東京・虎ノ門にある大倉集古館で、2025年3月23日(日)まで、企画展「武士の姿・武士の魂」展が開催されています。
展覧会は2章構成で、第1章では武士の姿を描いた絵画や刀剣が展示され、時代ごとの武士の表現を楽しむことができます。 第2章では鷹狩に関連する鷹図を取り上げ、鷹が武力や権力の象徴としてどのように描かれたかを探ります。
展覧会は2章構成で、第1章では武士の姿を描いた絵画や刀剣が展示され、時代ごとの武士の表現を楽しむことができます。 第2章では鷹狩に関連する鷹図を取り上げ、鷹が武力や権力の象徴としてどのように描かれたかを探ります。

大倉集古館外観
展覧会の概要や主な作品はこちらをご覧ください。
※会場は撮影禁止です。展示室内の写真は主催者の許可を得て撮影しています。
第1章 武士の姿と武具
刀剣は武士の象徴であり、単なる武器ではなく、精神性や美意識を体現する存在でした。
大倉集古館の刀剣は、武士の生活を再現する目的で収集されたと考えられ、平安時代から昭和戦前までの作品が揃っています。本展では、その中から鎌倉時代から江戸時代にかけて作られた5点が展示されています。
重要文化財《短刀 銘則重》は、大倉家に嫁いだ女性の「懐剣」として伝わる品です。ほかにも、鎌倉時代の《太刀 国俊》、南北朝時代の《短刀 銘相州住秋廣/應安三》など、各時代の特徴を示す名刀が並んでいます。
徳川将軍家から葵紋を刻むことを許された越前康継(2代)の《脇指 銘(葵紋)以南蛮鐵於武州江戸/越前康継》は、南蛮貿易で手に入れた鉄を使った貴重な品。幕末に実用性を重視した古刀の復元を目指した刀工による《脇指 銘 氷心子秀世/天保九年二月日》も展示されています。

「第1章 武士の姿と武具」会場風景より、(左)《脇指 銘氷心子秀世/天保九年
二月日》江戸時代・天保9年(1838)重要文化財《短刀 銘則重》は、大倉家に嫁いだ女性の「懐剣」として伝わる品です。ほかにも、鎌倉時代の《太刀 国俊》、南北朝時代の《短刀 銘相州住秋廣/應安三》など、各時代の特徴を示す名刀が並んでいます。
徳川将軍家から葵紋を刻むことを許された越前康継(2代)の《脇指 銘(葵紋)以南蛮鐵於武州江戸/越前康継》は、南蛮貿易で手に入れた鉄を使った貴重な品。幕末に実用性を重視した古刀の復元を目指した刀工による《脇指 銘 氷心子秀世/天保九年二月日》も展示されています。

徳川家康や、楠正成、源義家など、よく知られた武士の姿を描いた絵画も紹介されています。

(左から)《源義家雁行乱知伏兵》小山栄達 大正~昭和・20世紀 個人蔵、《太刀 国俊》国俊 鎌倉時代・13世紀
戦の激しさを伝える合戦図も多数展示されています。前田青邨の《洞窟の頼朝》は、源頼朝が石橋山の戦いに敗れ、洞窟に身を潜める緊迫の場面を描いた作品。画面全体から「武士の覚悟」が伝わってくるような大作です。甲冑の研究に熱心だった青邨が、本作を描くにあたり参考にした甲冑の一つが、武蔵御嶽神社の《赤絲威大鎧》です。平安時代末期の大型で重厚な造りに、赤い糸を用いた豪壮なデザインが特徴で、青邨はこれを「天下の名甲」と称えました。本展ではこの複製を見ることができます。
後期には、歴史画を得意とした安田靫彦による《黄瀬川陣》が登場します。源義経が兄・頼朝の陣に駆けつけた歴史的な瞬間を描いた作品で、静かで格式高い雰囲気を持つ作品として知られる名作です。
小山栄達は、主に歴史画や武者絵を描き、官展で活躍した画家です。戦時中には「日本精神」を重んじた作品を多く手がけ、絵本にも武将や忠臣の姿を描きました。南北朝時代の戦乱を描いた《吉野山合戦図》では、武者たちの緊迫した表情や、躍動感あふれる構図で、戦場の激しさを見事に表現しています。
かつて、剣術や馬術、弓術などの武芸は、戦いの技だけでなく、自己表現や儀式、遊びの一環としても行われていました。特に、馬上で弓を射る技術は重要視され、京都・上賀茂神社で五穀豊穣を祈る「競馬(くらべうま)」の様子を描いた《賀茂競馬図屏風》にもその様子が描かれています。

(左から)《繋馬図》安土桃山時代・16世紀 、【重要文化財】《賀茂競馬屏風》久隅守景 江戸時代・17世紀
第2章 鷹図の世界
第2章では、鷹図が持つ武力や権力の象徴としての役割や、その魅力について紹介しています。
武士にとって鷹狩は、単なる娯楽ではなく、領地視察や権力の誇示の手段でもありました。古代では天皇が行い、武士の台頭とともに広まり、安土桃山時代以降、多くの記録が残されています。江戸時代には国家儀礼として行われ、領地視察や大名統制に活用されました。《将軍家駒場鷹狩図巻》は、江戸時代の大規模な鷹狩の様子を詳細に描いた絵巻です。

「第2章 鷹図の世界」会場風景より、(中央)《鶴に鷹図》南溪 江戸時代・19世紀 摘水軒記念 文化振興財団
鷹狩には多くの人手や労力が必要だったため、鷹に関する知識や礼法が深まり、専門書も作られました。
武士にとって鷹狩は、単なる娯楽ではなく、領地視察や権力の誇示の手段でもありました。古代では天皇が行い、武士の台頭とともに広まり、安土桃山時代以降、多くの記録が残されています。江戸時代には国家儀礼として行われ、領地視察や大名統制に活用されました。《将軍家駒場鷹狩図巻》は、江戸時代の大規模な鷹狩の様子を詳細に描いた絵巻です。
《鶴に鷹図》は、鷹が鶴を襲う緊迫の瞬間を描いた作品です。作者の南溪は鷹狩に使われる狩猟犬の訓練を担当しており、臨場感あふれる表現で狩猟の様子を生々しく描き出しています。

「第2章 鷹図の世界」会場風景より、(中央)《鶴に鷹図》南溪 江戸時代・19世紀 摘水軒記念 文化振興財団
鷹狩には多くの人手や労力が必要だったため、鷹に関する知識や礼法が深まり、専門書も作られました。
土佐光起作と伝わる《鷹飼図巻》には、公家による鷹の飼育の様子が素朴な筆致で描かれています。鷹匠が餌やりから調教まで行う過程を視覚化した、当時の飼育マニュアルのような作品だったのかもしれません。
また、鷹を描いた絵画も多く生まれました。鷹は武力や権力を象徴する存在として、花鳥画の中でも特別な意味を持ちました。室町時代後期以降、中国や朝鮮の影響を受けた鷹図が描かれるようになり、特に将軍家や大名が好んで所持したことから、武士の気風に合った勇壮な鷹図が多くの絵師たちによって描かれました。

「第2章 鷹図の世界」会場風景より、(左)《鷙鳥図屏風》江戸時代・17世紀 東京国立博物館 前期展示
止まり木にとまる鷹を描いた「架鷹図」では、若鷹と成鳥の違いや、「大緒」と呼ばれる飾り紐の結び方など、細かい部分にも注目してみましょう。

「第2章 鷹図の世界」会場風景より、さまざまな架鷹図の展示
16世紀にオランダから伝わった南蛮犬(洋犬)は、鷹狩で重要な役割を果たしました。日本における洋犬を描いた作品では、江戸時代初期の長谷川等意によるものが古く、類似したポーズの洋犬図も描かれています。

《洋犬・鷹図》長谷川等意 江戸時代・17世紀 摘水軒記念 文化振興財団
本展では、戦場で戦う武士、彼らの魂が宿る刀剣、そして権威の象徴である鷹など、さまざまな角度から武士たちの生きた時代をひもときます。武士の歴史や文化を物語る多彩な作品を通して、時代とともに変化する姿をたどり、彼らが大切にしてきた精神や美意識に触れてみてはいかがでしょうか。
※文中、所蔵先表記のない作品は大倉集古館蔵
【開催概要】
展覧会名:「武士の姿・武士の魂」
会期:2025年1月28日(火)~3月23日(日)※会期中一部作品の展示替えあり
前期:1月28日(火)~2月24日(月・休)
後期:2月26日(水)~3月23日(日)
会場:大倉集古館(東京都港区虎ノ門2-10-3)
開館時間:10:00~17:00(金曜日は19:00まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入館料:一般1,000円、大学生・高校生800円、中学生以下無料