東京ステーションギャラリーにて、「生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った」が2025年3月16日まで開催されています。


宮脇綾子の芸術世界
宮脇綾子は、日本のアプリケ芸術において先駆的な存在として高く評価されています。宮脇は、身近なモノを独自の視点で捉え、それらを徹底的に観察し、時には断面を露わにしたり、構造を詳細に調べ、アプリケ、手芸といった従来の分類に収まらない斬新な表現方法で作品を生み出しました。
宮脇綾子は、日本のアプリケ芸術において先駆的な存在として高く評価されています。宮脇は、身近なモノを独自の視点で捉え、それらを徹底的に観察し、時には断面を露わにしたり、構造を詳細に調べ、アプリケ、手芸といった従来の分類に収まらない斬新な表現方法で作品を生み出しました。
彼女の作品約150点が一堂に会するこの展覧会は、日常の中に潜む美しさを鋭い観察眼で捉え、表現した作家の独自の世界を8つのテーマで紹介しています。
観察の達人、宮脇綾子の眼差し
第1章「観察と写実」では、宮脇綾子の徹底した観察眼が光る作品が並んでいます。彼女は日々の生活の中で目にする野菜や魚を細部まで観察し、その形や構造を布で再現しました。

第1章「観察と写実」展示風景

第1章「観察と写実」展示風景
たとえば《ねぎ》では繊細な質感と色合い、《蕪》では葉から根までの形状、《するめ》では乾燥した表面の質感、《たこ》では吸盤の細部、《どくだみ》では葉脈や花の繊細さを見事に表現しています。これらの作品は、宮脇の鋭い観察力と卓越した技術とともに、日常にある素材の美しさを再発見させてくれます。
切って、割って、新たな発見
第2章「断面と展開」では、果物や野菜を切った断面の美しさに着目した作品が並びます。
《切った玉ねぎ》は層の繊細さを、かれいをモチーフにした作品では、は魚の表裏を対比させて構造を探究しています。《しゃけ》は切り身の断面を細密に、「はりえ日記 第13巻」のうち《紫キャベツ》は葉の重なりを色鮮やかに表現、「はりえ日記 第9巻」のうち《トマト》では種子や果肉まで再現し、食材に潜む構造の複雑さと芸術性を見事に浮き彫りにしています。
《切った玉ねぎ》は層の繊細さを、かれいをモチーフにした作品では、は魚の表裏を対比させて構造を探究しています。《しゃけ》は切り身の断面を細密に、「はりえ日記 第13巻」のうち《紫キャベツ》は葉の重なりを色鮮やかに表現、「はりえ日記 第9巻」のうち《トマト》では種子や果肉まで再現し、食材に潜む構造の複雑さと芸術性を見事に浮き彫りにしています。

第2章「断面と展開」より、(中央)《しゃけ》1973 豊田市美術館

第2章「断面と展開」展示風景
自然の多様性を布で表現
ぜんまい、干かれい、ひなげし、あやめなど、同じ種類でも微妙に異なる形、色、質感が丁寧に表現されています。宮脇は茎葉の巻き具合、干し方による変化、花の個性、咲き具合の違いなど、自然界の多様性と変化を細やかに捉え、自然の豊かさと個性を鮮やかに描き出しました。
第4章「素材を活かす」では、古い着物や帯、洗いざらしのタオルなど、身近な素材を巧みに組み合わせ、様々な布地の特徴を活かした作品が紹介されています。

第4章「素材を活かす」展示風景
《ねぎ坊主 おべんとう用の折で》では茎は弁当の折を、《めざし》では、石油ストーブの芯の使い古しを、《鰈の干もの》は、使い終わったコーヒーフィルターを使用し、素材の特性を最大限に活かして作品を作り上げています。

第4章「素材を活かす」展示風景
模様が生み出す新たな表現
第5章「模様を活かす」では、布地の持つ模様を巧みに利用した作品が展示されています。
《おこぜ》では、龍の模様が入った布を使ってオコゼの刺々しい姿を表現し、意外性と面白さを感じさせます。

《おこぜ》1957 個人蔵
《おこぜ》では、龍の模様が入った布を使ってオコゼの刺々しい姿を表現し、意外性と面白さを感じさせます。

《おこぜ》1957 個人蔵
《木曽路の月》では、着物の模様を月光に見立て、幻想的な風景を作り出し、《パイナップル》は、パイナップルの表面の模様を様々な布の柄で表現し、果物の持つ複雑な質感を巧みに再現しています。

第5章「模様を活かす」展示風景より、(左)《パイナップル》豊田市美術館
模様と遊ぶ、自由な発想
第6章「模様で遊ぶ」では、布の柄や模様を効果的に使った作品が並んでいます。ここでは写実的な表現から離れ、模様の面白さを活かした大胆な造形の作品が楽しめます。

第6章「模様で遊ぶ」展示風景
《鶴亀模様の鯛》は、「めでたい」モチーフである鶴と亀の模様の布を鯛の形に組み合わせた、宮脇の自由な発想と遊び心が感じられる作品です。

《鶴亀模様の鯛》1979 豊田市美術館
第6章「模様で遊ぶ」展示風景
《鶴亀模様の鯛》は、「めでたい」モチーフである鶴と亀の模様の布を鯛の形に組み合わせた、宮脇の自由な発想と遊び心が感じられる作品です。

線が生み出す繊細な表現
第7章「線の効用」では、紐や糸を使って細部を表現した作品が紹介されています。ガラスの透明感、植物の繊細な茎や芽、魚の輪郭線など、布だけでは表現が難しい細やかな部分の表現が見どころです。

第7章「線の効用」展示風景
《芽の出たさつまいも》では、糸で芽の部分を表現し、植物の成長する様子を生き生きと伝えています。

《芽の出たさつまいも》1987 豊田市美術館

第7章「線の効用」展示風景
《芽の出たさつまいも》では、糸で芽の部分を表現し、植物の成長する様子を生き生きと伝えています。

《芽の出たさつまいも》1987 豊田市美術館
デザインの観点から見る宮脇作品
第8章「デザインへの志向」では、宮脇の作品をデザインの観点から捉えなおした作品が展示されています。

第8章「デザインへの志向」展示風景
《そまの道具》では、のこぎりや斧などの道具を絶妙のバランスで配置し、日用品の美しさを引き出しています。《床山さんの櫛》では、実物の櫛を使って幾何学的な構成を作り出し、日常品をアートへと昇華させています。

《床山さんの櫛》個人蔵

第8章「デザインへの志向」展示風景
《そまの道具》では、のこぎりや斧などの道具を絶妙のバランスで配置し、日用品の美しさを引き出しています。《床山さんの櫛》では、実物の櫛を使って幾何学的な構成を作り出し、日常品をアートへと昇華させています。

《床山さんの櫛》個人蔵
展示作品の中でも特筆すべきは、「縞魚型文様集」全22巻と「木綿縞乾柿型集」全15巻です。これらの画帖には、それぞれ1万もの魚と干柿の切り抜きが貼られています。宮脇は、新しい布を入手するたびに小さな魚や干柿を切り抜き、一定数集まると画帖に貼り付けていきました。長年にわたる地道な作業の結晶であるこの作品は、宮脇の生涯をかけた創作活動を象徴するものといえるでしょう。
布と紙という身近な素材で表現する宮脇の芸術は、私たちに新たな視点と感動を与えてくれます。この機会に、徹底した観察と探究心、そして自由な発想と遊び心がから生み出された豊かな世界に触れてみてはどうでしょうか。
【開催概要】
展覧会名:生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った
会期:2025年1月25日(土)~3月16日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
開館時間:10:00~18:00(金曜日は20:00まで) ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし2月24日、3月10日は開館)、2月25日(火)
入館料:一般1,300円、高校・大学生1,100円、中学生以下無料
※障がい者手帳等をお持ちの方は200円引き、その付添1名は無料
公式ホームページ:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/