京都国立博物館で、大阪・関西万博開催を記念した特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」が2025年4月19日から6月15日まで開催されます。この展覧会では、日本美術の多様性と、海外との交流がもたらした影響を、国宝18件、重要文化財53件を含む約200件の作品を通じて紹介します。
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「るつぼ」って何?日本美術の多様性を表現
「るつぼ」とは、もともと金属を溶かすための容器のことですが、ここでは様々な文化が混ざり合う様子を表現しています。
私たちが知る日本美術の名品の多くが、実は海外との交流の中で生まれたものでした。本展は、日本美術が古今東西の芸術文化が混ざり合ってダイナミックに形作られてきたことを異文化交流の視点から紐解きます。

展示は大きく3つのセクションに分かれています。それぞれのセクションで、日本美術と海外文化の関わりを、さまざまな角度から見ることができます。

世界の目に映った日本美術
最初のセクション「世界に見られた日本美術」では、19世紀末から20世紀初頭にかけて、西洋人が抱いた日本美術のイメージを紹介します。
19世紀末、欧米で日本美術の基となっていたのは、安価な輸出工芸品や骨董品でした。そんな中、明治政府は万博への参加を通じて殖産興業を図るいっぽうで、美術を通して国の威信を高めようとしました。

葛飾北斎の「富嶽三十六景」シリーズのうち《神奈川沖浪裏》は、この時代ジャポニスムの隆盛に伴い西洋で高く評価された作品です。ゴッホが激賞し、ドビュッシーの音楽やクローデルの彫刻にまで影響を与えました。本展では、同じシリーズの《凱風快晴》《山下白雨》の2点も展示されます。
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富嶽三十六景 神奈川沖浪裏 葛飾北斎画 江戸時代 天保2年(1831)頃 山口県立萩美術館・浦上記念館所蔵 [前期展示 ※後期は和泉市久保惣記念美術館所蔵品を展示]

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富嶽三十六景 凱風快晴 葛飾北斎画 江戸時代 天保2年(1831)頃 山口県立萩美術館・浦上記念館所蔵  [前期展示 ※後期は和泉市久保惣記念美術館所蔵品を展示]

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富嶽三十六景 山下白雨 葛飾北斎画 江戸時代 天保2年(1831)頃 山口県立萩美術館・浦上記念館所蔵  [前期展示 ※後期は和泉市久保惣記念美術館所蔵品を展示]

《色紙団扇散蒔絵料紙箱・硯箱》は、ウィーン万博からの帰国時に沈没した船から引き揚げられたものです。奇跡的に保存状態が良好だった点が注目され、蒔絵が豪華客船の内装に採用されるきっかけとなりました。
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色紙団扇散蒔絵料紙箱・硯箱 江戸時代 19世紀 京都国立博物館所蔵[通期展示]

世界に見せたかった日本美術
次のセクションでは、明治政府が西洋に向けて発信しようとした日本美術の姿を見ることができます。
明治政府は、日本が「美術」や「歴史」を持つ「文明国」であることを示すため、1900年のパリ万博で日本初の西洋式日本美術史『Histoire de l’Art du Japon』を編纂し、展示しました。このセクションでは、主にその美術史に掲載された作品が紹介されます。
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《Histoire de l’Art du Japon》(日本美術史)巴里万国博覧会臨時博覧会事務局編  明治33年(1900) 京都国立博物館所蔵 [通期展示 ※頁替あり]

《突線鈕五式銅鐸》は、高さ134.7cm、重さ45.5kgという、現存する日本最大の銅鐸です。この作品は、日本の初期の美術における金工の代表例のひとつとして紹介されています。
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重要文化財 突線鈕五式銅鐸 滋賀県野洲市小篠原字大岩山出土 弥生時代 1~3世紀 東京国立博物館所蔵 [通期展示]

埴輪は、日本の木像や塑像、銅像の起源として、《地蔵菩薩像》は、鎌倉時代を代表する作品として取り上げられました。
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重要美術品 埴輪 鍬を担ぐ男子 伝群馬県太田市脇屋町出土 古墳時代 6世紀 京都国立博物館所蔵  [通期展示]
※本作品は『Histoire de l’Art du Japon』には掲載されていません。

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地蔵菩薩像 鎌倉時代 14世紀 東京国立博物館所蔵 [後期展示]

俵屋宗達の国宝《風神雷神図屏風》は、今では誰もが知る名作ですが、その存在が広く知られるようになったのは実は明治時代後半からです。先に西欧で評価されていた尾形光琳、そして酒井抱一へと連なる琳派概念の形成は、当時の日本が必要とした「伝統の創出」でもありました。
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国宝 風神雷神図屏風 俵屋宗達筆 江戸時代 17世紀 京都・建仁寺所蔵 [通期展示]

展覧会を記念して「風神雷神フィギュア」セット券(前売券)が販売されます。フィギュア制作のパイオニア「海洋堂」が、最新アップデートとして挑んだ渾身の逸品。屏風には描かれていない風神雷神の背面をお楽しみに!
20,250 円(税込)(一般のみ/2,500 枚限定販売/税込)
※本券の詳細は、展覧会公式サイトをご覧ください。
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特別展「日本、美のるつぼ」限定 大本山 建仁寺公認 風神雷神フィギュア (国宝「風神雷神図屏風」俵屋宗達筆 京都・建仁寺所蔵)

世界と出会った日本の美術
最後のセクションでは、実際に日本に伝わった美術品を通じて、海外との活発な交流の歴史を紹介します。

《吉武高木遺跡 3号木棺墓出土品》には、朝鮮半島で作られた青銅製の鏡や武器、ヒスイの勾玉などが含まれており、古代の日本と朝鮮半島との交流を物語っています。
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重要文化財 吉武高木遺跡 3号木棺墓出土品 福岡市西区 吉武高木遺跡出土 弥生時代 紀元前3世紀 国(福岡市博物館管理) [通期展示] 

《宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱》の蓋には、空海が唐から持ち帰ったお経を納める箱と書かれています。唐の影響を受けながらも日本的な要素を取り入れた作品として注目されます。
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国宝 宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱 平安時代 延喜 19 年(919) 京都・仁和寺所蔵 [通期展示]

《三彩釉骨蔵器》は、中国の唐三彩の技術を用いながら、奈良時代に日本の須恵器の形を取り入れて生産された奈良三彩の代表作です。異文化を柔軟に取り入れる日本の姿勢がうかがえます。
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重要文化財 三彩釉骨蔵器 和歌山県橋本市名古曽古墓出土 奈良時代 8世紀 京都国立博物館所蔵  [通期展示]

《華厳宗祖師絵伝 義湘絵》は、中国の絵画を参考にしながら、伸び伸びとした筆致で描かれた国宝絵巻です。
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国宝 華厳宗祖師絵伝 義湘絵(部分) 鎌倉時代 13 世紀 京都・高山寺所蔵 [通期展示 ※巻替あり]

足利将軍家から、信長、秀吉、家康と伝わった唐物の至宝《唐物茄子茶入 付藻茄子》や、サファヴィー朝ペルシアの宮廷工房で製作された室内装飾品を転用したと考えられる、秀吉所用の陣羽織など天下人ゆかりの品も展示されます。
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唐物茄子茶入 付藻茄子 中国・南宋~元時代 13~14 世紀 東京・静嘉堂文庫美術館所蔵  [前期展示 ※後期は同館所蔵《唐物茄子茶入 松本茄子(紹鷗茄子)》を展示]

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重要文化財 鳥獣文様綴織陣羽織 豊臣秀吉所用 桃山時代 16世紀 京都・高台寺所蔵  [4月19日~5月11日展示]

《クリス》は、インドネシアとマレー半島の周辺で広く用いられてきた伝統的な短剣です。日本では雨乞いの儀式に使用された可能性があり、異文化の道具が日本の信仰に取り入れられた例として注目されます。
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クリス インドネシア 16~17世紀 京都・石清水八幡宮所蔵 [通期展示]

《楼閣山水蒔絵水注》は、アラブ世界の金属製品を原型に、中国で銅器や磁器に写された品を、さらに日本で独自の解釈を加えて作られた作品です。フランス・ルーヴル美術館には、ルイ16世妃のマリー・アントワネット所蔵の類品が所蔵されています。
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楼閣山水蒔絵水注 江戸時代 18世紀 京都国立博物館所蔵 [通期展示]

《十八羅漢坐像のうち羅怙羅尊者像》は、中国人仏師・范道生の作品です。彼の作風は日本の仏師にも影響を与え、「黄檗様」と呼ばれる新しい様式を生み出すきっかけとなりました。
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十八羅漢坐像のうち羅怙羅尊者像 范道生作 江戸時代 寛文 4 年(1664) 京都・萬福寺所蔵 [通期展示]

初公開の《二十四孝図巻》は、日本人画家24名の絵に朝鮮通信使随員が序文等を寄せた合作。江戸時代の日朝間の文化交流を示す貴重な品です。
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二十四孝図巻 乾巻(部分)土佐光祐ほか筆 江戸時代・正徳元年(1711)、享保 4 年(1719)  [通期展示]

すみっコぐらしが展覧会公式応援キャラクターに就任!
本展と同一会期で、奈良国立博物館にて開館130年記念 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」が開催されます。そして大人気キャラクター「すみっコぐらし」が、2つの展覧会の公式応援キャラクターに就任することが決定しました。
両展を一緒に楽しめるお得な共通チケットやグッズセット券も販売されます。詳しくは展覧会公式サイトをご覧ください。

日本美術を新たな視点から見直す
日本美術の成り立ちを異文化交流の観点から捉え直す画期的な展覧会です。この機会に、時代を超えて続いてきた国際交流の歴史をたどり、さまざまな文化が混ざり合う「るつぼ」の中で生まれた日本美術の底力を、新たな視点から再発見してみてはどうでしょうか。

【開催概要】
展覧会名:大阪・関西万博開催記念 特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」
会期:2025年4月19日(土)~6月15日(日)
会場:京都国立博物館 平成知新館(京都市東山区茶屋町527)
開館時間:午前9時~午後5時30分(金曜日は午後8時まで)※入館は各閉館30分前まで
休館日:月曜日 ※ただし5月5日(月・祝)は開館、5月7日(水)休館
入館(観覧)料:
当日(一般):2,000円、前売・団体:1,800円
当日(大学生):1,200円、前売・団体:1,000円
当日(高校生):700円、前売・団体:500円
中学生以下無料
※各種前売券や限定チケットは2月19日(水)~4月18日(金)の期間限定販売
展覧会公式サイト:https://rutsubo2025.jp/