*東京国立博物館では約50年ぶりの埴輪の展覧会*
埴輪(はにわ)は、古墳時代の3~6世紀にかけて作られた、素焼きの造形です。日本列島で独自に出現し、発達した埴輪は、服や顔、しぐさなどを簡略化し、丸みを帯びるといった特徴を持っており、世界的にも珍しい造形として知られています。
特別展「はにわ」は、東京国立博物館で約50年ぶりに開催される埴輪の展覧会。
埴輪の最高傑作《埴輪 挂甲の武人》をはじめとする国宝18件を含む、約120件の至宝が全国各地から空前の規模で集結します。素朴な人物、愛らしい動物から、精巧な武具、家に至るまで、埴輪の魅力が満載の展覧会です。
*プロローグ 埴輪の世界*
プロローグでは東京国立博物館の代表的な所蔵品のひとつである《埴輪 踊る人々》を紹介。
この埴輪は、2022年10月から2024年3月まで解体修理を行い、本展が修理後初のお披露目となります。王のマツリに際して踊る姿であるとする説のほかに、近年は片手を挙げて馬の手綱を曳く姿であるとする説も有力です。


《埴輪 踊る人々》埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵
*第1章 王の登場*
埴輪は王(権力者)の墓である古墳に立てられ、古墳からは副葬品も数多く出土しています。副葬品は、王の役割の変化と連動するように移り変わります。各時期において、中国大陸や朝鮮半島との関係を示す国際色豊かな副葬品も出土します。
第1章「王の登場」では、3世紀から6世紀にかけての古墳時代を国宝のみで概説。豪族が用いた金製の装飾具や太刀などで、埴輪が作られた時代と背景を振り返ります。
これは飾りの付いた三連のチェーンをぶら下げた金製耳飾り。一部に銀やガラス製の部品が使われています。揺れ動くたびにダイナミックにきらめき、音を奏でる最先端のアクセサリーでした。

国宝《金製耳飾》熊本県和水町 江田船山古墳出土 古墳時代・5~6世紀 東京国立博物館蔵

国宝《金製耳飾》熊本県和水町 江田船山古墳出土 古墳時代・5~6世紀 東京国立博物館蔵
金銅板を鋲で留めて作られた全長34cmの沓(くつ)で、亀甲文で飾られ、各交点には小さな飾りが付けられていたと推定されます。沓は耳飾りとともに朝鮮半島から伝来した新しいファッションのひとつで、人物埴輪の装いにも見られます。
*第2章 大王の埴輪*
ヤマト王権を統治していた大王の墓に立てられた埴輪は、大きさや量、技術で他を圧倒しています。第2章「大王の埴輪」は、天皇の系譜に連なる大王たちのためにつくられた、古墳時代の最高水準の技術によって制作された埴輪を時期別に見ることで、埴輪の変遷をたどります。
天皇の系譜に連なる大王の古墳は、時期によって築造場所が変わります。古墳時代前期は奈良盆地に築造され、中期に入ると大阪平野で作られるようになります。
これは高さ2mを超える日本最大の埴輪。奈良のメスリ山古墳では、後円部中央の竪穴式石室を取り囲むように、多数の巨大な円筒埴輪がたてられました。2cmほどしかない薄さにも注目です。
3つのパーツを組合せてつくられた巨大な家形埴輪は、継体大王の陵とされる、淀川流域の今城塚古墳から出土しました。
*第3章 埴輪の造形*
埴輪が出土した北限は岩手県、南限は鹿児島県です。日本列島の幅広い地域で作られた埴輪は、当時の地域ごとの習俗の差、技術者の習熟度、あるいは大王との関係性の強弱によって、表現方法に違いが見られます。
第3章「埴輪の造形」は、各地域でつくられた埴輪の多様性を紹介。大王墓の埴輪と遜色ない精巧な埴輪から、地域色あふれる個性的な埴輪まで、各地域の高い水準で作られた埴輪や、独特な造形の埴輪を紹介します。
美豆良(みずら)を肩まで垂らしたヘアスタイルに盛装のいでたち、両手を前に捧げ胡坐をかいて座る端正な顔立ちの男性の埴輪は、若き王の姿をほうふつとさせます。
馬は、古墳時代に朝鮮半島から渡来して、農耕や軍事、儀式などに用いられました。馬形埴輪の大半は、数多くの馬具を身に付けた「飾り馬」です。この埴輪も飾り馬を模していますが、頭部の独特な表現は全国的にも類例のない珍しいものです
阿蘇山の凝灰岩で作られた「石人(せきじん)」。出土した鶴見山古墳は継体大王に対して反乱を起こした筑紫君磐井(つくしのきみいわい)の息子、葛子(くずこ)の墓とも推定されています。
《埴輪 乳飲み児を抱く女子》茨城県ひたちなか市 大平古墳群出土 古墳時代・6世紀 茨城・ひたちなか市教育員会蔵(ひたちなか市埋蔵文化財調査センター保管)
*第4章 国宝 挂甲の武人とその仲間*
時代や地域ごとに豊かな個性を持つ埴輪のなかでも、埴輪で初めて国宝となった《埴輪挂甲の武人》は、考古学的価値のみならず、その造形美から美術的にも高い評価を得ています。
頭から足まで完全武装しており、古墳時代の武人の様子を眼前に見せてくれるこの埴輪には、同一工房で製作されたと考えられる、4体のよく似た埴輪があります。本展では、これら5体の「埴輪 挂甲の武人」を同時初公開。このうち、アメリカ・シアトル美術館が所蔵する埴輪は、約60年ぶりの里帰り展示となります。


「埴輪 挂甲の武人 」(左から)国宝《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵、重要文化財《埴輪 挂甲の武人》(部分)群馬県太田市成塚町出土 古墳時代・6世紀 群馬・(公財)相川考古館蔵、《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市出土 古墳時代・6世紀 アメリカ・シアトル美術館蔵、《埴輪 挂甲の武人》群馬県伊勢崎市安堀町出土 古墳時代・6世紀 千葉・国立歴史民俗博物館蔵、重要文化財《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市世良田町出土 古墳時代・6世紀 奈良・天理大学附属天理参考館蔵
国宝《埴輪 挂甲の武人》は、平成29年(2017年)から実施した解体修理時の調査・分析で、出土地域の土中に含まれる身近な物質を利用して、白、赤、灰の3色に塗り分けられていたことがわかりました。
今回この調査結果をもとに、実物大で制作当時の姿を再現した彩色模型が展示されます。
*第5章 物語をつたえる埴輪*
第5章「物語をつたえる埴輪」は、埴輪が複数の人物や動物を組み合わせて、何かしらの物語を表現していたことに着目。さまざまな役割を担ったと思われる、多様な姿の埴輪を紹介します。
《鹿形埴輪》静岡県浜松市辺田平1号墳出土 古墳時代・5世紀 静岡・浜松市市民ミュージアム浜北蔵
*エピローグ 日本人と埴輪の再会*
エピローグ「日本人と埴輪の再開」では、近世以降、現代にいたるまで埴輪がどのように捉えられてきたかについて紹介します。
明治天皇陵に埋められたとされる武人埴輪の模型です。江戸時代以降に国学が発達したことで、古い祭儀への関心が高まり、皇室に関係する場面にも古墳の要素が取り入れられることがありました。

《武人埴輪模型》吉田白嶺作 大正元年(1912年) 東京国立博物館蔵

《武人埴輪模型》吉田白嶺作 大正元年(1912年) 東京国立博物館蔵
特別展「はにわ」は、東京国立博物館が約50年ぶりに満を持して開催する、究極の埴輪展です。この機会に埴輪の多様な表現を楽しみ、埴輪に対する理解を深めながら、古代の文化や人々の暮らし、社会のようすに思いをはせてみてはどうでしょうか。
【展覧会概要】
挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」
会期:2024年10月16日(水)~12月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館 特別展示室
住所:東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30~17:00、毎週金・土曜日は20:00まで開館(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(11月4日(月・振)は開館、11月5日(火)は本展のみ開館)
観覧料:一般 2,100円(前売1,900円)、大学生 1,300円(前売1,100円)、高校生 900円(前売700円)
※前売券販売は10月15日(火)23:59まで。
展覧会公式サイト:https://haniwa820.exhibit.jp/