相国寺は京都市上京区に位置する臨済宗相国寺派の大本山です。室町時代に足利義満によって創建され、以来600年以上の歴史を持ちます。
室町時代から現在に至るまで、京都御所の北に寺域を有し、鹿苑寺(金閣寺)、慈照寺(銀閣寺)といった山外塔頭も独自の存在感を誇ってきました。
同寺の境内にある相国寺承天閣美術館で、企画展「禅寺の茶の湯」が開催されています。会期は2025年2月2日まで。展示は2期に分かれ、第Ⅰ期は11月10日まで、第Ⅱ期は11月17日から始まります。
本展では、禅寺と茶の湯の深い関わりに焦点を当て、相国寺とその塔頭寺院に伝わる、国宝1件、重要文化財6件を含む名品約200点を通じて、禅と茶の湯の歴史を紹介します。
開幕日の内覧会を取材しましたので、第Ⅰ期の展示の様子をレポートします。
茶の湯の名品が語る歴史と美
展示は4章構成で、第1章では、千利休作の竹茶杓、野々村仁清作の茶碗や中国宋時代の天目茶碗、千家ゆかりの高麗茶碗など、茶の湯の名品が並んでいます。
展示は4章構成で、第1章では、千利休作の竹茶杓、野々村仁清作の茶碗や中国宋時代の天目茶碗、千家ゆかりの高麗茶碗など、茶の湯の名品が並んでいます。
展示風景
桃山時代を代表する茶人・本阿弥光悦作の重要文化財《赤楽茶碗 加賀》は、力強い形と鮮やかな赤色が印象的な作品。
展示風景より、(手前ガラスケース内)《赤楽茶碗 加賀》(Ⅰ期)本阿弥光悦作 江戸時代 相国寺蔵 (第2展示室)
第2展示室では、鎌倉時代の優美な和歌の世界を今に伝える重要文化財《佐竹本三十六歌仙絵 断簡 源公忠》も展示されています。
第Ⅱ期には国宝《玳玻散花文天目茶碗》が展示されます。中国・宋時代の作品で、黒い釉薬の上に銀色の斑点が散りばめられた神秘的な美しさは、まさに国宝の名にふさわしいものです。
国宝《玳玻散花文天目茶碗》中国・宋時代 相国寺蔵
徳の高い僧が弟子に与えた教えや手紙など、 禅僧の筆跡を墨蹟(ぼくせき)といいます。 墨蹟は、禅僧たちによって尊重されるとともに、茶席の床に飾る「掛物」として珍重されました。この展覧会では相国寺の勧請開山である夢窓疎石の墨蹟なども展示されています。
展示風景
展示風景
第1展示室では、金閣寺にある茶室「夕佳亭」が再現されています。この茶室は、江戸時代初期の茶人である金森宗和が制作に関わったと伝わり、今回は宗和ゆかりの茶道具が展示されています。
展示風景
仏教儀礼と茶の湯の融合
第2章では、仏教儀礼と茶の湯の関わりを示す作品を紹介。
相国寺第二世住持の春屋妙葩(普明国師、1311~1388)の550年遠諱にあたる昭和12年(1937)、相国寺で盛大な法要が営まれました。
この記念行事の一環として行われた、裏千家今日庵宗匠の淡々斎による献茶式には、約500名が参列したといいます。展示室では、献茶式の様子を記した資料もとに、茶会に実際に使用された道具類が展示されており、当時の荘厳な雰囲気を感じ取ることができます。
対馬にまつわる茶道具や資料も、この展覧会の見どころのひとつです。
京都の五山の僧侶たちは、対馬に派遣され朝鮮との外交を担当していました。彼らは対馬の以酊庵に滞在したため、以酊庵輪番僧と呼ばれ、外交任務のかたわら茶の湯文化にも親しんでいました。今回初公開の対馬にまつわる茶道具や、歴代の以酊庵輪番僧たちが寄附した什物の記録からは、対馬と茶の湯の深い関わりをかいま見ることができます。
展示風景より、対馬にまつわる茶道具や資料
江戸時代の茶会を再現
足利義政の菩提所である塔頭慈照院には、江戸時代に茶室「頤神室」ができ、茶会が催されました。
第3章では、江戸時代の寛政年間に行われた茶会に焦点を当てています。この茶会の記録「頤神堂茶会記」を踏まえ、道具組みを再現。 茶室や書院の空間が感じられるような構成となっています。
第3章では、江戸時代の寛政年間に行われた茶会に焦点を当てています。この茶会の記録「頤神堂茶会記」を踏まえ、道具組みを再現。 茶室や書院の空間が感じられるような構成となっています。
江戸時代の慈照院を記した古地図も初公開されており、当時の茶室の様子を知ることができます。
慈照院には、義政ゆかりの品が多く伝来しています。初公開の和歌短冊は、義政の題詠歌の短冊を軸装したもので、表具を仙叟宗室(裏千家4代)が施したことが箱書に記されています。
展示風景より、(右) 《足利義政和歌短冊 仙叟宗室表具》室町時代 慈照院蔵
重要文化財《緑釉四足壺》は、織田信長の弟・有楽斎から贈られたもの。戦国時代から江戸時代にかけての茶の湯の変遷を物語る貴重なこの壺は、茶会では水指として用いられました。
また、慈照院の茶室「頤神室」は、千宗旦に相談して建てられたと伝えられています。狐が宗旦に化けて茶会に参加していたという逸話をもとにした、初公開の《宗旦狐図》は、頤神室の床掛けに現在も用いられている一幅です。会期中はこの宗旦狐をモチーフにした特別御朱印が数量限定で授与されます。
展示風景
平成の茶会:茶事の流れに沿った茶道具の展示
最終章では、平成の茶会を紹介。平成16年(2004年)4月、鹿苑寺の客殿と茶室「常足亭」 の落慶に際して行われた茶会には、表千家不審菴、裏千家今日庵、武者小路千家官休庵、薮内燕庵、遠州茶道宗家、山田宗徧流不審庵の6家元が招かれ、連会茶事が行われました。
展示風景より、家元ごとに用意された茶杓の展示
今回の展示では、茶会で使用された道具の数々が、茶会の流れに沿って組んだ状態で配置されており、まるで自分が茶事に参加しているかのような感覚で展示を楽しむことができます。
今回の展示では、茶会で使用された道具の数々が、茶会の流れに沿って組んだ状態で配置されており、まるで自分が茶事に参加しているかのような感覚で展示を楽しむことができます。
展示風景より、(中央ガラスケース内)本席後座で用いられた《大井戸茶碗 銘鹿苑》朝鮮時代 鹿苑寺藏
待合に相当する空間では、足利将軍が所有していたとされる中国絵画が展示されています。次の本席では、開基である足利義満の書が掛けられ、炭点前の様子が再現されています。
展示風景より、(中央)《松下眺望山水図》夏珪筆 中国・宋時代 鹿苑寺蔵
展示風景より、(右)重要美術品《足利義満一行書 放下便是》室町時代 相国寺蔵
懐石のコーナーでは、実際に使われた酒器や食器、客殿を彩った屏風などが展示.。どんな料理が出され、どんな雰囲気だったのか、当時の饗応の様子をイメージしながら鑑賞することができます。
展示風景より、(右)《敲氷煮茗図》円山応挙筆 江戸時代 相国寺蔵
薄茶席のコーナーでは、中国の画僧牧谿による《江天暮雪》が展示されています。この作品は、中国・湖南省の洞庭湖周辺を描いた瀟湘八景図の一場面で、夕暮れの広大な空間に雪が降り積もる様子が美しく表現されています。
牧谿は日本の水墨画に大きな影響を与え、高く評価された画家の一人。本作は秀吉、家康、紀州徳川家を経て、現在は鹿苑寺が所蔵しています。
牧谿は日本の水墨画に大きな影響を与え、高く評価された画家の一人。本作は秀吉、家康、紀州徳川家を経て、現在は鹿苑寺が所蔵しています。
展示風景より、(中央)《江天暮雪図》牧谿筆 中国·宋時代 鹿苑寺藏
ミュージアムショップでは、本展の図録が販売中です。主な出品作のカラー画像のほか、展示に関連するコラムも掲載され、展覧会をより深く楽しめる一冊となっています。また講演会などの展覧会関連イベントも予定されています。詳細は美術館ホームページでご確認ください。
展示を見ていると、禅寺の茶の湯が今なお生き続けていることが実感できます。茶の湯に興味がある人はもちろん、日本の文化や歴史に関心がある人にもおすすめの展覧会です。
静寂な空間に広がる、禅の精神と茶の湯が織りなす美の世界を、ぜひ会場で体験してみてください。
会場入口
【開催概要】
会期:2024年9月14日(土)~2025年2月2日(日)
<Ⅰ期>9月14日~11月10日
<Ⅱ期>11月17日~2025年2月2日
会場:相国寺承天閣美術館
住所:京都府京都市上京区今出川通烏丸東入
時間:10:00~17:00 (最終入場時間 16:30)
休館日:<展示替休館>2024年11月11日(月)~11月16日(土) <年末年始休館>12月27日(金)~2025年1月5日(日)
観覧料:大人 800円、シニア(65歳以上) 600円、大学生 600円、中高生 300円、小学生 200円
TEL 075-241-0423