東京・渋谷区広尾の山種美術館で、特別展「没後50年記念 福田平八郎×琳派」が2024年12月8日まで開催されています。
山種美術館での平八郎をテーマとした展覧会は12年ぶり。展示は3章構成となっており、日本画の世界に新風を吹き込んだ福田平八郎の画業を振り返るとともに、彼に影響を与えた琳派の名品や、平八郎と同様に琳派の影響を受けた近現代の作家の作品も紹介されています。

福田平八郎の画業の変遷をたどる
福田平八郎は1892年に大分県に生まれ、京都で日本画を学びました。彼は写実的な表現を追求しながらも、次第に独自のスタイルを確立していきます。展示では、初期の作品から晩年の作品まで、幅広い時期の彼の代表作を通じて彼の画業の変遷をたどります。

展示風景
初期の作品では細密な写実表現を追求していた平八郎。
《桃と女》は、豊かに実る桃を持つ二人の女性が木の前で微笑む光景を描いた作品です。桃の実の状態を細かく描き分けるなど、詳細な観察に基づく写実的な表現が見られます。
《牡丹》は、徹底した細密描写により写実を極めた大正期の代表作です。近くでよく見ると、細かい描写で花びらの一枚一枚まで丁寧に描かれていることがわかります。

福田 平八郎《牡丹》1924(大正13)年 山種美術館
昭和に入ると、平八郎は大胆な構図と鮮やかな色彩による表現へと移行し、より装飾的な作品が増えていきます。
筍の形をしっかりと捉えながらも、周りの竹の葉をデザイン的に描いた《筍》は、単純化された形態と色彩がモダンな印象の作品です。

福田 平八郎《筍》1947(昭和22)年 山種美術館
1955(昭和30)年、大阪市の文楽座(のちの朝日座)に平八郎の代表作《漣》(重要文化財、大阪中之島美術館蔵)を原画とした緞帳が制作されました。その下絵のうちの一つも今回展示されています。《紅白餅三鶴》は、丸みを帯びた餅と直線的な形の折り鶴との対比が見どころです。

(左から)福田 平八郎《紅白餅三鶴》1960(昭和35)年頃 個人蔵 、福田 平八郎《漣》20世紀(昭和時代) 個人蔵
1961(昭和36)年、69歳の年には文化勲章を受章します。この頃を境に作風が変化し、晩年の平八郎は、厳密な写実や整った装飾性にこだわらない、自由で豊かな表現を追求するようになりました。大らかな造形と、素朴な雰囲気のこの時期の作品も、それまでの作風とはまた違った魅力が感じられます。

(左)福田 平八郎《紅白餅》1960(昭和35)年頃 個人蔵
平八郎の絶筆とされる《彩秋遊鷽》(1971、個人蔵 )も展示されています。秋の紅葉をバックに、鷽(うそ)という小鳥が描かれ、色彩の美しさと構図の大胆さが印象的な作品です。
展示を通じて、写実的な表現から単純化された形態と色彩による独自のモダンな表現へと変化していく、平八郎の画風の流れをたどることができます。彼が生涯をかけて追求した「写実を基本にした装飾画」がどのようなものか、この機会にじっくりご覧ください。
平八郎に影響を与えた琳派
展覧会の後半では、平八郎に影響を与えた装飾性豊かな琳派の名品が並びます。

展示風景より、酒井抱一の作品
伝 俵屋宗達の《槙楓図》は、金地に槙と楓が交互に配置され、大きな余白が効果的に使われています。
酒井抱一の《秋草鶉図》は、繊細な秋草と丸みを帯びた月と鶉が好対照をなし、和歌の伝統を踏まえた図像となっています。月の表現にも抱一独特のこだわりが感じられ、琳派の装飾性が際立つ作品です。鈴木其一の《四季花鳥図》は、春夏秋冬の草花と鳥を描いた華やかな作品。琳派特有の太く柔らかな輪郭線と、其一独自の濃厚で華麗な彩色が見どころです。

(左から)鈴木 其一《四季花鳥図》19世紀(江戸時代) 山種美術館、酒井 抱一《秋草鶉図》【重要美術品】19世紀(江戸時代) 山種美術館
俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書)による《四季草花下絵和歌短冊帖》は、縦長の画面の中に下絵と書がバランスよく配置された短冊集。
また、かつて長巻であった絵巻の巻頭部分にあたる《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》も展示されています。この作品では、宗達が描いた鹿の下絵に、光悦が西行の和歌を添えるように書き記しています。

俵屋 宗達[絵] 本阿弥 光悦[書] 《四季草花下絵和歌短冊帖》17世紀(江戸時代) 山種美術館
近代・現代日本画への影響
琳派から受けた影響は平八郎だけでなく、多くの近代・現代作家にも広がっています。本展では、「琳派に私淑する」「自然をデザインする」「斬新な構図を求めて」という三つの視点から関連作品が紹介されています。
「琳派に私淑する」では、琳派の技法やモティーフを用いた作品を紹介。速水御舟の《秋茄子》は、「たらし込み」を駆使して茄子のみずみずしい質感を表現しています。
小林古径の《夜鴨》は、尾形光琳の作品と構図が似ていることから、琳派の影響が感じられます。

小林 古径《夜鴨》1929(昭和4)年頃 山種美術館
「自然をデザインする」では、平面的な画面構成や対象の単純化によって、自然美の新たな表現を目指した作品が展示されています。
山口蓬春の《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》では単純化された楓が装飾性豊かに描かれています。

展示風景より、(左) 山口 蓬春《新宮殿杉戸楓4分の1 下絵》1967(昭和42)年 山種美術館
「斬新な構図を求めて」では、菱田春草の《月四題のうち「秋」》や吉岡堅二の《春至》など、琳派の大胆なトリミングや、意外な視点を取り入れた作品を見ることができます。

(左から)吉岡 堅二《浮遊》1976(昭和51)年 山種美術館、吉岡 堅二《春至》1970-73(昭和45-48)年頃 山種美術館
山種美術館では、ミュージアムショップとカフェも美術館の魅力のひとつです。ショップでは、展示作品をモチーフにしたクリアファイル、ポストカード、マスキングテープ、一筆箋などのオリジナルグッズが豊富に用意されています。
また作品のカラー画像、作家のことば、作家のプロフィールなども収録された展覧会図録も販売中です。

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美術館併設の「Cafe椿」では、青山の老舗菓匠「菊家」が展覧会出品作品をイメージして作った5種類の特製和菓子がいただけます。鑑賞後には、和菓子とともにお茶やランチを楽しむ、くつろぎのひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。


福田平八郎の画業の変遷、琳派の影響、そしてその精神を受け継ぐ近現代の日本画をまとめて鑑賞できる贅沢な展覧会です。秋の草花を描いた季節感あふれる作品も展示されています。秋の一日、時代を超えた美の競演を楽しみながら、新たな視点から日本画の魅力に触れてみてください。
【開催概要】
会期:2024年9月29日(日)~2024年12月8日(日)
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
時間:10:00~17:00
休館日:月曜日、10月15日(火)、11月5日(火)
※ただし10月14日(月・祝)、11月4日(月・振休)は開館
観覧料:一般 1,400円、大学生・高校生 1,100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)