企画展「美麗なるほとけ—館蔵仏教絵画名品展—」が、東京・南青山の根津美術館にて、8月25日(日)まで開催中です。

根津美術館は、日本や東洋の古美術品を豊富に収蔵しており、なかでも仏画のコレクションは、日本の私立美術館の中では質量ともにトップレベルを誇ります。その中から特に美しい作品や貴重な作品にしぼって紹介するのが今回の展覧会。会場では、密教、浄土信仰、縁起絵、大陸からもたらされた仏画など、国宝・重要文化財19件を含む約40件の多彩な作品が、11のカテゴリーに分けて紹介されています。

展示風景、(手前)《勢至菩薩立像》日本・鎌倉時代 13世紀
※展示室内の写真は美術館の許可を得て撮影したものです。
開幕前日に開催された内覧会を取材しましたので、その展示の様子や見どころをご紹介します。
平安時代後期の院政期に制作された仏画は、かつては 「藤原仏画」といわれ、貴族文化を象徴する宗教美術として、日本の仏画では最高峰の評価が与えられてきました。
本展のメインビジュアルになっているこの《大日如来像》は、この時期のもので、岩手・中尊寺の丈六仏の胎内に納められていたと伝わります。そのためか当時の仏画の中でも保存状態がとても良く、美しい截金(きりかね)や、淡い中間色を用いた彩色がとてもよく残っています。
本展のメインビジュアルになっているこの《大日如来像》は、この時期のもので、岩手・中尊寺の丈六仏の胎内に納められていたと伝わります。そのためか当時の仏画の中でも保存状態がとても良く、美しい截金(きりかね)や、淡い中間色を用いた彩色がとてもよく残っています。
平安時代初期、 最澄や空海らによってもたらされた密教では、難しい教えを視覚的に表現した曼荼羅が重要視されました。これは9世紀半ばに天台僧の円仁が中国・唐から持ち帰った大曼荼羅をもとに制作されたと伝わる品。原本をほぼ忠実に写したと考えられ、仏たちの厳しい目鼻立ち、細く引き締まったプロポーションなど、唐風を今に伝える絵画としてもとても貴重なものです。

【重要文化財】《金剛界八十一尊曼荼羅》日本・鎌倉時代 13世紀
密教では、力をもって民衆を教化するために、怒った姿で表される明王が重視されました。これは白河天皇 (1053 ~1129) ゆかりの京都・法勝寺に安置されていた木彫像 (現存せず) を写したものといわれ、その唯一の彩色作例として貴重な作品です。
釈迦が亡くなってから56億7千万年ののち、この世に現れて仏となり、人びとを苦しみから救うといわれているのが弥勒菩薩(みろくぼさつ)です。弥勒菩薩がこの世に現れるまで住むのが「兜率天(とそつてん)」で、この曼荼羅では、さまざまなパターンの截金や金泥を多用し、兜率天の世界が繊細かつ豪華に描かれています。細部まで見どころの多い作品なので、ぜひ近くでじっくり鑑賞してみてください。
《兜率天曼荼羅》日本・南北朝時代 14世紀
仏が仮に神の姿となったとする神仏習合思想は、 平安時代以降に本格化します。鎌倉時代以降は、この思想に基づき、神々が仏の化身として現れるという概念を視覚的に表現した垂迹画(すいじゃくが)が描かれるようになりました。春日大社の神々を主題とした《春日宮曼荼羅》も垂迹画のひとつです。

平安時代末期の春日社の景観を伝える貴重な作品【重要文化財】《春日宮曼荼羅》日本・鎌倉時代 12 ~13世紀
ここに描かれているのは、和歌山・熊野三山の一つである熊野那智大社のご神体である滝。垂迹画のうち、ご神体の滝のみを描いた唯一の作品とされています。
日本に古くから伝わるやまと絵の手法を用いながら、全体の構図や岩の表現には、中国からもたらされた北宋後期以降の山水画の影響も見られ、やまと絵と中国絵画の技法が見事に融合して、聖地の神聖な景観を作り出しています。根津美術館でも数年に一回しか公開されないため、この名画を鑑賞できる貴重な機会をどうぞお見逃しなく!

【国宝】《那智瀧図》 日本・鎌倉時代 13世紀
鎌倉時代以降、宋や元から日本にもたらされた仏画は特に禅宗で尊ばれ、新たな表現の仏画が数多く制作されるようになりました。
吉山明兆 (1352~ 1431) は、京都・東福寺を拠点に活躍した絵仏師です。本展では、もとは東福寺に伝わる、明兆の代表作「五百羅漢図」 50幅対のうちの2幅のほか、新出の明兆の大幅《白衣観音図》も展示されています。
日本だけでなく、中国・元や朝鮮の仏画も紹介されています。
元の仏画では、因陀羅の《布袋蒋摩訶図》 (国宝)、修理後初公開の《羅漢図》(重要文化財)や、着衣に施された金泥による繊細な文様表現が見どころの《如意輪観音菩薩像》などが展示。
元の仏画では、因陀羅の《布袋蒋摩訶図》 (国宝)、修理後初公開の《羅漢図》(重要文化財)や、着衣に施された金泥による繊細な文様表現が見どころの《如意輪観音菩薩像》などが展示。
朝鮮半義を代表する仏教美術として名高い「高麗仏画」の優品も5点展示されています。
今回の企画展は2階の展示室5にも続きます。こちらでは白描図像や絵巻物形式の仏画が紹介されています。

《絵過去現在因果経》は、釈迦の前世の物語と、現世における伝記を説いた経典『過去現在因果経』に絵を加えたもの。仏教の教えを絵画化し、内容をわかりやすく伝える「絵因果経」 は、絵巻物の原初的形態とされています。


《絵過去現在因果経》は、釈迦の前世の物語と、現世における伝記を説いた経典『過去現在因果経』に絵を加えたもの。仏教の教えを絵画化し、内容をわかりやすく伝える「絵因果経」 は、絵巻物の原初的形態とされています。

【重要文化財】 《絵過去現在因果経》第四巻 (画)慶忍・聖衆丸筆
(写経)良盛筆 日本・鎌倉時代 建長6年(1254)
展示室6では企画展とあわせて、仏教にちなんだ茶道具を紹介。展示室4では、平安時代、 南北朝〜室町時代に日本で制作された和鏡が特集展示で紹介されています。

展示風景より、和鏡の展示
2024年7月に新発売の館蔵品図録「仏画」には、本展出展作品のうち、36件が掲載されています。作品のカラー図版、解説のほか、拡大図版も掲載され、展覧会図録としても参考になる1冊です。

仏画は保存の観点から長期間の展示が難しいため、これだけの名画が揃うのは、本当に貴重な機会です。繊細な表現の作品が多いため、細かい部分まで見る場合は、単眼鏡などの拡大鏡を持参されることをおすすめします。
この夏は、根津美術館で厳選された仏画の名品を観て、その多彩な表現と奥深い魅力を感じ、味わってみてはいかがでしょうか。

※上記文中で紹介した作品はすべて根津美術館所蔵
【展覧会概要】
企画展「美麗なるほとけ—館蔵仏教絵画名品展—」
会期:2024年7月27日(土)〜8月25日(日)
会場:根津美術館
住所:東京都港区南青山6‐5‐1
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(8月12日(月・休)は開館)、8月13日(火)
入館料:一般 1,300円、学生 1,000円、中学生以下 無料
※オンライン日時指定予約制
根津美術館ホームぺージ:https://www.nezu-muse.or.jp/