特別展「昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界」が、東京・六本木の泉屋博古館東京にて、9月29日(日)まで開催中です。
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板谷梅樹の作品を一堂に集めた初の展覧会
昭和モダンのアートシーンを飾ったモザイク作家・板谷梅樹(いたや・うめき)。彼の独特のエキゾチックなモザイク作品は、近年再評価の機運が高まっています。
本展は、現存する最大のモザイク壁画《三井用水取入所風景》をはじめ、多彩なモザイク画、ネックレスや帯留といった装飾品など、梅樹の作品を一堂に集めて紹介する、美術館では初めての回顧展です。※展示室内の写真は許可を得て撮影
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展示風景より

モダンなモザイク作品や装飾品などを一挙公開
ガラス、陶片などのかけらを寄せあわせて絵や模様を生み出すモザイクは、古代から世界的に広まった装飾技法です。
日本には、19世紀末のアール・ヌーヴォーの流行とともに、欧米から伝えられ、壁や床の装飾のほか工芸品にも用いられています。
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展示風景より

昭和時代にモダンなモザイク作品で人気を集めた梅樹は、近代陶芸の巨匠・板谷波山(いたや・はざん)の五男として、1907年に東京・田端で生まれました。18歳で明治大学を中退し、単身ブラジルに渡るものの、一年後に帰国。その後、波山の友人で、日本のステンドグラスの先駆者・小川三知の工房に出入りするようになり、20代半ばでモザイク画の制作を志すようになります。
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(左から)参考出品 《ステンドグラス》小川三知 昭和3(1928)年頃 個人蔵、《花》板谷梅樹 昭和3(1928)年頃 個人蔵

出世作ともいえる旧日本劇場のモザイク壁画は、洋画家・川島理一郎が下絵を手がけた大作です。梅樹は、さまざまなな陶片やガラス片を組み合わせ 、「平和」「戦争」「舞踊」「音楽」などをテーマとした壮大なモザイク壁画を制作しました。
この作品は現存しませんが、会場ではこの巨大な壁画がパネル展示され、当時の人々が見た景色を思い浮かべながら鑑賞できます。あわせて 川島理一郎作の下絵 (栃木県立美術館蔵) も見ることができます。 
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展示風景より

本展の見どころのひとつが、現存する梅樹作品最大のモザイク壁画である《三井用水取入所風景》です。1954(昭和29)年に横浜市の依頼で制作した同作は、3.6メートルを超える高さで、重さは約400㎏。日本初の近代水道施設を中心に、冠雪した富士の麓から横浜へと導かれる清らかな水の流れを、縦長の巨大な画面に表現した作品です。中央のレンガ作りの建物が「三井用水取入所」 。長く 「横浜水道記念館」 の1階ロビーに展覧されていましたが、令和3 (2021)年の同館閉館に伴い、板谷波山記念館へ寄贈されることとなりました。ホールに展示されているこの作品は、今回撮影OKです。
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《三井用水取入所風景》板谷梅樹 昭和29(1954)年 板谷波山記念館 

邸宅を彩った作品
梅樹は邸宅を彩るステンドグラスやモザイク壁画といった作品も数多く制作しました。  
父・波山と親交があった長谷川吉三郎の依頼で制作した「うさぎ」、 「魚」、 「鳥」は、砕かれた陶片をアレンジして制作したもの。
波山が好んだデザインをモチーフにしたこの作品は、カラリストといわれた梅樹の優れたデザインセンスと豊かな色彩感覚を示しています。
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展示風景より、長谷川コレクションの展示

昭和20年代から晩年にかけて、梅樹は植物やカラフルな幾何学模様の飾皿を制作しています。作品の一部は、板谷家の支援者であった、出光興産の創業者にして出光美術館の創設者である、出光佐三氏の依頼で制作されました。
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展示風景より、飾皿の展示

日常を彩る身近な作品
梅樹は、生涯を通じてモザイク画のみならず、 日常に彩りをもたらす作品を制作しました。  
昭和10年代から戦後にかけて、 梅樹は身近な存在であった和装用の帯留やペンダントなど、 和装や洋装に似合うモダンな装身具を手がけています。銀座・和光などで販売されたモダンなアクセサリーは、現在でも色あせることなく、その輝きをとどめています。
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展示風景より、ネックレスなどの装飾品の展示

住友コレクションと板谷家
会場では、代表作の一つである重要文化財 《葆光彩磁珍果文花瓶》 など、波山の作品もあわせて紹介されています。
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展示風景より

波山芸術を愛した、住友家15代当主・住友吉左衞門友純 (号 春翠、1864-1926)が建てた須磨や麻布別邸 (現在の泉屋博古館東京一帯)の洋館は、住居としてだけではなく、 各界の名士や外国人 向けの迎賓施設として用いられ、 波山作品とともに波山の妻・まるや長男・菊男の作品なども飾られました。本展では、こうした板谷ファミリーの作品も紹介されています。
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(左から)《彩磁山葡萄小禽模様花瓶》板谷まる(玉蘭) 明治末期~大正前期 泉屋博古館東京、《椿図》 板谷まる(玉蘭) 昭和24(1949)年 板谷波山記念館 

住友コレクションの貴重な茶道具の展示も
特集展示「住友コレクションの茶道具」では、住友コレクションの貴重な茶道具が展示されています。
住友コレクションの茶道具の多くは、 住友春翠によって収集されました。明治から大正時代にかけて、政財界において茶の湯を愛好する人びとが増えますが、春翠もその一人でした。
《小井戸茶碗 銘六地蔵》 は、小堀遠州が愛好した名品として知られる茶碗です。
春翠は12代住友家当主・友親の追善供養の茶会で、友親が晩年入手したこの茶碗を披露します。これにより 《六地蔵》は、改めて名碗として認識されることになりました。
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《小井戸茶碗 銘六地蔵》朝鮮時代・16世紀 泉屋博古館東京

16世紀初頭に記された「君台観左右帳記」は、唐物茶入について具体的に書かれた最も古い資料の一つとされます。この書には19種類の茶入の形が図示されており、《唐物写十九種茶入》は、これをもとに江戸時代の陶工である野々村仁清によって作られました。
今回、名物裂を用いた仕覆(しふく)と呼ばれる布製の覆いもあわせて展示されており、こちらも見どころです。
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《唐物写十九種茶入》野々村仁清 江戸時代・17世紀 泉屋博古館東京 

モザイクという素材の可能性を最大限に引き出し、芸術作品へと昇華させた板谷梅樹。日用品から大型壁画まで幅広い作品が集うこの機会に、梅樹の独創的なモザイクの世界に触れて、昭和のモダンアートとしてのモザイクの魅力を再発見してみてはどうでしょうか。

<開催概要>
『特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界』
会期:2024年8月31日(土)~9月29日(日)
会場:泉屋博古館東京
時間:11:00~18:00、金曜は19:00まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(9月16日、23日は開館)、9月17日(火)、9月24日(火)
料金:一般1,200円、大高生800円、中学生以下無料
※同時開催「特集展示 住友コレクションの茶道具」
泉屋博古館東京 公式サイト:https://sen-oku.or.jp/tokyo/