東京・南青山の根津美術館にて、企画展「夏と秋の美学 -鈴木其一と伊年印の優品とともに-」が10月20日(日)まで開催されています。

美術作品に見る"夏から秋へ"の季節の移ろい
日本では昔から春と秋が好まれてきましたが、江戸時代になると夏と秋を組み合わせて描く作品も増えてきました。これは、夏の風情を好ましく思う感性が背景にあったと考えられます。
本展では、日本美術における夏と秋の表現に焦点をあて、初夏から晩秋までの季節の情趣を捉えた作品が紹介されています。
本展では、日本美術における夏と秋の表現に焦点をあて、初夏から晩秋までの季節の情趣を捉えた作品が紹介されています。
※展示室内の写真は主催者の許可を得て撮影

右側に夏の舟遊び、左側に秋の紅葉狩りの様子が描かれた《舟遊・紅葉狩図》住吉広定筆 日本・明治時代 19世紀
展示は初夏から晩秋へと季節の流れに沿って構成されています。
江戸時代後期の絵師・冷泉為恭は、古典的なやまと絵の技法や様式を学び、復興させた画家として知られています。夏に涼をとる親子と思われる3人の様子を描いた作品は、江戸時代初期の狩野派の絵師・久隅守景の同名の作品を素材にしたと考えられます。

《納涼図》冷泉為恭筆 日本・江戸時代 19世紀
注目!鈴木其一の代表作《夏秋渓流図屏風》
今回の展示の目玉といえるのが、江戸琳派の絵師・鈴木其一の代表作《夏秋渓流図屏風》(重要文化財)です。
金箔を背景に、右側の屏風には、白い山百合が咲く夏の風景、左側には、秋の紅葉が表現され、渓流が流れる檜の林を背景に、季節の移り変わりが鮮やかな色彩で描かれています。
其一の色彩感覚が光る一方で、ねっとりとした渓流の表現や、檜の木に横向きにとまる蝉など、奇抜な描写が作品に独特の雰囲気を与えています。

【重要文化財】《夏秋渓流図屏風》鈴木其一 日本・江戸時代 19世紀
琳派に見る夏と秋の表現
其一の作品のルーツと考えられるのが、俵屋宗達が主宰した工房の印が押された《夏秋草図屏風》です。
この作品では、6曲1双の屏風に、墨をたっぷり使って、夏から秋にかけての草花が描かれています。特に、夏の咲き乱れる山百合と鉄砲百合と、衰えゆく秋の山野草を対比させるように描くことで、季節の推移を情緒豊かに表現しています。

《夏秋草図屏風》伊年印 日本・江戸時代 17世紀
この作品では、6曲1双の屏風に、墨をたっぷり使って、夏から秋にかけての草花が描かれています。特に、夏の咲き乱れる山百合と鉄砲百合と、衰えゆく秋の山野草を対比させるように描くことで、季節の推移を情緒豊かに表現しています。

《夏秋草図屏風》伊年印 日本・江戸時代 17世紀
尾形光琳の《夏草図屏風》は、金地を背景に約30種の草花を鮮やかな色彩で描いた装飾的な作品です。背景を省略し、草花が対角線上に大胆に配置され、一部は画面からはみ出すように描くことで、動きのある生き生きとした情景が生まれています。

《夏草図屏風》尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀
陶芸と絵画の両方の分野で活躍した尾形乾山は、兄の光琳とともに琳派を代表する作家として知られています。本展では、乾山の独創的なやきものに加え、絵画も展示されています。
藤原定家の12ヶ月の花と鳥を詠んだ和歌をもとに描いたシリーズのうち、9月を表す作品では、ススキに潜む鶉が素朴な筆致で表現されています。
藤原定家の12ヶ月の花と鳥を詠んだ和歌をもとに描いたシリーズのうち、9月を表す作品では、ススキに潜む鶉が素朴な筆致で表現されています。

《定家詠十二ヶ月和歌花鳥図 九月》尾形乾山筆 日本・江戸時代 寛保3年(1743)
秋の情緒を美術作品で味わう
秋の美しさを表現した作品も多く展示されています。美人画を得意とした上村松園の《初秋の夕》では、桔梗柄の着物を着た女性が吊行灯を持つ姿が描かれ、秋の黄昏時の情緒が感じられます。

《初秋の夕》上村松園筆 日本・大正~昭和時代 20世紀
《武蔵野図屏風》は、実際の風景ではなく、和歌に詠まれた武蔵野のイメージを絵画化したものです。左隻に草原から半ば姿をあらわした銀色の月を、右隻には秋草の中に沈む日輪が描かれています。現在の埼玉、東京の西郊、神奈川の一部にあたる武蔵野は、古くから和歌に詠まれ、絵画のモチーフになりました。

《武蔵野図屏風》日本・江戸時代 17世紀
同時開催展として、白磁やその他の白い陶器に焦点を当てた『やきものにみる白の彩り』が展示室5で開催されています。また展示室6の『名残の茶』では、10月が風炉を使いおさめる名残の季節であることにちなんだ、寂びた茶道具の展示が楽しめます。

『名残の茶』(展示室6)展示風景
美術館で季節のうつろいを感じてみよう
会期中、根津美術館の日本庭園の木々も少しずつ秋の装いに変わっていきます。展示室での美術鑑賞に加え、自然の中で秋の訪れを感じる贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
会期中、根津美術館の日本庭園の木々も少しずつ秋の装いに変わっていきます。展示室での美術鑑賞に加え、自然の中で秋の訪れを感じる贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

会場入口
【開催概要】
企画展『夏と秋の美学 -鈴木其一と伊年印の優品とともに-』
会期:2024年9月14日(土)~10月20日(日)
会場:根津美術館
休館日:月曜(9月16日、23日、10月14日は開館)、9月17(火)、24日(火)、10月15日(火)
時間:10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)
料金:オンライン日時指定予約 一般1,300円、大高1,100円
根津美術館公式サイト:https://www.nezu-muse.or.jp/