東京国立博物館で、12月8日まで特別展「はにわ」が開催されています。同館では約50年ぶりの埴輪(はにわ)の展覧会で、国宝18点を含む約120件もの貴重な作品が一堂に会し、私たちを古代へと誘います。
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埴輪の始まりは、今から1750年ほど前にさかのぼります。古墳時代の350年間、時代や地域ごとに個性豊かな埴輪が作られ、当時の生活や社会のようすを今に伝えています。

本展のキーワードは「挂甲の武人」「50」「国宝」の3つ。
まず、国宝「埴輪 挂甲の武人」です。この作品が国宝指定50周年を迎えたことを記念し、史上初めて5体の「挂甲の武人」が一堂に会しています。また、約50の所蔵先から作品を借用したこと、前回の埴輪展から約50年経過したこと、そして多数の国宝が展示される贅沢な展覧会であることが、本展の特徴となっています。

展示は、プロローグと5つの章、そしてエピローグで構成されています。展覧会の概要や主な作品の見どころはこちらをごらんください。


《埴輪 踊る人々》が修理後初公開
プロローグ「埴輪の世界」では、最も有名な埴輪の一つ《埴輪 踊る人々》が約90年ぶりの解体修理後初めて公開されています。
6世紀に作られたこの埴輪は、簡易な表現ながら、古代の人びとの動きが生き生きと表現されています。とぼけたような感じの表情も魅力で、特徴的なポーズについては王の祭りで踊る姿という説と、馬の手綱を引く姿という説があります。
解体修理の結果、2体の身長差が7cmから4cmに縮まりました。また、土汚れを落とした結果、古墳に立てられた当時の色が現れ、以前に比べて赤みがかった姿になっています。
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《埴輪 踊る人々》埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館

王の威光を伝える豪華絢爛な副葬品
第1章「王の登場」は展示室の展示品すべてが国宝のみで構成されるという贅沢なエリアです。
古墳時代にはヤマト王権(政権)という政治的な統合体が成立しました。王などの権力者の古墳に立てられたのが埴輪です。
古墳時代を通じて、王の古墳からは豪華絢爛な副葬品が出土しています。これらの副葬品は時代とともに変化し、王の役割や権力の変遷を反映しています。

初期の古墳からは、王の司祭者的な役割を示す儀礼的な品が多く出土し、5世紀になると、武具や馬具などの副葬品が増えました。熊本県の江田船山古墳から出土した衝角付冑などは、この時期、武人的な性格の強い副葬品が増えてきたことを示しています。
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【国宝】《衝角付冑》、【国宝】《脛甲》、【国宝】《横矧板革綴短甲》いずれも熊本県和泉町 江田船山古墳出土 古墳時代・5~6世紀 東京国立博物館

中国大陸や朝鮮半島との関係を示す品々出土しています。4世紀後半の東大寺山古墳から出土した金象嵌銘太刀は、中国製の鉄刀を改造したもので、当時の対外交流を示す貴重な資料です。
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【国宝】《金象嵌銘太刀》奈良県天理市 東大寺山古墳出土 古墳時代・4世紀 東京国立博物館

ほかにも朝鮮半島からもたらされた金製耳飾りや、亀甲文様で飾られた金銅製沓のように、古墳時代の国際色豊かな一面をかいま見ることができます。
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第1章「王の登場」展示風景

大王の威厳を示す埴輪
第2章「大王の埴輪」では、ヤマト王権を統治した大王たちの古墳に立てられた、古墳時代の最高水準でつくられた埴輪が、時期別に展示されています。
大王の古墳は時期によって 築造場所が変わります。前期は奈良盆地が古墳文化の中心地でした。
展示の目玉の一つは、奈良県メスリ山古墳から出土した日本最大の円筒埴輪です。高さ2.4メートルを超えるこの埴輪は、わずか2センチほどの薄さで作られており、当時の高度な技術力を物語っています。
メスリ山
第2章「大王の埴輪」展示風景より、(右)【重要文化財】《円筒埴輪》 奈良県桜井市 メスリ山古墳出土 古墳時代・4世紀 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館

中期に入ると倭の五王の陵として知られる大阪百舌鳥・古市古墳群のように大阪平野で造られるようになります。
古墳時代後期、淀川流域に作られた今城塚古墳からは、刀を抜こうとする姿が印象的な武人埴輪や、3つのパーツを組合せてつくられた、日本最大の家形埴輪が出土しました。
水鳥と今城塚古墳
第2章「大王の埴輪」展示風景より、(手前)魂を運ぶ役割を期待されたといわれる 《水鳥形埴輪》大阪府羽曳野市 誉田御廟山古墳 (応神天皇陵古墳)出土 古墳時代・5世紀 東京国立博物館

これらの埴輪は、文字による記録が乏しい当時の生活様式や建築様式を今に伝える貴重な資料といえます。大王の古墳に立てられた埴輪の変遷をたどることで、古墳時代の権力の移り変わりや技術の発展を読み取ることができるのです。

地域ごとの特徴的な埴輪
第3章「埴輪の造形」では、日本各地で作られた多様な埴輪が展示されています。北は岩手県から南は鹿児島県まで、幅広い地域で出土した埴輪が並び、それぞれの地域性や文化が反映された独特の造形を見ることができます。

円筒埴輪は 埴輪の誕生から消滅まで存在したいわば埴輪の主流です 大量に立てて並べられるのが大きな特徴で、古墳の巨大化に伴って時に数万本に及ぶ数が1つの古墳に並べられました。展示の中には船や人の顔などが描かれたものもあるので、地域による違いを見比べながら、細かい点も見逃さずにチェックしてみましょう。
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第3章「埴輪の造形」展示風景

死者の魂を運ぶ象徴である船形埴輪、権力者の住居や倉庫など支配者の集団に関わる建物を表現した家形埴輪、古墳に葬られた王の権威の象徴でもあった豪華な馬具を装着した馬の埴輪など、展示を通して当時の社会や文化を知ることができます。
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《馬形埴輪》三重県鈴鹿市 石薬師東古墳群63号墳出土 古墳時代・5世紀 三重県(三重県埋蔵文化財センター保管)

形象埴輪の中で最も遅く出現したのが人物埴輪でした。 美豆良(みずら)を肩まで垂らしたヘアスタイルに、盛装のいでたちの男性の姿の埴輪は、若き王の姿をほうふつとさせます。
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【重要文化財】《埴輪 天冠をつけた男子》 福島県いわき市 神谷作101号墳出土 古墳時代・6世紀 福島県蔵(磐城高等学校保管)

福岡県の鶴見山古墳から出土した《武装石人》は、甲冑で武装した石製の人物像です。
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【重要文化財】《武装石人》福岡県八女市 鶴見山古墳出土 古墳時代・6世紀 福岡・八女市(岩戸山歴史文化交流館保管)

国宝「挂甲の武人」の魅力に迫る
第4章「国宝 挂甲の武人とその仲間」は、国宝となった《埴輪 挂甲の武人》をはじめとして5体が、史上初めて、そろって展示されています。
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第4章「国宝 挂甲の武人とその仲間」展示風景

群馬、千葉、奈良、そしてアメリカ・シアトルから集められた5体の武人埴輪は、同じ工房で作られた可能性があるほどよく似ています。シアトル美術館所蔵の埴輪は約60年ぶりの里帰り展示で、5体を並べて見比べることができる貴重な機会となっています。360°から見ることができるので、それぞれの共通点や違いをじっくり観察してみましょう。
5体の埴輪にはイメージカラーがつけられ、それぞれの色の台の上に展示されています。

中央に展示されているのが、群馬県太田市で出土した6世紀の埴輪である国宝《埴輪 挂甲の武人》です。頭から足先まですべて防具で覆われており、細部も立体的かつ精巧につくられています。東京国立博物館を代表する埴輪のひとつで、映画「大魔神」のモデルでもあります。
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国宝《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館

最新の研究に基づく《挂甲の武人》の彩色復元模型も展示されています。白、赤、灰の3色で塗り分けられた鮮やかな姿は、従来の埴輪のイメージを覆す斬新な発見でした
色付き武人
《埴輪 挂甲の武人(彩色復元)》令和5(2023)年 原品:群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館 制作:文化財活用センター

国宝《埴輪 挂甲の武人》には、東京国立博物館所蔵のものに加え、もう1点存在します。2020年に国宝指定された綿貫観音山古墳出土の埴輪は、冑の頭頂部に珍しい筒形の飾りがあり、有事に指揮をとる被葬者本人を表している可能性が指摘されています。
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国宝《埴輪 挂甲の武人》群馬県高崎市 綿貫観音山古墳出土 古墳時代・6世紀 文化庁(群馬県立歴史博物館保管)

埴輪が伝える古代の物語
第5章「物語をつたえる埴輪」では、複数の人物や動物を組み合わせ、当時の人びとの生活や信仰、儀式などを物語る「埴輪劇場」とも呼べるような空間になっています。

役割を持つ人物埴輪
盾の上に人の顔が造形された盾持人埴輪は、古墳を守る役割を担った埴輪です。口をへの字に曲げたり、笑っているような独特の表情は、悪しきものを古墳に寄せ付けない威嚇の意味がこめられています。邪気を払う役割を担った力士の埴輪も展示されています。
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第5章「物語をつたえる埴輪」展示風景より、盾持人埴輪の展示

生活を映す家形埴輪
埴輪の中には家をかたどったものもあり家形埴輪と呼ばれます。形象埴輪の中でも出現が古く長く作られ続けたのが家形埴輪です。家形埴輪は神聖な魂の拠り所として、埋葬施設の上など古墳の中心施設に置かれました。中には多様な家を複数組み合わせて王のすみかを再現することもありました。
コンパクトながら豊かな表現の家形埴輪は、ミニュチュアに関心がある方も楽しめそうです。乳飲み児を抱いたり、子を背負う女性の埴輪などからは、古代の生活様式や人びとの暮らしぶりをかいま見ることができます。
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第5章「物語をつたえる埴輪」展示風景より、家形埴輪の展示

動物埴輪の多様性
展示室にはさまざまな動物埴輪も集められています。飾り馬、小馬、牛、鹿、鶏など、王の儀礼と関連して作られたもの、自然の動物を写したものなど、それぞれに異なる役割を持っていました。
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第5章「物語をつたえる埴輪」展示風景より、動物埴輪の展示

鶏形埴輪は光をもたらす神聖な鳥として用いられました。犬や猪、鹿などの埴輪は組み合わせて狩猟を再現しました。作られた目的が未だにわからないという猿や魚の埴輪も展示されています。
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左から、《犬猿の円筒埴輪》群馬県前橋市 後二子古墳出土 古墳時代・6世紀 群馬・前橋市教育委員会、【重要文化財】 《猿形埴輪》伝茨城県行方市 大日塚古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館

時代を超えて愛される造形
江戸時代以降、考古遺物への関心の高まりとともに埴輪が再び注目を集めるようになりました。エピローグ「日本人と埴輪の再会」では、近世から現代に至るまでの埴輪の受容史を紹介しています。
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エピローグ「日本人と埴輪の再会」展示風景

江戸時代以降の国学の発展により、古い祭儀への関心が高まり、皇室に関連する場面にも古墳の要素が取り入れられるようになりました。例えば、幕末の孝明天皇陵は円墳となり、明治天皇陵には埴輪が作られました。この《武人埴輪模型》は、明治天皇陵に埋められたとされる武人埴輪の模型です。
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《武人埴輪模型》吉田白嶺作 大正元年(1912年) 東京国立博物館

さらに、木版画家・斎藤清の作品のモチーフになった埴輪や、俳優の三船敏郎が手にした埴輪、埴輪の総選挙「群馬HANI-1グランプリ」でグランプリに選ばれた《埴輪 笑う男子》などの展示からは、埴輪が現代まで、幅広い層に愛され続けていることがわかります。

本展では、素朴な表情や地域性豊かな造形、さらには日本最大の埴輪まで、国内外から集められた多様な埴輪が一堂に会し、一部の展示も除き撮影もOKです!この貴重な機会に、埴輪の多彩な造形を楽しみながら、古代の人びとの文化や人々の暮らしや信仰、社会のようすに思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

【展覧会概要】
挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」
会期:2024年10月16日(水)~12月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館 特別展示室
住所:東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30~17:00、毎週金・土曜日、11月3日(日)は20:00まで ※いずれも入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(11月4日(月・振)は開館、11月5日(火)は本展のみ開館)
観覧料:一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円 
※中学生以下、障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等を提示すること
※事前予約不要
展覧会公式サイト:https://haniwa820.exhibit.jp/