東京・広尾の山種美術館にて、桜をテーマにした特別展「桜 さくら SAKURA 2025 ―美術館でお花見!―」が開催されています。

桜は、その華やかさと儚さで多くの人を魅了してきました。本展では、多彩な視点から描かれた近代・現代日本画の画家たちが描いた桜の名作が一堂に会し、美術館で花見を楽しむような気分で作品を鑑賞できます。
ポスター

第1章 桜とともに
第1章では、花見の風景や桜が登場する日常の情景を描いた作品が並んでいます。
花見をテーマにした作品では、江戸時代の人気花見スポットである御殿山の賑やかなようすを描いた渡辺省亭の《御殿山観花図》(個人蔵 )や、平安時代の貴族女性が優雅に花見をする姿を、美しい色彩で華やかに表現した、松岡映丘の《春光春衣》などが紹介されています。
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松岡 映丘《春光春衣》1917(大正6)年 山種美術館

川合玉堂や横山大観は、春の山間を流れる川のほとりに咲く山桜を描き、山元春挙は、富士の裾野一帯に広がる桜をのどかな農村の暮らしとともに描きました。
また、庭先に咲き誇る桜の美しさを静謐に描いた小茂田青樹の《春庭》など、人々の暮らしのそばに咲く桜の美しさを描いた作品も並んでいます。  
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(左から)山元春挙《裾野の春》1931(昭和6)年 山種美術館、川合玉堂《渡頭の春》1935-43(昭和10-18)年頃 山種美術館

第2章 名所の桜
日本各地には、美しい桜の名所が数多くあります。第2章では、日本各地の名所に咲く桜を取り上げた作品を紹介し、画家たちが桜の風景に込めた想いを探ります。

京都・醍醐寺三宝院のしだれ桜を描いた奥村土牛《醍醐》は、優しい色合いと柔らかな雰囲気で見る人を包み込みます。山種美術館の玄関横には《醍醐》のモデルとなった「太閤千代しだれ」を組織培養した桜が植えられており、開花時には美術館の内外で桜を楽しむことができます。
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奥村土牛《醍醐》1972(昭和47)年  山種美術館

橋本明治は、福島県三春町にある樹齢千年以上ともいわれる三春滝桜を、装飾的かつ堂々とした姿で描きました。
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(左から)奥田元宋《湖畔春耀》1986(昭和61)年 山種美術館、橋本明治《桜 (スケッチ) 》1967(昭和 42)年頃 山種美術館、橋本明治《朝陽桜》1970(昭和45)年 山種美術館

奥田元宋の《奥入瀬 (春)》では、青森・奥入瀬渓流に咲く桜が清らかな水の流れとともに表現され、日本の春の美しさを伝えてくれます。
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奥田元宋《奥入瀬(春) 》1987(昭和62)年 個人蔵

ほかにも小林古径《弥勒》や奥村土牛《吉野》、野口小蘋《箱根真景図(右隻)》など、日本各地の桜の名所や歴史ある名木を題材とした作品が揃っています。各地の桜を旅する気分で、展示を楽しんでみてはどうでしょうか。
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野口小蘋《箱根真景図 (右隻) 》1907(明治40)年 山種美術館

第3章 桜を描く
第3章では、画家が工夫を凝らして描いた桜そのものの姿に注目。さまざまな画家たちがどのように桜を表現したのかを見ることができます。
桜の優美さと雀の愛らしさが調和した、渡辺省亭《桜に雀》は細部まで観察眼が行き届いた省亭の技が光ります。
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展示風景より、(左手前)渡辺 省亭《桜に雀》20 世紀(明治-大正時代)  山種美術館

横山大観は、《春朝》で朝日に輝く山桜を大胆な構図で描き、小林古径は、《桜花》で枝先だけをクローズアップすることで、花の美しさを際立たせています。
一方、川端龍子は、幹を中心に描き、力強い筆致で桜の生命力を表現しました。
どの作品も、それぞれの画家の視点で桜の魅力を引き出しています。画家の異なるアプローチを見比べながら、桜の多彩な魅力を楽しんでみてください。
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展示風景より、(右)川端龍子《さくら》20世紀(昭和時代)  山種美術館

第4章 詩歌・物語の桜
桜は、古くから詩歌や物語に登場し、日本文化に深く根付いています。第4章では、詩歌や物語と結びついた桜をテーマにした作品が展示されています。

小林古径《清姫のうち「入相桜」》は、和歌山県道成寺に伝わる安珍・清姫の物語で有名な道成寺伝説を描いた作品で、全部で8図からなるシリーズのうちの1枚。物語に登場する一本の桜を神秘的な雰囲気で描き出しています。
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(右)小林古径《清姫のうち 「入相桜」》1930(昭和5)年 山種美術館

守屋多々志の《聴花(式子内親王)》は、中世を代表する女流歌人・式子内親王の和歌に着想を得た作品です。牛車から降り、満開の桜の下にたたずむ内親王の姿がドラマティックに描かれています。
一方、羽石光志の《吉野山の西行》では、桜を愛した歌人・西行が吉野の桜をしみじみと眺める姿が表現されています。
物語の登場人物とともに、桜に思いを馳せながら鑑賞してみましょう。
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守屋多々志《聴花(式子内親王) 》1980(昭和55)年 山種美術館

第5章 夜桜に魅せられて
第5章では、幻想的な夜桜の世界が広がります。
菱田春草の《月四題のうち「春」》では、朧月夜に浮かぶ桜が、静かで幻想的な雰囲気を醸し出しています。
速水御舟は、《夜桜》で月明かりに照らされ、ほのかに浮かぶ桜を描き、《あけぼの・春の宵のうち 春の宵》では、薄い暗闇の中で散りゆく夜桜を美しく抒情的に表現しました。
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(左から)速水御舟《あけぼの・春の宵のうち 春の宵》1934(昭和9)年 山種美術館、菱田春草《月四題のうち 春》1909-10(明治42-43)年頃 山種美術館

加山又造や千住博もまた、それぞれ独自の技法や色使いで、夜桜の神秘的な世界へ私たちを誘います。日中とは異なる、闇の中に浮かび上がる桜の魅力を楽しんでみてください。

カフェ・ミュージアムショップで春を楽しむ
鑑賞のあとは、美術館内の「Cafe椿」で、展覧会にちなんだオリジナル和菓子を楽しむのもおすすめです。
たとえば、奥村土牛の《醍醐》をイメージした練切り菓子「ひとひら」は、満開の桜の花びらをかたどった一品。速水御舟の《あけぼの・春の宵のうち「春の宵」》にちなんだ「夜桜」は、羊羹と淡雪羹で幻想的な夜空と舞う花びらを表現しています。
そのほかにも、小林古径《桜花》をモチーフにしたお菓子など、展示作品をイメージした全5種類の和菓子が揃っており、作品の余韻を味覚でも楽しめます。
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菓子

ミュージアムショップでは、クリアファイルやポストカードなど、お土産にもぴったりな展覧会限定のグッズも販売されています。鑑賞の記念に、こちらもチェックしてみてはどうでしょうか。
グッズ

桜とともに過ごす時間は、昔から日本人にとって特別なものでした。多彩な視点から描かれた桜が集う本展では、日本人と自然との深い結びつきを感じることができます。
美しい桜の世界に包まれて、春のひとときを美術館で過ごしてみてはいかがでしょうか。

【開催概要】
展覧会名:【特別展】桜 さくら SAKURA 2025 ―美術館でお花見!―  
会期:2025年3月8日(土)~5月11日(日)  
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)  
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)  
休館日:月曜日(5月5日(月・祝)は開館)  
入館料:一般1400円、大学生・高校生500円(春の学割)、中学生以下無料  
美術館公式ホームページ:https://www.yamatane-museum.jp/