特別展「没後25年記念 東山魁夷と日本の夏」が、東京の山種美術館にて、9月23日(月・振休)まで開催されています。
チラシ

山種美術館所蔵の東山魁夷作品を一挙公開
昭和を代表する日本画家・東山魁夷は、四季を通じて自然との対話を重ね、様々な風景画を描きました。海や山、湖や森といった自然の風景から古都の町並みにいたるまで、美しい色彩で詩情豊かに描き出された作品は、今も多くの人から愛され続けています。
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展示風景

本展は、山種美術館所蔵の魁夷の作品を全点公開する10年ぶりの展覧会。ダイナミックな海を描いた作品から静寂な風景を描いた作品まで、魁夷の多彩な風景画が楽しめる展覧会です。
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東山魁夷《月出づ》1965(昭和40)年 山種美術館蔵 

今回の注目作品は、白波の立つ海原を大胆に描きだした、幅9メートルを超える大作《満ち来る潮》。これは、皇居新宮殿の装飾のために魁夷が描いた幅14mの《朝明けの潮》と同じ題材の作品を、多くの人々が鑑賞できるように山種美術館の初代館長が制作を依頼した作品です。

作品とともに、制作過程や作品に込めた想いなど、魁夷のことばもパネルで紹介されています。
「新宮殿の壁画が、 ゆったりした 波の動きを描いたものであるのに対し、満ちて来る潮が、岩にしぶきを上げる動的な構図を考えついた。そこで新しい意欲も生まれ、この作品に着手することになったのである」(『京洛四季』 新潮社 1969年9月)
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東山魁夷《満ち来る潮》1970(昭和45)年 山種美術館蔵 

会場では、波と岩の写生や《満ち来る潮》の下絵もあわせて展示され、作品誕生までの過程をかいま見ることができます。
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展示風景

新宮殿の大仕事と同時期に、魁夷は足しげく京都に通ってその景色を描きました。
作家・川端康成の言葉がきっかけとなった「京洛四季」は、京都の自然や町並み通じて、日本の四季の美しさを格調高く描いた連作です。今回は、館所蔵の《春静》、《緑潤う》、《秋彩》、《年暮る》4点がまとめて公開されるとても貴重な機会となっています。
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東山魁夷「京洛四季」の連作より、(右から)《春静》1968(昭和43)年 、《緑潤う》1976(昭和51)年、《秋彩》1986(昭和61)年 、《年暮る》1968(昭和43)年 いずれも山種美術館蔵 

新緑に彩られた修学院離宮を描いた《緑潤う》は、今回写真撮影が可能です(スマートフォン・タブレット・携帯電話に限る)。
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東山魁夷《緑潤う》1976(昭和51)年  山種美術館蔵 

会場では、魁夷ゆかりの人びとの作品も紹介。彼が東京美術学校時代に師事した川合玉堂、絵の指導だけではなく魁夷を精神的にも支えた結城素明のほか、魁夷の義父である川崎小虎や、 東京美術学校で魁夷と同窓生だった加藤栄三、山田申吾の季節感あふれる作品も紹介されています。

《早乙女》は、戦時中、玉堂が奥多摩に疎開した時に制作された、田植えをする女性たちの姿を描いた作品。戦争という時代背景の中で、日本の美しい自然とそこで生きる人びとの姿を描いた、玉堂の代表作の一つです。
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川合玉堂《早乙女》1945(昭和20)年 山種美術館蔵 
 
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(左から)結城素明《夏渓欲雨》1940(昭和15)年頃、結城素明《躑躅百合》1930(昭和5)年頃 いずれも山種美術館蔵 

夏にちなんだ日本画の名品・優品も
第2章では、葛飾北斎などの江戸時代の浮世絵から、近代・現代の日本画にいたる作品のうち、夏をテーマにした名品や、涼しさが感じられる優品が公開されています。

富士山の絵で知られる横山大観ですが、海をテーマにした作品も数多く手がけています。本作は、夜空に輝く月と、荒々しい波が岩に打ちつける様子を描いた作品で、夏の夜の海の美しさが神秘的に表現されています。
大観
横山大観《夏の海》1952(昭和27)年頃 山種美術館蔵  

うねるような波の様子が、鮮やかな青色でダイナミックに表現された《鳴門》。この青色は、「群青(ぐんじょう)」と呼ばれる非常に高価な岩絵具で、本作ではこれを約3.6キログラムも用いています。白く泡立つ波は、牡蠣の貝殻を粉にした「胡粉(ごふん)」と呼ばれる絵具です。横幅が8メートル以上もある大作で、ぜひ実物でその大きさを実感してみてください。
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川端龍子《鳴門》1929(昭和4)年 山種美術館蔵 

すだれ越しの女性を描いた上村松園《夕べ》や、川に足先をひたす女性を描いた小林古径 《河風》からは、夏の風情が感じられます。
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(左から)小林古径《河風》1915(大正4)年、上村松園《夕べ》1935(昭和10)年 いずれも山種美術館蔵 

江戸時代、夏の風物詩だった虫売りと、集まってきた子どもたちを描いた本作は、山種美術館顧問の明治学院大学教授・山下裕二氏がお気に入りの1点です。
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伊藤小坡《虫売り》1932(昭和7)年頃 山種美術館蔵 

美人画、風俗画を得意とした池田輝方の 《夕立》は、夏の夕立を避け雨宿りする人びとのようすを生き生きと捉えた作品。人物の何気ないしぐさや、季節感が感じられる装いも見どころです。
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池田輝方《夕立》1916(大正5)年 山種美術館蔵 

カフェ・ミュージアムショップのご紹介
Cafe椿では、展覧会ごとに出品作品をモチーフにした彩り豊かなオリジナル和菓子が登場します。今回は 《満ち来る潮》をモチーフにした、つぶあんたっぷりの「あげ潮」など、5種類の和菓子が用意されています。
美術鑑賞のあと、お茶を楽しんだり、スイーツを味わったり。落ち着いた店内でくつろぎの時間を過ごすのは、山種美術館ならではの楽しみ方。メニューには、もとになった絵の解説も書いてあります。
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ミュージアムショップでは、出品作品をあしらったクリアファイル、 ポストカードなどの多彩なオリジナルグッズが用意されています。魁夷の作品をモチーフにしたブックカバーとしおりのセットなど、鑑賞の記念になるようなアイテムもありますので、展示を楽しんだあとは、こちらもチェックしてみてください。
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グッズ

本展では、夏の学割を実施中。大学生・高校生は500円で鑑賞できますので、この貴重な機会をどうぞお見逃しなく。
まだまだ暑い日が続きますが、この夏は魁夷の美しい風景画と日本の夏を描いた優品を鑑賞しながら、美術館で爽やかなひとときをすごしてみてはいかがでしょうか。

<開催概要>
『【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏』
会期:2024年7月20日(土)~9月23日(月・振休)
会場:山種美術館
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(8月12日、9月16日、9月23日は開館)、8月13日(火)、9月17日(火)
料金:一般1400円、【夏の学割】大学生・高校生500円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)
山種美術館公式サイト:https://www.yamatane-museum.jp/