東京国立博物館と台東区立書道博物館が連携して開催する「拓本のたのしみ」は、古代中国から近代日本まで、拓本の歴史と魅力を存分に堪能できる貴重な展覧会です。今回は2回に分けて両館の展示内容を詳しくレポートします。

展示風景
拓本って何?初めての人にもわかりやすく
東京国立博物館で開催中の「拓本のたのしみ ―明清文人の世界―」は、拓本の歴史と文化的意義を幅広く紹介する展覧会です。拓本とは、石碑や青銅器などに刻まれた文字や図像を紙に写し取ったもののこと。中国では唐代から盛んに作られるようになり、書の学習や鑑賞、歴史研究の重要な資料として珍重されてきました。そして明・清時代の文人たちは、拓本を通じて書の鑑賞や研究を行い、自らも臨書や模本を制作しました。
儒教の経典を石に刻み講学の定本としたものを石経といいます。《宋拓漢石経残字》(伝蔡邕筆、後漢時代・熹平4年(175) ※会期中展示替えあり)は、現存最古の石経の残石の拓本で、2000年近く前の文字の姿を今に伝えています。

展示風景
法帖の世界:名筆を集めた書の宝庫
法帖とは、歴代の名筆を集めて石に刻み、それを拓本にしたものです。書を学ぶ人々にとって、まさに「お手本」となる存在でした。
《淳化閣帖》は、北宋の太宗皇帝の命令で992年に編纂されました。王羲之をはじめとする歴代の名筆が収録されており、歴代書道大全集ともいえる逸品です。

《淳化閣帖巻第六》原跡:王羲之筆、王著編 原跡:東晋時代・4世紀、編纂:北宋時代・淳化3年(992) 高島菊次郎氏寄贈 前期展示
王羲之:書聖の名筆に触れる
本展では、中国書道史上最も有名な書家、王羲之の作品が多数見ることができます。王羲之は東晋時代(4世紀)に活躍し、その卓越した書の技術から「書聖」と呼ばれました。
《定武蘭亭序》は、王羲之の代表作「蘭亭序」を唐の太宗皇帝が欧陽詢に臨書させ、それを石に刻んだものの拓本です。王羲之の真跡は現存しないため、この拓本は貴重な資料となっています。今回は、元時代の趙孟頫が跋を書いた「独孤本」など、重要な拓本が展示されています。

《定武蘭亭序(許彦先本)》原跡:王羲之筆 原跡:東晋時代・永和9年(353) 高島菊次郎氏寄贈 前期展示
《集王聖教序》は王羲之の書を唐代の僧侶が王羲之の書を集めて作った石碑の拓本です。展示されている《興福寺断碑》とともに、王羲之の多彩な書風を一度に見ることができ、当時の人々は、先を争ってこの拓本を手に入れ手本にしたといいます。

《集王聖教序》王羲之筆 唐時代・咸亨3年(672) 江川吟舟氏寄贈 前期展示

《定武蘭亭序(許彦先本)》原跡:王羲之筆 原跡:東晋時代・永和9年(353) 高島菊次郎氏寄贈 前期展示
《集王聖教序》は王羲之の書を唐代の僧侶が王羲之の書を集めて作った石碑の拓本です。展示されている《興福寺断碑》とともに、王羲之の多彩な書風を一度に見ることができ、当時の人々は、先を争ってこの拓本を手に入れ手本にしたといいます。

《集王聖教序》王羲之筆 唐時代・咸亨3年(672) 江川吟舟氏寄贈 前期展示
唐代の名筆:顔真卿と欧陽詢の世界
唐代に入ると、書の表現はさらに多様化します。
唐代を代表する書家が顔真卿と欧陽詢です。両者の作品を比較することで、唐代書道の多様性を感じ取ることができるでしょう。
顔真卿の《千福寺多宝塔碑》は、楷書で書かれた古典的な名作で、顔真卿の比較的早期の作品です。前期には、顔真卿が安史の乱で亡くなった甥を悼んで書いた《祭姪文稿》(原跡:台北の國立故宮博物院蔵)の拓本も展示されています。
顔真卿の《千福寺多宝塔碑》は、楷書で書かれた古典的な名作で、顔真卿の比較的早期の作品です。前期には、顔真卿が安史の乱で亡くなった甥を悼んで書いた《祭姪文稿》(原跡:台北の國立故宮博物院蔵)の拓本も展示されています。

《千福寺多宝塔碑》顔真卿筆 唐時代・天宝11年(752) 前期展示
一方、欧陽詢の《皇甫誕碑》は、彼の晩年の作品で、楷書の名品として知られています。この碑は明の万暦年間、地震により碑石が断裂しますが、それ以前の貴重な拓本も今回展示されています。

《皇甫誕碑》欧陽詢筆 唐時代・貞観元~15年(627~641) 高島菊次郎氏寄贈 前期展示
宋代の書:蔡襄と米芾の個性豊かな表現
宋代になると、より個性的な書風が生まれます。北宋の蔡襄の《万安橋記》は、天下第一の橋とたとえられる万安橋(現在の洛陽橋)の由来を記した碑文で、力強くも品格のある字体は、北宋四大家の一人としての蔡襄の実力を示しています。
西周時代・前11世紀に作られた鼎(てい)という青銅器の拓本や、渓谷の自然の岩肌に刻まれた雄大な書の拓本《開通褒斜道刻石》という貴重な作品も並んでいます。

展示風景より、(右)《万安橋記》(2幅のうち1幅)蔡襄筆 北宋時代・嘉祐5年(1060) 由井勇造氏寄贈 前期展示
西周時代・前11世紀に作られた鼎(てい)という青銅器の拓本や、渓谷の自然の岩肌に刻まれた雄大な書の拓本《開通褒斜道刻石》という貴重な作品も並んでいます。

展示風景より、(右)《万安橋記》(2幅のうち1幅)蔡襄筆 北宋時代・嘉祐5年(1060) 由井勇造氏寄贈 前期展示
同じく北宋の米芾の作品《群玉堂米帖》も見逃せません。南宋時代の宰相が編纂した法帖で、米芾の個性的な書風を堪能できます。

《群玉堂米帖》原跡:米芾筆、韓侂冑編 原跡:北宋時代・11~12世紀、編纂:南宋時代・12~13世紀 高島菊次郎氏寄贈 前期展示

《群玉堂米帖》原跡:米芾筆、韓侂冑編 原跡:北宋時代・11~12世紀、編纂:南宋時代・12~13世紀 高島菊次郎氏寄贈 前期展示
拓本の多様性
拓本の対象は文字だけではありません。後漢時代の《武氏祠画像石》は、当時の生活や風俗、信仰を伝える貴重な資料で、古代中国の豊かな図像世界をかいま見ることができます。

《武氏祠画像石》後漢時代・2世紀 会期中幅替えあり

《武氏祠画像石》後漢時代・2世紀 会期中幅替えあり
経幢は唐代以降に盛んに造られた、経文を刻んだ石造物です。本作は、清末の金石書画の大収蔵家である端方が、1903年の第5回内国勧業博覧会に出品し、その後東京帝室博物館(現:東京国立博物館)に寄贈したもの。蓋は欠損し、台座は後補となっています。

《仏頂尊勝陀羅尼経幢》唐時代・咸通9年(868)
清代の文人たち:拓本を愛した知識人たち
最後のセクションでは、清代の文人たちの活動に焦点が当てられています。《城南雅集図巻》は、康煕21年(1682年)に文人たちが集まって書画を楽しむ様子を描いた作品です。当時の文人たちが拓本をどのように鑑賞し、研究していたかを知る上で貴重な資料といえるでしょう。

《城南雅集図巻》禹之鼎筆 清時代・17世紀 高島菊次郎氏寄贈 前期展示
【開催概要】
展覧会名:東京国立博物館・台東区立書道博物館 連携企画 「拓本のたのしみ ―明清文人の世界―」
会期:2025年1月2日(木)~3月16日(日)
前期:1月2日(木)~2月2日(日) 後期:2月4日(火)~3月16日(日)
前期:1月2日(木)~2月2日(日) 後期:2月4日(火)~3月16日(日)
会場:東京国立博物館 東洋館8室
開館時間:9:30~17:00 (入館は閉館の30分前まで)
※金・土曜日、1月12日(日)、2月23日(日)は20:00まで開館
休館日:月曜日、2月25日(火)
※ただし、2月10日(月)、2月24日(月・休)は開館
入館料:一般 1,000円、大学生 500円
※高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は無料
公式ホームページ:https://www.tnm.jp/