2025年2月15日から4月13日まで、京都文化博物館で特別展「カナレットとヴェネツィアの輝き」が開催されます。この展覧会は、ヴェネツィアの美しい景観を精密に描く「ヴェドゥータ(景観画)」の巨匠として知られている、カナレット(1697-1768)の全貌を紹介する日本初の大規模展覧会です。スコットランド国立美術館など英国のコレクションを中心に、カナレットの油彩画、素描、版画など約60点の作品が展示されます。

さらに、カナレット以前、同時代、そして19世紀以降の画家たちが、都市や名所を精密に描いたヴェドゥータの作品も紹介し、これまで日本ではほとんど取り上げられることのなかったヴェドゥータの広がりを紹介します。
カナレット以前のヴェネツィア - 水の都の歴史を紐解く
展覧会の冒頭では、カナレット以前のヴェネツィアを描いた絵画が紹介されます。16世紀末から17世紀にかけて、北方からやってきた画家たちがラグーナ(潟)の景観を描き始めました。ネーデルラントの画家による《ラグーナから見たヴェネツィア全景》(1580-1600年頃)は、広大な水面の向こうに立ち並ぶヴェネツィアの街並みを鮮やかに捉えています。

ネーデルラントの画家《ラグーナから見たヴェネツィア全景》1580–1600年頃 油彩/カンヴァス 66.0×193.0cm クライスト・チャーチ絵画館、オックスフォード By permission of the Governing Body of Christ Church, Oxford
18世紀のヴェネツィアで活躍したジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロの《アントニウスとクレオパトラの出会い》(1747年頃)は、ヴェネツィアの貴族の邸宅を飾った壁画の下絵。古代ローマの歴史の一場面が華やかに描かれています。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ《アントニウスとクレオパトラの出会い》1747年頃 油彩/カンヴァス 66.8×38.4cm スコットランド国立美術館 © National Galleries of Scotland
カナレットの魔法 - 理想のヴェネツィアを描く
展覧会の中心となるのは、カナレットのヴェドゥータ(景観画)です。カナレットが生きた18世紀、グランド・ツアーと呼ばれる旅行が最盛期を迎えました。その目的地であったヴェネツィアを訪れた旅行客が、旅の記念にと求めたのが、カナレットの絵画だったのです。
カナレットは、大運河の水辺からたちあがる壮麗な建築や輝く水面、祝祭の景色など、旅行者の求める理想的なヴェネツィアを描き、人気を博しました。
《モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む》(1738年頃)は、ヴェネツィアの政治の中心地であるパラッツォ・ドゥカーレ(元首公邸)付近の景色を描いた作品です。実際には見ることのできない高い視点から描かれていますが、カナレットの優れた描写力により、魅力的な都市風景が作り出されています。
カナレットは、大運河の水辺からたちあがる壮麗な建築や輝く水面、祝祭の景色など、旅行者の求める理想的なヴェネツィアを描き、人気を博しました。
《モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む》(1738年頃)は、ヴェネツィアの政治の中心地であるパラッツォ・ドゥカーレ(元首公邸)付近の景色を描いた作品です。実際には見ることのできない高い視点から描かれていますが、カナレットの優れた描写力により、魅力的な都市風景が作り出されています。

カナレット《モーロ河岸、聖テオドルスの柱を右に西を望む》1738年頃 油彩/カンヴァス 110.5×185.5cm スフォルツァ城絵画館、ミラノ Pinacoteca del Castello Sforzesco-© Comune di Milano / foto Daniele De Lonti 2024
カナレットの作品の魅力は、単に景色を正確に描くだけでなく、人々が「見たいと思っている風景」を画面に収めたことです。《カナル・グランデのレガッタ》(1730-1739年頃)は、ヴェネツィアの華やかな祭りの様子を生き生きと描いた作品です。建物の窓や屋根には祭りを見物する人々の姿が描かれ、画面全体が活気に満ちています。

カナレット《カナル・グランデのレガッタ》1730–1739年頃 油彩/カンヴァス 149.8×218.4cm ボウズ美術館、ダラム The Bowes Museum, Barnard Castle, Co. Durham,England
カナレットは祝祭の場面も得意としました。《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》(1738-1742年頃)は、ヴェネツィアの重要な祭りである「海とヴェネツィアの結婚式」を描いた作品です。金箔を貼り廻らした船体が輝くブチントーロ(御座船)の描写は見事で、祭りの華やかさが伝わってきます。

カナレット《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》1738–1742年頃 油彩/カンヴァス106.5×106.5cm レスター伯爵およびホウカム・エステート管理委員会、ノーフォーク The Earl of Leicester and the Trustees of the Holkham Estate
カナレットの版画と素描の世界
展示では、素描や版画、そしてカメラ・オブスキュラといった点からも、カナレットの創造の秘密を探ります。カメラ・オブスキュラ(Camera Obscure)とは、光学の原理を利用して外の景色を投影する装置で、今日の「カメラ」の語源となりました。カナレットは、カメラ・オブスキュラを用いて制作した画家の一人でした。
カナレットは油彩画で有名ですが、自ら手掛けた版画作品も残しています。写真が存在しない時代において、版画は複製を可能にする貴重なメディアでした。
カナレットは油彩画で有名ですが、自ら手掛けた版画作品も残しています。写真が存在しない時代において、版画は複製を可能にする貴重なメディアでした。

カナレット《ドーロ風景》1744年以降に刊行 エッチング/紙 29.8×42.8cm 第3ステート スコットランド国立美術館 © National Galleries of Scotland
カナレットの素描は、油絵には見られない自由な表現と画家の直接的な手の痕跡を伝えています。

カナレット《サン・マルコ広場でのコメディア・デラルテの上演》1755–1757年? ペン、インク、淡彩/紙 20.5×31.7cm ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ロンドン © Victoria and Albert Museum, London.
カナレットの影響 - 後世に残した遺産
カナレットが緻密に、かつ意図的な操作を重ねながら描き出したヴェネツィアの景観は、カナレット以後も、多くの画家たちを魅了し続けます。
展覧会の後半では、カナレットの影響を受けた同時代の画家や、ホイッスラー、モネなど、ヴェネツィアに魅了された画家の作品が紹介されます。
カナレットの甥であるベルナルド・ベロットは、トスカーナの街ルッカの大聖堂広場を洗練された構図で描いています。

ベルナルド・ベロット《ルッカ、サン・マルティーノ広場》1742–1746年 油彩/カンヴァス 50.8×72.0cm ヨーク・ミュージアム・トラスト(ヨーク美術館) York Museums Trust (York Art Gallery). Presented by F.D.Lycett Green through The Art Fund,1955.
ウィリアム・マーローの《カプリッチョ:セント・ポール大聖堂とヴェネツィアの運河》(1795年頃)は、ロンドンとヴェネツィアの景色をを同一画面にまとめた、カプリッチョ(綺想画)です。奇想天外なアイデアを意味するカプリッチョとは、実在するものと空想上のものを自在に組み合わせて構成された架空の景観画のことをいいます。

ウィリアム・マーロー《カプリッチョ:セント・ポール大聖堂とヴェネツィアの運河》1795年頃? 油彩/カンヴァス 129.5×104.1cm テート Photo: Tate
19世紀になると、カナレットの影響はさらに広がります。ウィリアム・エティの《溜息橋》(1833-1835年)は、カナレットの作品にも描かれていたヴェネツィアの景観を、大胆な構図で捉え直しています。

ウィリアム・エティ《溜息橋》1833–1835年 油彩/カンヴァス 80.0×50.8cm ヨーク・ミュージアム・トラスト(ヨーク美術館)York Museums Trust (York Art Gallery)
印象派の先駆者ウジェーヌ・ブーダンの《カナル・グランデ、ヴェネツィア》(1895年)は、カナレットとは異なる光の表現が印象的です。

ウジェーヌ・ブーダン《カナル・グランデ、ヴェネツィア》1895年 油彩/カンヴァス 51.0×74.5cm 東京富士美術館 © 東京富士美術館イメージアーカイブ/DNPartcom
印象派の巨匠クロード・モネは、1908年、初めてヴェネツィアを訪れ、37点におよぶ油彩の連作を描きました。モネは水面の光や街の空気、建築物とゴンドラに注目し、カナレットとは異なるアプローチで20世紀初頭のヴェネツィアの姿を美しく表現しています。

クロード・モネ《パラッツォ・ダーリオ、ヴェネツィア》1908年 油彩/カンヴァス 92.3×73.2cm ウェールズ国立美術館、カーディフ © Amgueddfa Cymru - Museum Wales
カナレットの精緻な描写と豊かな想像力が生み出した「理想のヴェネツィア」の魅力を堪能しつつ、カナレット以降の画家たちが描いたヴェネツィアの魅力的な風景も楽しめる贅沢な展覧会です。展示を通して、まるで時空を超えて旅するような体験を楽しんでみてはどうでしょうか。
【開催概要】
会期:2025年2月15日(土)~2025年4月13日(日)
会場:京都文化博物館 4・3階展示室
住所:京都府京都市中京区三条高倉
時間:10:00〜18:00(金曜日は19:30まで)※入場はそれぞれ30分前まで
休館日:月曜日、2月25日(火)※ただし2月24日は開館
観覧料:一般 1,800円(1,600円)、大高生 1,200円(1,000円)、中小生 600円(400円)
※( )内は前売および20名以上の団体料金
※未就学児は無料(ただし、要保護者同伴)
※学生料金で入場の際には学生証を要提示
※障がい者手帳などを提示の方と付き添い1名までは無料
※上記料金で2階総合展示と3階フィルムシアターも観覧できます(ただし催事により別途料金が必要な場合があります)
TEL:075-222-0888(代表)