東京・日本橋の三井記念美術館で、特別展「魂を込めた 円空仏 —飛騨・千光寺を中心にして—」が3月30日(日)まで開催されています。円空(1632-1695)は江戸時代前期に活躍した山林修験僧で、日本各地を巡りながら「円空仏」と呼ばれる独特の木彫の神仏像を制作しました。現存する数は約5000余体ともいわれています。円空仏約70件が、東京に一堂に会する本展では、さまざまな円空の造形を通してその実像に迫ります。

《地蔵菩薩立像》千光寺
樹木の中に神仏の姿を見出す
円空は樹木の中に神仏の姿を見出し、魂を込めて彫刻しました。展示室1では、円空の独特な彫刻技法に焦点が当てられています。
円空の作品の特徴は、像の表面に荒々しい斧やノミの削り痕をそのまま残す点にあります。これは平安時代からの仏教儀礼に倣った作法だと考えられています。
円空の作品の特徴は、像の表面に荒々しい斧やノミの削り痕をそのまま残す点にあります。これは平安時代からの仏教儀礼に倣った作法だと考えられています。
ここでは《迦楼羅(鳥天狗)立像》や《神像》などが展示され、円空の独特な造形美を間近で鑑賞することができます。《愛染明王坐像》の鋭い目つきと力強い姿は、見る者を圧倒する迫力があります。

《愛染明王坐像》霊泉寺
展示室2には、円空が彫った柿本人麻呂の像が展示されています。自身も和歌を詠む円空にとって、柿本人麻呂は「歌聖」であり「歌の神」でした。

《柿本人麻呂坐像》東山神明神社
展示室3では、同材で作られたと伝わる、高さ2メートルを超える巨大な護法神像が出迎えてくれます。
両面宿儺坐像が日本橋に登場!
展示室4では、円空仏の表情の豊かさに触れることができます。
特に注目したいのが《両面宿儺坐像》です。両面宿儺は、『日本書紀』では朝廷に反抗し退治されたと書かれますが、地元ではこの地方を守護していた豪族と伝えられています。二つの顔を横に並べ、弓矢の代わりに斧を持つ姿は、円空自身の造像行為を象徴しているのかもしれません。

展示室4会場風景より、(右)《両面宿儺坐像》千光寺
ほとけの多様な姿
多神教である仏教は、多くの仏が存在します。
多神教である仏教は、多くの仏が存在します。
一般的には「如来」「菩薩」が慈悲相、「明王」「天」が忿怒相とされますが、円空の像は忿怒相の中にも慈悲がにじみ出ているのが特徴です。
《三十三観音立像》は、病気平癒を願って地域の人々に親しまれてきた仏像群です。31体が現存し、それぞれの像の個性豊かな表情が見る人の心を和ませます。

《三十三観音立像》千光寺
円空作最大級の迫力ある《不動明王立像》なども展示され、さまざまな豊かな造形の像を楽しむことができます。《十一面観音菩薩立像》は、頭上に並ぶ小さな顔の表情の違いにも注目してみてください。

《十一面観音菩薩立像》村上神社
円空の作品は、大小さまざまな大きさと多様な形態を持ち、表現方法も豊富です。極めて小さな作品や複数の像を組み合わせた作品も見られ、その世界は奥深い魅力に満ちています。
《阿弥陀如来坐像及び二十五菩薩立像》では、中央の阿弥陀如来を取り巻く菩薩像は、細長い棒状の形状をしていますが、それぞれが異なる表情や大きさで個性豊かに表現されており、円空の独創的な解釈と豊かな想像力が感じられます。

龍神と宝珠が織りなす世界
展示室7では、龍神と宝珠をテーマにした作品群が展示されています。龍は水や雨、河川に関わる存在として仏教の説話にも多く登場します。特に『法華経』には八大龍王や龍女についての話が記されています。円空はこうした仏教の教えをよく理解したうえで、龍神を独自の方法で表現しました。

(左から)《十一面観音菩薩立像及び今上皇帝立像・善女龍王立像》元禄 3 年(1690) 桂峯寺、《千手観音菩薩立像及び聖観音菩薩立像・龍頭観音菩薩立像》清峯寺
宝珠は不思議な力を持つ珠として古くから信仰の対象となってきました。
円空像には宝珠を持つものが多く、展示作品からは、宝珠が持つ神秘的な力と円空の信仰心が融合した独特の世界観を感じ取ることができます。
日本の神々
円空が彫り出したさまざまな神々の像も展示されています。山岳神を篤く信仰していた円空は、特に白山信仰との関わりが深く、多くの白山神像を遺しています。
展示では、白山妙理大権現や八幡大菩薩、伊勢大明神、熊野権現など、日本のさまざまな地域の伝統的な神々の姿を見ることができます。

展示室4会場風景より、日本の神々の展示(右)《八幡大菩薩立像》住吉神社
稲荷明神はもともと穀物・農耕の神でしたが、後に商売繁盛や芸能上達、家内安全などの神としても広く信仰されるようになりました。円空は多くの神像を造立しましたが、その中でも稲荷明神像が最も多く現存しています。ここでは2種類の円空作の稲荷明神像を見ることができます。
円空の作品は、従来の仏像の枠にとらわれない新しさと、日本古来の木を神聖視する思想が反映された独特の表現で、現代でも多くの人々を魅了し続けています。円空仏の荒々しさと慈愛、そして現代彫刻にも通じる造形の魅力をぜひ会場で楽しんでみてください。

【開催概要】
展覧会名:特別展「魂を込めた 円空仏 —飛騨・千光寺を中心にして—」
会期:2025年2月1日(土)~3月30日(日)
会場:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(ただし2月10日、2月24日は開館)、2月23日
入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※70歳以上の方は1,200円(要証明)
公式ホームページ:https://www.mitsui-museum.jp/