東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、2025年1月13日まで、「平安文学、いとをかし ―国宝『源氏物語関屋澪標図屏風』と王朝美のあゆみ」が開催されます。この展覧会では、平安時代の文学作品を題材にした絵画や書の名品が一堂に会し、国宝3件、重要文化財5件を含む貴重な作品群が展示されます。
王朝文化の華やかな世界へ
平安時代は日本の文化が大きく花開いた時代です。この展覧会では、その時代に生まれた文学作品とそれにまつわる美術品を通じて、王朝文化の魅力に迫ります。和歌や物語、日記文学など、さまざまなジャンルの作品が後世の美術にどのような影響を与えたのか、その足跡をたどることができます。
展覧会は4つの章で構成されており、第1章「平安文学の世界へようこそ!」から始まります。ここでは、平安時代の文学作品を古写本や版本を通して紹介しています。和歌集の代表作「古今和歌集」の写本や、女流文学の先駆けとなった「蜻蛉日記」、「更級日記」などの日記文学の版本が展示されています。
室町時代に書かれた清少納言『枕草子』の抜書からは、平安文学が後世にも影響を与え続けていたことがわかります。
室町時代に書かれた清少納言『枕草子』の抜書からは、平安文学が後世にも影響を与え続けていたことがわかります。
第1章展示風景
「枕草子抜書」智盛写 室町時代・明応5年(1496)
江戸時代初期の1654年に出版された「伊勢物語」の版本からは、平安文学が江戸時代にも広く親しまれていたことがうかがえます。
平安時代中期に成立した「平中物語」は、平中という人物の恋愛譚を39段にわたって描いた作品で、今回その現存する唯一の冊子本も展示されています。
(左から)重要文化財「平中物語」伝 冷泉為相写 鎌倉時代・14世紀、「伊勢物語」江戸時代・承応3年(1654)
絵巻物が語る平安文学の世界
重要文化財「平治物語絵巻 信西巻」鎌倉時代・13世紀 ※場面替えあり
重要文化財「住吉物語絵巻」と「駒競行幸絵巻」は、今回の展示が修理後初公開となります。
重要文化財「住吉物語絵巻」と「駒競行幸絵巻」は、今回の展示が修理後初公開となります。
平安時代の物語を絵画化したこれらの絵巻物は、当時の人々の暮らしや風俗を知る上で貴重な資料といえます。
「住吉物語絵巻」は、継母に虐げられる姫君と、姫君を一途に想う少将の恋を描いた物語です。鎌倉時代の作とされるこの絵巻は、2年間の修理を経て、繊細な筆致で描かれた姫君たちの姿や、第1段の野遊びの場面の小さな草花の繊細な表現がはっきりと見えるようになりました。
重要文化財「住吉物語絵巻」鎌倉時代・14世紀 ※場面替えあり
鎌倉時代の成立とされる「駒競行幸絵巻」(展示期間:2025年1月2日~1月13日)は、藤原頼通の邸宅・高陽院で催された駒競(馬場で馬を走らせ勝負を競う遊戯)の際の上東門院彰子の行啓の様子を描いた作品です。華やかな装束や人物の動きが生き生きと表現されており、当時の公家社会の様子を今に伝えてくれます。
『源氏物語』の世界を堪能する
第3章展示風景
展示の目玉となるのは、国宝に指定されている俵屋宗達「源氏物語関屋澪標図屏風」です。『源氏物語』の2つの場面を描いたこの屏風は、宗達の晩年の傑作とされています。
展示の目玉となるのは、国宝に指定されている俵屋宗達「源氏物語関屋澪標図屏風」です。『源氏物語』の2つの場面を描いたこの屏風は、宗達の晩年の傑作とされています。
金銀の箔を贅沢に用いた大胆な構図と、巧みな色使いが特徴で、『源氏物語』の世界観を見事に表現しています。
国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」(複製)
紫式部による宮仕えの回顧録の江戸時代の写本です。 『源氏物語』 に関する記事が複数登場し、この日記によって『源氏物語』 が紫式部の作と判明しました。
「紫式部日記」江戸時代・17~19世紀
本展の見どころの一つが、新発見の土佐光起「紫式部図」です。やまと絵の名手として知られる光起が描いたこの作品は、紫式部が琶湖湖に映る月を見て物語を執筆したという伝承を題材にしています。光起の繊細な描写力が、登場人物の髪や装束の表現に遺憾なく発揮されています。
「源氏物語蒔絵源氏箪笥」江戸時代・18~19世紀「紫式部図」土佐光起 江戸時代・17世紀
平安文学と書の美
第4章「平安古筆と料紙装飾の美」では、平安時代に制作された書の名品と国宝「曜変天目(稲葉天目)
」が並びます。
国宝「倭漢朗詠抄 太田切」は、北宋からもたらされた唐紙に、金銀泥で鳥や草木の絵を描いた料紙が美しい古筆切です。優美な漢字と個性的な仮名文字の組み合わせが、平安時代の美意識を今に伝えています。
国宝「倭漢朗詠抄 太田切」平安時代・11世紀 ※場面替えあり
重要文化財「是則集」は、三十六歌仙のひとり坂上是則の歌集です。書の名手として名高い藤原行成の曾孫にあたる済円が本書の筆者と伝わり、行成を祖とする世尊寺流の書風を示します。金銀の砂子や切箔を散らした華麗な料紙と、洗練された書の組み合わせが美しい名品です。
重要文化財「是則集」平安時代・12世紀
また本展では、截金ガラス作家・山本茜の「源氏物語シリーズ」から、「空蝉」と「橋姫」の2点が特別展示されています。伝統的な截金技法を現代的に解釈し、ガラスの中に封じ込めた独創的な作品は、平安文学が現代のアーティストにも影響を与えていることを示しています。
源氏物語シリーズ 第四十五帖「橋姫」山本茜 2021年 個人蔵
平安文学の魅力を再発見!
本展では、国宝「曜変天目(稲葉天目) 」を除き展示室内の撮影もOKです。
平安時代というと遠い昔のように感じられるかもしれませんが、展示作品を見ていると、美しいものへの憧れは、時代を超えて普遍的なものだと気づかされます。平安時代の貴族たちが感じた「いとをかし」な世界を、この機会にぜひ体験してみてください。
※文中のうち、所蔵先表記のない作品は、すべて静嘉堂文庫美術館蔵
【開催概要】
展覧会名:「平安文学、いとをかし ―国宝『源氏物語関屋澪標図屏風』と王朝美のあゆみ」
会期:2024年11月16日(土)~2025年1月13日(月・祝)
会場:静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
住所:東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
開館時間:10:00~17:00(土曜日は18:00まで、第3水曜日は20:00まで)
休館日:月曜日、12月28日~1月1日
入館料:一般1,500円、大高生1,000円、中学生以下無料
公式ホームページ:https://www.seikado.or.jp/