泉屋博古館東京で、2024年12月15日まで特別展「オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム」が開催されています。

新潟県に生まれた尾竹越堂、竹坡、国観の三兄弟は、文部省美術展覧会(文展)をはじめとするさまざまなな展覧会で成功を収めました。しかし、その実験的でラディカルな表現と、時にエキセントリックな生き方から、美術史の語りからこぼれ落ちてしまった側面もあります。
この展覧会では、彼らの重要作や新出作品、未公開資料を通じて、知られざる尾竹三兄弟の人物像と作品を紹介します。伝統的な日本画の技法を基礎としながらも、西洋画の影響を受けた斬新な表現や、独自の世界観を追求した彼らの作品が一堂に会する、東京初の大規模な回顧展となります。
展覧会は4つの章で構成されています。第1章「タツキの為めの仕事に専念したのです」では、三兄弟の生い立ちと初期の作品を紹介しています。
新潟の染物屋に生まれた三兄弟は、幼い頃から絵を描くことに親しんでいました。彼らは富山で売薬版画や新聞の挿絵を手がけ、生活の糧を得ながら画力を磨いていきました。

尾竹国一(越堂)《役者見立 壇浦兜軍記・阿古屋琴セメの段》1891(明治24)年 富山市売薬資料館【後期展示】
竹坡と国観の合作《楠木正成母子図・新年突羽根婦人図》は、二人の異なる画風が一つの作品に融合した珍しい作品で、歴史画と風俗画の要素が見事に調和しています。また、竹坡の《母と子(真心)》は、母子の愛情を温かみのある筆致で描いた心温まる作品です。優しい色彩と柔らかな線で、母子の絆を巧みに表現しています。
この章の目玉は、国観の《絵踏》です。キリシタンの絵踏の場面を描いたこの作品は、展示中に撤去された幻の作品として知られています。41名もの人物が描かれた群像画で、その迫力ある表現は必見です。歴史的な出来事を緻密に描写しながら、登場人物一人一人の表情や動きに個性を与えており、国観の歴史画の真骨頂が感じられます。

尾竹国観《絵踏》 1908(明治41)年 泉屋博古館東京【通期展示】
第2章「文展は広告場」では、三兄弟が文部省美術展覧会(文展)で活躍した時期を紹介しています。
国観の《油断》と竹坡の《おとづれ》は、文展で二等賞を受賞した記念碑的な作品です。特に《油断》は、6曲1双の大作で、緻密な人物描写と大胆な構図、迫力ある表現が見どころです。


尾竹国観《油断》1909(明治42)年 東京国立近代美術館【前期展示】
後期に展示される、竹坡の《九冠鳥》は、鮮やかな色彩と斬新な構図が目を引く作品です。三羽の九冠鳥を左右に大胆に配置し、金箔を効果的に使用することで、華やかさと神秘性を兼ね備えた独特の世界観を創り出しています。


尾竹竹坡《九冠鳥》1912(明治45)年 個人蔵【後期展示】
同じく後期展示の越堂の《漁樵問答》は、山水画の伝統を踏まえつつも、独自の解釈を加えた意欲作といえます。繊細な筆致で描かれた自然描写と、生き生きとした人物表現が調和した作品です。


尾竹竹坡《九冠鳥》1912(明治45)年 個人蔵【後期展示】
同じく後期展示の越堂の《漁樵問答》は、山水画の伝統を踏まえつつも、独自の解釈を加えた意欲作といえます。繊細な筆致で描かれた自然描写と、生き生きとした人物表現が調和した作品です。


尾竹越堂《漁樵問答》1916(大正5)年 個人蔵【後期展示】
第3章「捲土重来の勢を以て爆発している」では、三兄弟が展開した革新的な作品群を紹介しています。
竹坡の《大漁図(漁に行け)》は、大胆な構図と色彩で魚群の躍動感を表現しています。画面全体を覆う魚の群れは生き生きと臨場感があり、観る者を圧倒します。

尾竹竹坡《大漁図(漁に行け》1920(大正9)年 個人蔵【前期展示】

尾竹竹坡《大漁図(漁に行け》(部分) 1920(大正9)年 個人蔵【前期展示】
竹坡は、三兄弟の中で最も実験的な表現を試みました。彼の作品は、色彩の魔術師と呼ぶにふさわしい鮮やかさと大胆さが特徴です。《月の潤い・太陽の熱・星の冷え》は、抽象的な表現で宇宙の神秘を描いた野心作です。3幅からなるこの作品は、それぞれの天体の特性を色彩と形で表現し、竹坡の画風の幅広さとともに、日本画の新たな可能性を示しています。



尾竹竹坡《月の潤い・太陽の熱・星の冷え》3幅 1920(大正9)年 宮城県美術館【前期展示】
第4章「何処までも惑星」では、三兄弟の晩年の作品を紹介。竹坡の《ゆたかなる国土》は四季の営みを神話的に描いた作品 、《大地円》は、30年間温め続けてきたという地動説を提唱した人物を描いた大作です。さらに祭りのあとの女性たちの独自の視点で表現した国観の《手古舞》や、伝統的主題に新しいアプローチを試みた越堂の仏画など、それぞれが独自の表現で日本画の新たな可能性を切り拓こうと試みた意欲作が並んでいます。
特集展示「清く遊ぶ」では、彼らを支援した住友家第15代住友吉左衞門友純(号春翠)との交流を紹介しています。
越堂の《白衣観音図》は、晩年に描かれた荘厳な仏画です。春翠の没後、手向けとして描かれたこの作品には、越堂の深い信仰心と春翠への思いが表れているようです。白衣観音の姿は優美で、背景の雲や光の表現も繊細で美しく、越堂の円熟した技術が感じられます。
尾竹三兄弟は、伝統的な日本画の技法を基礎としながらも、多岐にわたる斬新な表現に挑戦し続けました。本展は、「展覧会芸術の申し子」と呼ばれた彼らの軌跡をたどり、その画業の全貌に触れることができる貴重な機会となっています。
日本美術史に新たな光を当てる展示を通じて、三人の革新性と魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。
日本美術史に新たな光を当てる展示を通じて、三人の革新性と魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。
【開催概要】
会期:2024年10月19日(土)~2024年12月15日(日)※会期中大幅な展示替えあり
前期2024年10月19日(土)~2024年11月17日(日)
後期2024年11月19日(火)~2024年12月15日(日)
会場:泉屋博古館東京
住所:106-0032 東京都港区六本木1丁目5番地1号
時間:11:00~18:00 ※金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、11月5日(火)、11月4日(月・休)は開館
入館料:一般1,200円(1,000円)、高大生800円(700円)、中学生以下無料
※20名様以上の団体は( )内の割引料金
※障がい者手帳等ご呈示の方はご本人および同伴者1名まで無料
TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
泉屋博古館東京 公式サイト:https://sen-oku.or.jp/tokyo/