魚」は、江戸で流行した 「黄表紙」 (絵入り小説) の一点で、『浦島太郎』のその後をストーリーとする荒唐無稽なパロディです。幕府による出版統制の影響を受けたこの作品は、江戸時代の出版文化の難しさも物語っています。


山東京伝作『箱入娘面屋人魚』墨摺小本 寛政3年(1791) 東京国立博物館蔵 通期展示 ※会期中、頁替えあり
礒田湖龍斎筆「雛形若菜初模様 丁字屋内ひな鶴」 大判錦絵 安永4年(1775)頃 東京国立博物館蔵 前期展示:4/22〜5/18
江戸の敏腕プロデューサーとしての活躍
第2章「狂歌隆盛—蔦唐丸、文化人たちとの交流」は、狂歌ブームを牽引した蔦重の姿と文化人とのつながりがテーマです。
天明期(1781~89)には狂歌が流行し、武士や町人、役者など多様な人々が集まり、江戸を謳歌する狂歌を詠み、遊び戯れました。蔦重も狂歌師「蔦唐丸」として活動しながら、狂歌集や狂歌絵本を次々と出版するプロデューサーとして商才を発揮。一流の文化人たちと交流を深めながら、江戸文化の中心人物のひとりとして活躍しました。
『画本虫撰』は、蔦重が喜多川歌麿に挿絵を依頼した、虫をテーマにした狂歌絵本です。狂歌の主題に合わせて、昆虫や小動物が季節の草花とともに描かれており、美しい彩色摺りの挿絵が見どころです。


宿屋飯盛撰/喜多川歌麿画『画本虫撰』彩色摺大本 天明8年(1788) 千葉市美術館蔵 前期展示:4/22~5/18(後期は別本を展示)
重要文化財「エレキテル」は、オランダから伝わった摩擦起電機を平賀源内が自力で製作したもの。西洋技術を日本に紹介した先駆者で、多方面で活躍した源内は、蔦重との関わりも深く、葛重が初めて自ら出版した『吉原細見』に序文を寄せています。


平賀源内作 重要文化財「エレキテル」江戸時代・18世紀 郵政博物館蔵 前期展示:4/22〜5/18(後期は複製を展示)
浮世絵黄金期の名品が一堂に
蔦重は喜多川歌麿、東洲斎写楽をはじめとする名だたる絵師を発掘し、 その魅力を最大限に生かした浮世絵を企画・出版しました。
蔦重は喜多川歌麿、東洲斎写楽をはじめとする名だたる絵師を発掘し、 その魅力を最大限に生かした浮世絵を企画・出版しました。
第3章「浮世絵師発掘—歌麿、写楽、栄松斎長喜」では、浮世絵黄金期と呼ばれる18世紀末の名品が一堂に揃います。
寛政期(1789~1801)になると、蔦重は浮世絵の出版に力を入れ、喜多川歌麿や東洲斎写楽を見出し、彼らの魅力を 最大限に生かした浮世絵を企画・出版しました。特に、顔を大きく描く「大首絵」という構図を取り入れた作品は、江戸の美人画や役者絵の革新をもたらしました。
「婦人人相十品 ポッピンを吹く娘」は、江戸の町娘の日常を捉えた作品で、ポッピンというガラス製の笛を吹く女性が愛らしく描かれています。
「婦人人相十品 ポッピンを吹く娘」は、江戸の町娘の日常を捉えた作品で、ポッピンというガラス製の笛を吹く女性が愛らしく描かれています。

喜多川歌麿筆「婦女人相十品 ポッピンを吹く娘」大判錦絵 寛政4~5年(1792~93)頃 東京国立博物館蔵 前期展示:4/22〜5/18
「歌撰恋之部 物思恋」は、歌集の部立て(部類)「恋」をテーマとし、さまざまな年齢や境遇の女性を美人大首絵で描いたシリーズの1枚。恋の多様な姿を、表情やしぐさで巧みに表現しています。剃った眉が人妻であることを示す本作では、物思いにふける女性の心情が、一枚の絵に凝縮されています。

喜多川歌麿筆「歌撰恋之部 物思恋」大判錦絵 寛政5~6年(1793~94)頃 江戸東京博物館蔵 後期展示:5/20~6/15
「姿見七人化粧」は、大きな鏡の前で髪を整える江戸の看板娘を描いた作品です。背景を省き黒を効果的に用いることで奥行きを演出。さらに鏡の枠を上下で幅を変えて歪ませるなど、歌麿の卓越した表現力を見ることができます。

喜多川歌麿筆「姿見七人化粧」大判錦絵 寛政4~5年(1792~93)頃 東京国立博物館蔵 後期展示:5/20~6/15
大坂新町の最高位遊女・扇太夫を描いた「大阪新町東ノ扇屋 花扇太夫」は、極端に肩幅が狭い「こけし」のような姿が特徴。江戸の遊女にはない可憐さとたおやかさを強調しており、蔦重が目指した新たな美人画表現がうかがえます。

栄松斎長喜筆「大坂新町東ノ扇屋 花扇太夫」大判錦絵 寛政期(1789~1801)東京国立博物館蔵 後期展示:5/20~6/15
『歌まくら』は、嶌重が企画出版したとされる春画本です。修羅場や駆け引きといった多彩なシチュエーションの中で、男女の細やかな機微が描き出されています。
寛政の改革で打撃を受けた嶌重は、役者大首絵で起死回生を図ります。無名の新人絵師・写楽が、寛政6年5月の夏興行に合わせ、一挙に28枚の大首絵を刊行し、浮世絵界を驚かせました。
重要文化財「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」では、背景には黒雲母摺りを用い、暗い舞台に映える役者を、リアルに描き出しています。


東洲斎写楽筆 重要文化財「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 前期展示:4/22〜5/18
当代随一の名優として知られた市川鰕蔵を描いた作品では、彫りの深い顔立ちや細かな皺まで丹念に描き込み、堂々たる風格を余すところなく表現しています。


東洲斎写楽筆 重要文化財「市川鰕蔵の竹村定之進」大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 後期展示:5/20~6/15
重要文化財 「二代目瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木」でも、女形として活躍した二代目・瀬川富三郎の個性をありのままに捉え、役者の存在感を見事に表現しました。
重要文化財 「二代目瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木」でも、女形として活躍した二代目・瀬川富三郎の個性をありのままに捉え、役者の存在感を見事に表現しました。

東洲斎写楽筆 重要文化財「二代目瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木」大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 前期展示:4/22~5/18
江戸の街へタイムスリップ! 大河ドラマの世界を再現
附章「天明寛政、江戸の街」では、江戸の街並みを再現した空間が登場。大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)と連携し、蔦重が活躍した江戸の街にタイムスリップしたかのような空間が楽しめます。
附章「天明寛政、江戸の街」では、江戸の街並みを再現した空間が登場。大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)と連携し、蔦重が活躍した江戸の街にタイムスリップしたかのような空間が楽しめます。
「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」は、江戸時代を動かした天才プロデューサーの魅力が詰まった展覧会です。書籍だけでなく、浮世絵や狂歌、文化人との交流を通して、彼がいかに時代を作り上げたかを知ることができます。
浮世絵の名作に触れながら、大河ドラマの世界と江戸の多彩な文化を体験できる本展を、ぜひ楽しんでみてください。
浮世絵の名作に触れながら、大河ドラマの世界と江戸の多彩な文化を体験できる本展を、ぜひ楽しんでみてください。
【開催概要】
展覧会名:特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
会期:2025年4月22日(火)~6月15日(日)
会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
開館時間:午前9時30分~午後5時(金・土曜および5月4日、5日は午後8時まで)※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日、5月7日 (水) ※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館
入館料:一般2,100円、大学生1,300円、高校生900円、中学生以下(前売券あり)
公式ホームページ:https://tsutaju2025.jp/