企画展「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」が、東京ステーションギャラリーにて、9月23日(月・振)まで開催されています。
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(左)《発明》1982年、(右)《綱渡り師》1973年
※展示室内の写真は、内覧会にて許可を得て撮影したものです。

ジャン=ミッシェル・フォロン(1934-2005)は、20世紀後半のベルギーを代表するアーティストのひとり。
本展は日本では30年ぶりのフォロンの大回顧展です。初期のドローイングから水彩画、版画、ポスター、晩年の立体作品まで約230点の作品でフォロンの活動を振り返りながら、環境や自由への高い意識をもち、暴力、差別などに静かな抗議を続けてきた彼の芸術を、改めて見直します。
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展示風景より、(右)フォロンが日本を訪れたときの写真

展覧会のタイトルは、フォロンが実際に使っていた名刺からつけられました。
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展示風景より、フォロンが実際に使っていた名刺には “FOLON: AGENCE DE VOYAGES IMAGINAIRES(フォロン:空想旅行エージェンシー)” と記載されています。

プロローグ 旅のはじまり
展示の冒頭では、フォロンの芸術世界を旅するための入口として、日常の事物や人間をモチーフとするドローイングや彫刻作品、日常に潜む風景を切り取った写真などから、フォロンの思考をたどります。
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「プロローグ 旅のはじまり」より

フォロンの作品にしばしば登場する「リトル・ハット・マン」。2つの点のような目、口は直線というシンプルな表情、コートと帽子ですっぽりと覆われた彼は、いったい何者なのでしょうか。フォロン自身は「私に似たある誰か」であると同時に「誰でもない」といっています。
会場では彼が多彩な姿で登場します。置かれた現実を見つめ、考え、驚き、ときにとまどいつつ、果敢に世界に向き合い続けるリトル・ハット・マンは、フォロンの世界を旅するためのよきパートナーのような存在です。
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「プロローグ 旅のはじまり」より

1980年代後半から、フォロンの想像力は三次元へと広がっていきます。彫刻作品などの立体作品からも、孤独や不安といったフォロンのメッセージを読み取ることができます。
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「プロローグ 旅のはじまり」より 

第1章 あっち・こっち・どっち?
ブリュッセルからパリ、ニューヨークへと渡ったフォロンは、都市をテーマにした作品も手がけています。無機質な建物が並び、都市の疎外感がただようような作品が多い中で、《都市の標識》の建物の向こうに見える明るい日の光は、未来への明るい希望を表しているようにも思えます。
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「第1章 あっち・こっち・どっち?」より、(右)《都市の標識》制作年不詳

迷路のように曲がりくねった矢印、蛇のようにビルに巻きつく矢印・・・、フォロンが描く矢印はあらゆる方向を指し示しています。矢印は生活の中でとても役立つものですが、私たちはそれが本当に正しい方向を指し示しているかどうか、自分で判断できているのでしょうか。 
フォロンの「矢印」は、人生のいろいろな選択肢の中から、矢印を見極め選びとることの大切さ、進むべき道を自分で選択することの可能性を見せてくれているのかもしれません。
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「第1章 あっち・こっち・どっち?」より、矢印がモチーフとして登場する作品

「色彩の魔術師」とも呼ばれていたフォロン。1 点の作品に使われる色数は決して多くはありませんが、限られた色彩を巧みに組み合わせ、グラデーションやにじみなどを駆使することで、彼独自の美しい世界が生み出されています。

第2章 なにが聴こえる?
色彩豊かで幻想的な彼の作品は、一見すると美しく軽やかに感じられますが、そこには環境破壊や人権問題などへの鋭いメッセージが込められています。ここでは、現実の世界で起きていることに対する、フォロンの静かな抗議に耳を澄ませてみましょう。

戦争をテーマにした作品では、残酷な出来事に対しても目をそらさずに描き出しています。かごの中の鳥や水槽の魚はミサイルに置き変えられ、平和の象徴の鳩が運ぶのは、ミサイルが連なるカートリッジベルト。 
一見美しい色彩の、軽やかなイメージの作品ですが、フォロンは戦争とその暴力がもたらす結末を、非難をこめて訴えようとしているようです。 
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「第2章 なにが聴こえる? 」より、戦争をテーマにした作品

フォロンの絵には、しばしば「天体観察」の場面が登場します。またリトル・ハットマンが見上げる空の彼方に、果てしない宇宙が広がっている作品も。フォロンは、宇宙を構成する生命体のひとつとして、私たちはどう生きていくべきなのかを問いかけているようです。
「よく観察して細かいところを見てください。 いろいろな発見があります。それがまた楽しみのひとつでもあります」(本展監修を担当したあべのハルカス美術館上席学芸員・浅川真紀さん)
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「第2章 なにが聴こえる? 」より、宇宙をテーマにした作品

フォロンは環境や社会問題に強い関心を抱いていました。水不足、森林破壊など世界の厳しい現実にも目を向け、啓発するような作品も手がけています。
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「第2章 なにが聴こえる? 」より、エコロジーをテーマにした作品

第3章 なにを話そう?
フォロンの活動は、版画や水彩画、ポスター、文学作品の挿絵や舞台美術など多岐にわたります。 彼にとって雑誌の表紙や、企業や公共団体などのポスターは、多くの人の目にふれ、さまざまなメッセージを伝えることができる大切なメディアでした。
この章ではそうしたポスターや、アムネスティ・インターナショナルの依頼をうけて制作した『世界人権宣言』の挿絵原画などから、優れたコミュニケーターとしてのフォロンの魅力を見ていきます。
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「第3章 なにを話そう?」より、『世界人権宣言』の挿絵原画やポスターの展示

ここでは見る人が、世界の現状を理解したうえで、どのようにそれを共有し伝えていくかという問いが投げかけられています。
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「第3章 なにを話そう?」より、さまざまなポスターの展示

エピローグ つぎはどこへ行こう?
"空想旅行案内人"フォロンは、実際に世界を飛び回り、旅先での新しい体験や出会いを創作のエネルギーにしていました。本展の最後は、旅をイメージさせるような作品や、旅先でのスケッチブックや手紙などが紹介されています。

1968年からのパリ近郊の小さな農村での暮らしや、1985年から過ごした地中海を望むモナコでの時間は、彼にとって重要なインスピレーションの源となりました。それぞれの土地の景色に刺激されるように、フォロンは地平線や、水平線と船をモチーフにした作品を描くようになります。
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「エピローグ つぎはどこへ行こう? 」より、水平線と船をモチーフにした作品

鳥は、フォロンにとってあこがれの存在でした。  《大天使》 のカラフルな翼で上昇しようとする人物は、 フォロン自身を投影したものかもしれません。
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「エピローグ つぎはどこへ行こう? 」より、(右)《大天使》2003年

ある夏の日、フォロンはとても印象的な体験をします。 明け方頃に 目覚め、窓の外を眺めていたら、 太陽が突然 「私たちを穏やかにみつ める巨大な人物の目のように」 現れたのです。そのイメージは後に彼の作品における重要なモチーフとなりました。

未知の目と対話する人物や、彼方へ続く道が描かれた作品は、「つぎはどこへ行こう?」を決めるのは私たち自身ということを改めて気づかせてくれます。
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「エピローグ つぎはどこへ行こう? 」より

フォロンの作品は、見る人にさまざまな問いかけをし、気づきをもたらします。この機会に、彼の作品を通じて、現実と空想の世界を旅して、自分なりの感じ方で彼のメッセージと向き合ってみませんか?
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「エピローグ つぎはどこへ行こう? 」より、(中央)《秘密》 1999年

※上記で紹介した作品の作家はすべてジャン=ミッシェル・フォロン、所蔵先はすべてフォロン財団©Fondation Folon, ADAGP/PARIS, 2024-2025(ベルギー)です。

【開催概要】
企画展「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」
会期:2024年7月13日(土)~9月23日(月・振)
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
開館時間:10:00~18:00(金曜日は20:00閉館)
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:月曜日(7月15日(月・祝)、8月12日(月・振)、9月16日(月・祝)・23日(月・振)は開館)、7月16日(火)
入館料:一般 1,500円、高校・大学生 1,300円、中学生以下 無料
※障がい者手帳などの持参者は200円引き、介添者1名は無料
東京ステーションギャラリー公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/galler 

<巡回情報>名古屋市美術館(2025年1月11日~3月23日)、あべのハルカス美術館(大阪)(2025年4月5日~6月22日)に巡回予定