2025年6月21日から8月31日まで、大阪中之島美術館にて「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」が開催されます。
伊藤若冲が長らく世に知られなかったように、日本美術にはまだ埋もれたままの傑作が数多く存在します。本展では、これまでほとんど注目されていないものや、一般には知られていないものなど、「知られざる鉱脈」としての日本美術を掘り起こし、新たな視点からその魅力を紹介します。
本展の監修を務めるのは、明治学院大学教授の山下裕二氏。縄文時代から現代に至るまで、多様な時代の作品を一堂に集め、「未来の国宝」となるかもしれない逸品を探ります。
新発見!若冲と応挙の合作
「若冲ら奇想の画家」のセクションでは、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦雪といった「奇想の画家」たちの作品が登場します。
中でも注目は、新発見の伊藤若冲と円山応挙による合作屏風です。《竹鶏図屏風》と《梅鯉図屏風》は、それぞれが得意とする画題を金地に水墨で描いた二曲一双の屏風。金箔の質が同じであるところから、発注者が金屏風を仕立て、両者に依頼したものと考えられます。これまで若冲と応挙の直接的なつながりを示す資料はほとんど存在せず、両者の関係性を考える上でとても重要な作品です。

円山応挙《梅鯉図屏風》天明7(1787)年 二曲一隻 紙本金地墨画
伊藤若冲《釈迦十六羅漢図屏風》デジタル推定復元 2024年 八曲一隻 TOPPAN株式会社制作
知られざる室町時代の水墨画の魅力
室町時代の水墨画には、シャープな筆致でセンスが際立つ、エキセントリックな造形感覚の名作が多数存在します。
中国の名勝を描いた《瀟湘八景図帖》は雪村周継の最初期の画帖。そのうち「山市晴嵐」は、極端にねじ曲げられた樹木と神経質な線描が特徴的な作品です。
雪村周継《瀟湘八景図帖》より「山市晴嵐」室町時代(16世紀) 画帖8面のうち1面 紙本墨画 福島県立博物館
16世紀の画家・式部輝忠による重要文化財《巖樹遊猿図》では、水面に映る月を取ろうとする猿や、エビを捕まえようとする猿が愛らしく描かれています。
さらに、現存作品がわずか10点ほどしかない、明兆の弟子・霊彩の作品も展示され、室町水墨画の多様な表現に触れることができます。
日本独自の魅力あふれる美術表現「素朴絵」の世界
15~16世紀に生まれた「素朴絵」は、日本の美術史が生んだ魅力的なオリジナリティの表現のひとつです。
《築島物語絵巻》は、平清盛の築港伝説を描いた作品で、素朴な筆致が物語の悲しくも美しい物語を引き立てます。


《築島物語絵巻》室町時代(16世紀) 巻子(二巻) 紙本着色 日本民藝館
長谷川巴龍の《洛中洛外図屏風》は、京都の街を一望するような構成の作品。左右を一隻にまとめた珍しい構図で、上質な金箔や絵の具が使われているものの、どこか稚拙なタッチが特徴です。

長谷川巴龍《洛中洛外図屏風》江戸時代(17世紀)六曲一隻 紙本金地着色
幕末・明治の絵画と工芸に見る新しい表現
幕末から明治にかけての作品では、西洋画の影響を受けつつも、独特の魅力を放つ作品が登場します。
狩野一信の100幅からなる五百羅漢図は、伝統的な羅漢図に北斎や国芳の劇的な描写を取り入れた作品です。《五百羅漢図 第22幅 六道・地獄》では、大蛇や猛獣の口から吹き出す地獄の炎を、楓の団扇を持った羅漢が風で消し飛ばそうとするようすが、ダイナミックに描かれています。

狩野一信《五百羅漢図 第22幅 六道・地獄》 江戸時代(19世紀) 一幅 絹本着色 増上寺
原田直次郎の《素戔嗚尊八岐大蛇退治画稿》は、日本神話を西洋画の手法で描いた作品です。カンヴァスを突き破るように描かれた犬にも注目してみてください。

原田直次郎《素戔嗚尊八岐大蛇退治画稿》明治28(1895)年頃 油彩、カンヴァス 岡山県立美術館
また、超絶技巧による工芸作品も登場します。初代宮川香山の《崖ニ鷹大花瓶》は、高さ52cmもある一対の花瓶で、立体的な動植物の装飾が見どころの逸品です。
大正・昭和の個性派画家たちの世界
大正から昭和にかけての作品では、近代絵画史において、他に類例のないユニークな表現で注目を集めつつある作家の作品が紹介されます。
牧島如鳩の《魚籃観音像》は、キリスト教の伝道者でありながら、仏教にも帰依した画家による作品です。福島県小名浜での大漁祈願のために描かれたこの作品には、魚籃観音や菩薩に加え、聖母マリアや天使も描かれており、神仏共存の思想が表れています。

牧島如鳩《魚籃観音像》昭和27(1952)年 油彩、カンヴァス 足利市民文化財団
不染鉄の《山海図絵》は、現実ではありえない視点で描かれた大作です。俯瞰構図と精緻な細部描写が融合し、独創的な世界を生み出しています。

不染鉄《山海図絵》大正14(1925)年 紙本着色 公益財団法人 木下美術館
縄文土器から現代美術へ、つながる創造性
展覧会のフィナーレでは、縄文土器の造形美が紹介されます。
《深鉢型土器》は、数千年前に作られたとは思えないほど洗練されたデザインが特徴です。
また《人体文様付有孔鍔付土器》は、まるで3本指でピースサインをしているかのような人物像が施された珍しい作品です。そのデザインはどこか現代のポップアートを思わせ、縄文人の豊かな想像力がうかがえます。

重要文化財《人体文様付有孔鍔付土器》鋳物師屋遺跡出土 山梨・南アルプス市教育委員会(南アルプス市ふるさと文化伝承館)
岡﨑龍之祐は、縄文土器の曲線や装飾性に触発された、纏うことを目的としないコスチュームを制作しています。本展では、縄文時代から現代まで続く「祈り」や、生きることへの願いを込めた新作を発表します。
本展は、日本美術の知られざる名品を発掘し、新たな視点でその魅力を紹介する貴重な機会です。若冲と応挙の合作という歴史的発見から、室町時代の水墨画、素朴絵の美しさ、幕末・明治の新たな挑戦まで、多彩な作品が一堂に集結します。未来の国宝となるかもしれない逸品を、自らの目で探す楽しみを味わってみてはどうでしょうか。
【開催概要】
展覧会名:日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!
会期:2025年6月21日(土)―8月31日(日)
会場:大阪中之島美術館 4階展示室
公式ホームページ:https://koumyakuten2025.jp/