東叡山寛永寺根本中堂天井絵の奉納を記念して、2024年11月17日まで「寛永寺創建四百周年 根本中堂天井絵奉納記念 手塚雄二展 雲は龍に従う」が、横浜・そごう美術館で開催されています。
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日本画の巨匠、手塚雄二の軌跡
手塚雄二氏は1953年に神奈川県で生まれ、東京藝術大学で日本画を学びました。39歳という若さで日本美術院同人に推挙されるなど、早くから画壇で注目を集めてきました。長年にわたり東京藝術大学の教授として後進の育成にも力を注いできた手塚氏の作品は、伝統的な日本画の技法を基礎としながら、現代的な感覚を取り入れた斬新な表現で知られています。
展示では、手塚氏の重要作品を通じて、その革新的な軌跡をたどります。

会場入口で迎えてくれるのは《創星那智》(2002年)です。那智の滝を題材にしたこの作品は、荘厳な自然の力強さと、繊細な筆致の対比が見事です。
那智
《創星那智》2002年

天井絵《叡嶽双龍》の圧倒的な迫力
2025年に寛永寺に奉納される予定の巨大な天井絵《叡嶽双龍》は、展覧会の目玉作品といえるでしょう。手塚氏は2020年から5年の歳月をかけ、水墨画の技法を用いてこの作品を制作しました。
縦6メートル×横12メートルという巨大な画面に、阿吽の双龍が絡み合い、雨を降らせながら天から降りてくるという様子が、龍の鱗一枚一枚まで緻密に描かれています。
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東叡山寛永寺根本中堂奉納天井絵《叡嶽双龍》2023年 

背景の雲は、龍の動きに呼応するように流れ、画面全体に生命力を与えています。描かれた二頭の龍は、中国において皇帝にのみ使用が許された五本爪の意匠です。吽龍は宝珠を掲げており、阿龍の手には薬師如来を意味する梵字「ベイ」が青いラピスラズリで描かれる予定です。手塚氏は、中国南宋の画家・陳容の絵など龍の図の綿密な研究を行い、小下図を繰り返し作成してこの絵の構想を練りました。
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東叡山寛永寺根本中堂奉納天井絵《叡嶽双龍》(部分)2023年 

この天井絵の特徴は、400年近い年月を経た根本中堂天井板の古材に直接描かれていることです。墨や金彩の下から現れる板の木目が、独特な表情を画面にもたらしています。
手塚氏は、中国明時代の名墨で輪郭線を描き、その上に白土をのせ、グラデーションを施し、立体的な表現を実現しています。周囲には金箔・金泥・プラチナ泥を加え、煌びやかな装飾性を加味しています。
龍は古来より神聖な生き物とされ、人々に幸福をもたらすとされてきました。手塚氏は、この作品に平和への祈りを込めたと語っています。
この小下絵や同じようなモチーフの作品も今回展示されています。
龍下絵
東叡山寛永寺根本中堂奉納天井絵《叡嶽双龍》⼩下図  2022年

天井画として奉納後、この大作を間近で見ることは難しいでしょう。この貴重な機会をどうぞお見逃しなく。

手塚芸術の変遷をたどる
本展では、初期の作品から最新作までを通して、手塚氏の芸術の変遷を追うことができます。
1986年、手塚氏は《泉》で、第71回再興院展で奨励賞を受賞しました。この受賞は、手塚氏の画家としてのキャリアにおける重要な転機となりました。
この作品の受賞を皮切りに、その後2年続けて《陽黄》《炫》で奨励賞を受賞し、その実力を着実に示していきました。《洸》は、光を最初に意識して描いた作品です。
麗糸 泉 洸
展示風景より、(左から)《麗糸》1999年、《泉》1986年、《洸》 1987年

左嶺 炫
(左から)《嶺》1990年、《炫》1988年

手塚氏の作品は、四季の移ろいや自然の刹那的な美を捉えつつ、視覚を超えて風の香りや季節の気配までも鮮やかに表現しています。
繊細な筆致と豊かな色彩で、目に見えない感覚までも画面に映し出す手塚氏の技量は、日本画の新たな可能性を切り拓いたと評されています。
右花守
展示風景より、(右)《花守》 2022年

手塚氏は、大自然の威力や人智を超えた力をテーマにした、壮大で荘厳な作品も手がけました。
会場では《叡嶽双龍》へと繋がる、雄大で豪壮な画面構成で、鑑賞者を圧倒するような躍動感に溢れる大画面の作品も紹介されています。
海音
1997年の再興第82回院展で文部大臣賞を受賞した作品《海音》1997年

手塚氏は「風神・雷神」という古典的なモチーフを描くにあたり、独創的な表現を追求しました。風神と雷神を画面の端に配し、中央には風と雷そのものを描くという斬新な構図を採用しました。さらに、截金箔を用いて風の動きを表現するなどの試みが高く評価され、2000年の第85回再興院展において《風雲風神》は内閣総理大臣賞を受賞しました。
風雷
(左から)《風雲風神》 2000年、《雷神雷雲》1999年

手塚氏はしばしば“光の画家” と称されるように、日本絵画における光の表現に新生面を切り拓いてきました。 
3章
展示風景

森の木々に黄金の雨が降っているような装飾的な空間が創出された作品です。中央の一羽の蝶が画面のアクセントになっており、光輝く木々が観る者の目を引きつけます。この作品は、東叡山寛永寺貫主のお気に入りの一品だということです。
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《きらめきの森》2005年

手塚氏の作品の中で、月をモチーフにしたものは多く、《月葉》は、その代表作の一つです。月光に照らされた葉の姿を描いたこの作品は、静寂と神秘性に満ちています。
4章
展示風景より、(左)《月葉》2023年

手塚氏の制作は一方向に収斂せず、「華と寂」「写実と装飾」「古と今」「静と動」「刹那と永劫」など、相反するテーマや表現を反復しながら展開していきました。この振り子のような動きが、彼の作品に両極性と振幅をもたらし、画域の広がりを生み出しています。
「「一貫性がない」ということが僕の特徴だとしたら、それは良いことだろう。しかし最終的には、どんなに変化していても「手塚雄二の描く絵はすべて手塚雄二の絵」というのがいいと思っている。」(手塚氏のことば・展覧会図録P140)
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《麗人》2023年

本展は、日本画の伝統を守りながらも、常に新しい表現を追求し続ける手塚氏の芸術世界を堪能できる貴重な機会となっています。過去の重要作から最新作まで、幅広い作品を通して、作品に込められた革新的な試みをたどりながら、日本画の新たな可能性を感じ取ってみてはいかがでしょうか。

【開催概要】
会期:2024年10月19日(土)~2024年11月17日(日)
会場:そごう美術館
住所:神奈川県横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店 6階
時間:午前10時~午後8時 *入館は閉館の30分前まで。
(そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる場合有り)
休館日:会期中無休
入館料(税込):事前予約不要
一般1,400円、大学・高校生1,200円、中学生以下無料
そごう美術館 公式サイト:https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/