京都文化博物館にて、「カナレットとヴェネツィアの輝き」が2025年4月13日まで開催されています。

カナレットとは?
18世紀イタリアを代表する景観画家カナレット(本名:ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)は、1697年にヴェネツィア共和国に生まれました。ヴェドゥータ(景観画)の巨匠として知られ、特にヴェネツィアの風景を精密に描いた作品で有名です。
18世紀のヴェネツィアは「グランド・ツアー」(貴族の子弟が教育の一環として行う旅行)の人気都市でした。理想のヴェネツィアの風景を描いたカナレットの絵画は旅の記念として旅行者に大変好まれました。
本展は、日本初となるカナレットの大規模回顧展です。彼の作品に加え、近代の画家たちの作品も展示し、日本ではほとんど紹介されてこなかったヴェドゥータの歴史的展開をたどります。
本展は、日本初となるカナレットの大規模回顧展です。彼の作品に加え、近代の画家たちの作品も展示し、日本ではほとんど紹介されてこなかったヴェドゥータの歴史的展開をたどります。

展覧会の概要と見どころはこちらをご覧ください。
ヴェネツィアの魅力を伝える風景画の誕生
第1章「カナレット以前のヴェネツィア」では、カナレット登場以前のヴェネツィアの絵画が紹介されています。
ヤーコポ・デ・バルバリの《ヴェネツィア鳥瞰図》は、1500年当時のヴェネツィアの姿を細部まで精密に描写した巨大な木版画です。サン・マルコ広場を中心に街全体を俯瞰で捉えた視点が特徴で、海上国家として絶頂期を迎えたヴェネツィアの威容をよく伝えています。


ヤーコポ・デ・バルバリ《ヴェネツィア鳥瞰図(初版の複製)1962年 新潟県立近代美術館・万代
島美術館
18世紀を代表する画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロは、明るく軽快な色彩と壮麗な装飾画で国際的に名声を博しました。
《アントニウスとクレオパトラの出会い》は、ヴェネツィア貴族の館の大広間を飾るために描かれた油彩下絵です。2人の劇的な出会いの瞬間が、細部まで緻密に表現されています。

(左から)ネーデルラントの画家《ラグーナから見たヴェネツィア全景》1580-1600年頃 クライスト・チャーチ絵画館、オックスフォード、ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ《アントニウスとクレオパトラの出会い》1747年頃 スコットランド国立美術館
カナレットが描いた18世紀のヴェネツィア
第2章「カナレットのヴェドゥータ」では、カナレットの代表作を中心に、ヴェドゥータの魅力に迫ります。なお一部作品を除き、第2・4章は撮影可能となっています。
《カナル・グランデのレガッタ》は、ヴェネツィアの大運河で行われる船の競争「レガッタ」を描いた作品です。華やかに装飾されたゴンドラや色とりどりの旗、そして建物の窓やバルコニー、屋根の上まで見物客が描かれ、祭りの賑わいと熱気が画面から伝わってくるようです。

カナレット《カナル・グランデのレガッタ》1730-1739年頃 ボウズ美術館、ダラム
京都会場から展示される《モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む》は、1730年代後半、カナレットの画風が確立された時期の作品です。実際にはありえない高い視点から描かれ、実在の建築や風景を基にしつつも、芸術的な創造性によって理想化されたヴェネツィアの姿が表現されています。

カナレット《モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む》1738年頃 スフォルツァ城絵画館、ミラノ
この2点は、どちらもヴェネツィアの重要な祭りである昇天祭の様子を描いています。豪華な儀式用の船「ブチントーロ」を中心に、祝祭の華やかさが活き活きと表現されています。描かれた時期には約20年の隔たりがあり、水面や舟に当たる光の描写など、2つの作品の違いを見比べるのもおもしろいでしょう。

(左から)カナレット《昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ》1760年 ダリッジ美術館、ロンドン、《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》1738-1742年頃 レスター伯爵およびホウカム・エステート管理委員会、ノーフォーク
カナレットはヴェネツィア以外の都市も描いています。《ラネラーのロトンダ内部》は、モーツァルトが幼少期にコンサートを開いたロンドンの高級遊園地にある建物を描いた作品です。カナレットは、日中の光が大きな柱を鮮やかに照らすダイナミックな情景を表現しています。ローマの名所を題材にした作品も展示されています。
カナレットの創造の秘密に迫る
第3章「カナレットの版画と素描」では、カナレットが油彩画の下絵として描いた素描や、自ら制作した版画作品が紹介されています。
18世紀の油彩画や版画は、まず準備素描で構成を考え、その後にカンヴァスや銅板に描くのが一般的でした。カナレットも多くの準備素描を残しており、そこから彼の創作過程をたどることができます。
また写真のない時代、版画は絵画を複製する重要な手段であり、画家自身が手がけた版画は独自の美術品として評価されました。本展ではカナレット自らが彫った版画も展示されています。
この章では「カメラ・オブスキュラ」と呼ばれる、暗箱の中に小さな穴を開け、外の景色を投影する光学装置も展示されています。カナレットもこうした道具を使用し、写真のような精密さを制作に活用したといわれています。

第3章展示風景
カナレットの影響を受けた画家たち
第4章「同時代の画家たち、後継者たち」では、カナレットの影響を受けた同時代の画家および後継者たちの作品が紹介されています。
彼らはカナレットの様式を元にしつつ、独自のアプローチによって ヴェドゥータや、架空の景観画 「カプリッチョ (綺想画)」を制作しました。 こうした作品は、 いずれも高い評判と人気を得ていたことが当時の資料から判明しています。
彼らはカナレットの様式を元にしつつ、独自のアプローチによって ヴェドゥータや、架空の景観画 「カプリッチョ (綺想画)」を制作しました。 こうした作品は、 いずれも高い評判と人気を得ていたことが当時の資料から判明しています。
カナレットの甥であるベルナルド・ベロットは、ドレスデン、ワルシャワなどで活躍し、伯父の様式を受け継ぎつつ、各都市のヴェドゥータを数多く制作しました。細密に描きこまれたべロットによるヴェドゥータは、第二次世界大戦により破壊された町の再建の際にも役立ちました。

(左から)ベルナルド・ベロット《ルッカ、サン・マルティーノ広場》1742-1746年 ヨーク・ミュージアム・トラスト(ヨーク美術館)、作者不詳《カナル・グランデ:サンタ・ルチア聖堂とスカルツィ聖堂、ヴェネツィア》1740-1760年頃 スコットランド国立美術館
カナレットは、古代遺跡や架空の建物、異なる場所に実在する複数の建物を組み合わせたカプリッチョも得意としました。本展では、同時代の画家グアルディや、英国のウィリアム・マーローがロンドンのセント・ポール大聖堂とヴェネツィアの運河を大胆に組み合わせたカプリッチョも展示されています。

第4章展示風景
19世紀の画家が描いたヴェネツィア
第5章「カナレットの遺産」では、19世紀以降の画家たちがカナレットとは異なる視点でヴェネツィアを描いた作品が展示されています。
彼らはカナレットの影響を受けつつ、新しい表現を追求しました。風俗画的要素や光と大気の表現に注目し、ロマン主義の影響を受けて裏町や狭い水路といった都市の隠れた一面を描くようになりました。その結果、伝統的なヴェネツィア像とは異なる、個性的で多様な描写が生み出されていったのです。
彼らはカナレットの影響を受けつつ、新しい表現を追求しました。風俗画的要素や光と大気の表現に注目し、ロマン主義の影響を受けて裏町や狭い水路といった都市の隠れた一面を描くようになりました。その結果、伝統的なヴェネツィア像とは異なる、個性的で多様な描写が生み出されていったのです。

第5章展示風景
展示の最後を飾るのは、19世紀後半のフランスを代表する3人の画家、ウジェーヌ・ブーダン、クロード・モネ、ポール・シニャックです。彼らはそれぞれ、独自の手法でヴェネツィアの魅力を描き出しました。
ブーダンは光と大気を重視し、ヴェネツィアならではの風景を表現しました。モネは水面の反射と光の描写を通じて幻想的な雰囲気を創り出し、シニャックは点描技法を用いて、光と色彩の効果を追求しながら水の都を幻想的に描きました。

(左から)ウジェーヌ・ブーダン《カナル・グランデ、ヴェネツィア》1895年 東京富士美術館、クロード・モネ《パラッツォ・ダーリオ、ヴェネツィア》1908年 ウェールズ国立美術館、カーディフ、ポール・シニャック《ヴェニス,サルーテ教会》1908年 宮崎県立美術館
会場には、ヴェネツィアンガラスなどの工芸品も展示されており、ヴェネツィアの雰囲気に浸ることができます。

展示風景
ミュージアムショップでは、カナレットの作品をモチーフにしたグッズや、京都会場限定のイタリアの伝統菓子など、鑑賞の記念やおみやげにもぴったりな多彩なアイテムが用意されています。

本展では、スコットランド国立美術館をはじめとする国内外のコレクションから選ばれた約60点の作品を通じて、時代とともに変化するヴェネツィアの姿をたどることができます。
時代を超えて愛され、人びとを惹きつける水の都の美しい風景をぜひ会場で楽しんでみてください。
時代を超えて愛され、人びとを惹きつける水の都の美しい風景をぜひ会場で楽しんでみてください。

フォトスポット
【開催概要】
展覧会名:カナレットとヴェネツィアの輝き
会期:2025年2月15日(土)〜4月13日(日)
会場:京都文化博物館 4・3階展示室
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は19:30まで)※入場はそれぞれ30分前まで
休館日:月曜日(2月24日は開館)、2月25日(火)
入館料:一般1,800円(1,600円)|大高生1,200円(1,000円)|中小生600円(400円)
※( )内は20名以上の団体料金
京都文化博物館展覧会紹介ページ:https://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/20250215-0413/