国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)で、2025年3月25日から5月6日まで、企画展示「時代を映す錦絵ー浮世絵師が描いた幕末・明治ー」が開催されます。この展覧会では、江戸時代末期から明治初期にかけての激動の時代を、当時の浮世絵師たちがどのように捉え、錦絵として表現したかを紹介します。
風刺画の誕生
展示は9つの章で構成されています。最初の2章では、風刺画の基盤と登場について紹介されます。
江戸時代末期、出版規制をかいくぐるために様々な工夫を凝らした風刺画が生まれました。天保14年(1843)に歌川国芳の《源頼光公館士蜘作妖怪図》が大ヒットし、錦絵に風刺画というジャンルが成立します。
江戸時代末期、出版規制をかいくぐるために様々な工夫を凝らした風刺画が生まれました。天保14年(1843)に歌川国芳の《源頼光公館士蜘作妖怪図》が大ヒットし、錦絵に風刺画というジャンルが成立します。

《源頼光公館土蜘作妖怪図》歌川国芳画 天保14年(1843) 国立歴史民俗博物館蔵
《浮世又平名画奇特》は、ペリー来航や将軍の逝去など、世の中が騒がしかった時期に描かれました。一見すると単なる戯画ですが、実は当時の政治状況を風刺した判じ物として評判になり、毎日1600枚も摺られるほどのヒット作となりました。

《浮世又平名画奇特》歌川国芳画 嘉永6年(1853)6月 国立歴史民俗博物館蔵

《浮世又平名画奇特》歌川国芳画 嘉永6年(1853)6月 国立歴史民俗博物館蔵
地震と疫病 - 災害を描く錦絵
続く3章と4章では、自然災害や疫病の流行を題材にした錦絵を紹介。安政2年(1855)の江戸大地震後に登場した「鯰絵」は、地震の元凶とされた地中の大鯰を題材に、地震後の世相を風刺的に描いています。
《弁慶なまづ道具》は、地震後の復興景気で潤った建設業者を皮肉った作品です。弁慶に扮した鯰が、建設関係の道具を背負う姿が印象的です。

《弁慶なまづ道具》安政2年(1855) 国立歴史民俗博物館蔵
また、コレラや麻疹の流行を描いた錦絵も展示されます。《麻疹退治》は、麻疹の流行で損失を被った業種と、それで潤った医者や薬種屋の対比を、酒呑童子退治になぞらえて描いています。

《麻疹退治》歌川芳藤画 文久2年(1862)7月 国立歴史民俗博物館蔵
幕末の動乱を描く
5章では、ペリー来航から戊辰戦争に至る幕末の激動期を描いた錦絵が紹介されます。将軍家茂の上洛や生麦事件の余波の江戸市中混乱など、錦絵は激動する世の中の動きをタイムリーに伝えています。
《海上安全万代寿》は、将軍家茂が乗船した洋式外輪船を描いた作品です。船上の様子や、天上から神々が見守る様子など、細部まで丁寧に描かれています。

《海上安全万代寿》河鍋暁斎画 文久3年(1863) 7月 国立歴史民俗博物館蔵

《海上安全万代寿》河鍋暁斎画 文久3年(1863) 7月 国立歴史民俗博物館蔵
また、《延寿安穏之見酔》は、生麦事件後の江戸の混乱を風刺した「あわて絵」の一種で、江戸の人々の不安と動揺が巧みに表現されています。

《延寿安穏之見酔》文久3年(1863) 国立歴史民俗博物館蔵
《諸神諸仏冨士山江集会》は、「ええじゃないか」と呼ばれる民衆運動を描いたもの。無数のお札が降り注ぎ、ええじゃないかと踊り浮かれる人々や、我先にとお札を受け止めようと大騒ぎする人々の姿が描かれています。
多種類の虫が二手に分かれて戦う様は幕末には人気の画題でした。
《夏の夜虫合戦》は、戊辰戦争を虫の戦いに見立てた作品です。絣模様の蜂が薩摩藩で、萩の枝を武器とする蝶が長州藩など、それぞれの虫が各藩を表しています。

《夏の夜虫合戦》慶応4年(1868)5月 国立歴史民俗博物館蔵
さまざまな神仏の信仰
6章では、江戸時代に流行した神仏信仰と、それに関連した錦絵を紹介します。《おたけ大日如来略えんぎ》は、江戸で信仰を集めたお竹大日如来の開帳に合わせて描かれました。

《おたけ大日如来略えんぎ》歌川国芳画 嘉永2年(1849) 個人蔵
異国情緒あふれる横浜
7章では、開港後の横浜を描いた「横浜絵(横浜浮世絵)」を紹介。《横浜鈍宅之図》は、休日に横浜で遊歩する外国人たちの姿を描いた作品です。

《横浜鈍宅之図》歌川貞秀画 文久元年(1861)2月 国立歴史民俗博物館蔵
《五ヶ国於岩亀楼酒盛の図》は、横浜の遊廓で外国人客が遊ぶ様子を描いています。ロシア、オランダ、イギリスなど6か国の人々が描かれており、当時の国際色豊かな横浜の様子が伝わってきます。

《横浜鈍宅之図》歌川貞秀画 文久元年(1861)2月 国立歴史民俗博物館蔵
《五ヶ国於岩亀楼酒盛の図》は、横浜の遊廓で外国人客が遊ぶ様子を描いています。ロシア、オランダ、イギリスなど6か国の人々が描かれており、当時の国際色豊かな横浜の様子が伝わってきます。

《五ヶ国於岩亀楼酒盛の図》歌川芳幾画 万延元年(1860)12月 国立歴史民俗博物館蔵
明治以降の開化の風景
8章と9章では、明治時代に入ってからの世相を反映した錦絵が紹介されます。《かつぽれかへうた》は、明治初期に起こったウサギブームを題材にした作品です。

《かつぽれかへうた》東柴画 明治6年(1873) 国立歴史民俗博物館蔵
明治維新後、急速に変わっていく東京の様子を描いた「開化絵」も人気を集めました。《東京名所三十六戯撰 開運はし》は、新しく建てられた擬洋風建築の三井組ハウスが描かれています。

《東京名所三十六戯撰 開運はし》昇斎一景画 明治5年(1872)6月 国立歴史民俗博物館蔵
《古今珍物集覧》は、国内初の官設博覧会の様子を描いたものです。

《古今珍物集覧》二代歌川国輝画 明治5年(1872)3月 国立歴史民俗博物館蔵
錦絵は単なる美術品であるだけでなく、当時の世相や人々の関心事を映し出す「メディア」としての役割を果たしていました。展示を通して、幕末から明治にかけての激動の時代の空気を当時の人々の目線で追体験してみてはどうでしょうか。
【開催概要】
展覧会名:企画展示「時代を映す錦絵ー浮世絵師が描いた幕末・明治ー」
会期:2025年3月25日(火)~5月6日(火・休)
会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B(千葉県佐倉市)
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(月曜日が休日にあたる場合は開館し、翌日休館)
料金:一般1,000円、大学生500円、高校生以下及び18歳未満無料
公式ホームページ:https://www.rekihaku.ac.jp/