江戸時代には、平安文化への関心が高まり、北斎や門人たちも王朝文学を題材とした作品を多数制作しました。その優雅で華やかな作品群を一堂に集めた特別展「北斎が紡ぐ平安のみやび―江戸に息づく王朝文学」が、東京都墨田区のすみだ北斎美術館で開催されています。期間は2024年9月18日から11月24日まで。北斎や門下の絵師たちが描いた平安時代をテーマにした作品約110点が展示されています。
江戸時代の「平安」像:古典ブームの到来
展覧会の序章では、江戸時代に形成された平安時代のイメージの背景がうかがえる作品を紹介。『源氏物語』や『伊勢物語』などの古典文学の写本や解説書の普及、学問研究や教育の発展、『古今和歌集』の一般化に伴う歌仙絵の流行などにより、江戸時代には平安文化への関心が高まります。
北斎の《枕草子を読む娘》には、女性が『枕草子』を読む姿が描かれており、当時の人びとが平安文学に親しんでいたことがわかります。
北斎が描く「みやび」な世界
第1章では、北斎らが平安時代をどのようにイメージし、表現したかを紹介しています。平安文学の作者たちの肖像画、百人一首を題材としたシリーズ、平安時代の宮中行事を描いた作品などが並びます。当時の人々の姿や暮らしぶりを想像して描いた作品からは、北斎らの創造力豊かな発想が伝わってきます。
展示風景より、宮中行事を描いた作品
百人一首を題材としたシリーズの1図、葛飾北斎《百人一首姥かゑとき 菅家》 天保6年(1835)頃 前期展示
北斎は平安時代の有名な女性たちも描いています。《五歌仙 月》は、平安時代の女流歌人・赤染衛門をモチーフにしたと考えられる作品。これらの作品では、それぞれの文学作品を想起させる要素が巧みに盛り込まれており、北斎の工夫が感じられます。
展示風景より、(左)葛飾北斎《五歌仙 月》 文政(1818-30)中期頃 同タイトルの作品に展示替えで通期
怪異と妖怪:平安時代の闇の世界
天狗や鵺と呼ばれる伝説上の怪物、渡辺綱が羅生門の鬼を退治した物語を題材にした作品など、平安時代の怪異を描いた作品も展示されています。
王朝文学の名場面
第2章では、源氏物語や伊勢物語など、王朝文学の名場面を描いた作品が展示。
「紫式部」や「在原業平」など、平安文学の作者たちをモチーフにした作品も並んでいます。展示風景より、紫式部をモチーフにした作品
左は「五歌仙」シリーズの一図です。 梅の花や讃の狂歌が『枕草子』 133段 「頭の弁の御もとより」の藤原行成との梅のやりと りを思わせることから、 清少納言をイメージしていると考えられます。
葛飾北斎《五歌仙 梅花》文政(1818-30)中期頃 前期展示
葛飾北斎《五歌仙 梅花》文政(1818-30)中期頃 前期展示
《風流源氏うたがるた》は、『源氏物語』の和歌を使った歌がるた。各巻にまつわる絵が添えられていますが、図柄には物語に直接関係のない、当時流行した謎解きや判じ物的な要素も含まれており、北斎が江戸時代の人びとの好みを意識しつつ、独自の解釈で『源氏物語』の世界を表現した作品と考えられます。
葛飾北斎《風流源氏うたがるた》文化6年(1809)頃 通期展示
葛飾北斎《諸国名橋奇覧 三河の八つ橋の古図》天保5年(1834)頃 前期展示
日常に溶け込む平安文化:王朝文学ゆかりの意匠
江戸時代、王朝文学にまつわる文様や物語から着想を得たデザインは、調度や着物の意匠として取り入れられました。 北斎たちの作品の中にも『源氏物語』 にゆかりのある文様や、 歌がるたのような柄があしらわれた着物や調度がみられます。 また、物語の一場面が調度の意匠として使われている作品もみられます。
江戸時代、王朝文学にまつわる文様や物語から着想を得たデザインは、調度や着物の意匠として取り入れられました。 北斎たちの作品の中にも『源氏物語』 にゆかりのある文様や、 歌がるたのような柄があしらわれた着物や調度がみられます。 また、物語の一場面が調度の意匠として使われている作品もみられます。
北斎の門人たちも王朝文学を題材とした作品を多く残しています。特に抱亭五清は、美人画の衣装や背景の調度品に王朝文学にまつわる意匠を取り入れた作品を多く描きました。
これは、衝立に『伊勢物語』の場面を描いた作品で、五清が古典的なデザインを好んでいたことがうかがえます。
衝立に 『伊勢物語』 の東下りの場面の意匠が描かれた、抱亭五清《衝立美人図》文政(1818-30)末~ 天保(1830-44)初期頃 前期展示
煙管(きせる)や櫛、刀を装飾する刀装具のデザインの図案集の中にも、王朝文学ゆかりの意匠は登場し、江戸時代の人びとにとって本当に身近な存在であったことがわかります。
展示風景より、煙管(きせる)や櫛の図案集
北斎の傑作:隅田川両岸景色図巻の複製画も
4階の常設展プラス「隅田川両岸景色図巻(複製画)と北斎漫画」では、北斎の代表作《隅田川両岸景色図巻》の複製画も展示されています。全長約7メートルのこの絵巻は、隅田川沿いの風景と吉原の遊興の様子を細密に描いた傑作です。江戸の街並みと人々の暮らしが生き生きと描かれており、北斎の観察眼と技量の高さがよくわかります。
《隅田川両岸景色図巻》の複製画
展示作品を見ていると、現代のイメージとは少し違う、江戸の人びとの目を通した平安時代が見えてきます。描かれた人びとの装いや調度品、建物などの細部にも注目してみると、より深く作品を楽しむことができるでしょう。
北斎とその門人たちが描いた、江戸に息づく平安のみやびの世界をぜひ会場でご覧ください。
フォトスポット
【開催概要】
会期:2024年9月18日(水)~2024年11月24日(日)※前後期で一部展示替えを実施
<前期>9月18日(水)~10月20日(日)
<後期>10月22日(火)~11月24日(日)
会場:すみだ北斎美術館展示室3階企画展示室
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
時間:9:30~17:30 (最終入場時間 17:00)
休館日:月曜日、9月24日(火)、10月15日(火)、11月5日(火)
※ただし、9月23日(月・振休)10月14日(月・祝)、11月4日(月・振)は開館
観覧料:一般 1,000円、高校生・大学生 700円、65歳以上 700円、中学生 300円、障がい者 300円、小学生以下 無料
※中学生、高校生、大学生(高専、専門学校、専修学校生含む)は生徒手帳または学生証を要提示
※65歳以上の方は年齢を証明できるものを要提示
※身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳などをお持ちの方及びその付添の方1名まで、障がい者料金で観覧できます。入館の際は、身体障害者手帳などを要提示
※観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)、常設展プラスも観覧できます。