東京国立博物館と台東区立書道博物館の連携企画「拓本のたのしみ」は、拓本のたのしみ方を紹介する展覧会です。
台東区立書道博物館の「拓本のたのしみ ー王羲之と欧陽詢ー」では、紀元前の金石拓本から王羲之の法帖、さらには日本の古碑まで、さまざまな視点から拓本の魅力に迫ります。
金石拓本の世界
展示の冒頭では、石碑や金属製の碑文などの表面を紙に写し取った金石拓本について紹介。器・銘文ともに西周時代初期を代表する《大盂鼎銘》など、中国古代の青銅器や石碑の拓本が展示されています。

展示風景
特に注目は《泰山刻石》です。これは紀元前219年、秦の始皇帝が自らの功績を讃えるために泰山に建てた石碑の拓本です。当時は223字あったとされますが、時代とともに自然災害や経年劣化により徐々に文字が失われて、宋代(約1000年前)には165文字に、明代には29文字、清代にはわずか10文字にまで減少しました。今回展示されている3つの拓本は石碑の歴史的変遷を物語る貴重な資料となっています。

展示風景
特に注目は《泰山刻石》です。これは紀元前219年、秦の始皇帝が自らの功績を讃えるために泰山に建てた石碑の拓本です。当時は223字あったとされますが、時代とともに自然災害や経年劣化により徐々に文字が失われて、宋代(約1000年前)には165文字に、明代には29文字、清代にはわずか10文字にまで減少しました。今回展示されている3つの拓本は石碑の歴史的変遷を物語る貴重な資料となっています。

《泰山刻石(百六十五字本) 》李斯筆 秦時代・(前219) 台東区立書道博物館 前期展示
王羲之と法帖
王羲之の作品と法帖のセクションでは、《十七帖》や《淳化閣帖》が展示され、王羲之の書風の変遷を見ることができます。
《十七帖》は王羲之の書簡を集めた法帖で、草書の手本として古くから重んじられてきました。時代によって微妙に異なる字形や線質を観察するのも面白いでしょう。

《十七帖(上野本)》原跡:王羲之 原跡:東晋時代・4世紀 京都国立博物館 前期展示
《淳化閣帖(夾雪本)》は北宋時代に作られた、数少ない原刻本と考えられる作品です。北宋時代に法帖ブームのさきがけとなった《絳帖》も展示されています。
《十七帖》は王羲之の書簡を集めた法帖で、草書の手本として古くから重んじられてきました。時代によって微妙に異なる字形や線質を観察するのも面白いでしょう。

《十七帖(上野本)》原跡:王羲之 原跡:東晋時代・4世紀 京都国立博物館 前期展示
《淳化閣帖(夾雪本)》は北宋時代に作られた、数少ない原刻本と考えられる作品です。北宋時代に法帖ブームのさきがけとなった《絳帖》も展示されています。

(左)《淳化閣帖(夾雪本) 》王著編 北宋時代・淳化3年(992) 台東区立書道博物館 前期展示
《宣和内府旧蔵蘭亭序》原跡:王羲之 原跡:東晋時代・永和9年(353) 五島美術館(宇野雪村コレクション) 前期展示
欧陽詢の世界
欧陽詢の作品のなかでも特に有名な《九成宮醴泉銘》に焦点を当てたコーナーもあります。
《九成宮醴泉銘》は、唐の太宗皇帝が避暑地に湧き出た泉を記念して建てた碑の拓本で、欧陽詢の楷書の集大成とも言える作品です。さまざまな時代に取られた拓本を比較することで、石碑の風化や拓本技術の変遷を観察することができます。
現在は碑石が存在しない《化度寺碑》は、欧陽詢晩年の書の拓本です。力強さの中にも優美さが感じられ、欧陽詢の技量の高さがよくわかります。
現在は碑石が存在しない《化度寺碑》は、欧陽詢晩年の書の拓本です。力強さの中にも優美さが感じられ、欧陽詢の技量の高さがよくわかります。

展示風景より、(ガラスケース内、左から)重文《化度寺碑(翁方綱本)》欧陽詢筆 唐時代・貞観5年(631) 大谷大学博物館 前期展示、《化度寺碑(慶暦本)》欧陽詢筆 唐時代・貞観5年(631) 三井記念美術館 前期展示
乾隆帝と法帖:皇帝が愛した書の世界
清時代の乾隆帝は書道に深い造詣を持ち、多くの法帖を制作しました。前期展示の《三希堂法帖》は、乾隆帝が宮廷コレクションから厳選して作らせた法帖です。乾隆帝自身の序文もあり、当時の最高水準の技術で制作された逸品です。

展示風景より、(右)《欽定重刻淳化閣帖》乾隆帝勅撰 清時代・乾隆34年(1769) 台東区立書道博物館 前期展示
李氏四宝:稀少な拓本も登場
今回は前期後期でほとんどの作品が入れ替わります。
後期には清代の収蔵家李宗瀚が所蔵していた「李氏四宝」と呼ばれる4点の名品が展示されます。
後期には清代の収蔵家李宗瀚が所蔵していた「李氏四宝」と呼ばれる4点の名品が展示されます。
《孔子廟堂碑》は、初唐の3大家のひとりである虞世南の作品で、孔子を祀る廟の由来を記した碑文です。端正な楷書で書かれており、唐代の楷書の典型を見ることができます。建碑後間もなく火災で失われたため、この拓本は孤本(唯一残された拓本)となっています。
1月16日から展示の《啓法寺碑》も孤本として知られています。隋代の書家・丁道護の作品で、隋と唐の書風の違いを感じ取ることができます。
全形拓の世界:立体を平面に写す技
全形拓とは、青銅器などの立体物全体を平面の拓本として表現する技法です。
《彝(い)器銘冊》は、西周から元代までの青銅器の全形拓を集めたもので、全形拓の粋を集めた作品といえます。
《彝(い)器銘冊》は、西周から元代までの青銅器の全形拓を集めたもので、全形拓の粋を集めた作品といえます。
《井仁𡚬鐘銘》は、拓本だけでなく実物が本館に展示されています。立体感のある器物が、どのように平面の紙の上に表現されているかを見比べるのも面白いでしょう。

展示風景より、(左)《井仁𡚬鐘銘》西周時代・前9~前8世紀 台東区立書道博物館 前期展示
日本の古碑と和刻本:日本における拓本文化
日本の石碑や法帖の拓本についても紹介され、飛鳥から江戸時代にかけて日本がいかに中国文化を吸収していたかを知ることができます。646年に建立された日本最古の石碑《宇治橋断碑》の拓本は、中国の南北朝時代の影響を受けた書体で書かれています。
《宇治橋断碑》飛鳥時代・大化2年(646) 台東区立書道博物館 通期展示端方旧蔵コレクション:清朝末期の収集家の眼
清朝末期の高官であった端方の旧蔵品も本館に展示されています。端方は優れた目利きとして知られ、その収集品は質が高いことで有名でした。端方の旧蔵品を通じて、清朝末期の文化人の趣味や美意識、収集の傾向をかいま見ることができます。

本館展示風景
拓本の魅力、再発見!
今回の展覧会は、拓本の奥深さと魅力を再発見する絶好の機会となっています。東京国立博物館では拓本の基礎から清代の文人活動まで幅広く学べる一方、台東区立書道博物館ではより専門的な視点から拓本の世界に迫ることができます。両館を訪れることで、拓本に対する理解がぐっと深まるはず。古代中国から近代日本まで、時代を超えて受け継がれてきた書の美しさと歴史の重みを、ぜひ会場で体感してみてください。
【開催概要】
展覧会名:東京国立博物館・台東区立書道博物館 連携企画「拓本のたのしみ ー王羲之と欧陽詢ー」
前期:1月4日(土)~2月2日(日) 後期:2月4日(火)~3月16日(日)
会期:2025年1月4日(土)~3月16日(日)
会場:台東区立書道博物館
開館時間:9:30~16:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、2月25日(火)
※ただし、2月24日(月・休)は開館
公式ホームページ:https://www.taitogeibun.net/shodou/